偽パラシュートは本当に”偽”なのか?

以前、偽パラシュートについてレポートを書きましたが、どうも”偽”であるかどうかの
基準があやふやでスッキリしない為、ここでもう一度、”偽”とは何か?を考え直して見たいと思います。

ではまず前回レポートのおさらいから・・・



バランスコックから緩急針とパラシュートを外したところです。




パラシュートの天真を押さえる部分は二層構造で、上下のパーツはネジ止めになってます。
下は穴石、上には受け石が固定されています。



パラシュートの丸い部分はC型になっていて、ここの弾性で天真折れを防ぐわけです。
この写真の物のように、ループ部分がC字型になっている物は、一応本物と言って良いと思います。
・・・というのが前回のレポートでした。

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「本物と偽物の基準とは?」

前回のレポートではループ部分がC型ならば”一応本物である”と、私が勝手に認定しましたが、
しかし世界的に本物と偽物を分ける明確な基準があるわけでもなく、私みたいな半端モンが
勝手に偽物と決め付けて良いのか?という反省から、今回もう一度考察してみようと思ったわけです


例えばこのパラシュートですが、ループ部分がC型になっていないので、私はこのタイプを
”偽”パラシュートと呼んでいました。しかしこれは本当に”偽”なのか?”偽”と呼んで良いのか?



↑○部分がC型になっていなくても、細いアーム部分がたわんでショックを吸収するならば、
この形でも効果があるのではないか?だとすれば、この形を”偽”と断定するのは
短絡的過ぎるのではないか?
もし○部分にあるネジがブリッジまで貫通固定されている場合は弾性がありませんので
この場合は全く効果の無い”飾り”であると言う事は出来るでしょう。



↑また逆に○部分がC型になっているコチラのような形であっても、全体に太くて弾性が無い物は
やはり衝撃吸収の効果の薄い
”飾り”ということにはならないのか?

この写真のパラシュートを見ますと、C字型にはなっているものの、アームが短くゴツい形で
あまり弾性があるようには見えません。実際このムーブはパラシュート側の天真が折れていましたし、
効果の有無には若干の疑問がありました。

パラシュート・サスペンション本来の目的は天真保護にありますので、実際の弾性の有無が
真贋の分け目と言う事が出来ると私は思っていたのですが、しかし先日ある方から
パラシュートの真贋について、次のような御意見を頂きました。

「パラシュートはある時期から形骸化し、装飾的意味合いの物になった。」
というのです。この意見には私自身納得する部分がありました。
実はブレゲの息子の時代には、すでに形骸化されたパラシュートの兆候が見られます。

(ここからは私の想像ですので、あまり本気で読まないで下さいね。)
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ALブレゲの時計は、彼の存命中から組織的に大量の贋作が製作されていました。
つまりそれほどブレゲの時計は人気があったということです。

であれば他の時計工房も、偽刻はしないまでも、彼の時計の意匠をマネしようという動きも
少なからずあったはず。パラシュートのコピーはこういう所から発生したのではないか?
ブレゲの時計を完全にコピーするのは、普通の工房の技術では無理でしたが、
パラシュートだけならどこでも作れます。

あのブレゲが発明した部品を装着すれば、それだけで高級品というイメージで
より高く時計が売れるのではないか?という考えが、これら中途半端な形のパラシュートを
粗製乱造させた原因になっているのではないか?(あくまで私の想像に過ぎませんが)
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「写真で比べて見よう!」

というわけで、世界的な真贋の基準が無いならば、
私の独断と偏見で勝手に決めてしまおうというコーナーです。(笑)



@:まずこれはブレゲのオリジナルに近い形のパラシュートです。
全体に細くしなやかで見るからに弾性があり、天真保護の効果も高そうです。
私がイメージする本物のパラシュートとは、こういう形です。(100点)



A:これもループ部分がゆったりしたカーブになっていて、効果が高そうな
本物のパラシュート。(100点)




B:これも比較的ループのスリットが広く、オリジナルに近いイメージです。(85点)



C:これはループのスリットが細く、全体に太くてあまり弾性が無いように見えます。
試しにちょっとドライバーの先で持ち上げてみると、思ったよりは弾性があるので
偽物とは言えないと思いますが、こういう形の物が一番多いかも?(70点)
このレベルまでは、私は一応本物と認定します。

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以下はダメな例。偽という評価は下せないので
「装飾パラシュート」と認定します。



D:これは○部分がループになっていません。いわゆる偽というか、
装飾的パラシュートです。(30点)
もし○部分のネジがブリッジまで貫通固定されていたら 0点。



E:最後にコレ。Bのタイプを私が自分で細く削り込んだ改造品です。
効果は高いですが、改造品なので0点。(笑)

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補足
今回のレポートに関して、皆様からパラシュートの効果についてのご質問がありました。
また効果以前に、”懐中時計”に耐震装置は必要なのか?
天真の片側にしかパラシュートが付いていない場合はどうなのか?

