第九話



「ガイ……大丈夫かな……」
「む? 何がだ……?」
 ガイとは別行動中のアリア達。アリアが呟いた独り言に魔道は反応した。
「ああ、うん……。あたしは前回の事があるから、石造を簡単……にはいかずとも倒せるけども……」
「はぁ、アリアってほんと心配性だねぇ。ガイはガイで石造倒してきたって言ってたじゃん? 余計な心配でしょー」
 アリアの胸中に気づいたシェルナは、ため息を吐きながら横槍を入れてきた。
「そうね。それにあの馬鹿だったら殺しても死なないわ」
 キズクと離された所為か、むっつりとしてたアンが刺々しく言った。
「まぁ心配ないだろう。あいつはあいつで強い。恐らくあいつの力はあんなものじゃないだろう。それに……ふふ」
 魔道が堪えるも笑みが零れる。シェルナは気味悪そうに、魔道から数歩離れた。
「何……いきなり。気持ち悪ー……」
「すまんすまん。いやなに、あんな時間に人目を忍んで何をしにいったのかと思えば……。あの石造の弱点でも教えていた訳か」
 アリアにとっては誤解を招かぬようにと、こっそり行ったつもりだったのだが、魔道にはばっちりと目撃されていたようだ。アリアは一瞬、顔が燃え上がるような感覚に襲われた。
「べ、別に人目を忍んでなんかいないし、強くたって危険じゃない?」
 普通を装うつもりが確実にどもる。シェルナの表情が意地悪そうなものへと変わっていくのも、そう時間が掛かる事ではなかった。
「はは〜ん、な〜るほど」
「な、何よ」
「そっか、そっかぁ〜。今度から気をつけないといけないね〜」
「……何がよ」
「ごめんね〜。気付いてあげられなくて〜」
「だ、だからー!」
 シェルナの暴走は、もはや止まらない事を確信して諦めた。
「はぁ、もういいよ。そういえば、封印の祠は何処にあるんですか?」
 戦う前から疲れそうだ、と感じたアリアは、シェルナを放置する事に決めた。その後ろでは、ノリが悪いとシェルナが頬を膨らませている。
「ああ、この先……五分もかからんはずだが?」
「んじゃ、とっとといって封印とこーよ。早く帰ってもっと休みたいー」
 それ聞いたシェルナは魔道に飛びつきながら、昼間まで寝させろー、と半ば叫ぶように言った。
「でも、無闇に時間を潰すのもあれだし、早く行こうか?」
「俺は別にお前の好きで構わないが?」
「同じく」
 魔道とラッシングは特別、興味無さそうに言った。
「あたし達もそれでいいわ」
 二人のハーピーの少女もまた同様に賛同した。アリアは全員の意見を確認すると、魔道の方へと向き直る。
「それじゃ魔道さん。少しペースを上げてもらえますか?」
「うむ……アリア、あんまり畏まらなくていいぞ?」
 丁寧すぎる言葉遣いに、魔道は苦笑をしながら歩みを速めた。
「え……? えーと、あははは……できるだけ、普通に喋りますね」
 年上である以上に、英雄でもある十五戦士に対し、どう接するべきかが解らなかったアリアは、ばつが悪そうに笑う。彼女が誰とも平等に接するシェルナを羨ましく思ったのは言うまでもない。
「そういえば……魔道様。貴方は紋章の事、詳しいのでしたな」
 アリアと魔道のやり取りを気にする事無く、ラッシングは魔道に訊ねた。
「まぁ、な。ただそれ専門の人間から見れば一般人に毛が生えた程度だが……というか、お前も普通に喋れ。流石に歯痒い」
 恐らくラッシングの事だから、当然の礼儀としての言葉遣いのつもりだったのだろう。不思議そうな顔をして、失礼、と一言返すと話を続けた。
「紋章を封印しておく以外に、効果的な方法というものは無いだろうか?」
「効果的……? ああ、なるほど……。……ふむ、難しいな。紋章の力を封印し束縛しておく以外に、というと……すまんが俺には解らんな」
 ……お気になさらずに、と呟くとラッシングは押し黙ってしまった。
「……そういえば魔道さんは魔王と戦ったんですよね?」
 ふと、ある一抹の不安に駆られ、アリアは口にした。
