第三話


「あなたが『魂を紡ぐ戦士』の可能性有り、ねえ……正直な所信じられないよねえ」
「あたしだってそんなの初めて聞いた身だし、なんの保障も無いよ。ていうか、まだ『こちら側』に来てばっかりで、全然知らない事が多すぎるって言うのに……」
「まあそうなんだろうけど、話を聞く限りそういう結論になるんだよねえ」
「それも、まあ聞いたけどさ」

 あれから行き着いた場所、それは彼女達の町だった。
 町には特に名前は無いが、『平原の狩人の町』と呼ばれているそうだ。
 その町に着いてからは、疲労と緊張が繰り返された為に、所々覚えていない事もある。
 町に着き夕食までの間に、簡単な自己紹介と自分の経緯を話し、夕食後は狩りに参加していた女の子達の部屋で、一緒におしゃべりをしていた。
 その色々というのも、自分がこの世界を救う救世主じゃないかという事だった。

「あたしはシェルナ・リースト。こっちは妹のシェリナね。よろしく」
 あの時、あたしを背に乗せてくれた少女、シェルナは砕けた笑顔を振りまく。
「外国人みたいな名前だなぁ……」
「え……?どーゆー事?」
 ぽつりと呟いた言葉にシェルナが反応する。
「名前が先で、姓が後なんだよね……?」
「普通じゃない?」
 シェルナは妹のシェリナと顔を見合すと、シェリナは何度か頷く。
「あたし名前は風雪 風見(かざゆき かざみ)。よろしくね。あ、あたしは風見が名前だからね」
「それって確か……クレア様とかも、元の名前は姓が先にきてるんじゃなかったっけ?」
「そういえばそんな話もあったね……もしかしてカザミは『魂を紡ぐ戦士』かもしれないね」
 茶化すように言ったシェルナの言葉と、先のシェリナの言葉の中に出てきた人の名前に風見は反応する。
「待って、『魂を紡ぐ戦士』っていうのと、その何とか様っていうのは何なの?」
 ただでさえ知らない事が多すぎて半ば混乱していなくもない風見は、話が流されない内にそれを訊ねた。
「そっか、カザミは知らないもんね。んー、それじゃあ歴史の授業としようか。リビィスの歴史について、まず初めは……」

 それはある村である老人が、ある少年に語った物と大して差の無い物で、その話は一時間近く続いた。
「どう?大体解った?」
「うん、一応はね。で、あたしはそのクレア様だっけ?その人達みたいな名前を考えた方がいいのかな?」
「どうだろうね……。ただ確実に名乗る度に勘違いされると思うけど?」
 風見は少し渋い顔をする。
「それはそれで嫌だなあ……。って言ったっていきなり決められないなー」
 本当に考えているのかよく解らない表情を作った後、風見は軽い溜息を吐きながら、ふと周りの物を軽く物色しだした……。
「変わった文字……『アリア・アシュライト』ねえ……」
 風見は一冊の本を手に取り呟く、シェルナとシェリナはその本の表紙を確認すると、眼を見開いて大口を開けていかにも驚いているといった顔をする。
「カザミ、まさかあたし達を騙してるの?」
 風見は首を傾げながら、シェルナの意味をゆっくりと噛み砕いて、やっぱり首を傾げる。
「いきなりどういう意味?」
「だって、文字読めたじゃん……あ、言葉が通じるからそれも当然かな?」
 自分のほのかな矛盾にシェルナが首を傾げる。だが、その言葉に風見は眉をひそめて、もう一度本の著名を視線を落とす。
「あ……あたし、こんな文字知らないのに……何で読めたんだろう?」
 三人共首をかしげる。互いのその矛盾に頭が混乱しているようだった。
「じゃあカザミ、この本の名前は?」
「り、『リビィスの歴史』」
 試しにとばかりに、差し出した本の著名を風見は読み上げた。
「……クレア様と同じ様な名前、知らないはずの文字が読める……やっぱりカザミは『魂を紡ぐ戦士』なんだ!」
 シェルナはビシっと人差し指を突きつけた。
「……だけど言葉の意味が完全じゃないんだよね」
 『アリア・アシュライト』という著名の、先ほどの本を手に取る風見。
「アリアは風や微風とかの意味で、アシュライトっていうのは淡い光。『風と光』っていう小説なんだよ」
「へえ……『風と光』かぁ……そうだ!」
 風見はぽんと手を叩く。シェルナとシェリナは眼を瞬かせる。
「どうかしたの?」
「あたしの名前だよ。あたしの名前は『アリア・アシュライト』。うんうん、結構いい名前だね」
「安直だねー、しかも猫被り」
「む……うるさいなー」
 風見はむくれるも、本気で怒っている訳ではない。出会ってから数時間、この誰にも砕けた調子のシェルナとは、既に大なり小なりの信頼を感じていた。
「まあ、でも……」
 シェルナの言葉の雰囲気が変わった事に、風見はきょとんとする。
「『アリア』の言うとおり、いい名前だよ」
「……うん、ありがとう」

 こうして、あたしは『アリア・アシュライト』と名乗る事になった。
 ちなみに今は、この世界に来てから2日目の午後。
 そして、この日の午前中。とある話を聞く事となった。

 この町は、王都バリスから南西に位置し、バリスから南南東には、『森の狩人の村』があるらしい。その村から、獣の皮や燻製肉等の物々交換をしに三人の狩人が来た。
「そういえば、違う世界から来たという少年がうちの村にいたけど、そこのお嬢さんもって事は、いよいよ平和になるかねー」
 三人のうちの酔っている一人はそう喋っていた。
「そ、その話ほんとですか!」
 当然、あたしはその話に食い付いたのだった。
「ああ、本当だ。んーと、五日前に来たんだっけな。名前は確か、ガイ・サンデスドとかいってたな。今頃、バリスに向かっているだろうよ。そうそう、キズクも一緒に行ったんだっけな?あいつも、もう巣立ちってことさ」
 からからと笑いながら、その人は語った。最後の方の言葉は、あたしにというよりこの町の大人に大して向けられたようで、その大人達はそうかそうかと頷いていた。
「ガイ……サンデスド……」
 その名前を呟きながら、異世界から来たという少年を思い描いた。それをシェルナは横からじっと見つめている。
「どうする?あたし達も行ってみる?その人に会いに王都バリスに」
「え……?達って、大丈夫なの?」
「許可をとってみるさ。だめだったら、この町を抜け出してでもついて行くさ。それに」
 いかにも悪戯好きそうな笑顔の後、すぐに真面目な顔に戻るシェルナに、アリアは不思議そうに見つめ返す。
「それに?」
「森の狩人の村で有名な狩人、キズクって子とも会ってみたいしね」
 次の表情は何処か清々しい笑顔で、純粋に尊敬しているような感じであった。その横でシェリナもまた、同じように顔で頷いた。
「あたしもキズクっていう人会ってみたい。アリアお姉ちゃんは知らないと思うけど、狩人として凄腕らしいんですよ」
「それに、アリア一人じゃどうにもならないでしょ。バリスに行く前に迷子になるだろうし」
「……うん、ありがとう。行こう、王都バリスへ!」

 次の日の早朝。多くの人々に見守られる中、あたしとシェルナとシェリナは町を後にした。
 そして、あたし風雪風見、改めアリア・アシュライトとしての旅は始まった。


次の話へ