「直言」第一部 田中県政一年 <毎日新聞・長野版より>

知事就任1年ということで、毎日新聞の長野版でこういった企画が行われました。ウェブでも掲載されていなかったので、ここにまとめて載せておきます。
(念のため断っておきますが、原文そのまま掲載しています。)

昨年10月の田中康夫知事就任(26日初登庁)から間もなく1年がたつ。この間、「県政が身近になった」と評価する声がある一方、「脱・ダム」宣言に代表される一方的な行政手法で県議会や市町村などとの関係は悪化している。「しなやかな長野県」「長野モデルの確立」を掲げて登場した知事が、もたらしたものは何なのか。そして知事に今、求められているものは何か。選挙期間中から応援してきた人たちや関係自治体の首長、学識経験者ら知事を取り巻く10人に話を聞いた。
(毎日新聞 '01.10.10より、記者名省略)
  1. 「70点の出来 より慎重に」 柳沢京子さん
  2. 「「大衆の後押し」に徹せよ」 有賀裕さん
  3. 「上の世代の意見を聞け」 永田恒治さん
  4. 「政策で地道な成果目指せ」 田中秀征さん
  5. 「軸足「長野」で職務専念を」 小林照幸さん
  6. 「実務能力者をブレーンに」 樺嶋秀吉さん
  7. 「住民が考え決める余地を」 大熊孝さん
  8. 「地元の専門家の話を聞いて」 吉田俊彌さん
  9. 「県内から輝いた人材を」 関口鉄夫さん
  10. 「工業へのビジョン持って」 林新一郎さん

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その1 「70点の出来 より慎重に」

後援会長として支援続ける 柳沢京子さん '01.10.10掲載

やなぎさわ・きょうこ
長野市西尾張部。57歳。切り絵作家。
昨年8月、知事選に名前が挙がった田中康夫氏に再三出馬を要請し、立候補を決意させた立役者の一人。選挙中は後援会「しなやかな長野県をはぐくむ会」の後援会長に就任した。同会は選挙後、活動を停止していたが8月に再開し、引き続き後援会長を務めている。

−何に期待して知事を推したのか。

オリンピックを経験することで、本当の意味で個人個人が尊重される時代が来るだろうと期待していた。だけど、『県営オリンピック』と呼ばれたように結局は県の主導で終わり、県が県民に指示を出すという以前のままの県政が続いた。これを変えるためには、県民一人一人の意向を引き出してくれる新しいリーダーが必要だと思っていたところに田中さんが出てきたのです。

−知事はその期待に応えているか。

県政を開かれたものにしようという知事の意向は十分に形となって現れています。例えば、いろんな人のツテを使わなければ県の部課長と会えないというのは過去の話になりました。主婦的感覚の問題なんて、県に話しても仕方ないとあきらめていたが、あきらめなくてよくなった。私たちが望んでいたことの半分を知事は実現しています。

−残りの半分は。

県議会とのやり取りなどを見ていると、改革の手法にもっと深い知恵があるのではないかという気がします。もっと異論や反論を受け入れていく形ができないのだろうかと。

−どうすればいいのか。

県議会や市町村長たちとの話し合いをとことんすべきです。それを『根回し』だと言うが、そうではない。『脱・ダム』宣言にしても、ダムを造るという選択肢は何十年もかけて検討してきた。では、造らない場合にはどういう治水や利水の対策があるのかということを、なぜみんなで一緒に話し合って検討ができないのか。そこが一番残念な点です。

−知事に注文は。

異論や反論がある場にも出て行き多くの人の声を聞いてほしい。話し合いで結論を見つけていかねば。今までの1年間は情報を得るだけで、施策はあまり実行していないが、2年目からは実行に移すものを精査して決めていく時期。そのためには外の知恵者の話を聞くのも良いが、もっと県内の人の意見を聞いてほしい。だけど、それはもう始まっている。今は知事は県内に生きてきた人たちに会いたいという気持ちになっています。

−知事の点数は。

70点。10年政治家をやってきたわけでもないのに深い洞察力を巡らせることができるし、大抵のことにめげずに自分らしい知事像でやり抜いてきた。マイナスの30点は(問題発言など)少し冗談がきつかった。知事になっても自分は全然変わらないということを表現したかったのだろうけど、日本の知事は大変な権限があり、本当は重いんだということを分かってくれれば。慎重に、謙虚にやって下さると県民はもっと信頼を寄せることができると思います。

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その2 「「大衆の後押し」に徹せよ」

知事選で前副知事を批判し「10万人署名」を呼びかけた 有賀裕さん '01.10.11掲載

あるが・ゆたか
諏訪市湖岸通り。69歳。ホテル経営。元市議。
吉村午良前知事の後援会支部長を務めたが、昨年の知事選では後継者の前副知事の選挙戦を「県民不在」と批判。8月に文化人ら25人で「10万人署名」を始め、約4万5000人分を集めた。選挙中は田中康夫氏の地元勝手連の代表に就任。

−なぜ署名を。

これまでの県政は、県議と知事が癒着して県民の見えないところで密室政治を行っていた。県議は県全体の施策を考えず、地元に仕事を持っていくことだけを考えてカネを奪い合っていた。一方で県民も県政に無関心でした。しかし、県議や市町村長がこぞって前の副知事を推薦するという知事選の構図を見て、このままでは県民不在の県政がまた続くのではないかと不安になったのです。それでも良いのかという意識が県民の間に広がっていけばと思って署名を始め、そういう体制に県民がノーを突きつけたのが知事選でした。

