十三話


 翌朝。ガイはもの言わず、撥弦楽器の音へと向かって歩いている。
「ガイ、この音はなんだ? 何を考えているんだ?」
 疑問に耐えかねた魔道がガイにそう問いかけた。が、ガイは首だけ向ける。
「後少しだ。着いてからのお楽しみってやつだ。ま、本当に楽しみになるのはごく一部だけどな」
 誰から見ても機嫌のいいガイとキズク。そしてつまらなそうなアリアと、何かに怯える様子のシャーナは誰が見ても異様な対象的であった。
 木々を抜けていき、音が鳴る場所へと辿り着いた。
 そこでまず、リーナとアンが声を漏らしながら驚いた。が、束の間、いつでも戦えるよう武器に手を添えた。それを見た十五戦士は敵であると判断し、同様に得物に手をかけて身構えた。
「リーナもアンも、ちゃんと教えが守れてて良かったですわ」
 彼女らの動きを見て、嬉しそうにリフェルは語った。
「リーナ、アン。二人とも本物のリファさんにリフェルさんだよ」
 シャーナが横からそう教えると、二人は一度シャーナの方を向いた後、リファ達の下へ駆け出していった。
 二人の女性が、二人の少女を相手している間にガイは他の者の方を向き、簡単に経緯を説明すると今度は、マンドリンを弾いていた青年の方に向き直った。
「二人から聞いていると思うが、俺の名はガイ・サンデスド。貴方が二人を救って下さったんですね。本当にありがとうございます」
 成り行きを見守っていた青年は、ガイの方を向くと困ったような表情を作った。
「まあ、そうなるんだけど……実際は偶然だったんだよ」
 そのままの表情で頬を軽く掻く仕草を見せる。
「例え偶然であったにせよ、本当に感謝しています。……ええーと」
 ガイが少し言いよどむのを見て、青年ははっとする。
「ああ、名前を言っていなかったね。僕は……ちゃんとした名前が無いんだけども……アジースとでも呼んでください」
 青年は軟らかく微笑みながらそう名乗った。
 ちなみに、ガイとアリアは後で知る事になるが、リビィスにおいて『アジース』とは『名無し』という意味である。
「それでアジースさん、バリスに着いたら何か礼がしたいのですが……」
「本当に礼をされるほどの事はしていないのだけどもねぇ……」
 少し困った風にアジースは顔をしかめた。
「そうですね。僕が吟遊詩人のようなものだって事はご存知ですか?」
 ガイは昨晩、リファから聞かされてはいる。
「何かの物語を歌にしたりして、それを町々に広めたりするのも、吟遊詩人の役目なんですよ」
「まあ……何となくは分かりますが……」
 それと一体、今の話しに何の関係があるのだろうか? ガイはそう思いながらもアジースの次の言葉を待った。
「そこで、戦力としては全くお力になるどころか、足手まといでしかないですが、しばらくの間同行させて頂けませんか?」
「俺らの旅に……?」
 彼がついていこうとする旅が、危険である事を知ってか知らないのか、突拍子も無いことを口にした。
「命の保障も何も無い。昨日だって、全滅しかけているような旅だという事を、承知の上で言っているのですか?」
「ええ、それに旅をする以上、何処に行こうと死は覚悟するものです」
「そこまで……命をかける事なのだろうか?」
 ガイは険しい表情でアジースを見る。
「見てみたいのですよ。これより後、新たに生まれる勇者の姿を……」
 揺ぎ無い決意が彼の目にはあった。
「……分かった、十分だと思うまで同行して下さい。だが、もう一度言わせてもらいます。これは……」
「大丈夫ですよ。貴方が何者かを知っています。その貴方が往く旅が生易しいものでは無い事も」
「そう……そうですね……これ以上言うのは失礼にあたりますね」
「ありがとう」
「それは飽くまでも俺の台詞ですよ」
