写真・文/植田 正恵

16.オカガニ

 水納島にはハブがいる、というまぎれもない事実を知っている人は、島の中を散歩しているとき結構緊張しているようである。一歩踏み進むごとに左右の草むらから「ガサゴソ、ガサゴソ」なんて音が聞こえようものならアドレナリンが体内に充満してしまうことだろう。しかし、そのような音を立てる主はまず間違いなくオカガニである。

 オカガニは水納島では普通に見られるカニだ。夕方から朝にかけて活発に活動し、地面に掘った巣穴から出てきては餌をとっている。地面と書いたのは誤りではない。実はオカガニは最も陸上に適応しているカニのひとつで、海からかなり離れた畑の真ん中に巣穴があるくらいだ。当然、体内から水分が逃げないよう甲羅は非常に固い。またかなり大きくなり、両方のハサミを広げると30pはあるものもいる。そのようなわけでハサミも結構大きく、食べ応えがありそうである。
 残念ながら私は食べたことはないが、ハサミだけをもいで茹でて食べるといいらしい。一説によるとハサミだけを失敬して逃がしてあげると、2,3度の脱皮のあとにはハサミが再生し、また食べられるようになっているという。やや眉唾ではあるけれど……。ちなみに民宿大城のおじさんは「おいしくないよ」と言っていた。

 さて、オカガニに限らず陸上の生活を選んだ甲殻類たちは、いくら適応しているとはいえ一年に一度だけは海に降りなければならない。そう、繁殖の時である。
 彼らにとってはまさに一大イベントで、クリスマス島で見られるカニの大移動は有名だ。水納島でも毎年6月から9月の満月前後に、小規模ながら卵をいっぱい抱えたオカガニのメスたちがゾロゾロと海へ降りていくのを見ることができる。メスたちは波打ち際で脚を踏ん張り、腹板を激しく震わせて孵化したゾエア(幼生)を放出するのだ。そして放たれたゾエアたちは、何回もの脱皮を繰り返しながら浮遊生活を送り、やがて稚ガニとなって陸に戻ってくる。このオカガニひとつをとってみても、陸と海とがひとつの生態系の中に存在していることが明らかである。

 普段は海岸まで降りてくることはないオカガニたちが海水に浸っているのを見ると、畑の害虫(?)的存在にもかかわらず神秘さを感じずにはいられない。今年の夏の満月の夜もまた、いつもと同じように水納島ではひっそりとオカガニたちの移動が行われることだろう。

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