A:そもそも”懐中時計”に耐震装置は必要なのか?
耐震装置は間違ってぶつけたり落っことしたりした時に天真をショックから保護する為の
ものなので、持ち歩きする懐中時計には耐震装置は必要と思います。

懐中時計は天真が太いので折れ難い・・・という事はありません。
テンプ自体が大きいので、落ちたときに天真にかかるショックも大きくなりますし、
特にクロノメーター系は天真が細い物があり、金チラネジなどが付いた物は
天真の保護は非常に重要となります。


B:そもそもパラシュートに耐震効果はあるのか?
私がドライバーの先でパラシュートの弾力を確かめた感触からすると、
Cの形であっても間違いなく天真を保護する効果はあると言えると思います。

今まで私が購入した3つのパラシュート付きガラムーブは、3つともパラシュート側の
天真が折れていましたが、これはテンプが剥き出しの裸ムーブで、保存状態が悪かった
からであって、耐震の効果が無かったからだとは考えてはおりません。
パラシュートの効果を実際に実験したデータは見た事がありませんが、
構造的にインカブロックの先祖と考えても良いので、効果はあると断言します。

C:片側だけのパラシュートに効果はあるのか?
パラシュートが天真の片側(ブリッジ側)にしか付いていない物は効果があるのか?
というご質問ですが、勿論両側に付いてた方が効果は高いと思われますが、
片側にしかなくても、それなりの効果はあると私は思います。というのも、
ALブレゲの本物でさえ、両側にパラシュートが付いている物は
数が少ない
からです。
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補足
↑で「両側にパラシュートがある物は数が少ない」と書きましたが、
ブレゲが後年多用したレバー脱進機では両側にパラシュートが付いています。

また片側より両側が少ないかどうか、実際に数を調べた訳ではなく、
ALブレゲの時計で、レバー脱進機はシリンダー脱進機より数が少ない"だろう"という事から
私が想像して書いただけですので、確実なデータではないという点を補足しておきます。

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あと、ALブレゲはハンギングルビーシリンダー脱進機を多用しましたが、
そもそもこの脱進機では片側にしかパラシュートを付けられません。
ですから
パラシュートが片側にしか無くても偽物ではありません。

あと両側にパラシュートが付いている場合ですが、上下に広く弾力を持たせすぎると、
大きな衝撃でパラシュートから天真が外れてしまう事があったのではないか?
(というのは私の想像ですが。。。)

ちなみに私の持っている物は全て片側パラシュートです。
両側に付いてる物はALブレゲの高級品でしか存在しないでしょう。

Breguet Hanging ruby cylinder escapement



D:パラシュートの”形骸化”とは?
形骸化されたパラシュートとは、Dの形のパラシュートの事を言います。
人によってはCも含む人もいるかもしれませんが、私はCは本物認定ですので
あくまでDの形を、「形骸化された装飾パラシュート」と評します。
ちなみにあのパテックの時計にもCのタイプのパラシュートが付いてる物があります。

装飾パラシュートは天真保護が目的ではなく、それっぽい形の物を付けて
高級感を出そうと言う意図で作られたものですから、本来の意味のパラシュートではない。
だから形骸化なのです。

しかし1850年以降の懐中時計には、本物のパラシュートも徐々に見られなくなり、
1900年頃の懐中には例外を除き耐震装置はありません。これは何故か?

本当にパラシュートに耐震効果があるなら、なぜ廃れてしまったのか?
この理由は私には分かりませんが、時計が手作りから工場生産に代わった頃、
量産には向かない構造だったために、自然に使われなくなったのではないか?
もしくはパラシュート自体に何かしらの欠点があったのではないか?と想像します。
(例えば天真外れとか)

以上の内容はすべて私の独断と偏見で考察した物ですので間違っているかもしれません。
何が正しいかは自分で調べないと見えて来ないものですから、
人のサイトに書いてあったからと言って鵜呑みにしてはいけませんよ。(笑)

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1840〜50年頃のフランス製、薄型レピーヌスタイルのムーブ(ケースはガッチャ)。
Bのパラシュート写真はこの時計の物です。

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「偽刻について」
あとついでなのでここで書いてしまいますが、ウチのHPや掲示板では、
以前からebayなどのオークション出品物の
偽刻について語られる事がありました。

日本のネットオークションでも稀に偽刻物を見かけますが、2ちゃんねるで
オリジナルの刻印が偽刻であるかのような書き込みを見る事もあり、
この辺はしっかりと見極めてから議論して頂きたいと、陰ながら危惧するものであります。
(まぁ、前歴のあるセーラーなら自業自得、因果応報でしょうが)

最近はebayで仕入れた品をそのままヤフオクで転売する業者さんも多いようですが、
中には海外で偽刻された時計が転売されるケースもあるようなので、この辺は
信頼出来るセーラーを見極める目が、我々の方にも必要であろうと思います。

余計な話が過ぎましたが、今回はこれまで!
END