海辺のアルバム

写真・文/植田 正恵

           5.ヤシガニ

 南の島々には多種多様な生き物たちがわんさかいるけれど、あまり生き物たちに興味がない方々はそのほとんどの名前をご存じない、といってもいいだろう。
 けれど、中にはとっても一般的になっている生き物たちもいる。ハブしかり、ヤンバルクイナしかり、イリオモテヤマネコしかり。これらのいわゆる一般的な生き物たちは、誰しも一度はその名を聞いたことがあるだろうと思うが、意外に、というかやはり、というか、実物を見たことがある、という人は少ない。

 ヤシガニもそのような、「一般的」な生き物なのだが、なかなか実物を見る機会は少ない。島を散策しているかたにたまに「ヤシガニとかはいないんですか」と聞かれるが、人が普通に歩くような所にごそごそ昼間からうろうろしているような奴はとうの昔に淘汰されてしまっているだろう。夜行性でもあるし、畑仕事で草むらに入り込んで作業などしていない限り、昼間からお目にかかるのは難しい。

 「椰子がに」と書くと、椰子の木にすんでいるカニ、というイメージだが、実はヤシガニはれっきとしたヤドカリの仲間である。とはいうものの、宿を持っていないために実感が湧かないが、よくよく見れば、オカヤドカリとそっくりな形をしていることに気付く。このヤシガニは、日本では主に沖縄の島々で見られるが、その数はあまり多くないようである。水納島では初夏から秋にかけて、夜道を歩いているとアダンの林から抜け出た奴が、道路を横断していたりするのに稀に出会うことがある。見かけるのはたいてい大型個体で、足を広げれば50p以上はあろうかという威風堂々たる姿態は一見の価値ありだ。また、ハサミのパワーもすさまじく、うっかり挟まれでもしたら指の一本くらいは失うことを覚悟した方がよいほどである。

 沖縄では中毒になるといわれていてあまり食用とはされないが、実は非常な美味で、スープにすればだしがよく出て、肉もズワイガニなど足元にも及ばないのだ、という説もある。現にミクロネシアの島々ではもともと島民の重要なタンパク源であり、最近では珍味として、観光資源としての重要度も増してきているという。

 そういったところでは、必要に迫られてヤシガニの研究がされてはいるが、生態はまだほとんど明らかにされていないのが実状で、特に幼体の間は貝殻に入っていると言われているものの、実際に観察された記録はないという(このあたりの情報は古いかも)。だいたい、ヤシガニとオカヤドカリの大きな違いは貝殻を背負っているかどうかなので、幼体の時に貝殻に入っているのであれば、オカヤドカリと混合されている可能性が大きいだろう。いずれにしても、まるで鎧に包まれた戦士のような巨大なヤシガニの子供時代というのは、是非とも見てみたいと思うのだ。