第八話
「どうだった?」
シェルナは、はあ、とため息をつきながら、顔を横に振った。
あたしと、シェリナちゃんは買出しに、シェルナは誰か次の町まで付いてきてくれる人を探しに行った。
集合場所は、町の広場で、先に着いて待っていた。
「まったく、この町の男は軟弱なのよ、軟弱。『かわいいねー』だとか、『一緒に遊ばない?』だとか言ってて、いざ聞いてみるば、すぐおどおどしちゃってさー。大体、ちゃらちゃらし過ぎなのよ」
「シェル姉も大して変わんないと思うけどね」
「む、何よそれ」
「言葉通りだよ。それに、昨日の人とは会えずじまいだし。会えたとしても、協力してくれるか定かじゃないし」
「う……面目ない……」
「しょうがない、お金の事を考えると、先に進んだ方が良さそうだね」
「そうだね。あんまし、宿に泊まってられないね」
実を言うと、だいぶ懐が寂しくなってきたのだ。
ここから先に出る魔物達から、毛皮とかを剥いで売れば、相当な路銀になるらしいが、今の顔ぶれで、倒せるかは解らないらしい。
「ま、次の町でなんとかなる、と思って出発しますか」
「すごく、不安なのは、あたしだけかな……」
「あたしもそう思うよ、アリアお姉ちゃん…………」
この町の裏方に森がある。
様々な鉱石が地表でも、多く発見できた。町が鍛冶屋や、武器、防具を扱う店で賑わうのは、これが最大の理由だった。
そして、その森の木々にもたれ掛かって、座っている青年が一人いた。
「まったく、誰が女ったらしだ。あの女、ぜってーろくな死に方しねえよ」
青年は、ぶつぶつと小言を言いながら、適当にその辺の地面を掘っていた。
「またその話か。いい加減、聞き飽きたな」
青年がもたれ掛かってる、木の太い枝に足を掛け、ぶら下がっている少年が言葉をそう返してきた。少年はTシャツに、長ズボン、そして肌が露出している部分を、包帯のような物で巻いていた。
「それに、何度も言うようだが、未だ女性と手を握る事の無いという事実を、意気地無しと思われるよりかはましだと思うがな」
「それにしたってよー…………良いよなーお前は。そういう事に関心が無い分焦ったりしなくて」
「当たり前だ。俺は魔族だ。人間の女性と結ばれるなどと、思っていないからな」
「それにしたってなー。じゃあ、魔族の女性と、結ばれる気は無いのかよ」
「お前は、何度聞けば気が済むんだ?俺は『紋章』を所持しているんだぞ。一つならまだしも、ばらせば五つもだ。使用外では常に封印はしているものの、何時、『反転衝動』に駆られるか解らんのだぞ?遠い未来に夢見る幸福より、今を有意義に過ごすよう専念した方が、いいに決まっている」
「思い残すことないように、彼女つくるのも、十分有意義だと思うがな」
「俺は、そうは思わん。ただそれだけだ」
「あっそ。それよか、昨日森から結構離れてたみたいだが、なんかあったのか?」
「ああ、骸骨剣兵の気配がしたから、『処分』にあたった。ふむ、お前の話といい、最近の女性は強いな」
「?どういう事だ?」
「ああ、剣兵と一人の少女が戦っていた。他に二人、狩人らしき少女もいたが、多分、接近戦は不慣れと見えた。最初は手を出さなくても、と思ったが、疲労の所為か、少女が押し倒されて危うくなってな。結果的に助けてきた」
「三人、か…………」
「…………ピンポイントで的中か?」
「…………認めたく無いが、恐らく大当たりだ」
「それは、そうと今日はやけに、重装備だな。隣町に出張か?」
「…………出張というか、巣立ち、だな」
「お前の祖父の事はいいのか?年が年だけに、誰かが付いていた方が良くては?」
「あのじじいだ。人手はいらないだろう。ある程度金は、置いてきた。あんぐらいあれば、余生程度には十分さ」
「なんだかんだ言っても、お前の性根は優しいからな」
「うるせーな。今まで世話になった分の借りを返しただけの事だ」
「ふ、相変わらずだな。だが、俺はお前のそういう所、気に入、―――!!ここから、250メートル先、複数の魔物がいる!しかも、この近辺に生息していない種だ!恐らく、強い!!」
