第十話
町を超え山のふもと。
そこにあたし達はいた。
ラッシュ君の話だと、十五戦士の一人が封印された場所は近いらしい。
けど、すぐには辿り着く事はできない。
遂に魔王の追っ手、刺客が襲ってきたのだった。
「ちっ!こんな時に!!」
「こんな時だからこそ、襲ってきたんでしょ。封印を解かれる前にと」
「随分冷静だなぁ、お前。あの二人の事は心配じゃないのか」
「うん、大丈夫。だってあの二人、矢が通じる相手ならあたしより強いし、ラッシュ君もいるしね」
そう、あたし達は二手に分けられてしまった。
それはいきなりの奇襲だった。
食事の途中だった。
ある程度周りに気を配ってはいたが、敵の襲撃をあっけなく許してしまった。
で、何故ラッシュ君が敵に気付けなかったかというと、敵は魔物ではなく魔族だった。
彼は魔物を感知できるが、魔族まではできなかった。
その後、各自応戦をするが、敵は魔法を使ってきたのだ。
あたし達には魔法に対抗する術が無く、魔法による爆発が起こり、お互いちりぢりになってしまった。
そして今に至る。
今、あたし達を追ってきてるのは魔導師のような姿で二人。
恐らくリファ達も同じような奴らが襲っているのだろう。
「困ったね」
「ああ、俺らは接近戦しかできんしな」
「ん?あれ?オメガさんのでっかい斧、こないだ投げてなかったっけ?」
スケルトンナイトの戦いの時、確かにオメガさんはある斧(ハーケン)を飛ばしていた。
「ああ、これか。残念ながらこんな『狭すぎる』所じゃ投げられん。仮に外に出ても周りに木々が多すぎる」
まあ、そりゃあ、そうだ。
今は打開策を考えるため、岩場の隙間に身を隠している。こんな所であのでっかい斧を振るったら、あたしにぶつかる事間違いなし。というか振るうどころか斧を短剣を抜くスペースすら無いのだ。
「まったく、もう少し隙間がある岩場で、襲撃してほしいもんだな」
「……顔真っ赤だけど、大丈夫?」
「く……結構やばそう……」
この人はとことん女性に慣れていない。
口調こそ普通だが、会話をするだけでもかなり緊張しているらしい。
それが今、身体がかなり密着した状態である。
「せめて、もう少しこういう場面でも、オメガさんが頼りになったらなぁ」
「悪いが俺は万能じゃない」
「まぁ、今はやり過ごせてるからいいとして、シェルナ達が来てくれないかなぁ」
「人を当てにするのは感心せんな」
「じゃ、無い頭で頑張りますか」
「だな」
「アリア、大丈夫かなぁ」
「恐らく無駄な心配だろう。彼女は中々賢い。それにこういった地形での戦闘にオメガは慣れている。ただ一つ問題を挙げるなら……」
「挙げるなら?」
「唯一の遠距離攻撃である、ハーケンがここら辺では木々が邪魔で使えん、というところだろうな」
「それって限り無く大問題じゃないの?あいつらの魔法で接近できないんだか……」
ドゴン
大気を大きく震わし腹の底に響く音と共に、シェルナ達が隠れていた草むらの近くの木の一本が吹き飛んだ。それと同時に三人は一斉に駆けだした。
「追いつかれたか……。困ったものだな。勾玉紋を開放してる時間も無い」
「言っとくけど、時間稼げって言われても無理だからね」
「まさか。あんなのに5秒も相手してられんだろ?根本的にお前らではあれが一人であっても、そう長くは保つまい」
「……事実だろうけどすっごい腹立つ」
逃げながらシェルナは呟いた。
「…………あの、考えがあります」
「どういうものだ」
「はい、相手は主に爆発系、つまり火属性の魔法を使ってきているんです。そこで…………」
「……ほう。にしてもよくそんな珍しい物を……。よし、俺はその考えに乗った」
ラッシングが感嘆の声を漏らし、「考え」に賛同した。
「あたしも当然乗るわ。ただ、物が物だけにかなり惜しむけど」
「うん、だってこれは……でも、ここで死んだら……だからこんな所で死ねない!」
「……そうだね。あたしは囮だったね、そっち、しっかり頼むわよ」
「任せてシェル姉」
「…………シェルナ」
「何?ラッシュ?」
「これはお世辞にも確実に成功するとはいえん。特にお前が一番危険だ。気を付けるんだぞ」
「大丈夫。ラッシュだって最後特攻するんだから気を付けてね」
「ああ」
各々は果たすべき使命を背負いばらばらになった。
「行っちゃったね」
「さーて、どうするんだ?」
「どうにもこうにも、いい作戦が浮かばないなぁ」
「なぁ、お前は何か遠距離攻撃できないか?」
「無理」
あたしは即答した。
「ねぇ、オメガさんは魔法を弾いたりする盾とかないの?」
「魔法をか?そんな都合のいい物は無いな、いや、まてよ、あれならあるいは…………」
「何?何かあるの?」
オメガさんは赤い石を取り出した。
「これがなんだか解るか?」
「……赤い石」
それ以外に何があるというのだろう?
