| ★ Patent Union Chronometer ★ (パテントユニオン・クロノメーター脱進機) |
「特殊クロノメーター脱進機」
今回は珍しい”パテントユニオン・クロノメーター脱進機”のムーブを御紹介します。
一般に珍しいと言われるスプリングデテントやピヴォテッドデテントの脱進機でも
ebayでは毎日複数の出品物を見る事が出来ますが、このようなレバーデテントタイプは
年に1〜2個しか見かけないほど珍しい物です。
ではまずムーブの写真を御覧頂きましょう。


このムーブはおなじみイギリスのデヴィッド・ペニーさんのお店から購入した物です。
「The ANTIQUE WATCH STORE 」
商品ページはコチラ。
このDavid Penney氏は、ダニエルズ本に脱進機のイラストなど描いておられるエキスパートで、
業界ではかなりの有名人ですね。
で、この商品の解説は次のような内容となっていました。
----------------------------------------------------------------
Patent Union Chronometer. No 2508.
パテントユニオンクロノメーター No.2508
1865年頃のイギリスにおける”ロビン脱進機”の珍しいムーブメント。
ハーフプレ−トのフュージームーブメント。
ガンギ車と4番車を支える”し”の字型の珍しいブリッジ。
18サイズのフレーム(地板)には、HF (Henry
Fletcher) の刻印がある。
(エボーシュメーカーか?)
パテントユニオン脱進機は、レバー脱進機型のガンギ車と、
ロッキングしないデュープレックス脱進機など、3つの異なる脱進機の
特徴を備えている。直径45o。
もし求められれば、パテント・ユニオン脱進機の私が描いた図面のコピーを
このムーブメントに添付します。
C G Kelvey and W Holland、特許ナンバー2184(1863年9月)
(この二人がイノベイターと思われます)
同型の時計は大英博物館、および Time Museum
のカタログを参照して下さい。
針は無く、文字盤6時位置に非常に小さなヘアラインがあります。稼動品。
----------------------------------------------------------------
元々は某K氏のコレクションでしたが、無理を言ってお譲り頂きました。(感謝です!)
ムーブメントのコンディションは、針は無し、4番車の秒針を取り付ける軸が折れているが、
ゼンマイを巻くと動く状態。正しテンワが若干揺らいでいるので、天真もしくは
テンワに変形があるかもしれない。
マサズさんの見立てだと天真は切り直しが必要との事だったようです。
ただ、一応稼動状態ですし、天真を見るとそんなに悪い感じでも無さそうなので、
私はこのままOHとケーシングだけする事にしました。
「レバーデテント脱進機って何?」
OHレポートの前に、レバーデテント脱進機とは何かについて御説明したいと思います。
最初に3種類の脱進機を写真で比較してみましょう。

まずはおなじみのデテント脱進機から。
クロノメーター脱進機と言えば、普通はスプリングデテントとピヴォテッドデテントのどちらかでしょう。
(アーンショウタイプとアーノルドタイプというのもありますが、分類的には全て同じです)
で、こちらはおなじみのイングリッシュレバー脱進機。
たまにレバーを横置きにしたラテラルレバー脱進機をイングリッシュレバーと
混同している方が居ますが、別物なので御注意下さい。
イングリッシュレバー脱進機のガンギ車先端は尖っています。


そしてこれが今回レポートするパテントユニオン・クロノメーター脱進機のムーブです。
(リンクの図とはガンギの形がちょっと違いますが、構造的には同じものです)
一見するとイングリッシュレバーと同じように見えますが、実は全然違う種類のデテント脱進機です。
実はこのパテントユニオンは、今年話題になったオーデマピゲの新脱進機と同じルーツを持つ物なのですよ。
そのルーツというのがこのロビン脱進機です。もう一つ別型のロビン。
左のリンクの方がオリジナルに近い形で、右の別型ロビンはパテントユニオンに近い構造です。
レバー脱進機
レバー脱進機では、アンクルがガンギの停止と開放、それからテンプへの衝撃も行っています。
ガンギ車の先端が、アンクルの爪石の斜面を滑る時、アンクルはテンプの振り石を蹴って
テンプを振ります。(これが衝撃)で、テンプが一往復する間に、ガンギはアンクルを二度振りますので
テンプ1往復振動で2衝撃ですね。分かりますか?
ロビン脱進機
ロビンの場合、レバーに付いている2個の爪石は、ガンギ車の停止と開放のみを行い、
ガンギ車の歯が直接天真に付いている振り石を振って衝撃を与えます。
良く見るとガンギと天真の振り石の関係はデテントと全く同じなのが分かります。
これもデテントと同じくテンプ一往復で衝撃は1回なので、(テンプが戻る時はガンギとぶつからない)
1往復振動で1衝撃となります。
これにより秒針はステップ運針となり、これがデテント脱進機の特徴でもあります。
パテントユニオン脱進機も基本的に同じ動きをしますので、ロビンと同じデテント脱進機に属します。
ロビン脱進機の弱点とAP新脱進機
APの新型脱進機は、ロビンの欠点を改良した物だそうです。その欠点とは、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「理論上は衝撃に強いはずのロビンは、実際にはショックに弱かった。
分析すると、これはアンクルのハコ先とハズシ石の隙間が小さく、少しの衝撃でハコ先が
ハズシ石に衝突する事が分かった。この二つがぶつかるとテンプが止まってしまう。
スイスレバーのハコ先は左右に15度動く。振り石との隙間は0,10oあり、衝撃を受けても問題ない。
一方ロビンのハコ先は左右に4度しか動かず、ハコ先とハズシ石の隙間が0,01oしかない。
だからショックを受けると簡単にハコ先がハズシ石に衝突して、テンプが止まってしまうのだ。」
このハコ先とハズシ石を衝突させないように改良したのがAP脱進機である。
(以上、クロノス日本語版6号より)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
つまり、レバーの誤作動と言うのは、レバーのハコ先がハズシ石にぶつかって
止まる不具合の事なんですね。
こちらのロビンを見ると、確かに誤作動を起こしそうな感じに見えます。
次へ