「ああ、当然だ。……随分とおかしな事を聞くな」
「え? あー、確かに変といえば変だなぁ」
 明らかに変な質問に、アリアは首を傾げる。
「それはおいといて……その、さ。その時の魔王と比べて……正直な所、あたし達には勝機はあると思いますか……?」
 アリアの問いに、魔道は真剣な表情になって押し黙る。流石にこの話題には、ここにいる全員が興味を持っており、ラッシングやシェルナ達全員の視線が魔道に集まった。
「正直な所……皆無だ」
「……」
 重い口調で返された答えは、あまりにも無慈悲であり、現実を教えるものであった。
「お前達がどれほどまでに成長するか解らない。仮にあの二人を凌ぐほどであっても苦しい」
「……え? なんで?」
「百年あまり封印されていた、にしてもだ。今現在封印の解かれている我々十五戦士の能力低下が否めない。お前達がいくら強くても、少数すぎる精鋭では勝てないんだ」
「どういう事? 鈍ってるって事じゃなくて?」
「……これは鈍ってるなんてものじゃない。完全に力そのものが落ちている。強いて言うなら技量そのものが落ちている、とでも言えようか……」
「でも、それなら強くなればいい。違うの?」
 シェルナが訳が解らない、とでも言いたげな顔で言った。
「……どうだろうな。我々に施された封印。実はまったくの実験無しに行われたんだ。もし……もしもだ。その封印が肉体に支障をきたしてしまうもの、だったとしたら?」
「魔道はほんっとーーーに言い回しが好きだねー。あたしは頭よくないんだから、直結に言ってよね」
「……あの封印を施される事によって、肉体的な強さの限界が下がるとしたら?」
「……」
 一同は返すべく言葉を捜すも、良い言葉も無くただ押し黙る。
「それってやばくない?」
「やばいも何も……飽くまで仮説だ。……はずれの仮説であれば、だが……」
「……」
「……だが、それはそれで問題無いのでは?」
「え? 十分、問題あるんじゃないかな?」
 ラッシングの呟きにアリアは驚いた。それもそのはず、今の自分達は、彼らを頼りにするからこそ、こうして行動しているのだ。
「あ、あたし、ラッシュさんと同意見ー」
 まるで議論じみてきた所為か、シェリナちゃんが楽しげに挙手をして言った。
「シェリナまで……? まあいいけども、何でよ? 『魂を紡ぐ戦士』と十五戦士は言ってしまえば、伝説の武器防具。そこで十五戦士の戦力ダウンは、魔王を倒す伝説の装備の消失。それが問題じゃないっていうのは?」
「まぁ確かに問題といえば問題だろう。だが十五戦士は、飽くまで過去の者。……いい言い方が思いつかなくてすまない。で、だ。あれから百年近くたった今。新たな十五戦士。簡単に言ってしまえば、現代に生まれ生きている実力者がいるのでは? と考えてる訳だ」
 シェリナがラッシングの後ろでしきりに頷いている。
「確かに、な。実際にラッシング。お前は恐らく我々をも、超越する存在になるだろう」
「俺が『現代の十五戦士』に……? 仮にその素質があったとしよう。だが、俺は貴方方十五戦士に並ぶ前に……紋章に『食われる』だろう……」
「確かにそれだけの紋章を持っている者の、反転衝動は早いだろう。だがな……いや、よそう。確実とは言えんし、あいつらがそれをできるとも限らない……」
「?」
「もしもその兆しが見えたら話そう」
 魔道は言葉を濁して話を区切った。
「……? 一体何の事かは解らないが心しとこう」
「うむ。……着いたぞ。ここだ」
「よかったぁ、洞窟なんですね」
 シェリナがほっと胸を撫で下ろす。
「うむ、安心しろ。あんな所は後一箇所だけだ」
「……」
 結局まだあるんだ……。安堵の表情に、影が差すシェリナちゃんが可哀相に見えた。
「ん? どうした? 中に入るぞ」
 一部鈍感な魔道は全く気付いていない。
「こういう所って魔道は駄目だよねぇ……。鈍感って言うか何というか」
