トップ > SF > トリのために > 第50稿「覚悟へのカウントダウン」
雨が降りだした。
窓から見下ろす街は灰色に染まっていた。
街はとても静かに見えた。
まるで何かを待っているように見えた。
決してやってくることのない何かを。
「第50稿:覚悟へのカウントダウン」
64-6号室。
俺は伸びきっていた髪を切ってもらっていた。
「車椅子でそのまま眠ったこともあったんだ」
「うん」
窓に映る姿を見ながら俺は腕を少し上げた。
「見ればわかると思うけど、こんなふうに手が黒くなった」
「いろいろ...あったんだね」
「そうだね」
ラボはハサミを置くと俺の頭をくしゃっと触った。
「完成」
「ありがとう」
俺がその仕上がり具合を確かめ、
ラボはほうきで床に散らばった髪を集めた。
姿の見えない飛行機がくぐもった音を立てながら何処かへ飛んでいった。
その音が消えた後、少し沈黙が続いた。
ラボは窓に手を添えて小さくつぶやいた。
「ひとつ聞きたいの」
顔は窓の外に向けられていた。
「トリは本当に真実が知りたい?」
「私は怖いの、これ以上進むことが」
「もしトリが...」
いつか言えなかった言葉があった。
『俺はラボの味方だから』
『ラボのためなら、なんだって協力できるさ』
「俺はね」
「ずっと考えていたんだ」
「ラボさえよければ」
「俺はラボとここを出て、どこかで一緒に暮らしたいと思ってるんだ」
「訪問とか悪魔とかそういうものがないところで」
「ラボは前に言ったね」
『わたしは、その失敗にけりを付けなくてはいけません』
『必ず...必ず』
「そう、必ずってね」
「たとえそれから逃げ出すことができるとしても」
「それを忘れることができたとしても」
「それは消えはしない」
「それどころかそれはもっともっと大きくなるんだ」
「そしていつしかそれに飲み込まれてしまうんだ」
「だからケリをつけなくちゃならない」
「俺はラボの味方だから」
「ラボのためなら、なんだって協力できるさ」
「ありがとう」
ラボは俺のほうに振り返ってそう言った。
目が赤く光っていた。
「本当にありがとう」
その時のラボの顔はそうだ。
精一杯に何か塞ぎ込んでいるような
あの寂しそうな笑い顔をしていた。
「そう」
「66-6号室」
「そこからすべては明らかになる」
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