トップ > SF > トリのために > 第40稿「管理室」



今まで俺はマンションの部屋を訪問し、その先で様々な不思議な現象にあった。
だが、今日はここで。


「第40稿:管理室」


風を伝って桜の花びらが部屋に舞い込んできた。
窓の外には少しぼやけたような春の夜空が広がっている。
街の建物の谷間から月がのぞいているのが見える。
地平線の下の方にどんよりと浮かんだその月は妙に大きく、赤い色をしていた。

俺は部屋の明かりも付けないでPCに向かっていた。
もう辺りも静かな時間だったので、PCの起動音だけが部屋の空気を振動させていた。
集中してキーボードを叩いている俺をよそ目に桜の花びらが相変わらず窓からひらひらと入ってくるので
俺は窓を閉じに車椅子の車輪を進めた。

外の付属公園にある桜の木はその花びらを落としつづけていた。
電燈はまるでその加減を知らないかのように刺激的な白い光を放って
地面に落ちた桜の花びらを照らし続けている。
それは本当にその数を数えられるくらい、一枚一枚を鮮明に照らし出していた。
真夜中にあって、その必要以上に明るい光は俺の心を少し不安定にさせた。
俺は窓を立ち去り、またPCに向かった。


そうだ、WSだ。
今、俺はWaterspoutを見ている。
アタシが伝えてくれた情報によれば、このサイトと俺と何か関係があるらしい。
こんな世界的なサイトと俺にどんな関係があるっていうんだ?
極楽鳥か...
何なんだろう、いったい?
姉のくれた俺の名前、やっぱり何かあるのか?
「トリ」か...鳥?
しかし、全くわからないな。
確かにここには莫大なデータが載っている。
だが、あのメールをもらってから一週間もの間、このHPを調べているが
一向に俺との関係なんて見えてこない。
そういえば、アタシはWSのHPのデータも少々整理させてもらったと言っていた。
それはプログラミングの領域まで検索していかなければ発見できないのかもしれない。
「もう、今日は止めだ」
俺はそう言って、疲れを取るように体を上に伸ばした。
明日、アタシにメールを出すか、プログラミング解析のマニュアル本でも買いに行こう。

ネット表示のウィンドウを閉じた時だった。
風が吹いたような気がしたのは。
さっき俺は窓を閉めたはずだ。
俺が窓の方に目をやっていると、PCのディスクトップに変化が現われた。
カメラのストロボみたいに光を乱反射させながら音を立てて
新しいウィンドウが次から次へと開かれたのだ。
どれもこれも動画のファイルだ。
写っているのは...

姉さん。

姉さんの様々な姿が映し出されていた。
しかも、姉さんが家に来る前のものまであった。
やはり姉さんは俺の本当の姉さんではなかった。
そのムービーには、姉さんの本当の家族らしき人達が写っていた。
なぜ、WSに?

風だ。
また、部屋の中に風が吹きだした。
今度は、さっきの風とは比べ様もないくらい強い風だ。
桜の花びらが舞い踊っている。
まるで嵐みたいなその風は部屋の様々なものを揺らした。

ビュッ

俺に向かって真横から突風が吹いた。
俺は車椅子とともに倒された。

ガシャ

俺が倒されたその音と同時に風は止んだ。
花びらがひらひらと床に落ちていく。
ディスクトップはフルスクリーンで一つの動画を映し出した。
聞いたこともない歌をバックに。 トラキア...
その動画は映し出した。
ダークグレイのインテグラ。
火を出して燃え上がりながら走ってきた、俺の家族の車。
あの瞬間を。

ガラス越しに見た姉さんの顔。
すれ違う時、姉さんは俺に何かを必死で喋りかけていた。
何て言った?
あの時、俺は聞き取ることができなかった。
今、姉さんは改めてPC上でそのメッセージを俺に叫んだ。

「雨とフォーリンエンジェル」

姉さんは確かに俺にそのメッセージを残してくれた。
死にゆくその前に。



その後、画像が消えて、真っ黒なプログラミング画面が現われた。
「パスワードコードを入力してください」

俺はキーボードを叩く。
「パスワードコード」
あめと >変換
雨と
雨とふぉーりんえんじぇる >変換
雨とフォーリンエンジェル

「雨とフォーリンエンジェル」

パスワードを認識しました。
そしてファイルを開く。
アイコンに当てられた名称は...

「トリのために」


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