 呟くシェルナに対してアリアとシェリナ、そしてアンが首肯した。そして一番後ろにいたラッシングは、自分の胸に手を当て苦い顔をしていた。過去にオメガから、女性に対しての思いやりが欠落している。そう言われたのを思い出していた。だが、誰にもそんな事を悟られるどころか、そんな顔を見られてないのがせめてもの救いなのだろう。

「これは……」
 とてつもなく広い部屋に大小様々の遮蔽物。そして無数の細身の石造。
「あの石造。まさか細いから俊敏になった。何て言わないよね……?」
 呟くにシェルナに
「言うだろ」
「言うと思います」
「言うと思うよ……」
「言うんじゃない?」
 全員からの一言にシェルナは吐きそうな顔に歪ました。
「というか……今回は数が多いな」
 ラッシングは辺りを見渡しながら顔を歪ませる。
「んーと八体でしょうか……?」
「いや十二体だ。上のほうが棚みたくなっている。そこに四体いる……」
「鬼みたいな数だね」
「鬼みたいな数だな」
 アリアと魔道は同時に呟き、溜息も吐いた。
 そんな事をしていると、石造が動き出す音が部屋に響く。
「来るぞ……。敵の能力がわからない以上、ばらばらになって戦うな!」
 魔道が叫ぶと同時に近すぎず遠すぎない位置に移動した。
 石造は数多くの遮蔽物の間を、滑らかな速度で縫うように抜けてくる。
「このままじゃまずいな……。できれば少しずつ倒して行きたいのだが……」
「確かにな……ラッシング。紋章を開放してくれないか?」
「……了解。少しの間時間を稼いでくれ」
 言うが早く、ラッシングは後方に下がると印を結び始めた。
「リーナがいた方が、魔法の種類からいい連携が組めるのですが……言っても始まりませんね」
「そうね、あたしの雷撃と同じ箇所に、火炎を打ち込んで」
 アンとシャナは軽く頷き合って魔法を放つ。
 雷の矛と延びてった炎の閃光は、正確に石造の頭部を捕らえ、パン、という音共に、僅かに頭部を砕いた。
「もしかして今までのと比べてだいぶ、脆くなっているのか……?」
「俊敏性がある変わりに、鉄壁の硬さを失ったのよ。素早く動くには軽い鎧で無ければならない。つまり……」
「弓矢が通じる!」
 嬉々としたシェルナとシェリナちゃんが同時に弓を構え、矢継ぎ早に矢を放つ。
「クォォォォォォォ」
 雨のように飛んでいく矢は頭部が軽く割れた石造にへと殺到していき突き刺さっていく。
――ただ単に矢を打つだけじゃ、駄目かぁ……――
「シェル姉……あれを……」
「弓が傷むからあんましたくないけど……六発が限度ね……」
 二人の右手の甲が光り輝き、弓が悲鳴を上げるほどに引き絞られる。
 大よそ、弓矢らしくない重い音を発して豪速の矢が放たれる。二本の矢は石造の身体と右手となる細身の剣をうち砕くも、いまだ浮遊し続けている。
「……凄い。シェルナ達、あんなに強かったんだ……」
「アリア……。傍観してる暇は無いぞ!!」
 身体が砕けかけた石造と共に、他四体の石造が目の前まで迫ってきた。ラッシングはまだ紋章開放中であるのだ。
「俺が一気に薙ぎ伏せる。まだ動いてる奴を、『衝撃』で倒せ!」
 魔道が大刀を振るい前にでる。
「コオオオオオ」
 咆哮を上げる石造。先頭の石造が右の剣を振り上げ、微かに聞き取れる言葉を呟いた。
『アース・ヘブル・スパイク』
 重々しい音でそう吼えながら、振り下ろされる剣。
 剣が地面に叩きつけられると共に、太い棘のような物が生え出した。
「な……?!」
 棘のような物は、凄い勢いで生え出してきた。当然、その方向はアリア達に向けてである。
 その軌道上に、魔道が立ちふさがり盾を構えた。
――駄目だ……。アリア達を守りきれなん!――
 迫る棘に、魔道は自分一人ではどうしようもないという、差を悟らずに入られなかった。

「……く」
「う……ぁ」
「はぁ……く、そ」
 棘はアリア達を超え、やっと生えるのを止めると平坦な地面へと戻っていった。
 誰も立ってはいない……。が、全員棘の餌食になった訳ではない。
