EIGHT GOD KILL MACHINES
東京。皇居付近の通りでは、何台にも渡る車が、さっきから全く動いていなかった。青信号になってもである。渋滞していたわけではないし、通行止めのせいで足止めを喰らっていたわけではない。その全ての人間が、上空のある一点を凝視していた。丁度、江戸城後あたりである。飛行機でないことは明確だった。それ程高い位置に浮いているわけではないし、第一飛行機だったらとっくに飛び去っているはずだ。飛行船だったらもっと長いはずだし・・・・・・今現在で該当するものはない。気球という案もあるが、そんなものがそこから何メートルにも渡って「触手」を伸ばしているわけがあるのだろうか。第一触手を持っているなんて機械に必要なことではない。現在道路を塞いでいる車の山は、その正体不明の物体を人目みようと、この寒い中わざわざ繰り出してきた暇人の野次馬達だったのだ。ニュースでそれをさっと報道したことが、引き金になったと思われる。そんなに長い時間滞空しているわけではないが、それにしても完全に異常な状況だった。まさにオカルトファンや珍しい物好きが飛びついてくるようなネタであった。
政府としては、現状が異常である限り、その物体に対して無用な刺激は避ける・・・というのが当面の構えである。
「・・・・・・mother 2・・・・・・・・・。」
ドリッカーが怒りに身を震わせて、その一言を絞り出す。自分を見事にコケにしてあしらった存在は、ゼロ以外にこいつが初めてだ。
「どう見たらいいんだろう。これがもし本物のmother 2なんだとして、これは僕たちに対する挑発って考えていいのかな。」
珍しくロックが真剣なことをぬかした。
「さあ・・・。でもあのエデンの嫌な感じがしてからすぐに動き始めたとしたら、彼等もエデンという存在に対してある種の危機感を持っていると考えるのが正しいわね。もしかしたら、エデンというのは何らかの形で彼等につながっている。ということは私達にもつながってるんだけどね。まあそれはそれとして。エデンが彼等の行動を遅すぎると判断したために、衝動まかせに動き出した。でも・・・・・・そうだとしたら、彼等にエデンのことをよく聞いてみる必要がありそうね。」
それだけは納得がいくのか、全員慎重に頷く。確かにロールの言うことはもっともだ。このパーティの中で一番頭の回る存在なだけある。
「ということは、私達のこれからの行動は決まったも同然じゃない。今すぐ!江戸城跡上空で待機中のmother 2に、今回の事情を聞き出す。でも、mother 2自身とやり合うのは、紛れもなく、兄さんなのよ。」
「わかってる。」
どうやら、それを考えて先程から緊張しているようである。元々緊張しやすい質なので、今回も例の如しといった感じである。しかし、それでも優しさは抜けない。
「それぞれこれから準備に入る。mother 2の奴、俺達が遅くなったら何をしでかすかわからん。簡単な装備だけをして、出来る限り戦闘は避けることにするんだ。目的を達することが出来れば、奴は満足なんだからな。」
次からの全員の動きは異様に素早かった。ロックは一年前、地下に潜っていたときと同じような(といっても全く普通だが)服装だ。ロールは例にもよっていかないから準備などしないし、綾はいつも通り。ドリッカーはとりあえず防寒のためにコートを羽織った。そして、愛は・・・・・・。
「お待たせ。」
そう言って愛が出てきた瞬間、全員が硬直した。
スカートの下にジーンズをはくという、あの悪趣味な服装をしていなかった。どちらかというとロールの昔の格好に近い、ぴっちりとしたズボンをはき、明らかに男物と知れるジャケットをきていた。手には指が半分しか隠すことの出来ない、黒の手袋をはめていた。今までとは全く違う、愛らしくない愛の姿だった。
「・・・どうしたの?」
「どうしたのって・・・・・・。お前何だよその格好。」
「・・・・・・特注の戦闘服よ。あたしのナノマシンが作ってくれたの。防弾性能は常識外れ。強壮弾にだって耐えるわ。」
「・・・・・・・・・・・・ああそう。」
ロックは苦笑しながら、小声で「戦争にいくわけじゃあるまいに」と呟いたが、彼は大きな勘違いをしている。いかなものであれ、彼が今までやってきた戦いの一つ一つが、どれをとっても「戦争」なのだ。戦争を国家間の武力抗争だと勘違いしている人間がいるが、この言葉を直訳すると戦い争う。一体この言葉のどこから、「国家間の武力抗争」などというばかばかしいものが出てくるのだろう。
「・・・・・・それじゃあ行こう。全員準備は?」
「いいよ。」
「行ってらっしゃい。」
「はい!」
「完了。」
愛以外の全員が普通に歩く。愛は危ない格好のため、光学迷彩をかけて歩いている。熱反応すら妨害する高性能光学迷彩で、リーバード艦隊でも使われなかったほどの強者だ。
「愛・・・。」
「何?」
「さっきからかちゃかちゃ音がするんだが、一体何なんだ?」
十秒たっても、愛から返事は来ない。相変わらず、金属臭いかちゃかちゃという音が響きわたる。
「おい!」
「?」
「何をやっているんだ?」
その直後、がちんと言う、何かを接続するときの鈍い音が響きわたった。
「愛用のガトリングガンの確認・・・。別に怪しいことはしていないわよ。」
「ちょっと待てよ。お前のナノマシンから出来たシステムだろう?点検しなきゃならないような欠陥品を、お前のナノマシンがわざわざ作り出すと思うか?」
「確認の為よ。それにもう終わったわ。」
何事もないように、愛は音もなく歩いている。彼女にとっては銃器の扱いも、もはや日常茶飯事に過ぎないのかも知れない。それでいても、いつもの愛とは違う、全く厳しい雰囲気、そして威圧感をあたりにまき散らして、歩いていることも確かだった。
「このままじゃ埒があかねえな・・・。走るか?」
ドリッカーがそう言い放つと、初めとばかりに綾がホバーリングの準備に入る。すでにここに人はいない。まるでmother 2がそれを仕組んでいるかのようだ。家々に明かりはなく、人気はない。まるでただの模型のようなものだ。元々偶像の都市であるこの街が、一体何がためにさらにこれを希薄なものにしていくのか・・・・・・。
続いてドリッカーが、ロックが、愛が次々にホバーを始めた。そして、徐々に後ろに景色が遠ざかっていく。向かうは・・・・・・江戸城跡上空。
そして一同は空へと昇る。それぞれの道を、それぞれの「戦争」を始めるために。
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