「これは魔石といってな、普通の魔石は魔力を封じ込めてあって、魔石を媒体として術者の魔力が小さくても、大きな魔法やらなんやらが使える物なんだ。だが、この赤い魔石は魔力ではなく、直接魔法が封じ込めてあるんだ。そして、その魔法というものは……」
オメガさんはそこで一旦言葉を止めた。
「あいつらと同じ炎系の爆発型の魔法と、敵に対して炎系の魔法を封じ込める魔法なんだ」
「なら、それを使って二人で攻撃すれば……」
「駄目だ」
「え……何で?」
「お前は、アリアは敵とは言え、魔族とはいえ『人』と同じ姿のあいつらを切れるか?」
「…………」
答えるのに一瞬躊躇してしまった。
例え、敵が人と同じ姿していても倒さなければならない。そんな事は解っていたのに。
「…………大、丈夫。あたしは、戦える」
「……魔石を投げつけても爆発で、吹き飛ばされたら話しにならん。地面に魔石を埋め、お前が囮となり敵を魔石の所まで誘導してくれ。敵の魔法を封じ、魔石の爆煙の中で俺が一気に畳み掛ける。いいな?」
「……そんな。オメガさん、あたしは……」
「お前は女の子なんだ。無理はするな。といっても囮もかなり危険だがな」
「……オメガさん」
「行くぞ。あいつらが戻ってくる前に仕掛けなければならない」
シェリナが提案した策。
それはアリア達と同じく魔石を使うのものだった。
シェリナが使う魔石も魔法が封じられた物で、魔法も含め炎を一時的にかき消す魔法である。
シェルナが囮をし、あるポイントに来たら木の上で待機したシェリナが、ダミーの石を投げて注意を引き、そこを囮のシェルナが魔石を付けた矢を放つ。あえてシェルナが魔石を投げる役かというと、あの敵がシェルナが囮である事に気づくだろう(シェルナはボロが出やすいらしい)と踏んでいるからだ。そして魔石が発動したら、ラッシュが斬りこんで敵を殲滅する。
敵は炎の魔法以外を使えるかもしれない。だが、それを使う間もなく倒せさえすれば、という策だった。
そして今、シェルナは魔術師達と対峙している。
「ほらほら、どーした。かかって来ないの?もしかして、あたしに対して臆している訳?」
「…………あと二人はどうした?」
シェルナの挑発を無視して、魔術師たちはそう聞いてきた。
「さあ。あんた達の魔法のおかげで、はぐれちゃったわよ」
「なら、お前一人か。好都合だ。先に逝って、あの世で友を待つがいい!!」
二人が同時に魔法を詠唱した。
静寂だった森に再び騒音が鳴り響く。
「く!はあ!や!」
シェルナは逃げながらも、必死に弓矢を放った。
「そんな物など燃してくるわ!」
一人の魔術師が右手をかざすと、勢いよく火炎が噴出した。
木製の矢は当然の如く、魔術師達に届く前に燃え尽きた。
―――困ったなぁ。このままじゃ本当に死んじゃうなぁ。なんとかシェリナの所まで引き付けないと―――
シェリナの所まであと20メートルはある。そこまでは何とか逃げ切らなければ、勝機は皆無に等しい。
「く、あ!」
足元で小さな爆発が起こり体制が崩れた。
そこへ二発の魔法が打ち込まれた。
―――ここで、死ぬ訳にはいかないってのに!こうなったら、紋章の力を使わないと!―――
地面に手をつき、迫り来る爆発する火球を見据えた。
―――精神紋開放、精神力増加!!―――
紋章開放と共に飛んでくる火球が、急にゆっくりとした動きになった。
正確には思考速度が大幅に上がり、物事を通常より早く理解、認識等をしているのだ。
―――魔法の軌道が解る。それに少なからず身体能力も上がっている。これで、とりあえずは生き長らえられる……―――
シェルナは爆発の余波さえも届かない所に走り去った。
「む?……なるほど、あの小娘紋章師か……。少々厄介だな」
シェルナはシェリナがいる木の下を抜けてった。
「…………さーて、魔石の矢を用意しといた方がよさそうだなぁ」
「いい加減、諦めろ!!」
魔術師は今までで一番大きな火球を生み出した。
「待て!!上だ!!」
魔法を放とうとした魔術師の隣の奴がシェリナに気づいてしまった。
「やば!このままじゃシェリナが!」
シェルナに向けていた手をシェリナに向け魔法を放った。
が、魔法は途中で爆発した。
シェリナが矢を放ち、火球に当てたのだろう。
だが、その爆発の衝撃に木が耐えられなかったのか大きく傾いていった。
「シェリナ!!く……もう、使うしかない!」
魔石をくくりつけた矢をシェルナは放った。
ヒュン ザ
矢は魔術師達の足元に突き刺さった。
「えーと、あの魔石の発動の呪紋は…………ブロークス!!」
シュアアアア
魔石から青いベールが溢れ出た。そこへ、
「シェルナ!シェリナと一緒に退避しろ!!」
ラッシングが風のように現れた。
「後は頼んだわよ!!」