 アンやリーナはまだリファ達との再会を喜び合っている。シャーナはそれを複雑な表情で見ている。
 アジースはそれを確認すると、楽器類を仕舞い、いつでも出発できるようにした。
 しばらくして、リファ達も落ち着いてきたようだった。
「それじゃ、バリスに向かうぞ。何にしても、まずはそれからだ」
 お互い頷き合い、ガイを先頭に歩き出した。

 何となくではあるが、一行は一行だが、グループ的なものの集まりのように見えた。
――やはり……あまりよくない傾向なのかもしれないな――
 全くの溝が無く、全員が全員と付き合えるとは思ってはいない。
 だが、今の状況から見ると、あまりにも溝が大きすぎる気がする。
 もし、強大な敵、魔王の刺客とぶつかろうものなら、一部の者同士での連携となり、少しずつばらばらにさせられるだろう。
――完全と行かずとも、誰とでもうまく連携が取り合える。そういう風にならなくては危ないかもしれない……――
 ガイの中に不安と焦燥がよぎる。
 バリスについたら、そこら辺の修練を行う必要がある。とは言え、多くの時間を裂く事は出来ない。となれば、できるだけ互いが向き合って、互いを理解する場を設けるべきなのだろう……。
「どうしたガイ。随分と暗いな」
 昨晩のように、魔道はいつの間にか真横にいた。
「ああ……今の全員の状況を見て、お前はどう思う?」
 魔道は一度、後ろを振り返り、ぞろぞろと続く仲間達を眺める。
「何が言いたいんだ?」
 意図を理解しかねた魔道は、ガイの方に向き直った。
「何というか、さ。複数の仲良しグループの集まりでできているような感じがしないか……?」
 魔道は、もう一度振り返り、黙ったまま顔を険しくした。
「なるほど……確かにな。……少し問題ではあるな」
「だろ? 変な刺客に出くわさない内に、バリスに着かないとな……」
「どうだろうな……。バリスに着いても、奴らが本気なら攻め込んでくるだろう」
「それもそうだな……」
『ガイ』
 二つの声で、ガイは呼びかけられた。
「何だ?」
 声のした魔道の方へと振り返ると彼の横にラッシングがいるのだ。
「何だ、お前もか。どうかしたか?」
 ガイが少し呑気にそう答えると、ラッシングは渋い顔を作った。
「恐らく……魔道様と同じだ」
「……一体何だ?」
「ガイ、凶報という奴だ」
「まさか……刺客……」
「そこまではいかんが……決して弱くは無い魔物が二十。囲まれている」
 その言葉に、少しの間頭が痛くなった。
「何故それをもっと早くに言わなかったんだ」
「言わなかったんじゃない、気付かなかったんだ。この魔力といい、ここまで気付かれずに接近できる敵は……骸骨将軍。と言っても知らないか」
「いや、昨晩一戦交えた」
 ガイはごく普通に、当たり前のようにそう答えた。
「お前……一体何をしていたんだ?」
 その問いに対して色々とな、と簡単に返した。
「それより、後どのくらいで接触するんだ?」
「一分も無いな」
「すぐじゃないか……。おい、聞いてくれ!」
 全員が一斉にガイに注目する。
「敵が近づいているらしい。数は二十。囲まれているようだ。敵は……骸骨将軍だ」
 皆々の間に緊迫感が走り抜ける。
「魔道、敵の配置は!」
「殆ど均等だな」
「……円陣を組むぞ! 各自、戦闘態勢に移れ!」
 皆伊達に、ここまで戦ってきた訳じゃない。すぐさま各々の武器を握り、その背を仲間に託し始めた。
「人数的に、一度に二人を負う事はあまり無いだろう……魔道達はそっちの援護にも回ってもらえるか? それと……」
「壁なら任せろ」
 ガイが言うより早く、プロテクトが皆より数歩前に出る。
「後方の敵はある程度俺が抑える。他は任せるぞ」
 とても頼もしい言葉だ。ガイは自然と口元がほころぶ。
「来たぞ!」
 ガイはそう叫び、剣を抜き放って構える。
