影と霧 Shadows and Fog(1992)         <BACK>

監督・脚本・出演:ウディ・アレン
出演:ミア・ファロー、ジョン・マルコヴィッチ、リリー・トムリン、キャシー・ベイツ、ジョディー・フォスター、ケイト・ネリガン、マドンナ、ドナルド・プレザンス、ジョン・キューザック、ジュリー・カヴナー、ケネス・マース

<物語>20年代のヨーロッパのある町。そこでは、霧の夜になると発生する謎の連続殺人事件が。しがないサラリーマン、クラインマンは町を守ろうという自警団に無理矢理、参加させられる羽目になるが・・・。

「アニーホール」でシェリー・デュヴァルが、「マンハッタン」でダイアン・キートンが言うセリフ「カフカ的ね」。本作はそんなカフカ的なドイツ表現主義を90年代に作ってしまった異色作だ。「ダニーローズ」以来のモノクロ映画、これ以上ないというくらいの豪華キャストと地味な内容(笑)。大スターをチョイ役で惜しげもなく使う。ケイト・ネリガンなんか、顔も判別できないし(笑)。個人的なことを言えば、僕が初めて観たウディ映画というのがこの作品で、強い思い入れがあります。「ダニーローズ」以来続いていたウディとオライオンとの関係は、オライオンの倒産により、これが最後の作品になった。

この作品は、ウディの70年代に書いた戯曲「死」(短編集「羽根むしられて」所収)が元になっている。「影と霧」と内容は、ほぼ同じであるが、「影と霧」は、娼館やサーカスなどのエピソードで話を広げているし、「死」のクラインマンが殺人鬼に殺されてしまうというラストも映画とは異なっている。

ドイツ表現主義とは、ファシズムやナチス台頭、そして、第二次世界大戦に至るまでの(簡単にいってしまえば「キャバレー」の時代ね。ちょっと違うんだけど)不安や暗い予感を内包していた時代に作られた一連のサイレント映画の傑作群のことである。「カリガリ博士」とか、フリッツラングの「メトロポリス」「ドクトルマブセ」、FWムルナウの「吸血鬼ノスフェラトウ」とかね。とか書いても、僕も良く知らないのだけど(笑)それで、参考になる作品をあげておきます。
「M」(1931)
ドイツ表現主義の巨匠、フリッツ・ラングの初のトーキー映画。小学生の女の子を残忍な手口で殺す連続殺人事件が起こる。警察の必死の捜査もむなしく、犯人は挙がらない。捜査の手は暗黒街へ。やむなく暗黒街も独自の捜査を開始し、1人の男が浮かび上がる。殺人者Mは、次第に彼らに追いつめられ・・・というお話。自警団が殺人鬼を探すという点、そしてクラインマンが(殺人鬼と間違えられて)追われる点で、「影と霧」と類似する。そもそも、ウディは「M」で使われた音楽と使おうと考えていたらしい。

「ヴァリエテ」(1925年)
旅回りの芸人一座を舞台に、三角関係のもつれからくる愛憎を描いたEAデュポンの傑作。「影と霧」の設定になっている当時のサーカス団の映像が残されているのだ。

フランツ・カフカの小説で、このカフカ的状況を再現したウディ映画に一番近い内容の作品を挙げろと言われれば、それは「城」(角川文庫)であろう。土地測量技師Kは、ある冬の晩小さな村に到着する。そこに城を持つ伯爵による依頼に応じるためだ。しかし、依頼はあれど、城への道は明かされないし、用件もわからないまま。「影と霧」の主役、クラインマンも自警団の役目を知るために右往左往します。さらに深読みすれば、クラインマンの頭文字もKですね。

やはり、この映画のすごいところは、こんな地味な映画にあのマドンナを出演させたことに限るでしょう。「影と霧」アメリカ公開後1年たたずして、例の写真集を出版、一躍、時の人となったのだから(彼女は、いつでも時の人だと言うことを考慮すると、あの騒動はとんでもない出来事だったのだ)。ここで、マドンナの撮影現場での感想を引用しておこう。

精神科医のところへ行くときみたいだったわね。別に面白くないけど、教育的かつ啓発的ってとこね。大道具や電気係の人達にじろじろ見つめられているのがわかったわ。みんな女優ではなく偶像を見つめるような目つきであたしを見つめるのよ。ほんとに疲れちゃった。最初はとても居心地が悪かった。演技指導があまりなくて。自由は何となく怖いものよね。でも、ウディの配役は完璧だった。彼は役者が発散させている雰囲気をちゃんと発散させるのよ。

20年代のブランコのりらしい雰囲気を持つ女優を捜していた。そこで、キャスティング担当のジュリエットテイラーが、「マドンナみたいなタイプの女優を捜してほしいのね」と私にいった。そう、彼女こそ、僕たちが求めていた理想のタイプだった。そこで、ジュリエットが思いきってマドンナ本人に電話したら、出演してもいいという答えが返ってきたんだ。(ウディ・アレン、91年BBCインタビュー)

参考・引用文献:「e/mブックス ウディ・アレン」(カルチュア・パブリッシャーズ刊)、「影と霧」劇場用パンフ、「羽根むしられて」(W・アレン著、河出文庫(戯曲「死」所収))「マドンナの真実」(福武文庫)、「マドンナ大百科」(ソニー・マガジンズ刊)、「ウディ・オン・アレン」(キネマ旬報社刊)、「ブロードウェイと銃弾」劇場用パンフ、「ぴあシネマクラブ洋画篇」(ぴあ刊)、「城」(F・カフカ著、角川文庫)