第六話


四信が一人、蒼き閃光の清蜀。
四信士が一人、大地を操りし石礫。
少年といっても差し支えない程度の年のこの二人が、新たに目覚めた者達だった。
「後一人で四信ってのが揃うのか?」
「ああ。清蜀、石礫、俺とあと鳳光という者がいる」
「そういえば……魔道には二つ名みたいなのは無いのか?」
「四信が一人、魔に堕ちし武人、魔道。最も、そういう風に呼ばれていたのは、魔王を倒してから封印されるまでの僅かな間で、俺らにしてみれば定着のての字もない訳だ」
「なるほど。にしても……失礼だとは思うが、こんな子供が十五戦士とはねえ……」
ガイは清蜀と石礫を交互に見つめた。あれから翌日経った今、二人とも辺りの散策から帰ってきて初めての自己紹介をした。
「へ〜。あなたがクライムの魂を継いでいるのか〜。とてもあの変人と同類には見えないね」
清蜀はとても暗い青色の髪を揺らしながら、前後左右とガイの周りを周りながら見上げていた。ガイ自身、気付いた事なのだが、どうやらここの世界の人や魔族の髪は、明るい色こそしていないものの、暗い色の赤や緑、紫などの色をした者が多くいるようだ。更に言えば、髪の色と瞳の色が同じであるようだ。
ちなみに石礫は大地、もしくは岩石を思わせるような土色をした堅そうな髪である。清蜀も石礫も共に十三歳なのだが、石礫は年不相応な目つきである。本人曰く、生まれつきだそうだが、言動と照らし合わせてみると、ガイは彼が年上ではないかとつい疑ってしまうのだった。
性格はと言えば、清蜀は幼さを残している感じで、よく破顔して笑い人懐っこいのである。決して、人を疑う事を知らないわけではないらしいが、とにかく不安になるくらいに元気いっぱいな人懐っこい子供と言ってしまえる。それに対し石礫は、そこそこに口を開くも決して多くは喋らない。誰に対しても少し口の緩いラッシングと言った感じである。この二人、性格こそ似つかないものの、輪郭や雰囲気、そして仕草が妙に似ているのだ。
「にしても、お前達は双子か何かなのか?」
ガイの疑問に、石礫は首を横に振りながら答える。
「ただの従兄弟だ。同じ村で生まれた上にあそこは小さいところだったからな。幼馴染でもある」
ガイはほう、と一つ相槌を打った。
今ここにいるのはこの二人とガイとアリア、サイレンスに魔道だ。これからの進路についての会議、といったところだ。他の者達は、こちらに全てを任すという姿勢であるのだ。
「それじゃ、そろそろ本題に入るとするか?」
「そうだな。現在、バリス城から移動できるのが、東西にある封印の祠近辺の二箇所。それと、険しい山脈でほぼ隔離されている北の白銀の国『スノーフィールド』という所の三箇所だ」
「白銀の国スノーフィールド?もしかして雪国とか?」
雪が珍しい所で育ったのか、アリアは目を輝かせている。
「まあそんなところだが、それについては追々説明していく。まずバリスから東西にある祠には三銃士の残り二人がいるんだ。二人の封印を解き、次にスノーフィールドに向かう」
「それで、そのスノーフィールドというのは?」
「先に、スノーフィールドそのものの説明から入る。先にも言ったが険しい山脈が連なっており、陸路で超える場合、通常は洞窟を抜けていくのだが、その洞窟が入り組んでいる上にとてつもなく長い。封印される前の時は洞窟もそれなりに整備されてはいたが、やはり険しく長い所為もあって、北の方までバリスが統治するのは難しいとして、スノーフィールドとして独自に統治させるようにしたんだ。山を越えると常に雪が降り続ける地だ。山脈を隔ててこうも気候が違うのは今だに謎ではある」
魔道が一旦説明を切った。
「ここまでで何かあるか?」
「はいは〜い。僕は始めの方で封印されてて解らないんだけど、八機士の皆は何処に封印されたの?ここにはまだ一人もいないみたいだし」
まるで生徒のように、清蜀が魔道に質問した。
「別に北の方に集まって封印されてる訳ではない。ただ、彼らの能力で封印している場所が造られた空間なんだ。あいつら……その入り口をスノーフィールドの僻地に作ったんだ」
「どのみち、北の方にはいかなくてはか。にしても、彼らは空間を造るなんて能力があるのか?」
「正確には独自の空間を持っていると言った方がいいだろうな。まあ、滅多に使わないからとかいう程度の理由で、今使用しているのだろうが……」
ガイは相槌を打つと、サイレンスの方に向き直った。
「サイレンス。お前に頼みたい事がある」
「俺にか?」
「ああ、俺らが残りの三銃士を二日で封印を解く。その間にお前は徹底的に、石化させる呪術の情報を集めてくれ。特に解きかたを中心的にしてもらえると助かる。どうだ……?してもらえないだろうか?」
「何だよ……厄介払いか?」
「そういう訳じゃない。ただ、王が暗殺された事を考えると、やはり誰か一人は残しておかないと不安なんだ。そうなると、十五戦士がいいと思ったんだ」
