第十一話
相変わらず森は果てしなく続く。
「もう少しで、森を抜けると思われますわ」
「…………」
「早く町でゆっくりしたいですね」
「…………」
「……どうしたんだガイ?一昨日の戦い以来、口数が減っちまって」
「いや……ちょっとな」
……お前が持って生まれたモノだ
あいつは何なんだ?俺が持って生まれたモノだと……?俺は一体、何だというんだ?
「また押し黙る……」
「すまない……」
奴のこともそうだが、あの戦い以来何かぞわぞわと、悪寒のようなものを感じる。例えるなら不穏な空気。裏で動いてるような気配を感じていた。
「そう辛気臭い顔をするな。あのときの事は忘れるんだ」
「ああ……ん?」
黒装束に身を包んだ男が少し先の茂みに立っていた。ゆっくりとこちらに向かってくる。人の良さそうな青年に見えるが、明らかに強い魔力を感じる。
「一昨日は二人の馬鹿老人が、世話になったそうですまなかったね」
申し訳なさそうに青年は頭を下げた。
「あの魔術師の事か……」
「ああ、そうだよ。あの呪術ははっきし言ってうざかったろう。……君の中にあるものが、不思議なものだったらしいがね」
「……本当にすまないと思うなら、一つ聞かせて欲しい事がある。あの二人は、魔王の直属の部下なのか?」
「直属……?」
青年は目を瞬かせると軽く噴出した。
「……おい?」
「くく、ははははは。……いや、すまんすまん。いくら知らないとはいえ、あれをあいつの直属と言い出すとはなあ。安心しろ下っ端だ、下っ端」
「……ガイ。もしかしてこいつは……」
「魔王に近い位置なんだろうな」
「どうして解るんですか?」
不思議そうにこちらを見つめてくるキズク。
「俺は魔王の直属という問いに、こいつは『あいつ』と言ったんだ」
「そうか。そうですね……」
「ふーむ。まあいいか……ついでに教えると魔王の名はアルバルスだ」
興味深そうにこちらを観察する青年は、サービスだと言わんばかりに告げた。
「アルバルス……。にしてもお前は何者なんだ?魔王を呼び捨てるは、情報を教えるは理解できない」
剣を抜きながらガイは言い放つ。
「情報は……教えた所で別にどうというものでもないからさ。ただ、安心してもらいたい。別に君達を殺しに来たわけじゃない。『挨拶』をして来ようと思っただけさ」
「……逃げ切れるか?」
「億に一つありえないな」
身じろぎ一つしないで、小声でリファに訊ねるも即否定されてしまった。
「それじゃあそろそろ始めさせてもらうよ……ストーンフェイク」
青年がかざす右手から灰色の閃光が辺りを飲み込む。そして俺らも飲み込まれる、という瞬間に二つの影が俺らの前に躍り出た。
「呪術か……!」
「リファ!止めるわよ!」
「解ってる!」
最初にリフェルが、その次にリファが飛び出した。後方の二人を守る為、自分達の体でこの呪術の力を受け止めに行ったのだ。
「リファ……。あなたは、ガイ様に伝えるべき事があるはずよ。だから、せめてできるだけ私が……」
灰色の閃光の中は白い世界で満たされおり、その中でリフェルは呟いた。リファは友人のその言葉に、悲しみとも微笑みともつかない表情を作った。
「……わかったよリフェル……。もう……迷わない……」
お互い、これが終焉となる予感を抱いていたのだ。
そして、二人の影すらも灰色の閃光に包まれていった。
「……どうなったんだ……」
ガイはうつ伏せの状態から、顔を持ち上げて辺りを見渡した。
「さっきの影はなん……く!」
身体を起こし、四つん這いになったガイに、横から何かが飛んできたのだった。
「何だって……いうんだ……!」
鈍い痛みが脇腹に喰らいついているのに悶絶しつつも、ガイは飛んできた物体を確認した。
「……リファ……なのか?」
薄っすらと日焼けしていた肌は、今や真っ白に変わり果てており、その手先は石のような色をしていた。
「リファ……?大丈夫か?……くそ、何なんだこれは」
リファを抱き起こすも、その身体は氷のように冷たく、手先の石のようなものは少しずつ侵食していた。
「ガイ……?そっか、良かった……」
「何が良かったんだ。お前が全然無事じゃないじゃないか!」
「敵のあれは……石化させる呪術みたいだけど……わたしとリフェルが相殺できたみたい」
リファは弱々しく微笑む。ガイはリファの言葉に眼を見開いて、辺りを見渡すとキズクに抱き起こされてるリフェルもまた石化が起こっていた。更にリファよりも石化が進行しており、キズクは今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「治す方法は無いのか」
わざわざ聞く必要の無い問いではあったが、ガイにはそれをせずにはいられなかった。
「解らない……だから言いたいの……最後だと、思うから」
「待てよ!なんで諦めるんだ!お前達の魔法を試してみろよ……!」
「お願い……聞いて……このままじゃ、悔やみきれないから」
ガイは、リファが何を言おうとしているかそれとなしに気付くも、その言葉を聞きたくは無かった。その言葉が、彼女の終わりを告げる気がしてならなかったのだ。
「今すぐでなくていい!今はこの呪術を何とかするんだ!話は……町に着いたら好きなだけ聞いてやるから!」
ガイはこみ上げてくるものに耐えられず、言葉を詰まらしてしまう。
「あたしは……」
「やめろ!やめるんだ!」
「あたしには……初めてで、解らなかったけど……」
「頼むから!もうやめるんだリファ!」
「お前の事が……」
リファの言葉はそれ以上続くことは無かった。彼女の全身は石化しており、物言わぬ石になっていたのだ。
「あ……ああ……」
ガイはリファを強く抱きしめ、熱い物が頬を伝うのを感じた。
「うあああああああああ!!」
力の限り叫んだ。自分の無力さを噛み締めながら。
「何が魂を紡ぐ戦士だ!何が希望だ!俺は、大切な仲間一人助けられないのか!」
「まあ、死んではいないと思うよ。実際に使うのは初めてだけどね」
青年はおどけながら、微笑みながらに立っていた。
「許さない!絶対に!!」
キズクが弓矢を構えた。弦が引きちぎれるのではないかという程に、力強く引き絞っている。
「涙で目が霞んでるのに、本当に当てられるのかい?」
「く……」
キズクは涙でぐちゃぐちゃになった顔を歪ました。
「死にたければ俺に攻撃すればいい。君達の力量じゃ俺に敵わない事くらいは解るよな」
ガイ達を一瞥すると黒装束の男の姿は次第に薄らいでいった。魔法を使った様には見えなかった。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はライデン・シュタナー。それではまた……会える日まで」
その姿が消える直前にそう言って、ライデンと名乗る男は消えていった。
そして、後には魂を抜かれたかのような二人の少年と、2つの石像が取り残されたのだった。
次の話へ