 アリア自身、棘からは避けれたものの、生えだす時に生じる衝撃によって、身体を打ち付けられただけなのである。
「……つ、くそ……。大丈夫か? 手傷を負った者は、後退しアン達に治癒魔法をかけて貰え。ラッシング。紋章は開放できたか?」
 魔道がよろめきながら立ち上がり指示する。一切の装飾の無い、性能のみを重視したその鎧には、さっきまでは無かった傷がいくつもついている。
「く……すまない……。失敗してしまったよ……」
 見るとラッシングの脇腹のあたりが赤く染まっている。
「ラッシュ君……まさか……」
 それに気づいたアリアは、震える声でやっとそう言うと、魔道もラッシングの異変に気付いたのか振り向いた。
「大丈夫、だ。この程度、かすり傷に、すぎない……」
 荒い息を吐きながら、声を絞り出している。
「……絶望的だな……。まさか……あいつら、古代スキルを使えたとはな……」
 あれが……古代スキル……、シェルナ達はそう呟くが、あたしには何の事か解らなかった。
 それに気付いたのか、
「生き残れたら、説明するよ」
 ……何か前にも言ったね。と、苦笑しながらシェルナはそう呟いた。こんな状況でもなお、希望を捨てていない様だった。
「今の俺でどこまで戦えるか解らんが、何とかするしかあるまい……。アン、シャナ。俺が時間を稼いでる間に他の者達の傷を!」
「無理よ……」
「……?」
 にじり寄る石造を前にして、魔道は怪訝そうな顔をしていた。いや、そんな事よりもっと早くに気付くべき事があった。
「あたしは、治癒魔法ヘタで、いつもシャナ達に任せてたから、全く使えない……。そのシャナが……!」
 アンは膝をつき、シャナを抱きかかえている、という格好だった。そしてそのシャナは、額の所から赤い筋を流し目を開けない。
「気絶してるのよ。それにあたしには、身体の異常を直す魔法なんか使えないのよ!」
 気が強く、決して弱い所を見せないハーピーの少女の悲痛の叫びであった。
 治癒魔法が使えない。
 二つの主砲のうち片方が損傷。
 圧倒的な力と数。
「くそ……。時間稼ぎでは駄目なのか……」
「魔道! そう何度も使える訳じゃないけど、さっき石造を砕いた矢で援護する! だから、お願い!」
 皆まで言わずとも解った。それはある意味酷い頼みだった。
「そんな顔して頼むな。元よりそのつもりだ。それにこう見えても、俺は元々魔王軍の騎士でもあったんだ。この程度では折れたりしない。伊達に、『黒き稲妻の騎士』と呼ばれていた訳ではない!」
――そう我が名は魔道。例え、貴様等があの者達の力より、産み落とされたものだとしても、所詮は人形に過ぎんお前達に俺を倒す事などできんのだ!――
 地面の感触を確かめるかの如く踏みしめて、立ちはだかる。
「受けてみよ」
 魔に落ちし剣、暗殺魔剣術壱の業、風魔
「闇綴り一文字!!」
 風を斬る音と共に、水平に黒い筋が生じた。黒い筋である闇は徐々に消えていくと、石造の身体に黒い筋と同じ位置に闇が刻まれていた。
 闇を振り払おうと、身体を揺するが離れることは無く、徐々にそこから闇があふれ出していった。やがて、彼らの身体を覆う漆黒へと変わっていった。
「それにしても……この程度の技でこれほどの力を消耗するとはな……」
 肩で息をしながら苦々しく笑い呟く魔道。
 その視線の先には剣を縦横無尽に振り回し、仕舞いには同士討ちを始める石造達がいた。
「大丈夫じゃない? 向こうで数を減らしてくれてる、し……」
 シェルナが喋りながら放った矢は、最前列の石造をかすめ、最後尾くらいに位置する石造の頭部を粉砕した。
「いや、長期戦になるのが問題だ……。シャナが気絶している今、早く治癒魔法を持つあいつの封印を解かねばならん……」
 魔道はシャナとラッシングを介抱するシェリナとアンの方に振り返りながら呟いた。