「ち、しゃーねーなー、どっちだ!」
「向こうだ!三人近くの人型と交戦中!急ぐぞ!」
包帯の少年は木の枝から落ちるように降り、着地した瞬間に駆け出していた。
そして、その後を青年が追いかけていった。
「く、このままじゃ、殺される」
シェルナが呻くように呟いた。
ぼろぼろではあるが、立派な鎧を着た5体の骸骨達の、圧倒的な力の前で、じりじりと三人は後退していく。
「どうすればいいんだろう。今からじゃ逃げられないし。かといって勝てるわけでもないし」
「こんな相手じゃ、『紋章』も使ったって意味無いなぁ」
「もんしょう?」
「生き残れたら、説明してあげるよ」
じりじりと後退するあたし達。
じりじりと追い詰める魔物達。
「コ カカカ ク カーー」
一気に魔物達が押し寄せてきた。
「―――!!」
あたしは、無我夢中に剣を振るった。最後の抗いだと思っていた。すぐに、剣と剣が打ち合わさり、そして斬られると思っていた。
だけど、違った。
「クカ!?」
先頭の魔物が横に吹き飛んでいった。
目の前にいるのは、あの時の包帯の少年だった。
ドガン
少年は更に回し蹴りを、魔物の顔にいれた。
「はああああ!」
後から来た青年が、大きな斧を振るい、一体の魔物を切り裂いた。
「こいつらは…………骸骨騎士か!!」
「結構な代物が沸きやがったなー」
「のんきな事を言ってる場合か!真っ向から戦えば、俺らでもやばいんだぞ!!」
「へいへい、解りました、よ!」
青年は、背中に担いでいた巨大なハーケンを振り投げた。
先に蹴り飛ばされて、起き上がろうとしたスケルトンナイトへ飛んで行き、首を斬り飛ばした。
「四対二なら、何とかなるだろ?」
「何を言ってるか。それでも、まだきつ……」
「あー!あんたは昨日の!!」
思い出したかのように、シェルナは叫んだ。
「げ、こいつは昨日の……」
青年は振り向き、露骨に嫌な顔を作った。
その隙を逃すまいと、魔物は、剣を大きく振りかぶった。
「おい!前を……!!」
包帯の少年は叫んだ。
「しま……!!」
青年が振り返った先には、既に目の前に剣先があった。
「危ない!!」
ドゴ
アリアが青年の横腹に体当たりし、大きく体勢を崩させた。
この場にアリアがいなかったら、青年は頭をざっくりと斬られていた所であろう。
「すまない。世話、かけたな」
すっ、と青年は立ち上がり、持っている武器を構え直し、
「俺が時間を稼ぐ!その後は、全部任せるぞ!!」
「了解。ヘマするなよ」
少年は、そう答えながらアリアを抱きかかえ、一度きりの跳躍でシェルナ達の所まで後退した。
「え、あの……」
アリアが顔を真っ赤にして、しどろもどろになりながら抗議の言葉を口に出そうとしていた。
「失礼だとは思ったが、時が時だけに了承を聞いている暇が無かったんだ。許してくれ。それと、後ろから奇襲をかけられたら、ひとたまりも無い。背後の守衛は任せたよ」
「え?え?え?あ、はい、わかり、ました」
いきなり抱きかかえられた事での恥ずかしさと気の動転で、うまく働かなくなっている頭でアリアは、なんとかそう返事をした。
「アリア!早くこっちに!」
シェルナが叫んだ。新手の魔物がアリアに向かって走ってきていた。
新手といっても、今まで何度も戦った事のある、狼のような魔物だった。
「援護お願い!」
「OK!」
「ラッシングの言うとおり、最近の子はたくましいなっと!」
青年は独り言を言いながら、再びハーケンを投げつけた。
今度はブーメランのように戻ってくるよう投げていた。
―――あいつと二人ならともかく、一人じゃ威嚇して時間を稼がなきゃやってられないな―――
戻ってきたハーケンを普通に素手で受け取り、再び投げる。近づこうものなら、青年の振るう斧と飛び交うハーケンの餌食になる。スケルトンナイト達は思うように、前へは出られなくなった。
「おい!まだか!」
少年の方を流し見る。
少年は虚空を見つめ、何かを詠唱していた。そして、その少年に巻かれたいる包帯のような物に、黒い反転が浮かび上がりつつあった。
