第七話
バリスよ南に位置する街。カルス。そこは、あの廃墟に住んでいた人々を受け入れた事により、混乱こそあったもののより大きく発展していっている。俺達四人はこの街に辿り着いた。
「やっと着いたな……」
辺りは活気に満ちており、旅人が来た事にも気付かないようだ。
「ガイ様、ここから次の町まで距離があるので、食料を多めに用意しておいた方がいいと思われますわ」
「そうなのか? そうだな、俺は携帯食料買ってくるよ」
「あ、じゃあ僕もついていきます」
「あたし達を宿探す」
何処か断ち切る様な言い方で、リファはぴしゃりと言い放った。
「あらあら……本当はリファも行きたいでしょうに」
「違う!」
間髪入れずに否定するリファと、それを冷やかすリフェルを見ながら、俺は溜息を吐き出す。
「またか……」
「またですね。でもいいじゃないですか。賑やかなのは楽しい事ですよ」
「否定はしないが、賑やかなのとうるさいのは違う」
後頭部を掻き毟りながら、もう一度溜息を吐き出す。と、一人の女性がこちらを向いているのに気付いた。しばらく視界の隅で捉えていたものの、一向にこちらを見続けていた。
そんなに怪しいだろうか、と考えてみると、キズクの知り合いがいる可能性が大きい事を思い出した。
「キズク、あそこに立っている人、お前の知り合いじゃないか?」
あからさまに指で指すのも失礼なので、顔を軽く彼女の方に向けた。
「え? あ……!」
「やっぱりそうか。ま、行って来い。宿の前で待っていてやるから、場所さえ分かればすぐだろう」
「ありがとうございます! その、買出しに行けなくてすみません」
頭を下げるキズクに、俺は掃うように手を振って応じる。キズクは再度、頭を下げるとその女性の方に小走りで向かっていった。
恐らく、彼女は俺よりも年上なのだろう。端から見ても感じられる落ち着きが、俺にそう思わせた。
久しぶりの再会となった二人は、軽く談笑しながら街の中心へと歩いていった。
「とりあえず、宿を探しましょうか?」
リフェルは思い出したかのように言うが、俺は実際に忘れていたのだ。
「そうだな……次の町まで距離があるんだっけ。……明日は少し休む事にしよう。買い物は明日にして、今日は宿でゆっくりするか」
「じゃあついてくんの?」
物凄く嫌そうな顔をしてリファは呟いた。
「……そこまで露骨に嫌そうにしなくても」
「ここまで露骨に嫌そうにするさ」
「もう少し素直に喜べばいいのにねぇ……」
「うるさい!」
「……まあいい。とにかく宿を探すぞ。いつまでもここにいる必要は無い」
話がまとまり、やっと行動を起こせるかと思った。が、
「だから、私は!!」
この二人がまだまだ動かないでいてくれるようだった……。
「遅れてしまってすみませんでした」
あれからしばらくしてキズクが宿屋に来た。実の所、この街には宿屋が一軒しかない為に、俺らが探す必要があっても、キズクは探す必要がなかったのだ。それはそれとして置いておくとして、いや、一軒しかないのも起因している訳だが、ある問題が生じているのだ。
「……」
槍を携えるハーピーは、大いに不機嫌そうに口を閉ざしているのだ。
「何かあったんですか?」
「何かも何も、大ありなんだよな……」
「それがですね……空いてる部屋が六人部屋で、おまけに一部屋だけなのです」
設計ミスがあった所為で、二つあるはずの部屋が一つになってしまった、とは宿屋の主人の弁。おまけに今は、行商人が多いとの事。
少し愚痴を溢せば、素直に六人部屋に泊まれよ、と。
「それでですか……」
「それでなんです。まあ、どうしようもないんだけどな。街に着いたのに野宿するのもあれだし、何とか……ならないな」
「表面上不機嫌なだけですからお気にしないで下さい。それに、本当は舞い上がらんばかりに喜んでいますわ。でも、リファは意外とシャイですから恥らって……」
「うるさい!」
リフェルの言葉に反応し、リファは一喝するも今は宿屋。リファははっとし、顔を俯かせるのだった。
俺は、夜中に暗殺されるんじゃないかと、少し不安になりつつ部屋に通された。
当然と言えば当然だが、四人で使うには広い部屋であり、それを好都合とリファは、俺の使うベッドを指定し最大限の距離を作って、夕食を取ると早々と就寝した。
まだ寝るのには早い時間と考えていた俺達は、雑談をしつつ夜を更かす事になった。互いに、どんな境遇で暮らしてきたとか、俺に至ってはどんな世界なのかを話した。
リフェルの両親もリファの両親も人間に殺された事を聞かされた。リファの両親に至っては、ある町の警護に当たっていた兵士に捕らえられ、酷い仕打ちを受けたそうだった。
そこまで話し終えると俺達は就寝する事にした。俺は彼女が人間を毛嫌いしていた事に納得すると共に、異世界であるリビィスであろうと人間の愚かさは変わらないものだと、虚空に向かって一つの溜息を吐いたのだった。
日が傾き始めた頃。俺は宿の一室に窓の前で剣を収めた鞘を左手に持ち、遠くの空を眺めていた。
「中々いい物がありましたよー。って、どうかしたんですか?」
三人は買い物から帰ってきた。が、俺の姿に普段とは違う気配を感じ取ったのだろう。
今までの俺の姿がガイ・サンデスドならば、今の俺の姿は紛れも無く闇を駆ける先駆者であるのだから。
「遠くに何かを……気配のようなものを感じた」
俺が行ってきた『狩』の時のように、冷たい刃が身体から浮き出る感覚に囚われた。何故そんな感覚が今、感じるのかは分からなかったが、これが何かの警告である事だけは理解できていた。
「こんな所から遠くの気配を? ……馬鹿馬鹿しい」
リファは全然取り合わなかった。が、いつもと違う雰囲気から何かを察したのか、俺を窓際からどけると窓から空へと飛び出したのだった。そして淡い水色の翼を羽ばたかせ、上空へと舞い上がっていった。
「特に気付くものも無かったが?」
窓から部屋に戻ってきたリファはそう答える。
「……そうか。わざわざすまなかったな」
それでも空が気になった。何かが近づいてくるようでもあり、自分がそれに向かっているようでもあり。
「……何かいると思うのか?」
「勘違いでなければな。だが……まだ遠い。そんな気がする」
「……本当に変な奴だな」
何処かいぶかしみながら、リファはベッドに腰を下ろした。
「それにしてもリファ……ずいぶんと協力的になったわねぇ……」
リフェルは上品に頬に手を当て微笑みながら言うと、リファは途端に眼を見開いた。
今朝、リファとは互いに話し合ったのだ。人間の愚を認め、自分の愚を認め。だが、腰を低くして話した訳ではない。俺は真剣に、互いに理解しあいたいのだ、と語った。
そんな俺に対し、彼女はほんの少しだけ壁を取り除いてくれたのだ。『お前達は信じる事にする。だが人間を許しはしない』という言葉を残しはしたが。
「いや……これは、そのなんだ……備えるべき事は備えるべきであって……」
リファは少しでも打ち解けた事を知られたくなかったのか、必死に否定を試みるも、語気もだんだん小さくなっていった。
その様子に一度、溜息を吐くと視線を移した。自分の中にある白銀の刃が、音を奏でて警告するかのように注意を促す空の方角へ。
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