 それに習うかのように皆、来る敵に向けて構える。
 ある程度木々が捌けた所とは言え、決して広くは無い。
――うまく立ち回れるかで、決まるかもしれないな――
 下手をすれば、仲間から孤立する可能性もある。
 そう思考を巡らしていると敵が、茂みから躍り出た。
――ヒットアンドウェイ。一撃を切り込んで、円陣に戻る。これが決まれば相手の出鼻の一つを挫けるか――

 円陣を崩さぬよう戦おうとしていると踏んでいたのか、ガイが飛び出した瞬間、一瞬ではあるが魔物達はうろたえた。
 敵陣へと踏み込み、真一文字の一撃が放たれる。が、
「ぐあ!!」
 剣を振るったガイはいとも簡単に吹き飛ばされていたのだ。
 太刀を受け止められるならまだしも、その力で吹き飛ばされてしまったのだ。
「ガイ?!」
 体制を大きく崩したその隙をついて、魔物達は一気にガイに襲い掛かった。
「く!」
 三体の魔物からの三本の剣による攻撃。
 ガイは一撃を剣で受け流し、そのまま剣を返して二つの攻撃を受け止めた。
「ガイ!」
 受け流しただけの魔物は、二撃目を加えようと剣を振るう。
 そこを魔道が大刀で援護に動いた。強烈な突きの一撃は、盾で受け止めた骸骨将軍を大きく吹き飛ばした。
 魔道は大刀を返して、他の魔物へと切りかかる。が、それよりも早く魔物達は間合いの外へと逃れたのだ。
――骸骨将軍……封印が解けてからは初めて戦うが……これほどの能力だったか?――
 魔道はふとそんな事を思ったが、いつの間にか体制を整えた三体の骸骨将軍が剣を振りかざしている事に気づくと雑念を掃き捨てた。
「ちっ!」
 大刀を大きく横へ薙ぐ。魔道の知る骸骨将軍であれば、いくら三体いようと吹き飛ばせた筈だ。が、
「……ぐ」
 受け止められているのだ。それもたった一体の骸骨将軍に……。
 ギィィンと金属の爆ぜる音と共に、魔道の大刀が横に流れる。
「くそ……!」
 盾を構えて、一気に踏み込んだ。
 構えていた武器から、盾で構えての突進。その間はあまりにも短く、流石に三体共避けきれずに吹き飛ばされた。
「ガイ、いけるか?!」
「ああ、一旦戻るぞ」
 頷き合い、さっと後退する。
――戦況はどうなっているんだ?!――
 周りを見ると、各自が応戦してはいるものの、防戦へと傾きかけている。
 アリアに至っては完全に力負けしており、清蜀に任せてしまっているような状態だ。
 頼りにしていたプロテクトは、数体の骸骨将軍に囲まれ、退きつつある。
 フリックは確実に魔法で相手にダメージを与えてはいるが、数が数な為、決して優勢とは言い切れない。キズク達、狩人組に至っては牽制程度にしかなっていないのだ。
「こいつら……まさか……くそ! 魔石を喰っているかもしれない!!」
 リファが槍で牽制しつつそう答えた。
「喰うって……何だ? どういう事なんだ……?」
「一部の魔石は……摂取する事によって莫大な力を得られるんだが、代償として自我を失うんだ」
 敵の攻撃を捌きつつ、魔道は答えた。
「こいつら、俺達を襲撃させる為に、喰わされたんじゃ……」
「否定はできんが、今はそれどころでは無い!」
 矢継ぎ早に大刀を振るっては返し、魔物達に傷を付けていく。
 とは言え確実に押されているのは事実だった。
「まずいな……このままじゃ、く!」
 いつの間にか目の前まで迫ってきた、骸骨将軍の攻撃を辛うじて受け止めるガイ。
――迷っている暇は無いな……。この流れは確実に危険だ――
 ガイは腰に力を入れ、敵を一気に押し返し、仲間を流し見て叫んだ。
「ラッシング! 円陣の中に入って、勾玉紋を開放しろ! 俺らが時間を稼ぐ!」
 殆どの者の顔に、良い表情とは思えない色が浮き出た。
「ガイ! 今主戦力が外れたら、陣すら保てないぞ!」
