第七話


 翌日、村を出て空間転送を使いガイ達はバリスに戻った。
 今までそうだったのかは解らないが、、部屋の外の通路で兵士達が警備をしていたのだった。
 その兵士達に十五戦士のうち、二人の封印を解除に成功し、全員が無事に帰還した事を話すと、頼んでもいないのにアリーナ姫の下へと伝えに行ってくれた。
 その後、アリーナ姫は少しでも労いたいとの事だったが、ガイはそれを辞退すると、次への封印の祠に向かう準備を指示した。当然、何名かは不満の声を上げるも、ガイはこれを帰還したらしばらくの休息を取る旨を伝えると、流石に不満を言う者はいなくなった。
 食料等の消耗品を買出し、一時間程で全員が再びこの転送の行う部屋へと戻ってきた。
 今回の封印の祠は、それぞれバリスを中心に東西へ離れており、二手に分かれて行動をする事になったのだった。
 そのメンバーはというと、アリア、ラッシング、狩人姉妹、シャナ、アン、そして魔道。もう一組はガイ、オメガ、キズク、リーナ、清蜀と石礫となった。
 ちなみに、このメンバーの中に、サイレンスが含まれていないのは、彼は今回、この王都バリスで呪術に関して調べてもらう為だった。物が物の為に、ちょっとした古い文字でも少しは読めるという理由での人選は、最もといえば最もではあるものの、やはりのその戦力を失うのは痛手である、と言わざるを得ない。
「随分とバラバラだが、『元々』の二組に分かれたほうがいいのでは?」
 ガイの考えた編成に、魔道は少し不安げな様子を見せるのだった。
「戦力を考えると、それをすると片方がな。それに、俺達は等しく仲間なんだ。元々も何も無いだろう?」
「言っている事は正しいが、実践での連携がとれなければ……まあいい、だがそっちはいいのか?どうにも決定打に欠ける面子に感じる」
「そうか?俺はそうは思わない、十分に戦える。ま、お前と俺の考える決定打が違わなければの話だがな」
「とにかく、このメンバーで行く。異論は無いな?」
 全員ただガイを見る。その無言の肯定にガイは一人、首肯をして決定を示した。
「じゃあ俺達から先にいくぞ?」
 魔道が先行して部屋の扉を開ける。
「ああ。二日以内だ。二日以内に全員無事に帰還するんだ。いいな?」
 魔道は心配するなと呟きながら部屋に入っていく。アリア達はそれに続いて部屋に入っていった。
「俺らは西、確かフリックだったか……。転送先に敵がいないとも限らん。気を引き締めて行くぞ」
 魔道が右手をかざすと、部屋中の中は徐々に淡い光に満たされていった。

 そして、彼らは一時の別々の旅へと足を踏み入れていった。



 バリスから東に位置する所にあるという洞窟。暗闇で満たされた奥深くで、そことは対照的に溢れんばかりの光が溢れ出た。
「っと……真っ暗だな」
「そういえばここは、洞窟の中に転送装置があったんだったかな」
 石礫は呟くように言うものの、当然言うのが遅く、松明なんてものは持ってきていないのだった。
「もっと早めに言って欲しいかったな。清蜀は知らなかったのか?」
「あー、うん知ってはいたけど、その、ね……あはははー。……ごめん」
 ガイは溜息を吐きながら、しゃがんで地面に手を這わす。そうやって周囲の足場の安全を確認しつつ、一先ず壁際まで移動すると仲間がいるであろう方向に向く。
「何か薪なんて物は……流石に無いか。このままじゃ動きようが無いぞ」
「その事ならお任せあれ」
 清蜀は胸を張るものの、他の者達には空気の動きと音しか感じられないのだった。
「僕には炎を操る能力があるんだ。この剣も元は炎そのものなんですよ。で、これ剣として模っている炎を調整してやると……」
 清蜀の持つ剣が赤く光り出して、周囲の闇を照らし上げていき、各々の姿と周囲の状態を確認できるようになった。
「便利だな。そうやって明かりを維持し続けられるのか?」
「維持しているは維持しているけど、明かり程度に元の炎に還元しているだけなんだ。まあ、炎を生み出す力もあるんだけど、これ自体は限度があるんだ」
「それは少し使いづらいな」
「まあね。ちなみに石礫は岩とかを操れるんだ。僕と同じ様にあの棒はそうやって作ってあるんだよ」
「何か力も顔も似ているんだな。お前らって兄弟とかなのか?」
