第五話
声が聞こえる
「グレム、お久しぶりね」
「エイリスか、何百いや何千年ぶりだ?」
「解らないわ……私自身どのくらい眠っていたかは知り得ないの」
「そうか……似たようなものか」
「にしても貴方は……」
「む?」
「ずいぶん誠実な子の魂に受継がれたのね」
「そうか?そうだな……見た目は誠実そうだが純粋な破壊神だ」
「この子が破壊神なら貴方は破滅そのものよ」
「お前は気付いてないだろう……だがなこいつは列記とした破壊神だ。勿論、バーサーカーのような自我のないものじゃない」
「そうかしら?とても優しい子に思えるわ」
「確かに優しい……だが破壊への意思や力への意思がある。恐らく俺を超越するだろうな……」
「……」
「お前が昔言っていた言葉通りの存在さ。天使の優しさ、鬼の厳しさ」
「それがこの子の中に?」
「それがこいつの中にだ」
「……あまり信じられる話ではないわ」
……
これは一体誰と誰の会話なんだ?
「こいつは俺の力でも、クライムの力でも無い大きな力がある」
「……大きすぎる力は滅びも生み出すわ」
「それを心配するのは、こいつが人間共に仲間が殺された時だろう。そういうお前の方はどうなんだ?」
「あの娘の事?」
「あいつは少しでも開花しているのか?」
「そうね、あたしの予想を越えているわ」
「ほう……そいつはいい話だ」
「『浮力の反動』を理解できたようよ」
「ガーディアンか?」
「ええ、それに予想を越えてる、というのは」
「というのは?」
「あの娘、とても強い娘よ」
「なんだそれは……?まあいい、お互い良き方向としておくか」
「ええ、良き風が流れているわ」
それにこの声は……
「あの破壊神……?」
「え……今の声は?」
「ほう、流石だな。この空間に意識が入ってこれようとは」
「そんな……こんな仮想空間に来られるなんて信じられない……」
「言ったであろう 大きな力を持っていると」
「何の話かは知らんが……丁度いい、答えてもらおう」
「何をだ?」
「とぼけるな。お前が誰なのか、そして俺は一体何なのかを」
「グレム……」
「構う事は無い。こいつならいずれ、こうなると想像していた」
「いえ、私が言っているのは、やはり貴方が何かを説く位置にいるのは無理であるという事です。混乱させてどうするのですか?」
「……むぅ」
「……それで、答えは?」
「ああ、そうだな……せめてピースだけでも教えてやろう」
「ピース?」
「俺の名はグレム、古の破壊神である」
「後は自分で探せ。お前には手も足も眼もあって、仲間がいるのだろう」
「待て。俺は一体何なのかは?」
「それは悩む必要がない事。お前が神経質なだけだ」
「何だと……?いや、それにしたってまだ解らない事が多すぎる!」
「焦ら……もかな……ず解る時が……
「待て!待ってくれ!!まだいくなーーー!!!」
「まだいくなーーー!!!」
「きゃっ?!」
ガイの叫びに傍らにいるアリアが驚きの叫びを上げた。そこは宿屋の一室のようだった。
その部屋にはガイがベッドに上半身を起こし、その横でアリアが看病していたようだった。
「はぁ……はぁ……ここは……?」
視点の定まらないガイは、呼吸を整えながらアリアの方に向いた。
「ガ、ガイさん……。大丈夫?どこか痛くない!?自分が解る!?」
「あ、ああ大丈夫だ。てか最後のはどういう意味だよ?」
「だ、だってガイさん……あの時すごく怖か、変だったから……」
あの時の事を思い出したのか、アリアは少し竦んでいる。
―――そうか……あの時俺は……―――
「その、あの時はすまなかった」
ガイはばつが悪そうに頭を垂らす。
「ガイさん……ううんいいの、あの時は疲れてたんだよね」
理由にならないそれを、アリアは自分に言い聞かせるように言った。
「本当にすまなかった……それにしても、ここは?」
「ここ、村なんだけど名前が無いんだって」
―――という事は『原点』に戻ってきたわけか……―――
初めて人のいる所に辿り着いた村。ガイはそこに戻って来たのだろうと悟った。当然、ここはその名無しの村である。
「あれから他の皆は?」
「ああ、えっとね、あれから十五戦士の二人を封印開放したの。で、今はその二人がこの近辺の調査に村から出ている以外は、皆この村にいるわ。ガイさんが回復次第バリスに戻るって」
「……あの後、俺が気絶してからどうなったんだ?」
ガイは少し渋い顔をする。
「うん。あたしがガイさんをあの絶壁まで連れてって、シャナちゃんとリーナちゃんにこの村に送ってもらったの。それからあたし達はもう一人を解放しにいったの」
「……すまなかった。本当にすまなかった……。迷惑かけるどころかあの時、暴言まで吐いてそれに……」
「ガイさん、その事はもういいって……」
「いや、よくない。これはとても重要な事に繋がっているんだ。俺の事はいいから、至急全員をここに集めるよう言ってくれないか?」