 横にいる魔道が声を上げる。
「飛翔紋を開放する。こちら側の敵は、全て俺に任せろ!」
「できるのか?」
 険しい表情だったガイは、口元だけ緩ました。
「お前達は他の援護に回れ!」
「ガイ、一度できたから何度もできる訳では……」
 石礫が払拭できない一抹の不安を口にする。
「安心しろ。前回ので色々と分かったんだ」
 先程、押しのけた魔物が再び切りかかって来る。それをガイは受け止め、鍔迫り合いの状態になった。
――あの時、何故あそこまで飛翔紋を、発動させるのに時間がかかったか。単に上位の言霊を使ったからではない。あの紋章は力を望んで求めてはいけないんだ……――
「力を貸してくれ……俺の声に応えてくれ……飛翔紋!」
 一瞬、大気が震え上がり、辺りに閃光が爆ぜる。
 目の前の魔物を、今度は押しのけるのではなく、吹き飛ばしたのだ。
「本当に……発動した……。いや待て、お前はどうすればいいのかが……」
「安心しろと言っただろう。さあ、役者が交代するまでの間、楽しもうじゃないか!」
 ガイは円陣から離れ、敵陣へと斬りかかって行った。

 その様子を魔道は眺めていた。
――これが飛翔紋の力か……。アリアのあの力に近い物なのかもしれないな……――
 ふとそんな事を思い、すぐさますべき事に取り掛かる。
 現在七体をガイが受け持っている。恐らく、あれは倒せてしまうだろう。ガイには明らかに余裕があるように見える。
 プロテクトとフリックで六体。恐らく倒しきるまでにフリックは持ち堪えられないかもしれない。
 オメガ、リファが前衛、後衛にはリフェルで二体の魔物と交戦している。
 キズク達は清蜀と石礫が戦っている魔物四体に援護射撃。恐らくここは大丈夫であろう。
 アリアと三人の子供のハーピー。そしてアジースはラッシングの守りにと、一体の魔物を牽制している。
――アリア達は苦しいか……。オメガ達には、耐えててもらうか? いや戦力を分ければ……――
 最善と思われるその判断で、その場を離れた。
「オメガ、リフェル。お前達はアリア達の援護に行け。リファ、俺と二人で二体だ。いけるな?」
「……正直、わたし一人じゃ苦しいけど……何とか頑張るわ」
 少し渋い顔をしながら、リファはその手に持つ槍を強く握り締めた。
「うし。じゃあ、ここは任せたぜ」
 言うが早くオメガは、アリアの前へと躍り出て敵に切り掛かり、その後ろをリフェルが魔法で支援をする。
「こっちも行くぞ」
 魔道は構えていた大刀を返し、先頭にいた魔物の剣を大きく弾く。その隙を逃すまいと、リファが槍で突きを放つ。
 が、その連携による攻撃を身体を捩って交わす骸骨将軍。
「速さ的にも追いつけていないのか……」
 恐らく、敵の動きにまともについていけているのはごく僅か。主に十五戦士ぐらいだろう。
 ふと、ガイを見やると、既に二体の骸骨将軍が切り伏せられていた。
――まだ、朝だとはいえ……全力を注がなければ苦しいか――
 まだ、魔物に襲われる可能性がある。余力を残して戦いたいが、それではこの状況は打破できないだろう。何も考えていないのか、それとも考えあっての事か、戸惑う事なく全力で戦えるガイが何処か羨ましかった。
――ここらで、一撃を当てておくか――
「暗殺魔剣術、壱の業。砕魔、闇無想砕撃!!」
 魔道は振りかざした大刀に魔力を注ぎ込み、強大な一撃を叩き込む。

 斬撃で逆袈裟に切りさかれ、打撃により頭を砕かれた骸骨将軍は力無く崩れ落ちた。
「やっと一体かぁ」
 相手をしていた一体の魔物が絶命したのを尻目に、清蜀は垂直に叩き切る魔道の姿をその目に捉えた。
「清蜀、まだまだ来るんだ。手を抜くな」
 何処か傍観している清蜀を石礫が叱咤した。
「二人とももっと頑張ってよー。あたし達じゃ全く歯が立たないんだからさー」
