| ★ ELGIN / INVAR BALANCE★ 「インバーバランスの謎とギョームバランス」 原文 : もぐらさん&asinagaさん(御協力感謝です!!) 編集&脚色&写真レポート : トキオ |
皆さんは、エルジンの”インバーバランス”という時計を御存知でしょうか?
私は最近、エルジン大好きの asinagaさんから教えて頂いたばかりなのですが、
まずはどんな物か、写真を御覧頂きましょう。


ELGIN モデル名”BW Raymond” 、16サイズ、5姿勢調整、
21石の公認鉄道時計ムーブ メント仕様。
スクリューバック&スクリューベゼル、レバーセット。

文字盤のスモールセコンド部分に“INVAR BALANCE”の文字がありますが、
インバーバランスって何でしょう?

と言うわけでハイッ!これがインバーバランスですよ!!
いや〜スワンネックの緩急針が変わってますねぇ〜・・・じゃなくて
テンワの切り位置に注目!!

所謂ギョームテンプと同じように、テンワの切れ目がアームから離れた所にあり、
一見ギョームテンプのように見えますが、これはもしや!?
いやいや、まだ解りませんよ。お客さん落ち着いて、踊り子さんに触らないで下さいよ。
テンプには金無垢のチラネジと、プラチナのタイミングスクリューも一対あります。
あと二番車は金無垢のゴールドトレインですぞ!!
果たしてこのインバーバランスはギョームなのか?・・・という疑問について、
koreoさんのHPや、ウチの掲示板でも話題になりました。
今回は、このインバーバランスの謎について、少し突っ込んで
レポートしてみたいと思います。
尚、今回のレポートは、ネタ提供者のasinagaさんと、技術顧問のもぐらさんの
見解と分析を元に、私が再編集した内容となっておりますので、
著作権はこの御二人に帰属するものとします。(今回、私は聞き役)