「うん、分かった」
「すまないな……」
「ううん、大丈夫だから」
「そうか……そうだ。それとな」
「?」
「今更だが、その『さん』付けはしないでくれ。何というか……こそばゆい」
「そっか。うん、解った。あ、ガイさ、ううんガイ」
皆を呼びに行こうとガイに背中を見せるも、アリアは足を止めて振り返った。
「あの時……助けてくれた時すごく嬉しかったよ。ありがとう」
「……」
「じゃ、行って来るね」
「ああ……」
部屋には一人となった。
「アリア……怖い思いさせたのにありがとう、か……」
一人残ったガイの表情は暗く沈んでいた。
「……」
不意に、ガイは両手で顔を思い切り叩いた。その音は部屋に空しくも、とても気持ちよく響いた。
「で、大丈夫なのか?」
「ああ、まあな」
心配とも呆れともつかない表情で、魔道はガイを見下ろしていた。
「ガイさん、僕達を呼び出した用って一体?」
「皆に聞きたいことがあるんだ。できる限り詳しく話して欲しい」
「それってあたし達が何か隠してるとでも?」
アンが嫌悪を振りまいてガイを睨み始めた。
「いや、ただ単純に俺が教えてもらっていなかった事だ」
「……何かあったっけ?」
「ああ、古の破壊神グレム。これに関して教えて欲しい」
その場にいる者達、アリアを除いた全員が驚きの表情をした。
「なに……?」
「ガイさん……どうしてその名前を?」
「ああ、色々とあってな。で、教えてはもらえるのだろうか?」
「……もう少し、聞きたい事を具体的にして貰わないと、あまり多すぎて今日中に教えられないな……。しかも、この世界で知らない者はいないくらいの知識だけでな」
「あー……」
その言葉にガイは少し困った様子だった。どういった事というところまでは考えていなかったからだ。
「どういった存在だったか。後、そいつの簡単な歴史みたいなのでいい、かな?」
魔道は少し長くなるぞ、と前置きしてから一つ咳払いをした。
「破壊神グレム……それはこの世界の始まりの存在と詠われている。この世界の始まりには二人の神がいた。それがその破壊神グレムと治癒神エイリア。二人は互いに相反する力としてずっと敵対していた。何百、何千と年月が過ぎたある日、異世界の魔物達が侵略を始めた。当初それは然したる事ではなかった。が、次第に強まる勢力と魔王の出現。二人はこの世界の危機を感じ、協力し合い彼らと戦う事になった。その後魔王を滅ぼしはしたが異世界からの『穴』が閉じる事は無かった。この先再び、魔王達の侵略が起こりうる事を考えた彼らは、互いにこの世界のこの大地の守護神として姿を消していったとさ……」
「それって……神みたいな存在になったと?」
「これ自体が恐ろしいほど昔の話だからな……真相はどうあれ、話をそのまま解釈するとそうなる」
「で、お前はどうして急に破壊神グレムの事を?」
「……まずは俺らの旅を……その全てを話したいと思う」
「訳が分からないが……まあいいだろう」
「……ガイさん。その、悪いとは思いましたがリファさん達の事は話しました」
ガイはその事を今も引きずっている。決して露骨には見せないが、隠しきれてもいない。だからその傷に触れないよう、キズクはガイの目を盗んで話したのだ。
ガイにとって、余計なお世話であれど、この少年の気遣いは嬉しくあった。
「そうか、ならかなり省略できるな……。あの数日前、俺はとある魔族の刺客に変な術をかけられてな」
「呪術、か」
「らしいな。俺も話を聞いただけだが、どうも己の欲望を、奥底にある欲望を引き出す呪術らしい。その呪術をかけられた俺は意識を無くしたんだ。その直前、確かに何者かの声を聞いたんだ。殺せ、と」
「……それが破壊神グレムと?」
「まあ待て。話はまだまだ続く。これも聞いた話で悪いが、俺は狂ったかのように敵を切り裂いた、らしい。おまけに魔法らしきものも使ったとか。そして、その後ガーディアンとの戦い。水中に落ち、出血多量でやばいんじゃないかって時に、また何者かが声をかけてきたんだ。『あの時は力を注ぎ込み過ぎた』と。その者の力を借りてガーディアンを倒したんだ」
「それで他には?」
「最後になるのがあの倉庫の様な所での事だ。俺とアリアは謎の毒に侵されてしまい窮地に立たされた。だから、俺は今まで聞こえていた声の主を呼び出した。声の主、そのときはグレムと知らなかったがそいつと同化し、敵を倒すことに成功した。最も、グレムとの同化の所為で、破壊神になりかけていたようだがな……」
「それに耐え続けた結果、意識を失うまで体力を消耗したと?」
「そんなところだ」
「……ふうむ」
魔道は腕を組んで唸る。その様子にガイは小首を傾げた。
「なんだ?何か変だったか?」
「お前が破壊神グレムであり『魂を紡ぐ戦士』だというのか?考えづらいな。いくらなんでも出来過ぎている。それにどうやってグレムの名を知ったんだ?」
