トップ > SF > トリのために > 第45稿「Dancing with Mr.F」 / 第46稿「ヒカリ」



その誰かは、まだ小さな子どもだった。
素直にお医者さんに従うよくできた人形のような、そんな子ども。

彼女はちょっと神経が過敏すぎたのよ。
他人の感情の流れまで鋭く感じ取ってしまった。
しかも、それは人の「恐怖」という限定された感情だったのだけど。

「あの病院の行き止まりの廊下を行ったり来たりしていた」
「何も変わらない、手に入れられない」
「時は流れ進んでいく」
「ワタシはいまだにワタシと出会うことができないでいた」
「ワタシはダレ?」

「ワタシはルクミ」

少女が言った。
「先生は怖いものがないの?」

「どうしてそんなこと聞くんだい?」
先生はカバンの中から何かを出しながらそう返す。

「だって、先生からだけは感じ取れないんだもん」
「何が?」
「ううん。なんでもない」

先生、私は怖い。
怖さがどんどん膨れ上がっていく事がわかるのが怖いんです。
そしてその怖さがまた新しい怖さを産むんです。
私は闇の中に一人ぼっちなんです。

先生しか私を救える人はいないんです。

私を救ってください、三上先生。

そんなある日のことだった。
顧客データの中にある名前を発見したのは。

「三上 一(ミカミ ハジメ)」

それは叔父と同姓同名だった。

そのためにも、今度こそ間違いを起こすわけにはいかない。
今度間違えれば、トリは二度とは手に入らないだろう。
これが、最後のチャンスだ。

「そうだよな...ルクミ」




「第45稿:Dancing with Mr.F」


恐怖を引き連れて、踊りなさい。
体が動かなくなるまで、踊りなさい。


「第46稿:ヒカリ」




こ          こ           は        何       処。



真                     っ                 暗。


闇      に        捕          ら        わ   れ、


思 考        は      ぐ    ち   ゃ      ぐち    ゃ。


恐怖     が 頭      を     ぐ    る       ぐ    る。

最後    に  は  俺    の    感情    は  空    っ ぽ。



何   を  考 える の     も    上  手    く いか な   い。

思考 の   切  れ   端   を  つ  か  んだ    と思っ  た ら、

そ れ  は す る り と    何処   か へ 行っ   て  し   まう。


虚  無   感    に       支配        さ     れ   る。



自 分  が 生 き て いる の か どう か   わ か ら  なく なる。



わ か ら なく  なって  しま っ   た ほう  が     ラク に なる。




いっ       そ、   消   え   て     し ま   い  た   い。


も  う、  何        も     い      ら  な       い。

















なのに











それなのに











何も思い浮かばなかったはずの頭に


















ひとつ


















「私じゃ力になれない?」


















「自分を取り戻すの、私も手助けするから」


















「ほら、車椅子」
「心配しないで、ここはあなたがよく知っている場所」
「あなたの住んでいるマンション」
「60-1号室」


「よく思い出して」
「壁に手をつけながら進むの」
「このマンションの作りは覚えているでしょう?」
「一人で帰れる?」



「何とか行けるかもしれない」



「気をつけて」
「それじゃあ、私は行かないといけないから」



「うん」



「私は今ここにいないから」
「今すぐにでも、あなたに会いたい」
「でも、それも、もうすぐ」
「もうすぐだから」












「待っていてね」



















真っ暗真っ暗、暗い世界なのに
確信できますか
あなたの進むべき道を

この胸に溢れる感情は何ですか
言葉にできますか
それに名前を付けることができますか

遠くにぼんやり見えるあの光は何ですか
あれは僕たちの光ですか
奪われることのない僕たちの光ですか

昨日出会った
自分が知らなかった自分に
手を振って別れを告げるために

雨上がりの空
黄金色の陽に染まるまばらな雲

アスファルトの水溜まりで反射する
映し出された世界に
たどり着く事ができますか







 




前稿  目次  次稿