エピローグ
 
 その夜。ドリッカーの元をアイリスが訪れた。
 そしてドリッカーは、自分が観測者になる思いをアイリスに告げた。
 彼女はその申し出を受け入れ、ドリッカーを三代目の観測者と認めた。
 彼は観測者に伝わる黒いローブをまとい、目の周りを覆うゴーグルをつけて完全に自分を隠した。いつかまた、アイにあえるまで己の深淵を見せないということを誓って。
 
 そしてアリアは、横浜のロールの家にいた。アイリスを呼んでくれと頼まれたのだが、アイリスはドリッカーのところへと行くらしく、自分がそこに向かうこととなったのだ。もう起きている人間がいないであろうという時間帯で、若い女が家のガレージの前に立っているのは相当に怪しい。しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「ようこそアリア。アイリスさんは来てくれないの?」
「アイリスはちょっと忙しいのよ。代わりに私が来たってわけ。」
 アリアがそう笑いかけると、ロールは自嘲したような笑みを浮かべ、そしてガレージを開けた。
 その中に存在したものに、アリアは目を見張った。
 瞳が黒くない人間。これは・・・見覚えがある。
 そう。エックスだ。
「ロール。これは・・・。」
「これは私が作った世界最高峰のプログラムにして、初のヒューマノイドロボット。αよ。」
「α?」
 エックスに対して、次はαだと言うのか・・・。
 アリアは動揺の表情を隠さぬままに、エックスとは違うαを見た。
 髪は真っ白でほとんどショート。男とも分別がつかない。着ているものは、薄い青のワンピースで、胸元に茶色のリボンがある。非常に華奢な体つきに、良く似合う。
 エックスが大人びたロボットであったのに対し、αは幼い感じのするものだった。
「これは・・・一体・・・。」
「これはね、アイリスさんに注文されて作ったの。」
「アイリスに・・・?」
 一体、アイリスは何を考えているのだろう。
 そんなことを考えているうちに、後ろからアイリスとドリッカー。そしてエックスが転送されてきた。
「お・・・おいロール。一体何なんだそれは。」
 ロールが答えるよりも先に、アイリスが質問に答えた。
「その機体はα。私がロールさんに頼んで作っていただいた、エックスの後継機です。」
「エックス・・・。」
 ロールが、驚きに満ちた表情でエックスを見た。ロールに見つめられ、エックスが軽く頭を下げて会釈する。
「説明しましょう。エックスというのは、ロールさんの本体。ローズさんにより作られた、ヒューマノイドロボットです。」
「アイリス・・・。この二つの機体が、一体何に関係してくると言うの?」
 しばらく・・・。アイリスは黙っていた。
 しかし、この場にいる人間に、黙っている理由はない。
「この二つは・・・人類の新たな進化系にある存在なのです。」
 その言葉が響きわたると共に、皆まるで波をうったように静かになった。
 次の地球の担い手たる人類は、その素材を大きく変革させることとなる。
 人間の道具であるべくして生み出された機械が、新たなる人類なのだ。
 そういえば、元々ドリッカーが生まれたときの時代も、機械が地球の派遣を握っていた。しかし、このエックスとαは、明らかにリーバードなどとは違う・・・。
「アイリスさん・・・。」
「私の意志は、地球の意志であり、エデンの意志です。」
「エデン・・・だと?」
「多分・・・次に戦争が始まるときには、皆がエデンをめざすことでしょう。己の目的を果たすために・・・。」
 悲しそうなアイリスの微笑みと共に、側にいたαが笑ってみせる。
 その笑みは、この先にある何かを暗示するかのような笑みだった・・・。
 
 この先の記録
 それは、一時中断させていただく
 まあ言えることがあるとすればこんなところだろう。
 ロールは強かに人生を生き抜き、
 ドリッカーは己を見せることをしなくなった。
 ここまでの彼等の行いが、彼等にとってよきことなのか、悪きことなのか。
 それは、誰にもわかりはしない
 しかし、この場に出てきた人間達の自己葛藤は、
 様々なものを生み出してきた。
 それは想いであり、
 力であり、
 意志であり、
 優しさであり、
 そして、
 アイだった。
 しかし、彼等がそれに気付くには、
 もう・・・時は流れすぎていた。
 これから、きっとまた戦いがあることだろう。
 しかし、
 彼等はその戦いで迷いはしない。
 己を守り、誰かを守り、目的のために全力を尽くす。
 きっと今は、そのための時間・・・。
 そのやすらぎの時を、彼等はきっと・・・きっと・・・。
 
 
         さよなら・・・。醜い機械達よ。
         次に会うのは、人なのだろうな。
 
 
 
          汎用生物兵器劇場版 参
 
 
「過ぎ去りしアイの姿を」 了
      そして、汎用生物兵器全シリーズ
      完結
 
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