トップ > SF > トリのために > 第48稿「出現&」
「第48稿:出現&」
64-5号室からの帰りだった。
俺は壁に沿いながらエレベーターまで向かった。
そこにたどり着いた俺は手探りでボタンを見つけてそれを押す。
ウィーン
音を立てながら、上がってくる。
到着を知らせる鐘のアラームとともにドアは開き、俺はそれに乗り込んだ。
俺はまた手探りで1階へのボタンを押し、次にドアを閉めるボタンを押した。
ウィーン
音を立てながら、下りていく。
いくら新型のものといっても、60階にもなれば1階まで下りるのには多少時間がかかる。
目が見えないと、それはなおさら長く感じる。
あの声を聞いてから1ヶ月以上経った。
彼女はいつ戻ってくるのか?
待つというのは進むことよりもつらい、そんな気がしていた。
音が消えた。
エレベーターが1階に着いたようだ。
俺は開かれたドアから外に出ようとした。
ガッ
車椅子がドアにぶつかった。
ドアは閉じている?
1階には着いていない?
違うボタンが押されている?
いる。
背後に人がいる。
「会いに来たよ、君に」
「残念ながら僕は彼女じゃないけれどね」
「誰だ?」
俺は声のする方に向かって言った。
男はエレベーターの奥の壁にもたれかかりながら言う。
「言ったでしょう」
「君は僕の事を誰よりも知っているはずなんだと」
「オツ」
「さぁ、どうでしょう?」
「君の目が見えたのなら、あるいは君にもわかったんでしょうね」
「僕が誰か」
俺は黙っていた。
男は話を続けた。
「今日はね」
「いい知らせを持ってきたんですよ」
「いや、あるいはそうとも限らないかもしれないけどね」
「僕はこのまま帰るから、君は早く管理室に戻るといい」
「そこには君がずっと待っていたものがあるんだから」
「それを伝えてあげたくてね」
「それじゃあ」
「君の健闘を期待しているよ」
話をしているうちにまた動き出していたエレベーターが止まると
鐘のアラームがなり、ドアが開いた。
男は俺の横を確かに通り過ぎると足音を立てて廊下を去っていった。
NEXT
前稿
目次
次稿