トップ > SF > トリのために > 第7稿「cord:雨とフォーリンエンジェル」
2XXX年。
あらゆる情報は個人単位で発信され、受信される。
地球誕生時、生命のスープと言われた海に生きるアメーバが増殖するかのように
ネット上では、情報が秒単位で綴られていく。
今や、人々はマスコミという括りを必要としていなかった。
誰もが、一個人としてマスコミになりえたのだ。
そのような時代の申し子とも言うべき人物が現れた。
その男は20歳。
サイトプロデューサーとでも言おうか。
彼が制作した個人サイトは全世界の注目を浴びていた。
第7稿>「cord:雨とフォーリンエンジェル」
彼はネット上に国家を一つ作りあげたといっても過言ではない。
そのサイトこそが国であり、そのサイトを利用する者たちこそがその国民だ。
世界の人々はその魅力に惹かれ、そのサイトを拠り所としだしていた。
彼が作り出した空想上の国家は、現実にある国家に多大な影響力を示したのだ。
そこには、あらゆる人の、あらゆるニーズに対する答えが用意されていた。
そのサイトが示したものは代表的なものを取り上げば
法律から始まり経済政策、医学などが取り上げられ
また、現代、我々が抱える環境問題を始めとする
ありとあらゆる問題の解決策が示され、
最後にはこれまでにない刺激的な娯楽までもが示されていた。
それらのどれもが新しく正しかった。
そして何より魅力的だった。
人はここまで文明を発展させ、もうこれ以上はないところまで来たと思っていた。
だが、この若い男はたった一人で、人類の新たなる道筋を見出したのである。
彼にわからないことなどなかった。
彼は世界を動かす力を個人レベルで持っているのだ。
しかし、誰もがこの国家に信用をおき
この国家に依存しだしているのにもかかわらず
国民は誰一人として、その国王の居場所を知らない。
知る事ができないのだ。
彼は、自分のサイトに特殊なプロテクトをかけ、その存在の詳細を割り出せないようにしているのだ。
たとえ世界中のハッカーが協力しても、それは破れないであろう。
それは完璧なのだ。
彼は「完璧」という言葉を本当の意味で使える人間なのだ。
そして彼は、今、「理想」を手に入れようとしていた。
この世界のどこか。
とある一室で。
彼は、自分のパソコンの前に座っている。
誰も破ることのできない彼のプロテクト。
その何重も何重ものプロテクトの奥底に眠るプログラム。
そのプログラムこそが「理想」を手に入れるためのもの。
彼が慣れた手つきでそのプロテクトを外すと、ディスプレイに警告が示される。
「パスワードコードを入力してください」
彼はキーボードを叩く。
「パスワードコード」
あめと >変換
雨と
雨とふぉーりんえんじぇる >変換
雨とフォーリンエンジェル
「雨とフォーリンエンジェル」
パスワードを認識しました。
そして開かれるファイル。
アイコンに当てられた名称は…
「トリのために」
彼は、笑みを浮かべる。
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