第三話
「ここ……は」
謎の森の中、不思議な形をした岩石が周りに置いてある。
「どこ??」
全くもって見覚えなし。
「恐らく、お前が降り立った地点よりかなり南なのだろう。ここに来た時、南には森があったろう?」
そういえばそんな気がしなくも無い。記憶を掘り返しながら、軽くうなづいて返した。
「で、ここの何処に誰が封印されているんだ?」
「この森を越えた所に祠がある。そこに誰かが封印されているはずだ」
「誰かは知らんのか?」
「残念ながらな」
魔道は軽く肩を竦めながら答えた。
「とりあえず行こーよー。時間的に押してるんでしょー」
そこをシェルナが急かした。不陰気からも、あまり静かでいられなさそうな彼女にとって、こうやって無駄に時間を消費するのは、我慢できないのかもしれない。
それに事実、もたもたしている時間は無い。
出来得る限り早く十五戦士の封印を解き、魔王アルバロスを阻止せねばならないのだ。
「はぁ、これから休息の無い日々が続きそうだ」
軽く頭を抱えながら、俺は溜息と共に言葉を吐き出す。
「でも、みんな一緒でなら乗り越えられるよ。きっと、ううん絶対に」
アリアがどこか楽しげに言った。
「楽し、そうだね。俺は後先考えると今から疲れるよ」
「ガイさんにしては珍しく弱気ですね?」
キズクが、こちらを不思議そうに見ながら、話に割って入った。
それに対し、再度溜息を吐いた応じて見せた。
忙しなくなるから弱気になっているのではない。。
キズクとの関係で、アンとシェルナの間で摩擦は起きるだろうし、これから後13人の封印を解く上に、他に仲間が増えないとも限らない。当然、数の多さから収拾がつかなくなるだろう。
ただでさえ、既に収拾がつかなくなりかけているというのに……。
「ガイ。今回、お前は見学な」
サーレンスが真横まで歩み寄って来て、ゆっくりと、はっきり聞こえるよう言った。
「……は?」
「その傷だからな。最も、我々二人でガーディアンの一体二体倒せるがな」
険しい表情を返しながら、俺は唸った。
当然従う気にはなれなかった。折角の戦闘なのに、ただ固唾を飲んで見ていられる訳が無い。
しばらくこちらを見ていた魔道は、
「キズクと、オメガ後はラッシング。戦闘が始まったらこいつを捕らえておけ」
その言葉の意図を理解する数秒の間、俺は魔道を見返しながら間抜けな顔を貼り付けた。
「ちょ、待て、魔道。いくらなんでも、俺はそんな馬鹿じゃない。わざわざ誰かに取り押さえられてなくても、じっとしているくらい訳ないぞ」
「そうか、なら常にアリア達の後ろで、出番の来ることの無い待機をしていられるな?」
「いや、それは、その…………」
その言葉に、つい口ごもってしまった。
「まさか男に二言が出るわけではあるまいな?」
魔道が含み笑いをして言った。
謀られた。まるで赤子をあやす様に、丸め込まれたのだ。
「あ、ああもち、ろんだ…………」
頭を垂れ、立っている気力さえ失いかけながら、何とか言葉を返した。
「ねえ、それってあたし達も戦わなくていい、ていう意味になるんじゃないの?」
不満げにシェルナが口を突っ込んだ。
「そうは言ってはおらん。危険な魔物は俺らで処理する、と言っているのだ。この近辺強い魔物が発生し出しているのだ」
「そう、なのか?俺の時はたいした魔物いなかったぞ」
魔道の言葉に、気力を取り戻した。
「一ヶ月も前の事だろ。この一ヶ月間大きく変ってきている。魔物による町襲撃。国王の暗殺。他にもきっと起こっているだろう」
その言葉に、一瞬だけある光景が脳裏に映った。
あの名も無き村は大丈夫なのだろうか……。
そもそも、あの村ではあの時ですら、襲撃されたら全滅しているだろう。
「何を辛気臭い顔をしている?ほら、ついたぞ」
