汎用生物兵器1
 5 月日
 
 人の正義が貫かれる場所。それは戦いのある場所である。
 
 さらに六年の月日がたつ。
 ドリッカー14才。ローズ10才。
「何・・・・・してるんだ?」
「見てわからない?」
 エックスはすでに完成している・・・・・・・はずなのだが、実はまだ完成してはいない。では何故できていないのかというと、エックスを作り上げるのに見積もった期間が、余りにも短すぎたのである。もう少しで完成なので、ローズは毎日てんてこまいになって制作に当たっている。最近、ようやく性格というものができてきたような状態になり、時折薄く笑みをこぼすようにもなった(冷笑だが)。
 ゼロもすでに中佐にまで昇進し、ドリッカーはこの歳で特一級粛正官にまで昇進。順調に出世を続けている。が、喋り方がどす黒くなったのと、行動が過激になってきたため、そろそろ動きかねない状況である。(煙草も吸うようになった)
「ドリッカー。」
「?」
「お前・・・・・いつから動くつもりだ?」
「もうすぐにでも動ける状態だぜ。まだ少し調子は悪いがな。」
 ドリッカーは恐れというものを忘れた。恐れることを恥じと思い、全てをまっすぐな目で見つめること・・・・・・・・。それが本来の人間の姿なのだ・・・・と。そう信じることで、誰かをまともに見ることができるようになったのだ。
「でもな、お前がmother2の下にいる以上、お前の行動はほとんど奴に観察されていることになる。動くときは、動いてもいいくらいの混乱が起きてからにしろよ。」
「・・・・・・・・わかってるさ。」
 昔より少し濁ってしまった自分の目を鏡で見つめながら、ドリッカーは言い聞かせるように呟いた。
 近くでは、アイリスが夕食の支度をしている。いつもならローズが手伝うのだが、エックスの開発が大詰めになってきたこともあり、食事を取るのも忘れて制作に没頭している。ハードはテレビくらいのサイズになる予定で、性能はmother2をはるかにしのぐ・・・・・・・はずだ。確かではない。ローズの機械を作る才能が問われるのである。案外、
面白いものかも知れない。
「ローズさん。御飯ですよー!」
 アイリスがさっきから呼んでいるのだが、ローズはいっこうに二階から降りてくる気配はない。きっと、重要な部品をはんだしてでもいるのだろう。
「はーい。」
 十数秒ほどして返事が戻ってきた。が、ほとんど感情がこもってない。その場凌ぎで返答しただけなのだろう。いつもなら・・・・・・・・。
 とんとんと階段を降りる音が聞こえてくる。
「どうしたんです?いつもなら返事するだけで降りてくることはないのに・・・・・。」
「完成したのよ。」
 ローズが意味ありげに微笑む。どちらかというと、紅潮した頬からはうれしさしか感じとれないのだが・・・・・・・・・。
「何がですか?」
 わかってはいるのだが、一応聞いてみたくなるのがアイリスの性格というものだ。にやにやしているローズに話しかける。
「エックスよ。わかっているんでしょ?」
 そう言った瞬間、ドリッカーやゼ
ロから拍手が飛んだ。が、二人ともからかうようにけらけら笑っている。
 とりあえずエックスのお披露目・・・・・と相成った。
 起動した瞬間、30平方CMぐらいのメインディスプレイが二、三度瞬きをする。それから三秒くらいたったあと、少しオールドな着物に身を包んだ長身の女性(といっても、168センチくらいだが)が立体映像で現れた。
「初めまして。」
 四人もの人間がいることに少し動揺しているのか、恥ずかしそうに俯きながら会釈してみせる。
(感情を持っている?)
 ゼロは一瞬だけそのプログラム状の女性に対して、動揺の色を隠せなくなった。これまでのプログラムでは、感情・・・・・と名のつくものはない。もし持っていたとしても、それはある種の行動に対応するためだけのものだ。動揺する・・・・・恥ずかしそうに俯く・・・・・・などという行動はするはずがない。それは、人間しかすることのない感情だ。これはどう見ても機械などと形容できるものではない。
 まさしく人間そのものである。
(そんなバカな・・・・・・この娘は機械で人間の脳を組んでしまったとでも言うのか!)
 ゼロはすぐにそれを否定した。否定しても仕方ないのだが、ゼロにとっては飲み込むことすら難しい内容だ。
 ゼロの目の前では、その女性とドリッカー達が、ぎこちなく話をしている光景がある。まるでお見合だ。
(人間とほとんど変わりがない・・・・・・・。)
 天才・・・・・・とは本当に存在するものなのだ。十歳の少女の手により、完璧な人工の人間が存在しているのである。
「ローズ・・・・・・・。」
 父親のIQをはるかに超えた少女の名を、ゼロは声に出して呼んでみた。
 若き天才メカニックは、ドリッカーなどにこずかれながらも、初めて嬉しそうに笑っていた。よくよく考えてみれば、ローズが本当に嬉しそうに笑っている姿を見たのは、ゼロにとっても初めてだった。いや。誰も、そしてローズ自身も、自分が嬉しそうに笑っているのが信じられないのだろう。
 
