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第2稿
「トリ」
いつだったか。
俺の足が動かなくなったのは。
それはいわゆる普通の事故ではなかった。
姉が、それを持っていってしまったのだ。
俺の夢と一緒に。
...あの日は雨だった。
雨は嫌いじゃない。
どこまでも薄暗い灰色で続いている空から降る雨が
地表の全てを濡らしていくのを眺めていると
ふと、この世界はどこまでも続いているんだ。
と、そんなふうに感じることがある。
雲がどこまでもどこまでも続いている気になる。
錯覚だ。
雲はどこかでちぎれ、そして晴れているところがある。
誰かがそこでは、幸せに、あるいは不幸に生きているんだ。
あるいは世界は続いてるものだとは言いきれないのかもしれない。
あらゆる断片の繋ぎ合わせに過ぎないのかもしれない。
姉は俺を抱いた。
その頃、俺はまだ小さな子供だった。
姉は二十歳だった。
くり返すように、俺はまだ小さな子供だった。
だから抱いたというのは純粋に抱きしめたという意味だ。
姉の体が俺の体に触れて
その温もりが伝わってきた時、気づいた。
「この人は、僕の本当の姉ではなかったんだ」
まるで当たり前のことのようにそう気づいたのだ。
その後、俺は頭の中に白く霧がかかっていくみたいになって眠ってしまった。
あたたかく深い眠りだった。
自分の大切な人の中で生まれてくるための準備をしているような眠り。
知らせを聞いたのは、次の日、目が覚めたときだった。
俺の両親と姉が交通事故で死んだのだと。
その時は、ショックで自分の足が動かなくなっていたのに気づかなかった。
これはきっとただの交通事故ではなかったのだろう。
姉の遺書らしきものが知らぬ間に俺のズボンのポケットに入れられてあった。
その最後に書いてあった言葉。
「君は生まれ変わった。君はトリなのです」
その日から、俺は夢というものを見ることができなくなってしまった。
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