第二話


 村に着くと、すぐに人々が集まり歓迎してくれた。彼らは、口々に日本語で語りかけてくるところを見ると、ここは日本ではあるのだろう。最も、先程の一戦からすれば『別世界』となるのだが。
 そんな中俺はふと、ある事に気付いた。それは、この村の人々の眼は一同にして生気が感じられず、心身共に磨耗し疲れきっているといった感じだった。
 それを問おうか問うまいか、と思案する中ある一人の老人、この村の長老の家に招かれる事になった。
 この世界にしてもそうだし、ここが何処か、先程の眼の事も気掛かりだったので、俺は快諾して、長老宅へと案内される事となった。

「さて、旅人さん。あんたは、一体何処からお出でになったんじゃ?」
「その前に一つ聞かせて欲しい。ここは何処だ?」
「それはどういう意味かのう?」
 長老は少し、怪訝そうに問い返した。
 無理も無い。さっきの白骨の兵士がいるような世界だ。今まで、その類として警戒されなかったのがおかしいぐらいだ。
「俺は日本という国の自室にいた。そしたら急に草原に出てな。ここより南の丘の向こうだ」
「はて……そんな国あっただろうか?」
「恐らくは別世界だ」
「……名は、何と言うのじゃ?」
「俺の名前は高丘 一矢(たかおか いっし)だ」
「変わっておるのう。タカオカなんて名前は初めてじゃ」
 事も無げに口にした、長老の言葉に俺は目を見開いた。
「……『ここ』では姓が後なのか」
「何を言っとるんじゃ。どこの国だって一般常識じゃろが」
 その一言で、いや、日本語でありながら、名が先に来るのが常識。これでここは未知の世界である事が確定した。
「そうか……訂正させてもらう。俺は姓が高丘で名が一矢だ。それと、俺は全く以って別の世界から来た人間だ」
 長老はそれを聞くと目を細め、俯いて微かに震えだした。
「…………か」
 蚊の無くような声で呟いたが為、それだけしか聞き取れなかった。
「……遂に来てくれたか……」
 次ははっきりと聞こえるも、首をかしげる事になった。
「何が来たというんだ?」
「救いじゃ。この世界を救ってくださる救世主じゃ」
 いきなり突拍子の無い事を言われ、俺は呆然とする。馬鹿馬鹿しいと言うとした瞬間、顔を上げた長老は歓喜の表情で涙を浮かべるそれが眼に移った。下らない冗談では無い事を深く思わされる、そんな光景だった。
「そうじゃな。離せば長くなるが……この世界の事。貴方様が何者かお教えします」

 リビィス
 それが、この世界の名。
 この世界は、魔物と共に生き、異世界より攻め寄る魔物と戦う。
 それが、この世界での人々の生き方。
 しかし、それも数百年前に1度、崩れていった。
 異世界より、新たな侵略者。
 ――魔王――
 次々と繰り出される侵略の手。
 世界は絶望に陥った。
 その度に、二人の神がそれを撃退するも、神々は永い眠りに就く事になった。
 そして二人が目覚める前に、再び魔王はその姿を見せた。
 人々は絶望し、神々に祈りを捧げた。
 そして、一条の光が差した。
 異世界から、2人の少年と少女が来た。
 人間が違う世界から来るのは、異例の事だった。
 だからこそ、人々はその2人に希望の光を見た。
 2人は、十五の戦士と共に、魔王を倒した。
 炎、水、風、雷、地、壁、闇、時をそれぞれ司る
「八機士」
 八機士の『力の原型』とされ、速、堅、魔に特化した存在
「三銃士」
 力も魔族としても統一されずとも、強い結束力を持つ
「四信」
 魔王を倒した後、彼ら十五の戦士達を、二人の英雄によって、何処かへと封印された。
 それは再びこの世界に闇が現れたときのために。
 そして、2人は、元の世界に戻ろうとした時、こう言い放った。
「帰るべき世界に戻ったら、自らの魂を砕き世界に散りばめよう。この地に再び闇が現れた時、我々の魂を紡ぐ戦士達が、この地を救ってくれるだろう」
 2人は言い終わると、光の中に消えていった。

「……そして、今再びこの地に魔王が現れた。邪悪なる魔力による影響力そのものは大きくがないが、こんな小さな村で生きていくのはとても過酷な事なんじゃ。皆、そこに付け入られてこの有様じゃ」
「俺がその『魂を紡ぐ戦士』とでも?」
「わし等は今、絶望の淵にあると言える。じゃがそこに異世界から来たとお前さんは言った。わしには……これが希望の光でなかったら何が希望の光なのか分からん」
 今だ、涙を浮かべたままの長老は鼻を啜りながらそう言った。
「……そうか。何にせよ、ここにいても何も進展がなさそうだな。都というか……城は近くには無いのか?」
「ここから北に行き、森を抜けた先に王都はある。……わしらの最後の希望をお前さんに、賭ける事を許しておくれ」
「……俺はまだ、自分が救世主だなんて思ってはいない。それでもよければ何でも賭けるがいい」
 このまま、この村で一夜を明かす事となり、長老宅で夕食を頂いた後、早めに床に就いた。旅は始まったばかりで、体調を整えなくてはならないからだ。
 長老宅の一室を借り、雑魚寝をしながら思案に暮れた。
――俺が『魂を紡ぐ戦士』。救世主、か……。あまりにもでき過ぎていて、三文芝居にもならんな。それに、こうなると師父の存在も出来過ぎているな……いや、流石にそれは杞憂、か――

 次の日、あまりにも早い目覚めだった。最も早く出発するにはとても都合がよかった。
 支度を整え外に出ると、まだ空が白んでいるくらいで、とても清々しい風が全身を撫でていった。
 無音に近い静けさの中、外に向かって歩いていると村の真ん中に長老が一人立っていた。
「先を急ぐかと思って待っていれば正解じゃったの」
「早くに眼が覚めたから出発するだけだ。わざわざ待っていなくても良かったものを」
「なに。村の代表として挨拶をしておきたかったのじゃ。……ここから先、とても辛く苦しい旅になるじゃろうが、どうか頑張って欲しい……。この世界を、生きとし生けるもの全てが、その双肩にかかっているのかもしれん」
「わざわざ出向いてくれた相手に失礼だと思うが、下手なプレッシャーしかないな」
 そう言葉を吐き出すと俺は、この横顔が太陽の光に照らされながら、まだ見ぬ王都へと歩き始めた。


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