 シェルナは口を尖らせて言った。事実、キズクを含む、三人の狩人の援護射撃も彼らにとっては牽制にすらなっていないのだ。
 その言葉に、石礫は苦虫を潰したかのような顔をする。
「石造達がいるような場所でなら、こいつらにも引けを取らんが、こう狭くては戦いづらいの、だ!」
 石礫は、敵からの急襲を難無く受け止めた。
「そうだね……こんな所じゃ押されもするよ」
 どうにも力では分が悪い清蜀は、魔物との鍔迫り合いに押されつつある。
「逝け!」
 石礫が武器である棒を地面に突き立てると、魔物達の足元の地面は一斉に棘上に隆起した。
 が、約10本もの棘は、盾で受け止められてダメージへと昇華される事は無かった。
「速いし、力強いし。話に聞いてたけど、魔石喰いって本当にでたらめだね」
 額の汗を拭いながら呟く清蜀。
「清蜀さん達でも戦った事無いんですか?」
 弓を引き絞りながらキズクが質問をした。
「ああ。魔石を食すのは、向こう側にとっても異端的な事なんだ。食すくらいなら、直接使った方がいいのさ。自我も失わないからな」
 石礫はその武器を振るい、牽制しながらそう答えた。
 それを見て、清蜀も返す。
「僕らが戦ってた時も、魔石を使いこそしたが、決して喰べた魔物はいないね」
 ほんの少し、集中を欠いた清蜀に、一体の骸骨将軍が剣を振るう。
 清蜀は、それを受け止めようと、炎より形成された剣を構えると、真横から来ていたもう一体の魔物を突進に吹き飛ばされてしまった。そして迫り来る二体の魔物。更に後方からもう一体。石礫に向かって清蜀の腹を蹴り飛ばして迫ってきた。
「清蜀!」
「ぐ、自分の事を!」
 石礫に向けて、三体の魔物がなだれ込む。何とか受け止めるも、三体の魔物の力を一人で庇いきれるわけでもなく、傍に清蜀が転がっている以上大した立ち回りも出来ない。
「く、そ……!」
 じりじりと押される石礫。
 キズク達も弓を引き絞るが、敵も捨て身の特攻らしく避ける様子も無い。
「誰か! 手が空いてる人は助けて!」
 石礫の限界が垣間見えたシェルナは、周りに助けを求めた。
 ガイは位置的に間に合わない。
 オメガ達は一体の骸骨将軍に苦戦している。
 プロテクトはだいぶ弱っており、フリックが離れたら確実に決壊する。
 魔道とて完全に二人を負える訳ではなく、リファ共に離れる事ができないでいる。
――て……てづまった!?――
 一体の骸骨将軍が離れた。が、石礫は押し返す事ができず、その場でその体制を保つので精一杯だった。
 離れた骸骨将軍は、剣を握り直し立とうとする清蜀に、回し蹴りを放っていたのだ。おそらく一筋縄では止めまでは刺せないと判断しているのか、一時的であれ戦力としての価値を失わせ、残りの石礫に一点集中するつもりなのだろう。
「もう駄目! 誰でもいいから早く!」
 加速する劣勢にシェルナは完全に気が動転していた。そんな中でも狙い違わず、敵の顔に矢を当ててる所は、流石狩人というところではある。
「ぎゃーぎゃー喚くな。耳障りだ」
 落着いた言葉と共にシェルナの真横を風が抜けて行く。鈍い音共に一体の骸骨将軍が後方の木へと叩きつけられた。
「何とか間に合ったようだな」
 もう一体の骸骨将軍も殴り飛ばしながら冷静に言い放つ。ラッシング・ウィンドウは得物を敵に向けて構えた。
 奇襲とはいえ仲間が二人が素手で倒されたことに、骸骨将軍は加勢してきた人物の危険性を認知し、体勢を立て直すべくその場を退いて間合いを空けた。
「一体を倒した後は、ガイの所にいかせてもらう」
 一つ息を吐いて落ち着いてから、ラッシングは石礫に向かってそう言った。
「あいつなら問題無いのでは?」
「遊んでいるあいつを他の所に援護させる為だ」