いつの間にか森を抜けて、目的地に到着していたようだ。だが、
「…………」
「どうした?」
「えーと……」
目の前にあるのは巨大な岩壁。
「この上?」
「ああ、そうだがどうした?」
「いや……てっきり洞窟かと思ってた……。いや、そもそもこの上じゃ風雨に晒されて、風化しているんじゃないのか?」
「ああ、それなら心配無い。ある結界が張られている。あそこは何も通す事は無い。封印が解かれるその瞬間まではな」
もう一度見上げ、はー、と声を漏らす。と、横から肩を叩かれた。
「ガイさん……ここに残っていた方がいいんじゃないんでしょうか?傷に障るといけませんし」
キズクは心配そうにこちらを見つめながら、そう提案した。
「いや大丈夫、だと思う」
「ガイさん……あたしも残っていた方がいいと思うんだけど……」
アリアにまで心配された。
「そーだよー?病み上がりなんだからさぁ」
シェルナが何故か笑いながら言った。
そこで気づいた。
これはまずい……。魂を紡ぐ戦士として、少なからずメンバーの中心に立たされていたのに、何か凄く頼りな下げな位置にまで降格している、と。
「ガイ、早く行きたいのだがどうする?」
俺の考えている事を知るはずの無い魔道は、俺に決断を迫った。
「行く!この程度なら行ける!!」
「何をムキになってんだ?」
「いや、別に」
自分の立場の為にもここらで踏ん張らないと……。
それは最早、使命感とさえ成りつつあった。
「……はぁ」
それ以外の感想は中々出なかった。
断崖絶壁のフィールド。
「落ちたら、死ぬよな……」
「当たり前だろ……ほんと馬鹿だな。試しに落として上げようか?」
アンが嫌味っぽく言った。
それに対して、反論をしようとした時、
「ね、ねぇ……」
シェルナが困った様に会話に入ってきた。
「どうしたの?シェルナ」
どこか具合でも悪いのかと思ったのか、アリアがシェルナに駆け寄った。
「あ、うん、ごめん、シェリナを中に入れていていい?」
この絶壁は、内部がずっと階段で頂上に来れるのだ。中というのは階段の所へ、という意味だろう。
「シェリナ…………、高所恐怖症なの。せめてここが木の上なら平気なんだけど…………」
狩人として普段は木に登ることがあるから、木なら一応は平気なのだ。
「そうだったの?」
「ご、ごめんなさい……。足を、引いちゃって……」
青い顔をしたシェリナが申し訳なさそうに言った。その額には脂汗が浮かんでいた。
「いいって。それより無理しちゃ駄目だよ」
まるで姉であるかのようにアリアは言った。
「ありが、とう。アリア、お姉ちゃん」
「でも中にいるだけで大丈夫なのか?」
高い所にいるのに変わりはしない。中に入っただけでは意味をなさないと思った。
「そうでもないみたい。意外と楽っぽいよ」
そう言って、シェリナの付き添いでシェルナは階段の方に向った。
「さてと、サイレンス。お前の腕、なまり腐ってないよな?」
「馬鹿言うなよ、魔道。お前こそやられんじゃないぞ」
二人は武器を持ち、身構えた。
「行くぞ!!」
二人同時に叫び、まだ完全に動き出していないガーディアンに向って行った。
「強いなぁ」
二人の戦いぶりを見て、感嘆の言葉を漏らした。
ガーディアンと互角に、いやそれ以上に戦っている。
今はアンとシャナ、リーナにアリア達と傍観している。俺の周りにはオメガ、ラッシング、キズクが待機している。
律儀にも魔道の『言いつけ』を微妙に守っている。
「ねぇ、少し聞いて言い?」
アリアが何処か暇そうに言った。
「ん?何だ?」
「ガイさんって、強いん、だよね?」
何故だが解らないが、一瞬固まった。
魔道とサイレンスの奏でる旋律をバックに俺は固まった。
「いや、強いよ。うん強い強い」