「時を超え……万物……秘めし……紋……其の恐ろしき……今封印を解放せん!」
突如、浮かび上がった黒い斑点は、次第に何かの文字のようになり、最後の言葉を唱えた瞬間、文字は金色に光り輝いた。
それに伴うかのように包帯のような物が、一気にはずれていき、腕に巻きついていたものは胸の所で交差するように巻きつき、顔にあったものはマフラーのように首の所に軽く巻きついていた。
腕には仕込みナイフ、いや、剣と言ってもいいぐらいの物が取り付けてあった。
腕にとりつけてあるそれを押し出し、拳の先のところまで出した。そこから少年が大きく腕を振ると、ガシャンという音と共に30センチ強の刃が出てきた
「さて、と……」
少年はアリア達の方を向いた。
少年は端整な顔立ちで、眼が隼や鷹を連想させるぐらい鋭かった。
「伏せていろ!!」
少年がそう叫ぶと同時に、アリア達の前に飛び出した。
「失せろ」
凍りつくような声音で呟くと共に少年の剣技が唸った。
それは最早、剣の振るう音が無音で、疾風のようだった。
アリア達は目を見開いて、それを見ていた。
あっという間に、新たに襲ってきた魔物を殲滅したのだ。
「おい!ラッシング!早くこっちを頼む!!」
見ると青年は、両手に武器を持ち、必死に敵の攻撃を受け止めたりして掻い潜っていた。
「今行く!」
ラッシングと呼ばれた少年が跳躍すると、風の様にスケルトンナイト達の前まで飛んだ。
「クカカカ」
大きく剣を振りかぶる魔物達、それを目の前にして少年は冷たく言い放った。
「少々おいたが過ぎたようだな。それに、お前達は危険すぎる。悪いがこの場で消させてもらう」
再び、無音の攻撃が始まった。
身体を回転させ遠心力も重ねた力で斬り裂いているようだ。それはまったく見切れない俊敏な太刀筋だった。
あっという間にスケルトンナイト達は、間接をばらばらにされて骸へと変わり果てていった。
「ふう、厄介な敵だったが、やっぱお前がいれば安心だな」
「お前あたりは大丈夫だと思うが、他人に頼り過ぎると己を衰えさせるだけだぞ」
「わーってるよ。今更教わる事じゃねーよ」
アリア達は目を見開いていた。あまりの出来事に呆然としていた。やがて、アリアがはっとして、
「あ、あの、助けてくれてありがとうございます」
青年は渋い顔をして、
「ああ、いいよ気にしなくても」
話すのも嫌そうな言い方だった。
そこにシェルナが出てきた。
「……………………」
青年を正面から見れずにいた。
「何だよ。言いたい事でもあんのかよ」
厳しい口調でそう言う青年に対して
「……昨日はすみませんでした!!」
アリア、シェリナ、そして青年が目を丸くして驚いた。
「好き勝手に失礼な事ばかり言って本当にその、ごめんなさい……」
「…………」
青年は呆然としていた。
「……あ」
青年が声を漏らすと、シェルナは俯いて目を閉じてびくりと肩を震わした。
「いや、その別に気にして、ないから、そんな謝んなくていいよ」
「あ、ありがとう」
シェルナが顔を上げると涙目だった。
―――シェルナ…………。もしかしたら、あたしシェルナの事誤解してたかも…………―――
彼女の事を少し見直した。
そこを後ろの方から、元の包帯男のような姿に戻った少年がぼそりと呟いた。
「本当はめちゃくちゃ気にしてたくせに……」
アリアは少年の存在に気づき、
「あの、君は確か、昨日助けてくれたよね?」
「ん?…………そういえばそうだった、かな」
「あの時はありがとう。あなたがいなかったらあたし……」
「気にするな。元々、町の近辺の魔物を駆除するのは俺の役目だ」
少年は柔らかな笑みを浮かべていた。
「君らは確か仲間が必要らしいな。安心しろ。お節介な馬鹿とその取り巻きが味方してくれるさ」
それは思ってもみない言葉だった。彼らの強さは本物だ。その彼らが手を貸してくれるというのだ。
「ありがとう」
それ以上の言葉が見つからなかった。
あたし達は、新たな仲間を見つけたのだった。
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