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第5稿
「圧倒的な冷たさ」
俺は車椅子から立ち上がり歩き出していた。
足は動かなかったはずだ。
何だこれは?
意識とは関係なしに足が勝手に動いている。
奥へ進む。
何だ?
どういうことなんだ!?
止まれっ!
何が起こってるんだ!?
「ずっと待ってたんだから」
頭の中に声が聞こえた。
自分の声じゃない。
何だ?
何だよ、これは!?
どうなってるんだ?
誰の声だ!?
その時だった。
俺の後頭部に衝撃を感じたのは。
重く鈍い衝撃だったと思う。
目の前の視界は暗くなり俺の意識は闇の中に埋もれていった。
気が付いたときだった。
辺りが闇に覆われている。
あまりの闇の濃さで辺りの広さが推測できない。
とても広いようにも感じるし、狭いようにも感じる。
ここは1-1号室なのか?
どうやっても足はもう動かない。
何が?
どうなって、俺は?
助けてくれ...
何なんだ、一体何なんだ!
「怯えることはないわ」
またさっきの声が俺にしゃべりかけた。
今度は聴覚でそれとわかった。
その声とほぼ同時に俺の前に一人の女性が姿をあらわした。
闇の中だから姿は確認できない。
ただ、いる、とわかるだけだ。
「怯えることはないわ」
「どうせあなたはもうすぐ損なわれるのだから」
「現実と言う世界から」
「そしてこの世界の住人になるの」
「楽しみ」
「私はそれをずっと待っていたんだから」
闇の中から手がにゅっと伸びて俺の体に回わり、そして俺を抱きしめた。
その体からは圧倒的な冷たさが伝わってきた。
まるで死のような冷たさが。
俺は初めて感じたその感触に気を失ってしまった。
死がどこまでも続く闇のようなものだとしたら。
誰も帰って来ることのできない。
ここはどこだ?
俺はどこにいる?
姉さんに会いたかった。
あの温かさをもう一度感じてみたくなった。
ここは寒いよ。
寒さが意識をきゅっと締め付けてくる。
自分がどんどん小さくなっていくみたいだ。
「姉さん!...姉さん」
俺は温もりとともに目を覚ました。
俺は誰かに抱きしめられていた。
その心地良さ。
温かさ。
今まで俺を閉じ込めていた闇はすべて幻だったかのように思われた。
気づくとそこはごく普通のマンションの一室だった。
それどころか親密な空気すら感じられた。
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