シェルナの叫びにラッシングは、親指を立てて返答した。
「馬鹿め!一人突っ込んでくる気か!消し炭にしてくれる!」
魔術師は手をかざした。もちろん何も起こらない。
「何?何故だ!何故魔法が!?」
ラッシングはベールの中に入って行き、魔術師達の前まで来て、
「馬鹿はお前達だ。このベール、何も気づかんか?」
「まさか、これは火炎封じの……」
「遅い!!」
ラッシングは手にしたカタールで、狙い違わず敵の喉を切り裂いた。
二人は崩れ落ち、二度と動かなくなった。
「ふぅー、大丈夫だった?」
シェリナを背負ってシェルナは戻ってきた。
「ああ、そっちは?」
「シェリナは気絶しているだけ」
「そうか。後はオメガ達だが、どうなっている事やら」
「うん。そうだね急ごう」
「はぁ、はぁ、はぁ、く……はぁ」
「そろそろ諦めたらどうかね?青き戦士よ」
二人の魔術師が迫ってくる。
「お前一人で何ができる?今降伏するなら、助けてやらん事も無いぞ」
「罠にしか聞こえないね。どう信じろって言うの?」
「自分が『魂を紡ぐ戦士』だというのは分かっているのだろう?」
「だったら何よ?」
「つまり、お前の力。少なからず魔王様が期待しているって事だ」
なるほど、恐れている『魂を紡ぐ戦士』の力を手中に収めようって事か……。
もちろん、そんな事払い下げ願いだ。
敵に背を向け、魔石が埋めてある所を超えてった。
「無駄だという事が分からんとは。哀れな」
「無駄かどうかは、これを受けてから言って欲しいわね」
―――いいか、アリア。敵が魔石の所に来たら、こう詠唱するんだ…………―――
「ブロクスァ!!」
ドゴォン
一瞬の閃光の後、重い爆発音が響き、辺りは煙で覆われた。
そこへ、一つの人影が飛び込んだ。
それが誰だがは知っている。
―――今あたしに出来る事は見守るだけ、か……。オメガさん、どうか無事に戻ってきてください―――
ビュ ビュ ビュビュ
煙の中、オメガはひたすら武器を振るっていた。
ザクン
確かな感触。
相手の首を切り落としたのだった。
―――これで、後一人か―――
少し。ほんの少し気を抜いた瞬間、目の前に影が現れた。
自らの魔法を封じられた魔術師が、短剣を持って突進してきたのだ。
―――しまった!!―――
ガキィィン
短剣の刃先が腹部に突き刺さる瞬間、カタールがそれを防いでいた。
「まったく、戦闘中に気を抜く奴がいるか?」
そのカタールの主、ラッシングは呆れた様に言った。
「すまんな。魔法を生で放たれるのは初めてで、緊張しっぱなしだったんだ」
「な!き、貴様は!!」
魔術師がラッシングを見て驚きの声を上げた。
「ふ、お前らしくも無いな」
魔術師の言葉を無視して、ラッシングはカタールを返し一閃した。
「っが!!」
魔術師は小さな悲鳴を残し崩れ落ちた。
「ふぅー。いやー悪い悪い。まさか短剣を持ってるとは思わなくってな」
「…………はぁ」
ラッシングは溜息を吐いた。
「……お前がここにいるって事は、そっちは片付いたのか?」
「ああ、シェリナの魔石を使ってな。どうやら、お前に渡しておいた魔石で難を逃れたようだな」
「すまないな。珍しいものなのに」
「いや、死んでしまっては元も子もないだろう。良き判断だ」
「オメガさん!あ、ラッシュ、君?無事だったの!」
アリアが走ってきた。顔は蒼白であった。
オメガはこの少女にどれだけ心配をかけたかを、今になってようやく気づいた。
「ああ、もうすぐシェルナ達が来る。アリア、怪我はないか?」
「うん、…………オメガさんのお陰で、無事だよ」
ラッシングは何を思ったか深刻な顔をし、
「…………アリア?オメガ、まさかお前、彼女に手を出……」
「んな訳あるか!!」
「違うの、アッシュ君。その、これはあたしが悪いから気にしないで」
「アリア?何があったの?」
「…………」
追いついたシェルナが聞いた。
ここにきて自分の弱さに直面したんだ。
そう、それだけの事……。
皆に心配をかけさせる訳にはいかない。
「ううん。何でも無い。そんな事より先を急ごう。この先いるんでしょ?十五戦士が」
「…………ああ、そうだな。いつまでもここにいて、敵に襲われては話にならんしな」
あたしの胸中を察してか、ラッシュ君は深く追究しようとはしなかった。
「…………」
他の皆もそれ以上は聞いてこなかった。
荷物をまとめ、十五戦士のいる洞窟へと向かった。
「ふぅ……」
軽い溜息を吐いた。
―――こんなんでいいのかな……。いや、いい訳が無い。でも、あたしに『人』の形を、『彼ら』を切ることが出来るのかなぁ―――
空を仰ぐと、雲ひとつ無い快晴だった。
けれども、自分の心は厚い雲に覆われていた。
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