トップ > SF > トリのために > 第4稿「1-1号室」



第4稿

「1-1号室」


1-1号室か...
あるいは、こんなマンションを貰わずにいたほうが幸せだったのかもしれない。


俺は管理室にある鍵棚を開けた。
電子カードキーだ。
それがズラリと1200個も並んでる様は近未来的というか前時代的というか。
そういえばこれが普及し出した頃、姉さんが言ってた。
「この電子カードキーって、なんか嫌いなんだ」
「なんとなくなんだけどね」
そう言って、いつもカードキーを両手でクニクニと反らせていた。
この時、姉の事を思い出したのも何かの予感だったのかもしれない。

俺は管理室を出て、1-1号室に向かった。
「訪問」
その言葉からいって、どう考えてもただのチェックという意味だけではなさそうだ。
だとすれば、この部屋に入ることに何か他の意味があるというのだろうか?
それはどんな意味だろう?



いや、意味なんかどうだっていいじゃないか。
そうだ。
意味なんか考えたってしょうがない、そんなもの。
俺には必要のない言葉だった。
考えすぎるのは俺の悪い癖だ。
あの事件以来、俺は嫌と言うぐらい色々な考えをめぐらせてきた。
でも結局、それは俺をどこへも導いてはくれなかった。
言われた通りにすればそれでいいんだ。
部屋を単に見てくるだけじゃないか、普通なら誰もそんなこと気にしない。

しかし、1-1号室の前に着き、玄関のドアを開け
部屋の中に車椅子の車輪を走らせたその時だった。

俺の足が車椅子から立ち上がり、勝手に歩き出したのだ。
あの日以来、1度も動くことのなかったその足が。

自分でも気づくのに時間がかかった。
それはまるで当たり前の事のように起こったのだ。
一瞬、時間が止まったようにも感じた。
あるいは、本当に止まっていたのかもしれない。


あるいは、こんなマンションを貰わずにいたほうが幸せだったのかもしれない。



前稿  目次  次稿