 敵を動く的のようにして戦い続けるガイ。確実に切り捨てる好機があっても、剣を振るわずに、打撃で終わらしている。
――なるほど……――
 石礫がガイに対して、多少なりとも呆れている間に、ラッシングはジャマダハルを握り締め、骸骨将軍に襲い掛かった。
 左手に握られた盾を突き出し、ラッシングに突進をする骸骨将軍。それをラッシングは、死角となっている盾側へと滑り込んで背後へと回り込む。が、魔物はラッシングが自分の左へと周り込んだのを確認するや否や、左足を軸に時計回りに身体を捻り、剣を真横に流していく。
 辺りの喧騒の中に金属音が響き渡る。ラッシングは、両手の武器を交差させて剣を受け止めていた。
――確かに強いな――
 その動きから、今まで戦ってきた敵。石造の次に位置するだろうと彼は評価した。
 勾玉紋を開放した彼ですら、力だけなら押されているのだ。更に魔物達は彼の動きについてこれるのである。
――大きさと耐久を除けば石造を遙かに凌駕している……――
 彼らは、一点に特化されてるからこその強みと弱みを持っていた。今ここで対峙する彼らにも弱みが無いわけではないが、それを見つけるのには時間を要するだろう。
 ラッシングは空いた間合いから隙を窺う。が、敵も馬鹿ではないのだろう慎重にラッシングを窺い始める。
――埒が空かないな。だが、ここで畳み掛けるのも危険だろうな――
 ならば一体どうすべきか? そもそも何故急いで倒そうとしているのか? 戦闘を早く終わらす為か? その為にもガイを動かさせる必要がある。
 そして、今こうして対峙して無駄な時間を浪費する必要性は無い。
――紋章を発動しているとはいえ、一対一では時間がかかりすぎてしまう……ならば――
 ラッシングは対峙している敵とは関係の無い方向に駆け出した。そして思惑通り、魔物はラッシングを追いかけてきたのだ。去るのであれば、残った者を掃討する好機ではあるものの、強襲してきた者の背中を襲う好機でもある。彼らは後者を選んだということである。
 そして彼が向かう先は、今だに大立ち回りをしているガイの所だった。
「ガイ、土産だ。受け取れ!」
 ガイの脇を抜けて横に並ぶ。
「お、紋章の開放は済んだのか。なら、俺は……」
「こいつらを倒して他の援護に回るぞ」
 暫し、構えも解かずに沈黙するガイ。
「いや、俺はお前が前線に出るまでの……」
「援護だ」
 じりじりと間合いを詰める魔者達。呆然とそれを眺めながら、ガイは再び沈黙した。
「だから俺は……」
「だまれ。援護だ」
「……分かった」
 流石に諦めたのか、ガイは項垂れながら呟いた。一度頭を振り、正面見据え直したその顔は真剣そのものであった。初めからその真面目であれ、とラッシングは胸中呟くも今は不問とすることにした。
「それじゃ、まあ」
「そうだな」
「畳み掛けるぞ」
「切り伏せるぞ」

「先にこっちから片付けて欲しかったぜ」
 ラッシングがガイの方に飛び出すのを見て、オメガはそうぼやいた。
 四人のハーピーの魔法により支援。
 アジースとアリアはそれを見ている他は無かった。今この場で二人が出ても、正直足手まといにしかならない。それは誰よりも二人が分かっている事だ。
「魔法でもっとダメージを与えられないのか!?」
 敵の強さから、攻めに転じる事が出来ないもどかしさから、オメガ少し苛立っていた。
「まず無理ですね。魔石を喰してるのであれば、魔力への対抗力も高くなり、必然的に魔法耐性がでてくるんです」
 シャーナが額を拭いながらそう答えた。恐らく、魔法を使用し続けた事による負荷が現れているのだろう。
「魔法は飽くまで支援にしかなれないのか」
「そういう事になりますね」
 オメガはそれを聞いて、焦燥を感じずにいられなかった。