「俺がさっき目覚める直前に会話をしたんだ」
「会話だと?」
「グレムという名とエイリスという名の人物とな。いや、エイリスという方は話していないか」
「何だと?」
「彼らは久しい再会のような言い方だった。ほんの少ししか話すことはできなかったが、あいつがヒントとして古の破壊神グレム、と言うのを俺に教えてすぐに目を覚ましたのさ」
「つまりお前の話から察するに、治癒神エイリアもまた誰かの中に存在するという事か」
「そこら辺の判断はお前に任すとしても、もしそうなら……」
ガイが視線を向けると、皆その方向へと視線を移した。
「え……?あたし?」
アリアは瞬きながら自らを指した。
「ようやく確信できるから話しておきたい事がある」
今まで聞き手に回っていたラッシングとオメガが、部屋の真ん中へ少し歩み出た。
「俺達の見間違いだと思っていたが、どうやら本当の事のようだな。俺達の方でのガーディアン戦で、アリアの額には確かに飛翔紋が存在していたんだ」
「飛翔紋?」
初めて聞く単語にガイは再度、小首を傾げている。ちなみに今度はアリアも傾げていた。
「その二人の守護神には紋章があるんだ。力に応じて三段階に分かれる紋章だと言われている。二つの紋章の三段階を、この計六個の紋章を『飛翔紋』と呼んでいる」
初めの一段階目は両方とも同じ形ではあるがな。ラッシングの解説に、魔道はそう付け足した。
「あの時、本当にそれがあたしに?」
アリアの言葉にラッシングとオメガは静かに頷いた。
「アリアは何か聞かなかったか?自分の頭に響くような声が聞こえなかった……?」
「えーと……」
あの時の記憶をアリアは掘り起こす。確かにあの時、誰かの声が聞こえていた。とても優しくて、とても柔らかい女性の声だったのをはっきりと思い出させる。
「うん……誰だか解らないけど女性の声が聞こえていた。その声は確かにガーディアンを倒すヒントを教えてくれた。それと……どういう意味だろう?」
アリアは言葉を区切って少しの間悩む素振りを見せた。
「多分、あたしに近い存在、みたいな事を言っていたと思う」
「治癒神エイリスと破壊神グレム……。これは一体どういう意味になるんだ?」
オメガがサイレンスと魔道の方に向いた。
「解らん。俺らはその二人への接触は一度も無かった。根本的にその二人は守護神のようなもの。目で見える存在で無いとされていたんだ」
「そうか……」
後頭部を掻き毟りながら、ガイは困ったような素振りを見せた。
「そうだ……ちょっと気になったんだが」
一同はガイの方に注目した。
「封印を解いた二人っていうのはまだ戻ってこないのか?」
何度見回しても、見た事ない顔はいないのだ。
「……」
魔道は驚くような素振りを見せた後、顔を少し伏せた。
「どうかしたのか?」
「二人に戻ってくるよう言い忘れた」
魔道がぼそりと呟いた。
「あいつらを呼んどくのを忘れてた…………」
「酷い奴らだな……お前ら」
「まぁまぁガイ。どうせ後2時間後に戻ってくるように言っといたんだ。気にすることは無いさ」
のんびりとサイレンスが割って入ってきた。
「いや、気にしてやれよ」
「ちなみにどういう奴かは会ってみてのお楽しみな」
ガイの言葉はサイレンスにあっさりと流された。
「で、お前の方はどのくらい大丈夫なんだ?」
魔道はガイに状態の確認の言葉を吐くと、それに合わせて数名が不安そうにガイを見つめた。
「明日には動けると思う。その為にも今日はもう寝させてもらう」
「あんだけ寝ててまだ寝るか。まぁ、今はゆっくり休んどくんだな」
一人二人と、邪魔にならないように部屋から出て行く。その姿を見つめながら、ガイの表情は何処か険しさを見せた。
「……」
「ガイ……?」
「俺はリビィスでも無い世界、『地球』という所で生まれ『地球』で育った……。なのに何故俺にはここの世界の守護神となった、破壊神が巣食っているのだろうか?俺は一体何なんだ?」
「ガイ、お前はその答えを求めるのか?」
「……ああ」
魔道の問いかけに、ガイは静かに頷いた。
「それは答えが存在しない問いなのだろう。いいかガイ。自分が何か、なんて解るわけが無い。何故なら何か、なんて決まってないからだ。唯一答えが存在しているとすれば、お前はお前、己は己でしかない。そんな答えだろうな。ガイ、お前が何なのかなんて『ガイ・サンデスド』それだけだ。いや、お前の言う『地球』とやらでの名前がお前自身なのかもしれないがな」
「……そうか。それにしても、お前は俺の師父に似た説き方をしている」
「そうなのか……?まあいい。今はとにかくゆっくり休め」
「ああ、そうするよ……」
ガイの身体は今だ重く感じられ、瞼を閉じると共にベッドに飲み込まれるような感覚に落ちていくのを感じた。
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