 ありったけの薬草をラッシングに使うも、未だに出血し続けているようだ。最早、大丈夫云々も言わなくなったラッシングの額には、必死で痛みに耐えている、と滝のような脂汗がそう物語っていた。
「何とか、奴らを捌き切らねばならんな……」
「魔道さん! あたしにも……あたしにもできる事は……!」
「すまない、下がっていてくれ。今前に出るのは危険すぎる……く!」
 第二派として、五体の石造が歩み出て一斉に剣を振り上げる。古代スキルを使おうとしているのだ。
――あたしの力じゃ、何もできない。盾にも剣にもなれない――
 『見る』必要も無いし、剣を振るうのも『衝撃』を与えるのも逆に迷惑をかけかねない。

 ただ、辛かった。
 何もできない自分が、見ているだけの自分が。
 自分が『魂を紡ぐ戦士』で、何よりも秀でる力を持っているなんて自惚れはしていない。
 ただ苦戦している仲間の力になりなたかった。
 ただ痛みに苦しんでいる仲間を助けたかった。
 救う力が欲しかった。
 癒す力が欲しかった。
 戦う力は欲しくない。
 守る力が欲しかった。
 苦しみから救う力が、皆の盾となれる力が欲しかった。
 ただそれだけでいい。
 だから、お願い! 応えて……飛翔紋!! 


 五体から放たれた『アース・ヘブル・スパイク』は魔道達に直撃し、大きな土煙が舞い上げた。
「クオォォン」
 ある程度距離を置き、様子を伺う石造達。
 突如土煙から影が疾ってきた。それは、疾風だった。
 ジャマダハルが三度、輝きを放った。
 周りにいた石造の身体は大きくそぎ落とされた。
「どうなっているんだ……? 傷が癒えている上に、紋章が開放されている……。おまけにこの光は?」
 ラッシングは自分の得物が淡い光を放っているのに目を落とした。
――これが……――
「これが治癒神エイリスの飛翔紋の力なのか……」
 鎧の傷まで治っているのを見て、魔道は呟いた。シャナ達も、何が起きたか解らないらしく、呆然と座っている。
 五体から放たれた技は、全て最前線、魔道の目の前で朽ちている。
――にしても、これほどの力とは……。敵の攻撃を打ち消した……いや盾となる力か? それに殆どの傷が癒えている。これは当たり前としても、ラッシングの紋章が開放されている上に、武器に何らかの力を宿している……。封印を開放する力? しかしあいつは自分自身で封印している……。束縛を解く力、なのだろうか……? 流石に、武器の方は見当が掴めんな……――
 同じように淡い光を纏った大刀を構えなおす魔道。先の一撃による体力の消耗も完全に癒えている。いや、それ以上に力が満ち溢れていた。
 飛翔紋について思案している間に、ラッシングが既に数体の石造が切り伏せていた。
「暗殺魔剣術壱の業、瞬魔! 邪走闇蛇!」
 光と闇が混ざり合う大刀の一閃の突きと共に、黒い蛇のようなものが飛んでいき、次々と石造の身体を貫いていった。
「やはり精度も上がっているか……」
 今の自分ではかすり傷程度であっただろうというのに。
「よーし、あたしも魔道やラッシュなんかに負けてられないわよー」
 謎の対抗心を燃やしたシェルナは、再度弓を引き絞る。
 一体の石造に致命傷を与える程度だった一撃が、二体の石造の胴の中心を打ち砕いた。
「うわぁ、凄い凄い! まるで自分が強くなったみたい!!」
 あまりの能力上昇にかなり興奮しているようだ。
 絶望的な劣勢だったのが、今では敗戦の要素すら無くなっている。
「ラッシング! 一気に畳み掛けるぞ!!」
 こくん、と一度頷くラッシング。
 残りは九体、現状では然したる数ではなくなっている。
 盾を放り投げる魔道。腕を十字に交わすラッシング。
「暗殺魔剣術、壱の業。砕魔、闇無想砕撃!!」
「双風刃!」
 ドンという音共に、二つの技が放たれる。
 全てを打ち砕く闇の一撃。全てを引き裂く疾風の一撃。
 祠を震撼させ、空気を一瞬膨張させた。
「凄い……ていうかラッシュも特別な技使えたんじゃん!」
 もっと早くに使ってくれたって……、とシェルナが喚く。
