汎用生物兵器2
 プロローグ
 
 1999年10月4日。この時代に転送されてきたロック達は、この時代に少しずつだが慣れ始めていた。最初気がついたときに、自分たちは死後の世界にいるのかと誤認してしまったほどだ。だが、ドリッカーは最初から違っていた。ここがどのような世界かを確かめようと動き出したのだ。そしてたまたま小さな店で確認してみたカレンダーに、1999年と書いてあったのだ。それから先、一気に全員が白け、硬直した。こんなにつまらないことで自分たちは動揺し、走り回って混乱していたのだから。しかし、その中で一人、ドリッカーだけは自分達がアイリスに転送されたのだということを予想していた。観測者である彼女は、それくらいの芸当は可能だからだ。でもそこから混乱が再開。見も知らない場所でどうやって生きてゆけというのだ?愛がそこからコンピューターにハッキングを試み、自分たちの戸籍がすでに作成されていること。預金講座が作られ、七億ほど入っていたのだ。円という単位がゼニーと対して変わらないことに安堵を覚えもした。結局、何もかも配慮済みだったのだ。ロック達は自分たちに用意されている家に戻り、平然と生活を始めた。まるっきり臨機応変だった。そして、生活を始めてから、大体一年近くになる。 
 
 愛は、一人で夜の公園を歩いていた。普通なら11才になっている頃だ。・・・といってもこんな子供が、夜に街を歩いていることすらおかしい。全く何を考えているのだろう。・・・・とはいうものの、愛としては静かな夜の雰囲気が、むしろ似合うような気品さをもっていた。感情表現力が乏しい代わりに得た、不思議な存在感と、希薄だけど、気品溢れる瞳・・・・・・。彼女は一体何を見ているのだろうか?
 (説明し忘れたが、ロック達が飛ばされたのは日本である)
 陸上自衛隊。三沢基地。2000年になって、F-16を越える新型戦闘機の飛行テストを依頼されているところだ。しかし、新しく搬入されてきた新型器は、これまでの飛行機技術を全く無視したような、試験的な要素がたくさん含まれている。三沢司令は、この戦闘機を見た途端、「エンジンをふかしたら、爆発なんてことはないだろうな。」と溜息を漏らしたという。
 今日は、ようやく最終飛行を終えるはずだった。
「司令。全く異常は見受けられませんが、三機とも、右ノズルの不調を訴えています。左右均等というわけではなく、右のみに少しだけ重量が傾いているとか。何とか飛べますが、放っておくわけにはいきません。ようやく、謎の正体が分かりましたね。」
 管制官の言葉に、司令官は喜色満面に微笑んで見せた。少なくとも、搬入された当時の不安は、彼の思考の中からはあらかた失せていた。
「よーし。三機とも、調整をするためにすぐに降りてこい。全く、あれくらいの欠点がすぐに見つからないのは、こんな機体になれていないからなのかな?」
「さあ・・・・・。帰還信号を出しますので、もう少しで戻ってくると思います。」
「うむ。」
 確かにここまでは順調だった。管制官が、センサーに映る不信な影を黙認するまでは。その影は明らかにテスト機に近づいていた。しかも、相当のスピードで。
 明らかにおかしい。これはただ航行中のジャンボジェットであるはずは絶対にないし、まして今日は自分たち以外にこの空域を飛ぶ自衛隊機はないはずだ。つまり、明らかに違反している機体だった。
「司令!」
「何だ?」
 司令はいきなり態度の豹変した管制官に驚きながらも、何とか返事をよこしてみせる。
「テスト機に・・・・・・妙な機が近づいています。速度、大きさから測定すると、大体戦闘機くらいは・・・・・・。」
「何!?」
 その報告に、司令もまた愕然となった。順調に終わるはずだったのに、最後となって最も悪質な事件が発生してしまったのだ。
 司令は歯がみした。少なくとも、新型器としてここまでテストを繰り返してきた機体だ。いきなり現れた馬の骨に撃墜など、洒落にもならん。少なくとも、最優先でパイロットの命と機体の確保をやらなければいけない。
「すぐに戻させろ。今あの機体を潰すわけにはいかん!」
「了解。すぐに後退させます。」
 それから素早くパイロットに、警戒信号を出し事態の確認をこう。自分でもあらかじめそれを確認していたパイロットは、後退命令ですぐに動き出した。
 だが、すぐに後退させたにも関わらず、正体不明機との距離はどんどんと迫っていく。
