3.二ヶ月ぶりの再会
学校は夏休みに入ってしまった・・・。配布された宿題は自由研究も含めて十日以内に終わってしまったし・・・。実力テストに向けての勉強は教科書を一回みれば大体ナノマシンが記録してくれる・・・。あくまで、記憶ではなく記録なのだ。
そんなわけで、夏用の白いワンピースを着て、喫茶店でほけーっとしている。
周りでは、暇な男共が激マブ(すごく美人と考えればいい)な自分をみている。声をかけるか迷っているようだが、かけてきたら軽くあしらってやるか、衝撃波で吹き飛ばしてやるのが関の山だろう。何より・・・、今愛はここで待ち合わせをしているのだ。
たった二ヶ月会っていないだけなのに、一年も二年も会っていないような気がする。
そんなわけで、前までやっていたスカートの下にズボンをはくという悪趣味な行為をやめたのである。それに最近、何となくそれをする気がない。むしろ女らしいファッションが好ましくなってきているのである。
だから白いワンピースなんてものを着ているのである。もっとも、似合わないなど一言もいっていない。むしろ髪の色と合って非常によい。
ちなみにいってしまえば、ここはアリアの愛用している所である。
ドリッカーも来ようとしていたのだが、丁度原稿が上がったらしく、編集者に取りに着てもらっているため、愛に出迎えを命じたのである。言うなれば使いパシリだがどうせ来るつもりだったので、ドリッカーがいないということだけなのである。
「さっさと来なさいよ・・・。結構退屈なのよねー・・・待つって。」
テーブルに突っ伏しながらそう悪態をつく。冷房が効いているので暑くはないが、何となく暑いような気がするものだ。
ぼんやりと顔を上げると、入り口付近に青をベースにした服装の青年が現れた。イコール、来たということである。
「あれ?愛ちゃん一人なの?」
「ドリッカーは編集さんと取引中・・・。兄さんこそ、どうしてロールさんを連れてきてないわけ?」
席について、マスターにブラックの珈琲を頼んだ後、ロックは微笑んだ。
「来る途中で故障した車見つけてさ、ロールちゃんは持ち主と一緒にそれを修理中・・・。軽くみた限り、十五分で終わるから先行っててって・・・。一張羅来てるのに顔中オイルだらけにしていってたよ。」
「そういえば・・・確か横浜に買った家のガレージ使ってメカニックやってるんだって?」
「うん。美人の女の子が直してくれるって結構評判だよ。ちょっと妬いちゃうけど。」
そう言って微笑むロックの顔を胡散臭そうに見回して、愛は呟いた。
「いつになったらその四歳児くらいの喋り方が終わるわけ?いつまでたっても子供に見えるわよ。」
「うーん。でもこの喋り方が僕には一番あっているし・・・・・・。まあ、気に入らなくなったらやめるよ。」
基本的な楽観主義者である。愛とは正反対だ。
しばらくして注文した珈琲がやってくると、ロックはそれを一口飲む。
とてつもなく無神経なロックでも、人前でその手を見せるなんて馬鹿げたことはしない。大抵見えないように手袋をはめているが、夏は辛いのでロールから貸してもらうファンデーションで隠しているのだ。実際このファンデーションを使うという手を見つけたときは思いきり笑ったものだが、結局夏になったら汗で剥がれてしまう。それでも、蒸れるよりはましと使っているのだ。
「手だけは綺麗なのよねー。今時、どこの女探しても手にファンデーションまでやってるのはいないわよ。」
「別に手を綺麗に見せようってんじゃなくて、紋章を隠すためにやってるんだから仕方ないだろう?」
「せっかく覚醒した力が得られたんだから、自分の力でその部分だけ変えるってわけにはいかないわけ?」
そういっても、ロックは大袈裟に首をぶんぶん降ってみせるだけだ。仕草までガキっぽい。
そんな漫才を続けているところへ、ロールが戸を押し開けて入ってきた。オイルが取れているところをみると、どうやら終わって顔を洗ってきたようである。
「ごめんねー、この時代の自動車だから時間かかっちゃって。」
「普通はもっとかかるわよ。」
愛が頬杖をついて呟いた。
「・・・ふーん。」
何を思ったのか、ロールが愛の方をじろじろみてくる。
「良く似合ってるじゃない。ワンピースなんて普通着ないじゃないあんた。」
「最近少し女らしくなったのよ。」
「馬子にも衣装ってのはこのことかしらね。」
とっさに愛からむき出しの殺気が吹き出すが、店内ということもあってすぐに沈めた。どうせ待ち合わせるなら、戦いやすい場所ならよかったのに・・・と悪態をつく。
それにしても、ロールも相変わらず黒と赤の服しか着ない。