「にしても、これなら二人に任せておけば問題なさそうね」
 自らの獲物を鞘に納めるアン。先程の慌てぶりとは裏腹に今は落ち着いている。
「待って! 様子がおかしい!」
 シェリナが叫んだ先には、ラッシングが肩で息をしながら、肩膝をついているのだ。
「……ラッシング?」
「急に……身体が重くなって、きた……」
「勾玉紋の力があるのにか? いや、その束縛が別の力で放たれた所為か?」
 剣を振り上げる石造が片隅に見えた。
「ち、一旦退くぞ!」
 魔道はラッシングを抱えると、その場を飛び退いた。が、アリア達に所まで後少し、というところで、ガクンと魔道は体制を崩し、地面に倒れこんだ。
 両手を突き必死に立とうとするもうまく立てない魔道。徐々に近づく石造に焦燥を抱かずにはいられなかった。
「もしかして……この武器の光……ガイの飛翔紋と同じようなもの?」
 力尽きたかのように膝を付く二人を、アンにはガイの姿に重ねるように見ていた。
「それって、どういう事……?」
「あたしは一度しか見たことが無い訳だけど、身体能力等の膨大な上昇。引き換えに僅かな時間で倒れるほどの負荷が身体にかかる。そういうものであれば、今の状況に説明がつくわ」
「戦えるのは後五人という事か……」
 ラッシングを小脇に抱え、衰弱したような顔で魔道が何とか戻ってきた。
「でも、残りは三体。余裕と言えば余裕ね」
 弓を構える二人の狩人。
「それじゃあ貴女達に任せるわ」
 手をひらひらと振り腰を下ろすアン。楽ができるならできるだけする。それが彼女のスタイルなのだ。
 重く響き渡る音と共に、石造の身体は砕け散った。
「余裕〜余裕〜♪ シェリナに手伝って貰わなくても、全然平気だっ、た……あれ?」
 Vサインしながらにやにやと笑うシェルナは、そのまま横に倒れていった。
「お前とて紋章を使い、高威力の矢を放ってたんだ。当然の結果だろう」
 あーうーあー、と呻くシェルナに半ば呆れて魔道は言った。
「まあ石造を倒しきった所で、問題が何かあるとすれば……」
 今現在『まとも』に動ける面々を見渡して、
「魔道さんをどう連れて行くか、だよね……」
 とても女の子四人でどうこうできる問題じゃない。
「しばらく安めばある程度動けそうだから、休息さえ貰えれば大丈夫だ」
 その傍らでラッシングはすぅ、すぅ、と寝息をたてている。
「魔道か……」
 背後から聞きなれない声で魔道を呼ぶ声がした。そこに立っていたのは、紛れも無い封印されていた十五戦士。
「フリック……目覚めはどうだ?」
「身体が重い……相当鈍っているようだよ」
「だけか……?」
「だけ……? ……なるほど、これは問題だな。鈍っている事より酷いようだな、これは……」
 自分の置かれた立場を理解し、大きく溜息を吐いた。
「それはそれとて……お前にしては情けない有様だな?」
 地べたに座り疲労の色を表す魔道を見下ろしながら言った。
「色々と、な。確かに弱体化しているとは言え……将軍として部下を率いていた時の、己にも勝てんだろう……」
「将軍……? そうえいばさっきも……。一体何のですか?」
「いや、昔の事だ、気にしないでくれ」
 何故か言葉を濁す魔道。あまり過去について触れられたくないようだ。
「とりあえず、何にせよ休もう……。せめて満足に歩けるくらいに回復しないとだ」
「まあ後の戦闘は任せておけ。その様子じゃ武器を振るうのもおっくうだろ?」
 十五戦士が一人、魔法剣士フリックは自信ありげに腕組みしてそう言い放つ。

「何だこれは!!」
 しばらくして祠から移動し、転送装置まで来たものの……。
「破壊されている……。起動すらしない……」
「転送経歴は確認できるな……。どうやら……プロテクトの方に向かったようだな」
 目を瞑って手をかざし、経歴を『見ている』フリックはそう呟いた。
「ガイ達の方に言ったって事? それ以前に転送された後にどうやって……?」
