トップ > SF > トリのために > 第59稿「ベイビー」
「お別れを言いに来たのよ」
70-2号室で彼女に出会った。
闇の女。
テーブルに腰掛けて俺を待っていた。
夏の日差しが差し込む部屋の中に
浮いているかのような
黒く塗りつぶしたその姿で。
第59稿
「ベイビー」
オツは回収されていたよ
きっと俺たちを作った人たちによって
何をやってんだろう
俺達って
テーブルに座っているラボ
俺は皿を並べる
温かい料理を
思いっきり
皿を投げた
壊れた
皿が死んだ
俺、足が動くようになって
でもまだ下手でさ
投げた反動で
こけちまった
服が汚れて
そんなのどうでもいいんだ
なんで血が流れてるんだろうって
俺なんで
血が流れているのかなって
何もできなかった日々
青空がどこまでも広がってるんだ
立って見る景色は大きいんだ
でも感動はない
屋上に吹く風が黒い髪をなびかせる
肌色の手を陽にかざす
夏も近づいてきた
雲が真っ白だ
どうだい
新しい車椅子の乗り心地は
今度は俺が押してあげるね
君を車椅子に乗せて
俺はね
行くよ
俺の世界は消えちゃったけど
終わってはいない
そう思うんだ
大丈夫
俺たちがしていることの
意味は
わからないけど
次に
何をすればいいのかは
わかる
君になんとなく教わった
いや、教わったんじゃなくて
一緒に暮らしていて
言葉以外のもので
感じとったのかもしれない
何かを
大切な何かを
君に伝えたいのは
もっと
すごい事なんだけど
言葉にすると
何だかどこにでもあるような感じになっちゃうから
心の中にとどめておくよ
そして俺は66-7号室の扉を開いた。
俺はすべてを知りたい。
99-12号室まで行くこと。
訪問をすべて終わらせること。
それが俺がするべきこと。
そう信じて。
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