汎用生物兵器1
9 無益
艦隊司令部の前に、数え切れないほどの軍勢が立ち並ぶ。歩兵に始まり、空中戦闘用の飛行型リーバード、数百機にも渡る移動砲台。数十機に渡る、搭載人数五百人程度のエアフォース。
重々しく立ち並ぶそれは、司令が出てくると同時に大きく敬礼を取った。
「諸君。今や我々の同士だった司政官達が、我々に牙を向きつつある。しかし我々も手をこまねいているわけにはいかない。一刻も早くこの事態を打破すべく、君らに集まってもらったのだ。今や司政官側は我々リーバードの同士ではない。倒すべき敵であり、リーバードとしての恥をさらけ出す集団だ。」
雄叫びのような復唱が、その場に響きわたる。しばらくして司令はそれを手で制すると、火が消えるように静まり返った。
「諸君!今まで幾度となく反逆分子を叩き潰し、奢り高ぶる人間達を打ち砕いてきた我々だ。恐れることは何もない!存分にその力を発揮し、リーバードの歴史始まって以来の反抗勢力を、この手で叩き潰すのだ!!」
再び、先ほど以上の雄叫びがその空間を支配する。すでに全面戦争は開戦を間近に控えていた・・・・・・・。
ローズの造った衛星中継装置(あの兵器で三十分と持たないのだが)から送られてくる映像を見て、全員が虚脱した。
「バカな決定だな。」
「同感だ。」
呆れ顔で相次いでそう言うゼロとドリッカー。他の3人は何も言っていなかったが、同じようなことを言いたそうな表情で黙っていた。
ここまでバカな決定を下す艦隊。もともと、軍隊などと言う物は力で相手をねじ伏せるためにあるものだ。戦略以外に頭を使うところがないのだろう。そんなことは全員承知のつもりだった・・・・・。しかし、何よりも人間と同じ歴史を繰り返しているリーバードを許すことが出来なかった。これでは何のために人間ととって変わったかがわからない。
ドリッカーだけは、こうなることを元々から予測していた。リーバードに心を許すことを絶対にしないドリッカーにとって、リーバードは永遠の敵でしかない。信用すること自体が自らの正義を裏切るものだった。
「こんな奴等に義理立てする権利はねえがな。ケリは俺自身がつける・・・・怪しげな兵器だけにまかせておくわけには行かねえ。」
久しぶりの戦闘に唸りをあげる自分の身体に、ドリッカーは正直興奮を抑えられなかった。
「・・・・・バスター。調整終わったわよ。」
ローズが自室を出るなり汗を拭いながらそう言い放つ。ちょっと表情が険しくなっているのは、彼女自身納得の出来る仕上がりではないからなのだろうか?
「すまん。」
ゼロが自分用のバスターを受け取り、ついでにドリッカーのバスターも受け取って静かに暗い中、一人で精神を集中させているドリッカーの方へ向かっていく。先ほど、少し身体を慣らしてくると家を出ていったばかりだ。重刃では破壊規模がでかすぎるので、家からは数百メートル離れたところへとホバーリングしていった。
ゼロはこの戦闘が随分久しぶりだったことを思いだし、少し心の中で苦笑した。本来常時戦闘を繰り返していなければならない自分が、平和ボケしてつまらなそうに毎日を過ごしていたことを今になって後悔した。ドリッカーを成長させ、あの計画を遂行させるための切り札へと成長させなければならないのは、紛れもない自分だったのだから。
外に出るなり風を展開させ、ホバーリングをする。かなりのスピードが出るこの移動システムは、風を展開させているからと言って空を飛べるわけではない。ただ単純に風で自らの身体を少し浮かせて進んでいくだけだ。
リーバードはこんなものを使えるわけがないし、それこそ人間にいたっては自力で動くなど歩行しか方法がない。
ゼロのように、ナノマシン、それも現代化学では到底成し得ない性能を持ってこそ、人間が自力で風を展開させてホバーリングなどと言うものが出来るのである。
暗い中で、ゼロはドリッカーを探して走り回る。さして興味のないような口元でも、内心は早めにドリッカーを見つける必要があると考えているのだ。
「・・・・・。」