「この破壊の仕方から恐らく魔法だろう……。と、なると発動にタイムラグのある魔法を使用、発動までに転送されれば成功、というところか……。にしても困ったな……歩いてバリスに行かなくてはならんな。確か近くに町があったはずだ。一晩休んで、バリスに行くぞ」
 妥当だな。と、シェルナを背負ったフリックは頷いた。
 ラッシングは何とか歩けるも、疲労から来る眠気に耐えている様子だ。シェルナは結局、一人で立つ事すら出来なかったのだ。
「って、アリア? いきなりどうした? お前まで座り込んで……」
「え……?」
 自分を一回見直してみる。なるほど確かに座っている。関心するような事ではないけど。
「それに……お前、いつの間に飛翔紋を再発動させたんだ?」
――今、なんて……?――
 見に覚えが無い事を指摘され動揺してしまった。
 飛翔紋を? そんなはずは無い。祠の中で額に浮かぶ飛翔紋が消えてから、力を望んでなどいない。それに発動すれば、あの時みたく不思議な感覚に捉われるはずだ。では今、魔道が今見つめているものは? 
「アリア? 大丈夫か?」
「大丈夫も……何も、あたし、飛翔紋なんか……」
 使っていない。
 そう言おうとした瞬間、全てが白く濁っていき、全ての時が止まったかのようだった。

――アリア
 この声は……もしかしてエイリス、様? 
――あら? あたしの名前を知っているの? 嬉しいわ
 治癒神エイリス、その人が微かに微笑んだ、気がした。
 もしかして、この飛翔紋はあなたが? 
――ええ、そうよ 貴女はまだ、もう一人の飛翔紋を持つ者との念話ができない だからといってこのままだと、彼らが死んでしまう恐れがあるの
 死んでしまうって……ガイ達が……!? 
――詳しくは説明していられない 今はただ彼を もう一人の飛翔紋を持つもの ガイ・サンデスドを想うの
 いきなり言われても……どうやったらいいか……それに想うってでうすればいいの?
――できなければ彼らは死んでしまう 彼らを救うには貴女が、彼を想うだけでいい ほら、簡単でしょ? 
 そんな……勝手な……ていうか、やっぱりやり方解らないし。
 本当ならもっと説明して上げたいんだけども……時間が無いの ごめんなさいね……
 え、ちょ……

「待って!!」
「うぉ!?」
 真っ白な世界で、正面にいるかもしれないその人を引きとめようと腕を伸ばすも、景色は元に戻り、アリアの目の前には尻餅をつく魔道がいた。
「……え? ……えーと?」
「……。あーコホン。で、アリア……大丈夫か? 心此処に在らず、といった様子だったが」
 拍子抜けした事と、ばつの悪さに魔道は一度、咳払いをした。
「……ああ、うん。って、そんな事を言っている暇は無いんだった!!」
 急き立てるように、焦燥の波が押し寄せる。やり方も解らないそれができなければ、ガイ達が死んでしまうという焦りだ。
「アリア……? 一体何が……」
「ごめん! 説明している暇は無いの!」
 よく解らないけど想うしかない。ガイをどういうふうに想うのかも解らない。
 安否を気遣うように? 友達のように何気なく? 尊敬する人が何かを成す時に、成功するよう祈るように? それとも想い人に対するように? 
 どんな風に思えばいいか? それを考えただけでも、気が遠くなるような数になる。
 けれども一ついえる事があるとしたらそれは……。
『彼らが死んでしまう恐れがある』
 彼らに助かって欲しい、彼らに死んで欲しくない。
 その想いが、今ここにはある。
 だから、あたしはその想いをぶつけたい。失敗しても……恨んだりしないでね……ガイにオメガさん達。あたしなりの精一杯でぶつかってみるから! 

――あたしは想う。ガイ達が無事である事を。会議ではあったけど……また皆で話し合える事を!!――


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