「ま、ちゃんと理由があるなら仕方がない。ま、期待してな」
「助かる……」
ガイはできる事なら、一刻も早く彼女達を助けてやりたいと考えているのだ。皆、それを察しているのか必要以上に突っ込む事はなかった。
「にしても二日といっても、転送先の傍に封印があるわけじゃないんだぞ?」
魔道はガイの考えが少々杜撰であると言っているのだ。勿論、その事はガイ自身理解している事だ。
「解っている。飽くまで目標だ」
「ふむ……まあいい。とりあえず確認としてはこのくらいだ。スノーフィールドは寒いからな……。知識も殆ど無いお前ら二人はそれなりの覚悟をしておいた方がいいぞ」
「ああ、寒いのは好きじゃないから覚悟しとくよ」
顔を渋くして頷くガイに対し、アリアは今だ目を輝かせている。本当に雪が楽しみなのかもしれない。
「俺は他の連中に伝えてくる。今日の午後にはバリスに戻り、一日くらいゆっくり養生してから東西の封印を解きに向かう。出発の準備をしとけ」
魔道はそう言い残し部屋を出て行く。それに続きサイレンスも暇だから、と付いていく。
「……何というかなぁ」
「どうかした?」
「まるで魔道がリーダーだな……」
「仕方がないでしょ。ガイは強いらしいけど、土地とかその他諸々、この世界での常識が足りないんだから」
冗談っぽく清蜀はガイを茶化す。
「今まで魂を紡ぐ戦士、って事で前に立たされていた気もするんだが……。いや、前に立とうとした事も無いリーダーを気取っていたが、こうも何か見せられると、ああ、所詮俺はこの程度の器なんだな、皆をまとめるなんて無理なんだな、って思うのがもどかしいと言うか何と言うか……」
ガイはそう言いながら頭を掻き毟る。魔道に対しての憧れ、敬意、そして幾ばくかの嫉妬が混じり合っているのだ。
「確かに、『前の時』も魔道はいいまとめ役だった。でもいざ、て時になると、こんな時ならクライムは……なんて状況になるんだ。大丈夫、ガイの眼は確かに皆をまとめる、それ以上の器を持っている力が見れるよ」
「そう……かな?」
ただの少年のような印象のある清蜀は、何処か大人びた物言いをしたのに、ガイは少し驚かされていた。
「何を心配しているかは知らないけど安心しなよ。すぐに皆の中心がガイになっていくから」
「何を根拠に言っているか解らないがそういう事にしておくか……」
「そそ、そういう事にしときなって。さてと、そろそろ荷物まとめといた方がいいんじゃない?僕らは下に行ってるよ。行こ、石礫」
「ああ」
こうして、清蜀と石礫の二人が席を立ち、部屋から出て行った。今この部屋に残っているのはガイとアリアだけとなった。
「ガイ」
アリアも部屋から出ようとしたが、扉の前で立ち止まってガイの方へと振り向いた。
「ハーピーの人……リファさんと、リフェルさんの呪いが解けるといいね」
「……」
その言葉に、ガイはしばらく俯いて黙り込んでしまった。アリアはガイの機嫌を損ねる発言だったのかと思い狼狽しだすと、ガイは顔を上げてアリアを見据える。
「ありがとう。だが、必ず解いてやるのさ。絶対に」
ガイは、それでも今はただ進むしかない。魔王アルバロスを倒す為にも、前へ進むしかないと再度決意するように、胸中で自分に確認していた。
だが、それと同時に漠然と思う事があった。魔王を倒した後、俺らはこの世界において必要性を失う。その後は一体どうなるのか……?先人が行った魂を砕き、とはどういう事なのだろうか?
ガイはそこでその考えを止めて、出発の準備にかかった。やはり、今はただ前に進むしかない。そういう結論に至ったのだ。

風と共に歌声が流れてくる。
夕暮れの草原に一人の女性が立っていた。ただ一人で、綺麗でそして悲しい唄を歌い続けていた。
「お嬢さん。そろそろこっちに来て下さい。食事が……」
近くに木々が生い茂る場所がある。そこから現れた青年が女性に声をかけたのだ。
が、お嬢さんと呼ばれた女性は手に持っていった槍を、声をかけた青年に向け睨みつける。
「その呼称は気にくわない。次、それで呼んだら躊躇わず殺すぞ」
「じゃあ何て呼べばいいのです?名前で呼んではいけないのでしょう?」
「当然だ。わたしの名前で呼んでいい人間はあいつらだけだ……」
こんな感じのやりとりは既に何度か繰り返している。が、相変わらず、女性の方は呼んでも構わない呼称を言わないでいる。ただ単に、それが思いつかないだけなのかもしれないが。
「とにかく、ご飯が冷めてしまいますよ。早めに食べてくださいよ?」
「解ったよ……」
青年は再び木々の中へと消えていった。
夜の帳が降り始めた草原に、綺麗で悲しい唄が流れていく……。


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