 珍しくドリッカーは、艦隊司令部にゼロとともに呼び出された。
「ロックマン=ドリッカー中尉、入ります。」
「ロックマン=ゼロ中佐、入ります。」
 続いて、後ろからアイリスが入ってくる。
 今日の艦隊司令部は、どことなく慌てているような雰囲気がある。エックスのような高等なコンピューターを持っているわけではないリーバード達は、自分の持っている疑似感情を表情にそのまま表すわけではない。だから何を考えているかを読みとることは難しいのである。
 「ドリッカー君・・・・・といったな。」
艦隊司令は、自分の目の前で両腕を組みつつ、呟くかのようにドリッカーに話しかけた。
「はい。」
「先刻、mother2から指令が入った。今後、我々が宇宙に行くために、君は邪魔になると判断したらしい。」
 ドリッカーはその言葉に、少し眉を動かしてみせる。
 「君が我々と同じ、機械なくしては存在できないのも承知しているつもりだ。しかし、mother2の判断としては、君は宇宙に連れていく必要のないものと判断している。」
「・・・・・・・・。」
「よって、君には我々が宇宙に行くまでにかかる三年間、君の妹が動き出すことの無いように、監視する任務を課す。」
 ドリッカーは一瞬机を叩きそうになったが、今反論してはローズに危険がかかると、怒りをすぐに飲み込んだ。
「・・・・・了解!」
「して、ゼロ大尉。」
 次に、ゼロの方に話が向いてくる。
「mother2は、君にも同じようなことを言っていた。」
「ほう・・・・・・。」
「君はもう引退してかまわない。アイリス中尉も同様だ。」
「え?」
 横でアイリスが小さく声を漏らす。が、すぐに恥ずかしそうに口元を抑えた。
「mother2は、君ら三人にそれを申告するように言ってきているのだよ。」
「・・・・・・・。」
「以上だ。任務に戻り賜え。」
 司令のやっていることは、まるっきり会社で上司が部下をリストラするようなものだろう。が、ドリッカーはともかく、ゼロやアイリスは反論する余地もなかった。
「部署に戻ります!」
 そう吐き捨てるように短く敬礼したドリッカーのあとに、ゼロとアイリスが続いた。
 
 帰りのトラムの中で、ドリッカーはふてくされたように壁によしかかっているだけだ。
「俺達は強制解雇。お前に関してはほぼ軟禁状態か・・・・・・・どうする?お前の行動は、ほとんどmother2にばれているぞ。」
「そんなことはわかってる。でもな、何でローズが疑いをかけられなくちゃならねえんだ!?あいつは別に何かをしたってわけじゃないだろう!」
 ドリッカーはそう吐き捨てると、トラムの壁を思いっきりけり飛ばした。しかしゼロとアイリスは、そんなドリッカーをただ見るだけで何もしようとはしなかった。
 帰ると同時に、ローズはドリッカーの心中を察して、彼に声をかけることはしなかった。すぐにドリッカーに声をかけたのはエックスの方だったが、彼女の呼びかけにも、ドリッカーは答えることはせず、すぐに自分の部屋に戻ることにしたようだ。
 ハッチが閉まるとき、ドリッカーは無言で自分の部屋の壁を殴りつけた。自分の妹が疑われていることが、たまらなく悔しいのだ。
「くそっ!」
 壁を殴っても、壁は悲鳴すら上げることはしない。ただ、無感情に音を出すだけだ。まるで、ドリッカーをあざ笑ってでもいるように。しかも、ただ自分の拳が痛くなるだけだ。
 だが、ドリッカーは自分を嘲笑し続ける壁を殴り続けていた。しかし、一向に壁は嘲笑をやめることはしなかったのである。それをやめさせようとあがくドリッカーは、自分の情けなさを、改めて実感することしかできなかった。
「やめてよ。」
「!?」
 いきなりハッチが開いてローズが入ってきたころには、すでにドリッカーの両の拳は血にまみれていた。
「そんなこと気にする必要なんて無いじゃない。あたしのことを思ってくれるのはいいけど、そんなことのために兄さんに傷ついてほしくなんかない。」
「おまえ・・・泣いて・・・・・。」
 ローズはその涙をすぐに拭いだした。今まで泣くことすらできなかったローズは、自分の目から流れ出している水が、涙だと言うことすらわからないだろう。
「私は確かに普通じゃないよ。自分の目から流れているものがなんなのかなんてわからない。でも、自分が悲しんでるってことは確かだよ。だって、胸が苦しいもの。」
 涙を拭いながら、ローズは淡々と語っていった。喜怒哀楽が欠落していた少女の言葉とは、とても思えないものだった。
「・・・・・お前が悲しむ必要はないさ。俺が・・・・バカなだけだ。」
 ドリッカーは泣き続ける妹の頭に、ぽんと手を置いた。それは彼が今できる、最大の優しさの表現方法なのだろう。
 ローズがここ最近、急に感情を露にするのには、エックスという「友達」の存在にあるだろう。今までいなかった友達という存在が、ローズにとって何よりプラスになっている。それまでのローズと違って、今のローズの瞳には輝きというものが見られる。生きていることを象徴しているような瞳だ。
 ドリッカーは成長してくれたローズを見るのが好きだった。特に突出したものが必要なわけじゃない。ただ、普通通りに育ってくれればいい。ドリッカー自身がひねくれたのも、そんな願いを人に悟られまいとしてのことだろう。
 ドリッカーは、ローズを目を瞑りながら撫で続けていた。
 
 「で?お前の心に決着は付いたのか?」
 ゼロのふかした煙草の煙が、ドリッカーの周りをとりまいている。それに併せてドリッカーも煙草に火をつけたが、ゼロがそれを遮った。
「やめておけよ。今日一体何本吸ってるんだ?」
「ナノマシンのおかげで、身体への害はほとんどないんじゃなかったのか?」
「ローズが心配するだろう。」
 ・・・・・・・・しばらくたったあと、ドリッカーは灰皿にたばこをすりつぶした。
 
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