テングカワハギ

全長 2センチ(大人になると4センチくらい)

 「さあ、自由に想像して魚の絵を描いてみましょう!」

 学校の先生が図画の時間に子供たちに言ったとしよう。
 もしそれが、熱帯に住む魚たちが今日のように世間に知られるようになる以前の世の中だったとしたら。

 水色地に黄色い点々のこんなヘンテコな形の魚を描いてきた子供がいたら、その先生はよっぽど前衛的な抽象画家でもないかぎり、奇異な目でその子を見るに違いない………。

 ホント、それくらい変でしょ、この魚の模様。

 このテングカワハギは、サンゴ、それもミドリイシ類がビッシリと一面を覆っているようなリーフだったら苦もなく出会うことができる魚だ。

 彼らにとってのミドリイシは、餌そのもの。
 といってもブダイのようにガリガリとサンゴの骨格ごと削って食べるわけではなく、その小さなおちょぼ口でサンゴのポリプを一つ一つついばむ。

 他にもそうやってサンゴのポリプをついばむ魚たちは、チョウチョウウオ類をはじめとしてけっこういるけれど、その多くはサンゴ以外にも食べるものがある。
 ところがこのテングカワハギときたら、お嬢様育ちのためかミドリイシ類しか食べようとしない。

 熱帯の海、それもサンゴ礁がある海域であれば、ミドリイシ類がビッシリ生育しているのは当然。そういう海ではこのおもちゃのような魚がペアで、もしくは多数でサンゴからサンゴへ泳ぎ渡る様子を普通に見られることだろう。
 98年の白化以前には、水納島の海でもあたりまえのようにテングカワハギはいた。

 が。
 白化のせいで、水納島のリーフをビッシリ覆っていたミドリイシ類は、ほぼ壊滅の憂き目に遭ってしまった。
 前述のとおり彼らは、ミドリイシがないと生きてはいけない。

 テングカワハギたちは消えた。

 以後、シーズン中に若魚を一匹見られればラッキー、というくらいになってしまったのはいうまでもない……。

 でも。
 テングカワハギと同じくミドリイシ専食のチョウチョウウオであるヤリカタギが、今年(07年)はかなり目立って増えてきた。
 白化から9年経ち、リーフ上のミドリイシが復活してきているのだ。

 ヤリカタギが増えているくらいである。そう遠くない将来、水色地に黄色い水玉の小さな魚が、楽しげにサンゴを泳ぎ渡る姿を見る日がやってくるに違いない。