ヒレナガスズメダイ

全長 5センチ(写真の幼魚は2センチほど)

 成長するにつれて体の色を変える魚は、たいていの場合子供の頃のほうが美しい。
 このヒレナガスズメダイも例外ではない。
 子も大人も同じようなところに住んでいて、どちらも1人っきりで生活している。
 1人っきりで生活するということは、つまり縄張りを持って生活しているわけだけど、体が小さい分、縄張りもそれほど広くはないようだ。リーフの岩壁づたいに泳げば、ポツン、ポツン、と次々に彼らを見ることができる。

 タイガースファンであるかのような幼魚は、派手なので見つけるのは容易なのだが、大人は地味だから、たとえいたとしてもそれほど記憶には残らないかもしれない。


大人

 これがよもやタイガース模様の魚と同じ魚か、と思うくらいに地味。昔の人も、まさかこれが同じ魚とは思えなかったらしく、幼魚にはフタオビスズメダイ、という別名がつけられていた。 

 それにしても、今でこそこの虎模様が実は地味大人の子供であるって誰でも知っているけれど、初めてこの子供と大人の中間タイプを見た人の驚き、感動というものはどんなものだったろうか。


大人になりかけの段階

 たしかにこの姿を見れば、両者が同じ魚であることがわかる。
 図鑑を見れば一目瞭然、という状況はそれはそれで便利なものの、誰も知らない事実を初めて知るというヨロコビを、我々はなかなか味わえない。
 どんな世界でも、黎明期のほうがよっぽど魅力に富んでいる気がする。

 この子供から大人への体色変化にはいろいろと事情があるようで、単に産まれてから何日たったら、とか、どれくらいのサイズになったら、という基準はないらしい。
 そのため、やけに大きいのにまだ子供の模様というヤツもいれば、けっこう小さいのにもう大人というのもいる。

 これはどうやら、彼らの縄張り意識によるようである。
 つまり大人と同じ模様では、彼らの縄張り内で無事に過ごせないのだ。
 だから、大人がいるいないという周囲の状況に応じて体の模様が変化していくのかもしれない。
 だったら周りに大人がたくさんいればずっと幼魚の体色のまま、まわりに誰もいなければすぐさま大人の体色に、というのが理屈である。
 ところが、水槽で飼育されているものの中には、水槽内に大人がいないのに、いつまでたっても幼魚模様のままというヤツもいるらしい。
 彼らの世界も、それほど単純ではなさそうだ。