マンハッタン殺人ミステリーManhattan Murder Mystery(1993)<BACK> 

監督:ウディ・アレン
脚本:ウディ・アレン、マーシャル・ブリックマン
出演:ウディ・アレン、ダイアン・キートン、アラン・アルダ、アンジェリカ・ヒューストン

70年代の黄金カップル、ウディ&ダイアン復活!この映画は、これに尽きるでしょう。ミア、ありがとう!と、僕は声を大にして言いたい(笑)本作は、もともとミア・ファロー主演を想定されて脚本が作られた。ところが例のスキャンダルにより、ミアの出演は不可能となり、「マンハッタン」以来、実に14年ぶりにウディとダイアン・キートンの共演が実現した。ダイアンは、かなり歳をとってシワが目立ち始めたけれど、独特の個性と可愛さは健在。80年代後半から続いたシリアスものに「重罪と軽罪」で一旦、終止符を打ったアレンが、久々に本領(?)を発揮した軽快なコメディである。「アニー・ホール」など、70年代の共演作を匂わせる場面もちらほら。この作品以降、エンターテイメント色が強まり、監督としても(一般受けするという意味を含めて)快作を連発し始めた。

<物語>NYに住むリプトン夫妻。彼らは毎晩のように舞台や映画に通うが、セックスは休止状態。倦怠期の夫婦関係の中で「私はまだ魅力的?」と何度も聞く妻。ある時、マンションの隣室に住む老夫婦の夫人の突然死に不審を抱いた主婦キャロルは、夫人の死を完全犯罪と決めつけて、気弱な夫や仲間を巻き込んで、探偵ごっこに乗り出すが・・・。

元々はミアのために作られた脚本とはいえ、「アニー・ホール」などウディ&キートンの共演作のパロディが満載のこの作品。久々にダイアン・キートンとマーシャル・ブリックマンと脚本を共同執筆していることもあるだろうけれど、もともと「アニー・ホール」が'”ANHEDONIA(鬱病)”というタイトルで(←映画会社に阻止されたらしい(笑))殺人ミステリーとして企画されていたと言う事実を知れば、誰もがニヤリとさせられるはず。最初から繰り返されるワーグナー・ネタ(「ワーグナーと聴くと東欧侵略を始めたくなる」)は「アニー・ホール」以来のウディのお気に入り(?)だし、仲間達の会話で出てくる「カサブランカ」は「ボギー!俺も男だ」の元ネタですよね。他にも、ウディのセルフパロディが満載なので、会話に注意して観てみよう。

「マンハッタン殺人ミステリー」の元ネタは何かと聞かれれば、まず、ヒッチコックの「裏窓」(54)を第一に挙げることが出来ます。どちらも他人の生活を「のぞき」みることで、殺人事件に巻きこれていく話だし、J・スチュアート扮する仕事人間のカメラマンを、自分に振り向かせるために隣人の留守宅に忍び込むお転婆ぶりを発揮するヒロインを演じたグレース・ケリーの役は、そのままダイアンの役に踏襲されていると言ってよいでしょう。

ウディが観損ねた深夜テレビのボブ・ホープの映画は何でしょうね。ウディは79年にコメディアン、ボブ・ホープについての「My Favorite Comedian」なる短編ドキュメンタリー作品を監督しているほど、ボブ・ホープがお気に入りらしい。ウディのおすすめは「わが輩は名剣氏」(46)と「腰抜け大捕物」(49)。後者は殺人ミステリーにもなっているらしい。どっちでしょうね(笑)。

劇中映画「深夜の告白」(51)は、あのビリー・ワイルダーの傑作フィルム・ノワール。保険金殺人を企むバーバラ・スタンウィックの悪女ぶりが光りますね。保険金殺人、つまり、完全犯罪というわけです(笑)。アレン自身も「このジャンルではベストな一本」と絶賛してます。そういえば、デヴィッド・リンチの「ロスト・ハイウェイ」は、「深夜の告白」と比較されていましたね。リンチとウディの共通点・・・変態?(笑)余談だけれど、アレンはリンチの「ブルー・ベルベット」を絶賛しています。

もう一つの劇中映画「上海から来た女」(47)は、オーソン・ウェルズのフィルム・ノワールの1本。当時の妻リタ・ヘイワースを悪女役に据えた作品で、日本でも、最近ようやくビデオ化されました。主人公は、船旅で弁護士と、その美しい妻と一緒になるが、殺人事件の身代わりの犯人にされて・・・というお話らしい。なんといっても、この作品は、クライマックスの鏡の間のシーン。あの「燃えよドラゴン」にも引用された名場面です。アレンの「マンハッタン殺人ミステリー」では、映画館のスクリーンの裏でこの鏡の間のシーンをさらに、鏡に映すということをやっています。パンフによると、「上海から来た女」には、足の悪い女が登場するらしく、「マンハッタン殺人ミステリー」の老夫婦の映画館の支配人の秘書が足が悪かったことを思い出すことが出来ます。アレンの映画狂ぶりがうかがえますね。

ウディとキートン演ずる夫妻が初めてのデートで観たという映画「去年マリエンバートで」(61)は、フランスの鬼才アラン・レネの傑作で、難解極まりない映画(らしい・・・・・(笑))。ウディ扮する夫も「その解釈に半年も費やした」と言うほどだから、いかにもNYのインテリ好みの作品なのでしょう。僕も、頑張って観ようっと。

ミアのことは大好き。でもウディとは友人としていつもリンクしてきた。彼は初めて仕事をしたときよりも才気縦横になった感じがするわ(ダイアン・キートン、アレンと久々に組んだことについて)

「アニー・ホール」を殺人ミステリーとして企画していた時は、この部分が最初に来ることになっていた。僕は映画館の前にいて、そこのアニーがやってくる。二人がその場を去ると、殺人が起きる。でも、「アニー・ホール」では、僕は映画館の前で待っている。そして、映画が始まっているので、中に入ろうとしない。(ウディ・アレン、「アニー・ホール」のワンシーンについて)

参考・引用文献:「マンハッタン殺人ミステリー」劇場公開用パンフ、「e/mブックス ウディ・アレン」(カルチュア・パブリッシャーズ刊)、「ウディ・オン・アレン」(キネマ旬報刊)、「CUT」No.26(94年1月号)、「ぴあシネマクラブ洋画篇(98年版)」(ぴあ刊)