突然の爆発に、ドリッカーは瞬時に爆発した方向に向かった。少し頭から押さえつけられるような気がするのは、ドリッカーがこの場で重刃を使ったという証拠だろう。
「チイイイイイイッ!!」
爆発した所から少し離れたところに降り立ち、ドリッカーがこちらに向かっていくのを待つ。間違ってドリッカーの重力が直撃しようものなら、無事ですむことは絶対にない。ましてこの暗がりの中だ。あの黒い光が見えることはないだろう。
足を踏み込む音、重刃を持ち変えるときの金属音、重力が展開されるときの低い音。その音源がドリッカーの居場所を必然的に教えてくれる。一秒程度で新しい音が聞こえてくるのは、ドリッカーがそれくらいの速さで移動し、さらに的確な攻撃をしているのに違いない。が、その音がいきなり止まる。
「誰だ?」
「・・・・・・俺だよ。気付くのが遅すぎたな。これが敵だった瞬時に叩かれるぞ。」
いつどんなときに話しかけても、ゼロは他の人間やリーバードに対してまともな喋り方は絶対にしない。必ずどこかひねくれているのだ。その喋り方がゼロという人間を表すのにも、隠すにも一役買っていることは、ゼロ本人が一番承知していたのだ。
「何の用だよ。」
「バスターが上がった。ローズの顔見てたらうまく調整は出来なかったようだが、少なくともアイツが調整するだけで普通の兵器もいくらかましになる。」
そう言いながら、ドリッカーの方にバスターを放る。皮膚と皮膚をこすりあわせたような乾いた音が聞こえたことから、ドリッカーは一応落とさずに捕まえたようだ。
「・・・・・ローズに無理するなって言っといてくれねえか。」
「・・・・・・・・了解だ。」
その場で吹き出しそうになったが、ドリッカーの口調がひどく深刻だったことを気にして、ゼロは何とかそれをこらえた。
今まで使わなくなっていたバスターがドリッカーの手の中にある。それを体内ナノマシンと連動させることで、目には見えないレーザーブラストが撃ち放たれるのだ。光速のバスターは撃ち放たれた後に回避しても仕方なく、撃つ前に状況からその意図を察知して避ける必要がある。すなわち、動くか動かないかだ。相手を確実に捕らえるために打ち出されたバスターは、少しでも避ければ大体は当たらない。しかしとりあえずばらまいただけの狙っていないバスターの場合、動けばやられるのだ。
相手の状態、そして戦っている場所などから状況を見極め、確実な判断を下す。もちろんこれは頭の回転の良さと、何にも動じない冷静さが要求される。並大抵のものではない。普通の人間ならば一瞬で撃ち抜かれて即死・・・・・・といったところだ。
ドリッカーの右腕の表面に、ナノマシンがを集合させた個体が出てくる。この中にバスターを組み込むことで、使用可能となるのだ。
バスターを埋め込み、ナノマシンが戻ったことを確認したところでチャージを始める。
五秒ほどチャージした後に放ったバスターは、廃墟のビル群を一瞬にして吹き飛ばしていた。
「・・・・・・・・よし。」
ふと、このバスターという兵器は一体誰が作り上げたのだろうと考えた。現行で最もポピュラーな兵器だ。だが、その設計者などの情報が一切ない。一体どういう考えでここまで強力な兵器を作り上げようとしたのか?少なくともリーバードが人間を全滅させたのが十年前からだが、それより以前に設計されているのが確実である。
「・・・・・気にしても仕方ないな。」
戦争は技術発展の起爆剤だと言った人間が三十世紀にいた。しかし・・・・・今までの兵器は隠すことを許されない。その技術を奪おうと必ずその秘密を誰かが躍進する。そして奪い取ったものがまた新たな兵器を作り出す。それが技術躍進というものだった。
他人を犠牲にしてでも、躍進させるべき技術がある。
その技術のために、人は戦争を繰り返すのかも知れない。人には戦争がなければ、その技術を躍進させることが出来ないのかも知れない・・・・・・・・。
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