 先頭に立って歩き出した清蜀を追いながら訊ねる。
「別にそういうのは無いね。幼馴染ではあるけどね」
 顔だけを向けて清蜀は答える。言うに彼らは元々、小さな村で生まれた魔族だったのだが、異世界の魔物達に襲撃され、壊滅した村を後にして旅を始めたという。その中でクライム達に出会い、彼らの旅についていく事にしたのだ。
「お前達も結構辛い境遇だったんだな……」
「そのお陰で今があるからね。悪いどころか、幸せすら感じられちゃうよ」
 満面の笑顔で語る清蜀にとって、今までの経験と今を含める出会いがとても素晴らしいものである事を現していた。
「そういや、今回の十五戦士はどういう奴なんだ?」
 オメガは珍しく、封印されている人物に興味を持っている様子だった。
「ここは確か、八機士のプロテクトだったはず」
「どういう奴なんだ?」
「三銃士の一人だ。とても力強く物静かな奴だ」
 石礫の答えにオメガの興味は逸れたかのように、その態度は静かなものになった。
「なあ、十五戦士に女性はいないのかよ?」
「お前……何で十五戦士の事を聞いたのかと思えばそういう事か」
「当たり前だ。それ以外に何がある」
 それ以外にもいくらでもあるだろうと思うも、ガイはそれ以上は深く突っ込まない事にした。オメガのちょっとした事情をアリアから聞いている為、あまりしつこく言うのは酷という事だろう。
 自分自身が同じ境遇だったらと思うと、同情の一つ禁じえないのも事実だからである。
「オメガ。残念だが全員男だ」
「えー……マジか?お前らさー、よくそんな華の無い世界で生きていけるよなー」
 自分の事は棚に上げてオメガは溜息を吐く。流石にガイは、これには何とも形容しがたい顔でオメガを見つめる他なかった。
「そもそも、こういう旅に女性がいる事が珍しいのだよ。俺には今の状態がおかしく思えるぐらいだ」
「確かに現実的に見れば不思議だな。まあ、今時の女性は逞しいという事なんだろうがな」
 ガイは自分の世界の事を思い出す。確かに逞しいものだ、と一人頷いている。
「そんな事よりも、そろそろ出口だぞ」
 赤い光りから、徐々に自然な無色の光りが視界に映る様になっていった。
 清蜀は炎を調節して剣から漏らす炎を止めると、鞘に収めて出口へ走って行ったのだった。
「うわぁ!!!」
 外の光りに包まれた清蜀は悲鳴を上げた。ガイは魔物に襲われたのだろうと考えたのか、鞘に右手を走らせながら駆け出す。だが、
「来るな!!止まるんだ!!!」
 清蜀は一喝ともいえるほどの声でガイ達の足を止めた。
 殆んどの者が立ちすくんでいる中、ただ一人歩みを止めなかった石礫は清蜀の真後ろまで歩いていくと、その場の状況を確認して一つの溜息を吐いた。
 清蜀はなんとも苦い顔をして俯いた。
「一体どうしたってんだよ?」
 オメガは訳もわからず、狼狽した表情でゆっくりと近づいていく。その後を残る三人も内心、警戒と不安を入り混じらせながら近づいていった。すると、清蜀達の所まで着いたオメガが少し後ずさりをし、真っ青な顔でこちらに振り返ったのだった。
「……これは……もう何て言えばいいのやら……」
 うわ言の様に呟くオメガの脇を通り、ガイもまたその事実を直視した。
 出口の先の足元には洞窟と同じ岩石が少し広がっているのだ。ここで問題となるのは、少しの岩石以外に地面が近くにはないのだった。
「下まで6,7メートルあるんじゃないんですか?」
 この状況を見ても、清蜀達と同様に落ち着いているキズクは、誰かに同意を求める訳でもなく呑気に呟いた。
「おっかしいなぁ〜。前に使った時は、普通に地面があったはずなんだけどなぁ……」
「どうするんだよ……これ。直立の崖じゃないが、こんなの直接落ちるのと大差の無い斜面だぜ」
「一抹の望みを賭けて幾度の痛みを耐えうるか、死を覚悟して一撃の痛みを耐えうるか……。リーナは、俺達を運べるのか?」
 ガイは、この中で唯一翼を持つ少女に目を向ける。が、リーナは申し訳なさそうに首を横に振る。
「これは……隆起だな……。珍しい事が起こるもんだな」
 石礫は床に手を当て呟いた。
「解るのか?」
「ああ。ここら辺の岩石の記憶だ。間違いないだろう」