ハリネズミのような頭は相変わらずで、赤いTシャツに黒いジーパンとかなりラフない出立ちだ。・・・(少しだけ紅_に似通ったところがある)。
「ロールさんは全然変わってないじゃない、それに兄さんも。」
「あ・・・。まあいいじゃない。あんたと違って成長期は終わっちゃったのよ。」
「えっらそーに。」
・・・結局、自分のことを棚に上げてはぐらかされてしまった。
それにしても、こんなたわいのない話をしていられるとは・・・。平和な世の中になったものである。
「そろそろ、ドリッカーの方の話も終わっているはずだわ。行きましょ。」
「え?あたしまだ珈琲も飲んでないのに・・・。まあいいわ。」
ロールが少し不平を言ってみせるが、机の上に代金をおいてさっさと歩き出す愛を追いかけなければならないため、仕方なくロックを引っ張って喫茶店を出た。
少しいきり立ったようにずんずく歩いていく愛を、ロックを引っ張りながら憤然とついていくロール。辺りを歩く人々・・・、特に夏休みに入っただけに子供が多いが、その一行を訝しげに凝視している。目立つことはいうまでもない。
「気分悪くなったのは謝るわよ。だけど、そういきりたつこともないじゃない。」
「ロ、ロールちゃん・・・手を引っ張らない出よ、こける。」
そう言ったロックに対し、いきなりロールが手を離すわけだから、ロックはしりもちをついた。まあこれもロールらしいと諦めて、ロックは溜息をつきながら身を起こして後を追う。
愛はいつもと変わらない無表情のものの、足どりは憤然としていて地響きが聞こえてきそうな具合である。
そんな様子の愛なものだから、ロールも必然と機嫌が悪くなる。自分に責任を重ねているものだから、機嫌はますます悪くなる。そんな二人を笑顔で見回していたロックは、クスリと笑ってロールの所に駆け寄った。
「ロールちゃん。」
「何よ!」
勢いよく振り向くロールに、ロックは耳打ちをする。
「愛ちゃんはね・・・。自分の服を褒めて欲しかったんだよ。」
「え・・・?まさか。あのませガキがそんな・・・。」
「ま、それは僕が今から実証してあげるから。ま、見てて下さいな。」
そう言って、ロックは鼻歌と共にはずむように駆け出した。前のめりになって歩き続ける愛に追いついて、その顔を見てからさらに笑ってしまう。
「何よ。」
「・・・・・・っはは。怒ってんでしょ?ロールちゃんに馬子にも衣装っていわれたこと・・・。」
そう言われた途端に、愛の頬が紅潮する・・・。どうやら、図星のようだ。
「な・・・。」
「やっぱりね。ロールちゃん、けして悪気があって言ってるんじゃないんだ。あれがロールちゃんの精一杯の褒め言葉なんだよ。堪忍してあげて。でもね・・・愛ちゃんは何きてても可愛いよ。僕が保証するから。」
「は、恥ずかしいことをべらべらと・・・。わかってるわよそのくらい。」
早口でそうまくしたてる愛に対して、ロックは微笑んでみせるだけだった。
何となく、はぐらかされたような気がする。が、不思議とイライラは失せていた。
家に戻ってみると、ドリッカーはソファに横になって寝ていた。
「あーあ。ほらドリッカー、せっかく帰ってきてくれたって言うのに・・・。何寝てんのよ・・・。」
「いいよ愛ちゃん。疲れてんじゃないの?編集さんとの格闘で。」
「あいにく俺は、そこら辺の生半可な編集者とやりあって手こずるほど口べたなわけじゃないんでね。」
どうやら目を瞑りながらも起きていたようである。
しかし、あまり機嫌のいい声をしていないことから、多少・・・ほんの少しだけ手こずったことも充分想定できる。・・・結構論破させられることも多いドリッカーだけに、疑いを隠しきれない。
「・・・ただいま。ドリッカー。」
「よーお。新婚さん。」
それを言われると、何となく恥ずかしくなるが、否定することもできないので照れることしかできない。
愛はそこで思いきり驚いたように一歩下がった。どうやら、今の今まで忘れていたらしい。
「そうか・・・そういえば結婚してたんだったわね。」
「あのねえ・・・。一応ちゃんとした結婚式も挙げたじゃない。」
何しろ親族がいないために、ロックがわんさか出会った友達を呼び込んで挙げた結婚式である。ロールの友達も結構きていたが、いかんせん、お祭り好きのロックにかなうはずもなく、数はロック方が倍以上だった。その中に、ドリッカーと愛がぽつんといたのである。微笑ましかったが・・・なんとなく肩身狭いようなそんな気もした結婚式だった。
「忘れてたのよ。二人の呼び合い方も前と全然変わってないし、何となく初々しい感覚がないんだもの。」
「そう突っ込まれると反論のしようがないんだなあ・・・。言わないでよ。」
「肉体関係はまだ無いのか?」