「記録調査」
メーカーであるELGINのレイルロードウオッチについては、
マサズさんに詳しい記述がありますので、そちらを御参照下さい。
それではまずELGIN社のポスターで、インバーバランスの記録を調べて見ましょう。
”1923年11月 New BWレイモンド”
このポスターの絵にはインバーバランスの文字はありませんが、
「インバーバランスをお望みなら、宝石商にリクエストして下さい。」
・・・と書かれているので、この時期はまだオプション品だったようです。
と言う事は、ダイアルに文字の無いBWRでも、インバーバランスが搭載されたモデルが
存在している可能性があります。
しかし逆に、インバーバランスの文字のある時計でも、後年にテンプが交換された物も
あると思いますので、購入される際は、テンプの切り位置確認が必須ですよ。
”1924年8月 New BWレイモンド”
このポスターでは、文字盤のスモセコ部分にINVAR
BALANCEの文字が
ありますので、1924年の8月には標準装備のモデルが登場していたようです。
しかし1926年6月以降は、ポスターからインバーバランスの文字が消えます。
NAWCCのサイトによると、インバーバランスは、ELGINのGrade
472で使用され、
1922年〜1926年の期間に、合計21,000個が作られた…との記述がありました。
この21000個という数は結構少ない気がしますが、時折ショップ売りや
ebayでの出品も見られますので、それほど入手し難いという程では無さそうです。
また別モデルとしては、ELGINのハイグレード機である”C・H・Hulbuld”の初期に
インバーバランスが搭載され、「特別な材料を用いて、特に温度変化に対して
素晴らしく誤差範囲を狭くすることに成功した!」などと宣伝されました。
このモデルの最初から1,000個 〜2,000個目位まで>インバーバランスが
組み込まれ、緩急微動装置も後期モデルと異なる特別な物が使われました。
( Hulbuldモデルの数は、公式には全部で8,000個製造
)
この事から、ELGIN社としては、インバーバランスは相当な自信を持って
世に出された特別な品である…と言うことが読み取れます。(asinaga説)
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「インバーバランスとギョームバランスの関係」
まず、「ギョームバランスとは何ぞや?」ですが、一般的な知識としては
ギョーム博士が発明した合金で作られたバイメタルの切テンプで、温度変化による
歩度変化が非常に少なく、主にクロノメーター系の時計で使用された。
外見的特徴としては、テンワの切り位置がアームの付け根から離れている。
・・・と、こんなトコロでしょうか?しかしこの回答では不十分ですよ。
肝心なのは、ギョームバランスに使われている特殊な合金とは何か?です。
これが解らないと、インバーバランスとの関係を探る事は出来ません。
そこでこの合金の正体を調べて見ると、”Anibal”というニッケル合金
である事が分かりました。
そこからギョームバランスを定義すると、Anibalを使ったバイメタルのテンプが
ギョームバランス、と言う事が出来そうです。
しかし!!実はギョーム博士自身はこれをギョームバランスとは呼ばず、
主に”インテグラルバランス”と呼称していました。
つまり”ギョームバランス”は、必ずしも正式名称ではなく、”一般的な呼称”
とでも言いましょうか。
ギョーム博士は、自身の発明した合金で多くの特許を得たはずですが、
「ギョームテンプ」みたいな時計の特許は取っていなかったようで(?)、
この辺がまたギョームバランスの定義をあやふやにしている原因でもあります。
なお、Anibalについてはもぐらさんの解説を以下に引用しますが、成分的には
インバーの仲間であるようです。
<Anibalの合金組成とは?>(もぐら談)
ギョーム博士が最初に発明したインバー合金の組成はニッケル36%で、残りが鉄、
クロームとマンガン極少々です。これは現在では”36インバー”と呼ばれています。
36インバーは熱膨張率が鉄の1/15程度の合金で、温度による伸び縮みが希少です。
振り子の振り竿に使えば温度に影響されない優れた振り子が出来ますが、
元々はフランスがメートル法を国際単位とするべく世界中にばらまく原器を作製する為に
必要とされたようです(博士は仏度量衡局の第四代局長)。
ところで、ニッケルと鉄の合金割合を変えると熱膨張係数はかなり自由に設定できます。
”45インバー”と呼ばれているニッケル45%の合金の熱膨張率は鋼のおよそ1/2で
これはガラスとほぼ同じであるために電球からの引出線に使われています。
博士の一連の研究成果は現代社会でも極めて広範に利用され続ける偉大なものなのです。
さて一方、Anibalの合金組成はニッケルが40%程度のようです。
しかし、ここが極めて重要でありながら従来一般に認識されていない事ですが、
Anibalは熱膨張率云々(インバーのセールスポイント)とはなんの関係もありません。
組成はインバーの一種と見えますし、熱膨張率も鋼より小さいはずですが、
”熱膨張率の二次係数に負の符号を持っている”というニッケル合金が持つ
これまた数奇な別の特性が極めて重要なのです。
このような特性を持つ金属、合金はそれまで無かったので結局中間温度誤差を
消去出来ませんでした(具体的な理屈は今回は略)。
だからこそインテグラルバランスに使用した場合、その画期的成果からこれを
”40インバー”とは呼ばずに、Anibalと特に銘々したのではないかと思います。
最後に時系列ですが、以下のようになっています。
1896年:インバー合金の発明
1899年:インテグラルバランスの発明
1914年:エリンバー合金の発明
1921年:ノーベル物理学賞を受賞
<インバーバランスとは?>
では次に、ELGINの「インバーバランスとは何か?」について考察してみましょう。
そもそもインバーバランスには、インバー合金が使われているのか?が
問題です。名前からすれば、テンワの素材にインバーが使われている
可能性が高そうですが、しかしこれは確たる資料が見つからないため、
断定する事は出来ません。
また、インバーバランスは何故ギョームバランスの完成後、23年も経ってから
作られたのか?これもまた謎です。
想像される原因としては、ギョーム博士の論文は全て仏語だった為、
ELGINの技術者がその内容を把握するのに時間が掛かったという説。(asinaga説)
博士の功績はそのあまりの偉大さと折しものノーベル賞受賞で世界的に轟いており、
インテグラルバランスとして説明をごちゃごちゃするより、誰でも知ってる
”インバー!”と冠するのが商品として一番の説得力だった説。(もぐら説)
戦争の混乱で開発に時間が掛かったという説など、色々考えられます。
最終的には、インバーバランスの時計を恒温漕に入れて、クロノメーター
試験を行うなどの分析、調査を行わなければ結論を出す事は出来ませんが、
これらの事実と推論から察するに、ELGINのインバーバランスは、
ELGIN社がギョームバランスを目標に製作したものだったのではなかったか?
言い方を変えれば、ELGIN製のギョームバランスだった!!
と、言って良いのかも?・・・あくまで”かも?” ですけどね。
あともう一つの謎、何故インバーバランスは5年間と言う短命に終わったのか?
これについては、技術革新によるエリンバーの登場で、存在意義が無くなった
可能性が考えられます。どんなに手間隙掛けた研究であっても、
技術革新の前には無用の長物と化す。仕方の無い事です。。
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「ギョームテンプの切り位置は何故違うのか?」
コレについては、専門書やネットでもあまり語られる事がありませんので、
もぐらさんに教えて頂いた内容を、ここで御紹介します。
バイメタルの反りはスポークの根本から先に向かって累乗的に増えて行きます。
つまり小さい方の腕は、大きい方の腕の根本部分とまったく同じです。
つまり「ギョームバランスというのは腕の根本が多め」、これ。
・・・見りゃ解りますね、すいません(笑)。
要するにギョームテンプは腕の根本の方に重点的に重りが必要なのです。
これは曲がりが大きいので、根本のちょっとしか動かない部分に重りを付ければ
それで十分ゆえと考えられます。なぜかと言うと、アニバールの熱膨張率は
鉄より小さいからでしょう。鉄よりもアニバールを貼ったバイメタルの方が
大きく曲がるのは道理です。
ということはつまり普通位置で切って根本にでかい重りを付けたとしてもかま
わない。それがマリンクロノメーター用のギョームテンプだと言う事はご覧にな
れば一目して理解される事でしょう。。。
・・・だそうです。皆さんお解りですか?
ここまで説明しても解らない子は、水バケツ持って廊下に立ってなさい!!
と言うわけで、今回はあまり知られていないと思われる
ELGINのインバーバランスと、ギョームバランスの関係について、深く考察して見ました。
誰もが知ってるようで、実は良く理解されていないギョームバランスについても、
私自身勉強になる内容のレポートになったと思います。
ELGINの時計は大量生産品が多く、メジャーなウオルサムやスイスメーカーに比べて
あまり人気がありません。
しかし、今回御紹介した物のように、あまり知られていないけれども、なかなか面白い
時計も結構あります。人気がイマイチな分、レイルロード物でも比較的安価ですので、
これから懐中時計も持ってみたいとお考えの方にはお勧めです!!
ちなみに、今回御紹介したインバーバランスの時計は、某海外ショップで
311ドルで販売されていた物です。
たまにebayでも出品されますし、そんなに高くありませんので
見つけたら買っといて損は無いと思いますよ。
業者さんがこの時計に眼を付けて、日本でインバーバランスがブレイクする前に、
あなたもお一ついかが〜?
END