「そんな事が出来るのか……凄いな」
「言ったと思うけど、石礫は大地関係を操る力があるんだ。操るにはその対象と心が通じ合わなければいけない。石礫にはそれができるから、この洞窟を形成する岩石の声が聞こえるんだよ」
 ガイの感嘆に清蜀は捕捉を加える。
「じゃあ、お前は火の声が聞こえるのか?」
「とーぜん!操るにはそれが大前提だからね。それじゃ石礫、頼んだよー」
 無言で頷いた石礫は、瞑想するかのように眼を閉じる。そのまま数分、静止したままでいると、突如地面が揺れ出したのだった。
「何だ……地震か?」
 地震に慣れていないのか、オメガが驚きを隠さずに不審に辺りを見渡した。
「違うよ。石礫が指示して大地を動かしてるのさ」
 清蜀は地面の方を指差した。
 地面が徐々にではあるが、はっきりと目で解る速さで盛り上がってきているのだった。正確に言えば、この出口から続くなだらかな坂の道を、石礫が築かせているのだった。
 数メートル下にあったはずの地面は、ものの数分で道となっていったのだった。
「何だか……お前らみたいな子供が十五戦士になれた訳がよく解った」
 坂を下りながらオメガは感嘆の言葉を上げた。
「このくらいできなければ、ただの棒術使いに過ぎん。とても魔王にダメージは与えられん」
 進むべき方角を確認し、歩き出した石礫は憮然とした表情で答えた。
「そういえば……お前達は魔王と戦ったんだよな。どんな感じだったんだ?魔王の強さとか、どういう戦いだったのかとか」
「ふむ……封印の祠まで、まだ距離がある。少し話すには調度いいかもしれんな」
「あの時の事は……うん、あの時はかなり壮絶だったね」
 苦笑しながら清蜀は言った。その表情は既に終わった戦いだからといって、決して笑い話にはできない。深くまで読み取れずとも、その戦いを経験していない四人にはそれだけは読み取る事が出来た。
「壮絶なんてものではない……。あの戦い、人々に語られている部分には、十五戦士とあの二人だけで戦った事になっている。だが実際はそんな少数ではない。数多くの魔族。ハーピー族やラッシングのように見た目は人間と同じ魔族。他にもドラゴンなどの魔物。そして一番数の多かったのが人間……」
「普通の人間もいたんですか?」
 ガイにしてもそうだが、驚くべき事実にキズクは思考する前に聞き返していた。
「ああ、クライム達を抜かせば、一番の弱者と言えた彼ら……。魔王の城に攻め込むのに主戦力と、人間と一部の魔族と魔物の二手に分かれて突撃したんだ。彼らは飽くまで錯乱を目的とした突撃だったのだが……クライム達の力になりたかったのだろう。彼らは作戦を無視して敵の本体と真っ向からぶつかって行ったのだ。確か千ぐらいの大部隊だった。我々が城の中腹まで行き、撤退の合図を送ったものの、彼らは戦い続けたんだ。確かにそのお陰で、魔王の所まで大した障害がなかったが、本来の作戦終了時には八割は生存していたのに対し、最終的には二割ほどしか生き残っていなかった……」
 彼らは、全滅を覚悟して本隊である彼らに、打倒魔王の思い託して死力を尽くしたのだ。生存した彼らの話を聞いたごく一部の吟遊詩人や魔物、魔族達によって、本当にごく一部の地域でのみ、今も語り継がれているという。
「本隊自体も百の数はいた。その中には、俺達十五戦士ですら足元にも及ばない者もいた……。結局の所、十五戦士というのは英雄でもなんでもなく、本隊で生き残った魔族の事を指す。俺達からしてみれば十字架を背負っているという証だ」
「人間や魔物も生き残ったりはしたのだろう?彼らは何故称えられていないのだ?いや、そもそも、その戦いに出た者達全てを称えるべきではないのか」
「一遍に言われても答えられないのだがな。まあいい、順を追って話すぞ。クレアの紋章は治癒を主とするものが多く、治癒魔法を扱える魔族や魔物が回復役に当たってくれたお陰で、戦闘はだいぶ楽になるだろうと考えた。だがそれでも絶望的だった。重たい一撃に半端の無い生命力。魔王を倒した時、立っていられたのは本当に数名だった」
「それ程の戦いなのか……」
「魔王を倒した直後、俺は意識はあったが一人では立ち上がれもしないほどだったが、あの時は成し遂げたというよりも、この苦しみが終わったという事で、頭の中が真っ白になったのと……血まみれや肉塊となっている仲間の中にいる、という喪失感だけだった……」