そうドリッカーが言い放った途端、ロールとロックのダークネスイリュージョンが炸裂した。
「残念でした。未だに清い仲なのよあたし達は・・・。」
「本当に残念ながら。」
「日本の結婚の掟を裏切ってるな・・・。」
そういうロックにも、さらに起き上がったドリッカーにも、ロールの鉄拳が炸裂した。
「男ってこんなもんなわけ?」
そう愛に聞いてくるが、愛としては答えようもなく、ただ呆れたように首を振るだけである。
「でもせざるを得ないんじゃない?子供作るつもりなんでしょ?」
愛はみもふたもない。言葉にも全く容赦がない。それで赤い顔一つしていないのだから、これはすごいとしか言いようがないだろう。
「あんたねえ・・・。意味わかって言ってるの?」
「?」
「そうだなあ・・・だけど結婚したとあっちゃ、子供が出来るってことも充分にあるってことで・・・。生むつもりなのか?ロール。」
しみじみドリッカーがそう言うが、ロールは何となく視線を宙にさまよわせた。
「・・・当たり前じゃない。ロックとあたしの間に生まれた子供なら、最高の人材にだってなれるわよ。」
「・・・・・・でも、僕達の子供って一体どんなのになるんだろう・・・。」
幸せな夢だが、何となく不安なような気がした。ロールはしばらく考えた後に、自分の腹部をさすってみた。こんな所から人間がでてくるなんて信じられないものがある。
・・・・・・しばし、沈黙が走った。
「ま、見えないものを探しても仕方ないわよ。今はとりあえず、現実を見ていればいいわ。夢は自分の中にしっかりと埋め込んで、必要なときに掘り出せばいいのよ。」
ロールが楽観的にそう言いはなった。
「まあ・・・そうだね。なんかここはふるさとでも何でもないってのに、妙に懐かしいんだよね・・・。四年近くはここで過ごしたから。」
「思えば俺もようやく未成年脱出か・・・。って、一年前の話だけどな。」
「あたしは退屈よ。なんか退化しているみたいだわ。」
愛が退屈そうに呟いた。
「そうだね。愛ちゃんの教科書見てみたけど、ロールちゃんや綾ちゃんから見れば、歴史以外どれもこれもホントに初歩の初歩だし。」
「なんか・・・もうちょっと張り合いあるかと思ってたんだけどね。それで近くの大学・・・ああ、日本で一番上級の学校よ。そこの問題集とか見てみたけど、それもあたし達の年代から見れば結構基本的なことだったし・・・。」
「そりゃあ愛ちゃんから見れば・・・ね。一体どこからそんな知識を?」
愛がにやりと冷笑を浮かべて、頭を人差し指でつついてみせる。
「ナノマシンに最初っから入ってたのよ。言われなくてもわかるわ。」
「父さんも・・・、言ったい何のために少女の頭ん中にそんな知識を植え付けたんだ?」
「さあ・・・当人の趣味とか?」
ロールの言葉に、他三人が視線を泳がせる。
「有り得る話だ。」
ドリッカーが苦笑して呟いた。
時刻はようやく三時をまわったところで、かなり暑いところなんだが・・・。全員別段暑いという気にはならなかった。冷房が効いていることもあるが、何となく、気分的に寒くないような気がしたのだ。
「私達ってさ・・・。こんな会話していられるほど平和なんだよね。」
「うん。ここ三年、全然力使ってない。」
愛が呆けたように椅子にもたれ掛かり、溜息を一つつく。
そのまま、三十秒くらいは誰も喋ることをしなかった。・・・だが、そのうちに愛が口を開いた。
「私達は、何となく戦いに満ちた日々を過ごしてきた・・・・・・。それだけに、今の平和を素直に受けとめることが出来ない。もしかしたら、また戦いがあるんじゃないかと心の隅でそう思ってる。もしかしたら、この先平和にずっと適応できないかもしれないわね。」
「ホッとしている反面ってことなのかな・・・。」
「確かにそれは言えてるわね・・・。けど、また戦いの日々に戻りたいの?って聞かれたら、それもいやだって言うんでしょうね。結局中途半端なのよね。私達って。」
「覚醒剤常用して、それから戻ってきたところにはいつのまにか自分が社会に適応できないようになっている・・・・・・。それと似ているなあ・・・。」
それは、ある意味戦争神経症に似通ったところがある。問題なのは、その平和を満喫できないということなのだ。
耐え難い沈黙が辺りを支配する。それでいて、外から車の音や、その他の色々な音が聞こえてくるのが、何となく不自然で仕方がない。
「もしこの先ずっと戦いがないとしても・・・。いつ私達は戦いを忘れるんだろう。」
「忘れねえよ。永遠に。」
ドリッカーがふてくされて言い放った言葉が、静かな部屋に響いた。
前のページへ
次のページへ
TOP
ジャンル別TOP
作者紹介