プロローグ
 
 先の戦い・・・。
 もしあの戦いがあと二十分でも遅れていたら、日本は壊滅的な打撃を受けていただろう。あの存在によって・・・。
 戦いは悲惨なものだった。一人の少女は死に、一人の少女は数カ月立ち直ることが出来なかった。だが、それの代償として、一人の少年と少女の未来は少しだけ決定された。
 その少年と少女は、今年の六月。はれて結ばれた。
 少女の方が、ジューンブライドがいいと強く主張したためである。梅雨のさなか、大勢の人間に見守られて結婚式はとりおこなわれた。披露宴の後の二次会は無茶苦茶なパーティになってしまったのはいうまでもない。彼等はたった四年で沢山の人達とつながりを持った。
 二人は幸せの絶頂にある。
 それと相対して、一人の少女と一人の青年が一つ屋根の下で同棲している。兄妹でもなく、恋人でもなく、夫婦でもない。幸せとは縁遠い、むしろ保護者と養子といった感じである。
 時は、2003年。mother 2との戦争から、三年がたっていた。
 ロックとロール十八歳。ドリッカー二十一歳。愛十四歳。
 平和ボケした毎日がなんでもないように過ぎていく。
 しかし、一人愛の中では戦いの傷は癒えていなかった。
 彼女だけが、未だに悲しみをぬぐい去れないのである。目の前で妹を失ったことに対して、自分を責めに責めた。でも・・・責めても何も解決はしなかったのである。
 その年の七月。
 愛はかつての戦場に作られた、綾の塚を凝視していた。いけられた小さな蓮華の花が、光を反射している。珍しく、黒い服を着た愛。彼女は無言で塚を凝視していた。
 あの時から・・・自分は決心してきた。
「もう泣かない。それは綾を悲しませるだけだから・・・。」と。
 しかし、ここに来る度に、涙が止まらなくなる。三年たってもだ。
 愛は涙を拭って、
「バカ」と言い放ってからその場を去った。
 翌日。愛は昨日のことがなんでもなかったかのように台所に立っていた。しかし、もうこの家にはロックとロールはいない。彼等は横浜に新たに家を買って、そこに住んでいる。たまにここに来るのだが、新婚生活を謳歌しているのか、たまにしか顔を出さない。
 さて・・・なぜ今愛が台所立っているのかというと・・・。実は今、学校に遅れそうなのである。彼女は近くの中学校に通っており、学生として生きている。まあそれは置いておくとして。
「ドリッカー!さっさと起きて御飯食べなさいよ!あんたのせいでいつまでたっても片づきやしない!」
 フリルたっぷりのピンク色のエプロンがなびいて揺れる。なかなかに可愛いと言えないこともない。
 隣の部屋で寝ているドリッカーは、愛の言葉に反応する気配もない。
 こうなれば実力手段だ・・・と愛は洗い物をしている手を止めて、布巾で手を丁寧に拭く。そのまま足音が響きそうなくらいに大股で歩き続け、ドリッカーの目の前に立ち・・・。
 思いきり蹴り飛ばした。
 二、三回回転して壁にたたきつけられる惨めなドリッカー。わけがわからないように寝ぼけた両の眼を擦る。
「・・・・・・?」
「ようやく起きたわねこのバカ!」
「何だ愛じゃねえか。」
 不機嫌そうにドリッカーは立ち上がる。よれよれの寝間着が何となく親父くささを出しているが、何着ても親父くさいドリッカーでは仕方がないのかもしれない。
「あたしもういくから、あんた勝手に御飯食べて洗い物しておいてね!ったく片づかないんだからもう・・・。」
 主婦(?)生活を始めてから、愛は片づけ屋になってしまった。
 ずぼらなドリッカーとは正反対なので、彼を蹴り飛ばすことが最近よくある。
「あー!もう八時じゃないの!!遅刻したらどうすんのよ!!この世界じゃホバーリングは使えないんだからね!」
「わかったわかった・・・。早く行かねえと本当に遅れるぞ・・・。」
 頭を掻くドリッカーを再度殴りつけて、愛は夏の日差しの中を飛び出した。
 
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