「……」
 魔王との戦闘の詳細こそ話にはないものの、どれほど恐ろしい状況だったかは、安易に想像がついた。
「それで……何故、お前達だけが特別視されたんだ?」
「戦いに出た全ての者の確認など取れなかったのが一つ。村丸ごと、という者達もいた。本隊では、多くが辞退した事と、生き残った事を悔いに悔やんで精神に異常を来たした者が多かった事。俺達である理由は、この戦いの装飾として拒否権無く称えられただけの事……」
「酷い話だな……」
「なんらかなの話くらいつくりたかったのさ。国家として、リビィスの歴史として。だが、救世主二人だけではというのと、事実だけではあまりにも壮絶で重いものだった、からであろうな」
「……なあ。今の俺らは、その時の魔王と比べたらどんなもんなんだ?」
 ガイは真剣な表情で、先を歩く二人に訊ねた。それは以前から知りたいものであり、辛い現実だけしか無かったとしても知るべき事実であった。
「俺はお前達の全力を見た事が無い。だが一つだけ言う事があるとしたら魔道達の実力はまだ二割も出ていない。が、魔道ですら、本隊の上の下ぐらいの実力であった」
 恐らく、魔道と比較した場合、全力の彼ではガイであっても勝てないであろう。それはつまり、単体の強さから言えば、望ましくない状況であるという事だった。
「酷いものだな。俺のいた世界では、俺自身相当な強さであったのに……ここでは随分とちっぽけなものだ……」
 ガイには自虐的な笑いしか出なかった。石礫の話を聞き、自分達が今行っている事は、本当に戦力上げであるという事。自分達の力があまりにも小さいから。
 自分が社会の裏で疾走し、その手の人々にその名を刻み付けた。それは自分の強さへの自信でもあり、その程度であるという未熟さの証でもあった。だが、その世界であれば、どの程度の苦しい戦いで済む事か。
 ガイは誰に悟られる事無く、この世界の厳しさを噛み締めていた。そして、それを止める一声が耳に入ってくる。
「どうだろうな」
 それは石礫が呟いたものだった。
「何がだ?」
「俺はお前をちっぽけだとは思わん。お前にはクライムの魂が混じっている。お前にはグレムの魂が存在する。そしてお前には特別な力を感じる。少なくともお前の真の力は、まだ芽吹いてさえいないのだよ」
「これだけの力があってまだ種だというか……。それこそ俺は魔族か化け物の域だな。いや、もう既に達しているか?」
「お前の意思に関係無く、この世界の救世主となり、そして力の修羅に落ちる……。この戦いで生き残っても死んでも、一番の被害者はお前達なのだろうな……」
「この世界に来て、戦わないという選択肢はあった。自分達の世界に帰れる帰れないは別として……。だが、俺は戦う事を選んだんだ。俺の世界は比較的平和ではあるが、俺にはこういう世界で戦いの中で朽ちていくのがあっているからな」
「武人、だな。正直、お前がそういう奴で安心している」
「だが強くならなくては意味が無い。この世界で俺という存在が戦う意味がな」
 ガイには守れなかった者を思い出す。未熟さを証明すると共に、このままではこの戦いには終止符が打てないという事実を突きつけられたのだった。
「お前を死を覚悟して戦っているか?何かを背負って戦っているのか?」
 石礫は立ち止まってガイに振り返る、厳しい目つきで見据える。ガイは特別なリアクションも無く、静かに口を動かす。
「正直、死の覚悟は薄れているな……。俺は……『あいつ等』がやられて、心の何処かで躍起になっていたんだ。この程度の力じゃ、とても魔王を倒せないんだと思って……」
「ガイさん……そんな事無い。十分に強いよ……ガイさんは」
 唯一、その傷を共有できるキズクは呟いた。彼自身、力において焦燥するものがあったのだ。ただの足手まといになる日が来るであろう事に。
「それは焦りすぎだろうな。同じことの繰り返しに価値が無いという事も無い。それと覚悟と背負う物があれば、それは力へと導く鍵にもなれる。お前にはまだまだ、強くなれる余地がある」
「強くなれる余地か……。なれたらいいものだな。にしても、お前に悟らせられるとはな」