まるで自己欺瞞をしているかのようだ。
「ガイさんは今はこんなですけど、本当はすっごい強いんですよ。一人でガーディアンを二体を倒したんですよ」
確かにあの時、俺は奴らを倒した。
が、それは飽くまで俺自身の力ではない……。
「ああ、だがあれは実際には俺の力じゃない」
「え?」
「とにかくあれは俺の力じゃない」
「……でも、ガイの方は二体だったんだ。あたし達は一体しかいなかったよ」
「へぇ、そうなんだ」
何でこんなところで他愛も無い……か解らんが話をしているんだろう…………。
本当なら先陣を切って戦ってるはずなのに…………。
「……戦いたい?」
ふと口を噤んだ後、アリアは俺に向かって聞いてきた。
「……解るか?」
「うん、何となくうずうずしていると言うか、なんと言うか」
「そっか、解りやすいかな?」
ふぅと息を吐く。
「ガイさん……何度もいうようですが」
「解ってる。戦わなきゃいいんだ……いや、そうもいかないようだな」
辺りにさっきが渦巻きつつある。
どうやら完全に包囲されているようだ。
「オメガとラッシングは、シェルナ達の所に行ってくれ!」
「しょうがないな。まぁ一応文句は言われないだろう」
ぼやくオメガを置いて既に、ラッシングは階段を駆け下りていた。
「相変わらず速いなぁ」
オメガがその後に続く。
姿を現し始めた魔物に集中する事にした。魔物は白骨した姿に鎧を着こんでいた。
「ガイ様は退いて下さい」
「嫌だと言ったら?」
その一言に双子のハーピーは、怖いぐらいに顔を険しくした。
「ガイ様は怪我しているんですよ!お願いですから安静にして下さい」
この状況下、幾十にも魔物に囲まれた状態。
男はキズク一人で俺は後ろで休んでいろ、か。
「……だな」
「え?」
「無理だな。俺がまさか、一人でのうのうと休んでられる訳ないだろう」
「ですが!!」
「気分が昂ぶってんだ。戦意を燻らせるのは主義に反するのさ」
シャナ達の静止の言葉を無視して、敵陣に斬り込んでいった。
「はぁぁぁ!!」
気合と共に幾度も銀色の閃光が、迸っては返り、また迸る。
一体、また一体と確実にその数を減らしていく魔物の群れ。
七体あたりを両断した所で、一体の魔物が突きを繰り出してきた。
横にステップを踏んで悠々と交わす。
「ほら!この程度なら負ける訳がねぇよ!!」
縦横無尽に駆け回り、破壊神の如く薙ぎ倒す。
破壊神……もしかしたら『あいつ』は破壊神なのかもしれないな……。
元いた自分の世界。そこでは、自分を破壊神とさえ認識していたのに、ここで改めてその言葉の重みを感じるとは思わなかった。
そして、その神に巣食われてる俺もまたやはり……。
そこまで考えていると、初めて剣が受け止められた。
「強いねぇ、君」
いつの間に現れたのか、それは青年だった。
「ちぃ!」
鍔迫り合いの状態から、相手を押し返して一度間合いを空けた。
「誰だお前は?また魔王の刺客か?」
「ハッ、魔王なんて関係ないね」
見下すような笑みを浮かべて、青年はそう答えた。
「じゃあ、何で魔物がお前に付いてるんだ?」
魔王の息がかかった者でもないのに、こんな凶悪な魔物を率いれるだろうか?
「俺の子分ってとこかな。俺はなぁ、もっと力が欲しいんだ。誰にも負けないような力がな」
「……だからなんだ。俺らに何の用だ?」
俺が殺気を込めて言い放つと、それに応じるかのようにキズク達が身構えた。
「あんたらさあ、伝説の英雄だろ?だからさ、」
一瞬何かが膨れ上がった。それは憎悪とも何ともいえないものだった。
「その力、俺にくれよぉぉぉ!!!」
一瞬黒い閃光が飛んできた。
「な!」
いきなりのそれに、避け様が無かった。
その閃光に包まれる中、落下するような感覚を一身に感じ、俺の思考は白濁した。
次の話へ