「司令。ダメです・・・・。速度があまりにも・・・・・・。」
「止むをえん。正体不明機を黙認後、明らかに敵意のある場合は牽制してやり過ごせ。なるべく逃げることを考えろ。交戦は絶対に避けるんだ。」
 動揺している自分の心を思いきり押さえつけ、司令は静かに言葉を紡ぎだした。正体不明機というものを扱うような事件は初めてなのだ。それも、最大機密の新型器が、すでにターゲットとして定められている。
 動揺するなという方がおかしい。
「パイロットが正体不明機を確認。正面モニターに転送します!」
 管制官の言葉と同時に、正面の巨大モニターが怪しく瞬く。しかし、次に映し出された光景は、所員の誰もかもを驚愕の表情へと変化させ、身体を硬直させていった。
「今現在確認されている中では、このような機種の戦闘機は存在しません。新型器だとしても、陸上自衛隊のマークを施しておきながら、我々が全く知らないということの方がおかしいのです。」
「・・・・分かっている。」
 その機体は、普通のジェット戦闘機と似たフォルムを持ちながら、それとは全く異なる主翼を持ち、その裏面に明らかに砲塔としか思えないものが4本せり出ている。それがまがまがしく、そして以上だった。何よりも見るものを驚かせるのは、その完全に異常な機体に、陸上自衛隊のマークと文字が刻まれていたからである。
 それに、その凶悪な砲塔は明らかに光だしていた。正面、つまりテスト機を狙って。
「明らかにこちらを狙ってきているな・・・・。すぐに逃げろ!もし逃げられない場合は、弾幕で牽制。それでも逃げない場合は、撃沈もやむを得ん。」
 空中では、テスト機のパイロットが、向こうから迫ってくる異様な戦闘機に、マシンガンの照準を合わせた。ペイント弾だが、フードに命中すれば脱出はやむを得ない。それに、当たらなければただ撃ってきたようにしか見えない。
 放たれたペイント弾は、目標に当たることなくその横を通り抜ける。しかし、目標はそれを予想していたかのように平然と迫ってくるのだ。これは、撃沈も仕方ないかも知れない・・・・・。
 パイロットは一瞬判断しかねてから、ミサイルの照準を目標に向けた。
「悪く思うなよ・・・・・。」
 しかし、自分の身に降りかかる不運をいうものは、降りかかってくるものには度合いは分からないものだ。
 砲塔に閃光が走り、そのパイロットは自分が死んだことも分からず、コクピットの中で燃えつきた。
 「テスト機・・・・・。反応・・・消えました。」
「撃墜・・・・さ・・れた?」
 水を打ったような静けさがあたりを支配した。信じられない事実だった。
「あれだけの距離から、しかも空中爆発だと・・・・・!」
 現存する兵器では考えられないものだった。少なくとも、確認されている中には・・・・・・・・。
「一体何だというのだ!」
 愛は、近くの公園で夜風に当たっているつもりだった。もちろん、小学生が暗い夜の公園のブランコに揺れているのは異常だ。幸い人通りがなかったのと、パトカーの巡回時間と違っていた。それでも、たまたま通る人は、スカートの下にジーンズをはいた変な小学生を、怪訝な瞳で凝視していたことだろう。
 は〜〜〜〜〜〜〜〜と長い息を吐いて月を仰ぐ。月なんてものをまともに見たのは一体いつのことだろうか?少なくとも、母親のリーナがいる場合は毎日見ていただろう。
 リーナは、月が好きだった。
 毎日夜になったら、二人で近くの山まで月を見に行った。そのうち、月や星たちが自分に集まってきたような気がした。
 それが、今の月は少し曇ったように見える。
 まあ、仕方ないか。と愛はもう一度大きな溜息をつく。自分の目が曇ったか、それともここの空気が悪いのか、判断しかねた。何故自分がここにいて、そして、こんな風に一人で月を見上げているのか・・・・・。疑問は自分では答えられないものだけだ。
 何故疑問は自分が答えられないものなのだろう。いや、自分が答えられないから疑問なのか・・・・・・・。変な風に哲学的な自分に、賞賛と苦笑を送った。
 母は、自分にこんな生き方を望んでいたのだろうか?それとも、自分の好きに生きろとでもいうのだろうか。試練だけは、自分の前にどんどんならんでいった。一つずつ、なぎ倒してはいるのだが。
「あ〜あ。」
 多分、こんなに溜息が出るのは月のせいだ。月は自分の心を狂わせ、洗い流す。神秘的でありながら、不思議と包む優しさのあるもの。愛は月に憧れていた。なるなら、こんな人間になりたかった。