「石礫は昔から爺臭いからね」
「悪かったな。……着いたぞ」
「なに?」
 石礫の脈絡の無い唐突な言葉に、ガイ達は周りの景色に目を向ける。
「また洞窟か」
 すぐ近くの岩石の壁は大きく口を開け、俺らの到着を待っていたかのように立ち構えていた。
「この距離なら今日中に戻れそうですね」
 キズクが来た道を振り返る。まだ一時間ほどの時間しか経っていない。今までの戦闘時間から考えても、日没までには戻れると考えてよかった。
「それじゃあ、とっとと石造を破壊させてもらうか」
 ガイかアリアでなくては開かない扉。その存在を知っているからこそ、ガイは先頭に立って洞窟へと進んでいった。
「にしても、どこもかしくも質素だな。もう少し装飾するとか、って考えが英雄の二人にはないもんかね」
 オメガは飾り気の無い道を歩きながら、何も無い事に呆れているのか、ここまで徹底的に何も無い事に感嘆しているのか、どちらとも言えない溜息を吐いた。
 封印の祠は正に装飾の無い、空間としか見られていない。ただし、今現在の所は魔道が封印されていた所だけは、洞窟の元々の性質の中で切り開かれた部屋だった為、神秘的な空間であったというだけの話だった。
 ガイは扉の前に立つと、扉は溶けるように消えていった。
「さてと、今回の敵の数は……これは、倒せるのか?」
 ガイは中に数歩入って足を止めた。
 四隅に一体ずつ石像がある。つまり四体と戦わなければならない。
「あー俺、一抜けだめか?」
 全員が部屋の中に入り、双方の戦力を考える間もなく緊張に身を強張らせる。
「オメガ……残念ながら扉はもう閉じている」
 魔道の時と同じく、全員が部屋の中へ入ると共に扉が塞がれていた。それを俺は後方の扉に親指で指す。
「まじか……?いくらなんでも俺、殺されちまう……」
 オメガが引きつった顔で呟いた。
「そ、そうだ!十五戦士が二人もいるんだ!石礫、清蜀、四体とも頼んだぞ!!」
「無理を言うなオメガ。まだ俺らは本調子ですら終わってないんだぞ?せめてあれとは一対一だな」
「じゃあ、せめてお前ら二人で三体持ってくれよ!」
「見苦しいぞ、オメガ。清蜀、石礫は奥の二体、俺は手前の左側、キズクなんかは右側やってくれ。リーナ、使える補助魔法を全てオメガに施してやってくれ」
「了解」
「まじかよ……」
「解りました」
 それぞれの返事を返して、得物を握り締める。
「解りましたけど……ガイさん一人で大丈夫ですか?」
「なあに、任せろ。意地でも倒してやる」
「てか、やっぱ俺が前衛?」
 リーナ、キズク、オメガ。当然オメガが前衛で二人は後衛。聞くまでも無い事だが、何を言わんとしてるかは誰にでも解る。
「オメガさん……僕が前に出ましょうか……?」
 控えめに手を挙げキズクが提案をするも……。
「あ、ああ。すまな……。いや、やっぱ俺が行く。そのくらいはさせてくれ……」
 ぱっと明るくなりかけたオメガの顔が、暗く重いものに変わっていく。流石に自分より年下に前衛に出てもらうのは、年長者として、男としてのプライドが許さなかったのだろう。
 とはいえキズクは戦闘の訓練を受けている。狩人なのだから当然である。比べて職業上、武器に接する事が多いオメガは武器センスがいい。それに彼の町の周辺にも、それなりの強さの魔物が生息しているし、ラッシングが稽古に付き合っている。一端の者に比べれば遥か高みの実力だろうが、この旅においてはその程度では太刀打ちできない事が多い。特に今の場がそうである。
 普段から戦っていた訳でもないし、何より彼には特化した力も無いのだ。死の恐怖に対する耐性の差からも、彼には相当酷な役目であろう。
 ガイはできうる限り早くに敵を片付け、オメガの方に援護をすべきだと考えると共に、清蜀達にも耳打ちをするように指示を出した。
「そろそろか……」
 石造達は身を揺さぶり、目覚めの咆哮を上げる。
「さあて……とっとと片付けるか」
 各々敵に向かって突撃する中、ガイは少し離れた距離から剣を真っ直ぐに構えると、立ち向かうべき石造へと駆け出して行った。


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