――俺自身、どこまで耐えられるか分からない。と、なれば、ガイ達の援護が来なくては殺される。それとも、この状況を俺が打破できるのか……?――
 暫く考えた後、オメガは問いかけた。
「アリア、敵の隙が分からないか?」
 少し悩んだ末、アリアは答えた。
「決定的な隙は無いです……。ガイやラッシュ君とかなら、攻撃できると思うけど……」
 ガイは万能型といっても過言ではない。そしてラッシングとオメガを並べると、ラッシングは速さを重視、オメガは力、防御を重視したものとなる。
 つまり、オメガの能力からいって、敵に追いつくことはまず不可能。
 だが、魔法による援護が少なからず障害となっているのか、オメガへの攻撃に一撃の決めには至らないのが救いだろうか。
「何とか魔法で隙を作れないか?」
「難しいですね……」
 リーナは険しい顔をして答えた。そこへリファが口を開いた。
「全員で一斉に魔法を打ち込めば、不可能では無いはずです」
「付け足させてもらうと、これは賭けになるわよ?」
 と、アンが間髪入れず補足を言った。
「今のままじゃ、俺が殺されるだろう……。背に腹は変えられない。それに賭けてみよう」
 そして、お互いが頷き合う。
「オメガさん、隙ができるとしたら魔法直撃後の1秒もないです」
「一瞬の勝負って事か……。分かった……この命、お前達に奉げてやる。しっかり頼むぜ!」
 オメガはその緊張感に、身を引き締めて通常、切る為の物と投擲用の二本の斧を構えた。
「合図をしたら、駆け出してください。魔法と同時に出るくらいがタイミングが好い筈です」
 そういうリファに対し、頷いて返すオメガ。
「1」
 シャーナとリーナが、骸骨将軍に向けて手を翳す。
「2の」
 リフェル、アンも同じように手を翳す。
「3!」
 炎、風、水、雷の四色の魔法が一体の魔物へと駆けていく。そのすぐ後を、斧による二刀流をするオメガが、疾っていった。
「いけぇ!」
 魔法を受けるべく、盾を構える魔物の隙に向けて、右手に持った投擲用の斧を投げた。
 それは見事、盾から見え隠れする、剣を握る右手に当たったのだ。切り落とす事こそできなかったが、剣を取り落とした上に、盾を大きく傾斜させてその身を露にしたのだ。
 まるで、それを逃すまいと言うかのように、4色に輝く魔法は魔物の体を捉えた。
――ここだ!――
 オメガは、空いた右手を素早く背中に回し、新たに一本の斧を握りながら魔物へと特攻をした。
 魔法が爆ぜた所為で生じた土煙で、視界が悪くはあったが敵の影を見つける事はできた。
 オメガが、斧を振るいながら土煙の中に消えた瞬間、重い金属音が爆ぜた。
「オメガさん!」
 この賭けを見守っていたアリアが叫んだ。
 その音に、緊張感がよぎった。最悪の事態を想定して。
 徐々に晴れる土煙の中では、二つの影があった。
「あ……」
 誰と無く声を漏らした。
 土煙が晴れた後には、盾を地面に放り捨て、剣を振り下ろした格好の魔物と、左手の斧で剣を受け止め、右手の斧で右肩の鎧の繋ぎ目から、深々と刃を通すオメガの姿があった。
「っは!」
 気合と共に右手の斧を一気に引いて、骸骨将軍を両断した。
「凄い……本当に、倒しちゃった」
 徐々に顔を明るくするアリア。シャーナやリーナは、両手を上げながらオメガに向かって走っていった。
 オメガとて、大はしゃぎで喜びたい気持ちだったのだ。そんな気持ちを隠しきれない表情で、ハーピー達の方へ顔を向ける。
 その振り返る中、オメガは想像したことの無い光景を垣間見てしまったのだ。
 それはガイとラッシングによる大立ち回り。

 ラッシングの身体から赤い飛沫が吹き上がるのを。
 


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