 ・・・・・・・・。帰ろうかと考え出す。
 が、突如自らのソナーに引っかかる明らかに敵意の感じるもの・・・・・。それに気づき、今までのふんわりとした雰囲気が、一発で吹き飛ばされた。
「ったく・・・・人がそろそろ帰って寝ようかというときに・・・・!」
 そう考えるとイライラしてたまらなくなってきた。さっさとこれを排除して家に帰りたかった。
 人が周りにいないことを確認し、愛はナノマシンに命じる。風のスラスターに、その展開を・・・・・・・。風を司る綾ほどではないが、少なくとも数十分は飛べたはずだ。
「はいはい。今行くから、少し待ってなさいね。」
 言葉とは裏腹に、愛は不機嫌さに自分をどっぷりと浸からせていた。
 空に昇る・・・・・・その感覚が愛の機嫌を少しずつ直していった。だが、これから出会うものが一体どんなものなのか、少なくとも、自分のソナーに引っかかるということは、自分と何らかの関係を持つ存在だ。それがどのような意志を持ち、どのような目的で自分に近づいてきているかを、もう少し考えたほうがよかった。
「さ・・・てと、一体何かねぇ?」
 のんきさは変わらない。それでも、心構えはしっかりとしていることが人にとってやっかいなことなのだが。
 だが、その緊張感のなさは一瞬にてかき消された。自分めがけて思いきり飛んでくるそれは、陸上自衛隊というマークを光らせる戦闘機だったのだ。
「ちょ・・・・。あたしは陸上自衛隊なんかと関係してないわよ!」
 空中で弁明したところで、相手が分かってくれるものでもないが、相手は答えることすらしなかった。しかし・・・次の相手は明らかに敵意を表す行動へと変わっていく。
 変形した。いきなり。思いきり人型へと・・・・・・。
 こんな露骨な対応をされれば、自分でも納得がいくというものだ。面白くない。だが、久々の戦いは自分に刺激を与えてくれるものだった。
 二つはそのまま対峙しあう。だが、愛は何となくこの機体に嫌な予感が絶えなかった。少なくとも、接戦になることは目に見えている。それがどんなものでありこそすれ、自分の予感がそう告げているのだ。少なくとも、自分の悪い予感が当たらなかったことはなかった。
 先に動いたのは、変形した戦闘機のほうだった。高速で突っ込んでくるのを横にかわし、それに特製のガトリングガンを思いきり叩き込む。だが・・・・。それは全て吹き飛ばされた。明らかにシールドらしかった。
「なーるほど・・・・・こりゃやっぱりやっかいね。」
 愛はそこでようやくいつもの凶悪な冷笑を浮かべた。久々の戦いを、心から喜んでいるようだった。
「面白そうじゃない。来なさい!すこしでもあそんであげるから。」
 そして突っ込んだ二機ははサーバーでぶつかりあう。火花を飛び散らせるその感覚に狂喜しながら、愛は戦闘機のサーバーを跳ね返し、それと同時に突っ込む。だが、敵はそうさせてくれることをしなかった。体勢を崩したまま愛にスラスターを浴びせかけ、一気に距離をとる。そしてそこから勢いをつけて飛びつく。
「浅い!」
 愛の腕はすぐにバスターへと変貌し、突っ込んでくる機体にバスターを浴びせかける。だが、それは相手をかすめただけで、相手との距離はどんどんと縮まっていく。その時だった。愛は今までに見せたこともないような凶悪な表情で、拳を一気にフリーにする。
「笑わせないでほしいわね!!」
 そして叩き込む拳は完全に相手を貫き、その全てから煙を吹き上げさせた。
 そこでようやく、愛の笑みは止まった。完全な勝利の笑みだった。そしてそれをバスターで空高く吹き飛ばす。こんなものがここで爆発されるわけにはいかない。
 しかし、その油断が、思わぬ方向に彼女を向かわせることとなった。
 ソナーにいきなり警戒信号が鳴り響き、もう一機の戦闘機が現れたのである。
「なっ・・・・!?」
 叩き込まれたマシンガンが、全て自分の腹部に命中。条件反射的に愛がぶっ放したバスターが、その機体を吹き飛ばしていた。一瞬にして遠のく意識から、愛は自分のうかつさを呪った。さっきの公園の上でなんとか着地したものの、愛はそこで倒れ込み、意識を失った。この事件が、この後の彼等の戦いを表していることなど、愛には見当もつかなかった。
 
 
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