−田中知事誕生でそれが変わったか。

県民が県政に関心を持つようになったことで、第一の目的を達した。さらに、形式的だった県議会のやり取りも活発になり、県民に見えるようになった。長野県政の民主化には相当貢献したと思います。
公共事業の削減が批判されているが、公共事業が景気浮揚につながったのは昔の話。知事は福祉や情報産業への投資を強調しているが、そうしクオリティー・オブ・ライフへの投資をすれば国民の購買意欲は高まる。今、知事が行っていることは時代の流れなのです。

−知事の辞任を求める動きもあるが。

行動や言動に思わしくない点もあり、仕方ないとは思う。ただし、為政者に間違った点があればノーと言うのが市民の責任だし、ノーと言えるシステムが生まれたのは良いことだ。

−知事に注文は。

「一歩下がれ」と言いたい。まず人の言うことを聞き、それからじっくりと考えて発言すべきです。自己主張が強すぎる。大衆が認めなければ自分が正しいと思っても、それは正しくない。県政は知事が動かすのではなく、大衆が県政を動かしているのだということを認識し、知事は後押しをする役割に徹しなければならないのです。

−議会との関係は。

選挙のおん念を引きずってけんかしているように見えるが、互いに欠点ではなく、相手の良いところを探す努力をしてほしい。相互理解が必要。ノーという意見をうまく活用できる行政は発展します。

−改めて知事が当選したわけを。

県民不在の県政はもう嫌だという、あの流れの中では誰が出ても勝った。決して田中さんのキャラクターで当選したのではない。だけど、知事はそれを認識していないのではないでしょうか。自分の力で当選したといううぬぼれがあるから、言うことはすべて正しいという考えになる。今後は考えを強引に押し付けるのではなく、謙虚に、そして県民が自然に理解していくような形の政治を行ってもらいたい。

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その3 「上の世代の意見を聞け」

県の行政責任を追及してきた弁護士 永田恒治さん '01.10.12掲載

ながた・つねはる
松本市沢村。65歳。
弁護士。県の食料費支出訴訟や長野五輪帳簿消却問題などを手掛けてきた。94年に発生した松本サリン事件では、捜査や報道で容疑者扱いされた第一通報者の河野義行さんを弁護。昨秋の知事選では、松本市内の田中康夫氏の選挙事務所で法律問題を中心に支援活動を行った。

−田中康夫知事に何を期待して支援したのか。

吉村午良前知事は高速道路や新幹線の整備などで成果を上げたが、長野五輪招致委員会の帳簿消却問題に象徴されるように、金権・腐敗体質の上に権力ピラミッドを築き上げていた。住民の声がどうしても反映せずに県政が閉そくしていた。知事の話を聞いて、深い見識と大変な才能が感じられたし、前県政のウミを出してくれると思って当選を歓迎しました。

−当選後の県政をどうみているか。

知事は前県政を含めて長野県という地方自治体のどこが問題で、どう克服しなければならないかを考えていない。帳簿消却問題は見向きもされていないし、「脱ダム」宣言や公共事業の削減はパフォーマンスがほとんどで、小手先の政治的テクニックばかりです。産業廃棄物や環境の問題にしても何一つ解決していない。本当にダム問題や公共事業を何とかしなければならないという信念が見られません。

−その要因はどこにあるのか。

知事を特徴づけているのは、どうにもならない幼児性とタレント性です。夏の甲子園で着ぐるみを連れて塚原青雲高の応援に行っていたが、知事のレベルはあの程度。前県政の問題点を暴いてきた人たちをないがしろにして、自分がやってきたかのような錯覚に陥っています。

−朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)などに対する発言については。

問題発言を他人から言われることと、自分が言うこととの落差は大きい。知事には本来の意味での人権感覚はありません。一つでも自分と異質な人と議論をしたうえで合意形成をしたことがあるのでしょうか。もう少し自分より上の世代の意見を聞くべきでしょう。

−この一年間を総括すると。

従来の県政から疎外されてきた県民が覚醒し、意見が反映されるパイプができたような意義はあったと思います。しかし、支持者は自分と知事の距離がどれくらい近いかということを誇示することに終始している。地方自治や財政の改革にほとんど手がつかないことによって、旧勢力が温存されてしまった。あえて警鐘を鳴らす意味で言わせてもらえば、すでに田中県政の役割は終わったと思います。幻想に浸ってばかりいると、どんでもない過ちをおかすことになりかねません。

−県民に求められることは。

最もかわいそうなのが県民、という最悪の状況。知事を軸にするのではなく、自分が主人公という立場で考え直すことが大切です。壊されたものを壊しっ放しにするのではなく、知事選で一度燃えたエネルギーを別の意味で活用していなかければなりません。

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その4 「政策で地道な成果目指せ」

政治改革を訴え続ける元経企庁長官 田中秀征さん '01.10.13掲載

たなか・しゅうせい
長野市出身。61歳。
元衆院議員で細川内閣時に首相特別補佐、第一次橋本内閣で経済企画庁長官。現在は福山大教授。昨秋の知事選前には、県内財界人から出馬の打診を受けるも断る。市民を対象に「民権塾」を主宰するほか、今年9月lからは「小泉首相と談論する回」の座長を務めている。

−田中康夫知事が誕生した意義は。

これまでの県政の流れを転換しました。運転手を変えただけではなく、車までも変えたということ。県政から遠ざかっていた人たちを引きつけた。これは対立候補だった前副知事の問題ではなく、構造的な問題。同じ流れから出てきた候補者には、県民は同じ反応を示したことでしょう。ただし、「田中康夫」個人という問題でもなかった。ほかの知事選などに与えた影響も大きかったと思います。

−「脱・ダム」宣言など公共事業の見直しをどうみているか。

誤解されているかもしれないが、知事には、どうしてもダムが必要でダム以外に方法がないという場合には、ダムを受け入れる用意があるのではないか。ダム建設をはじめとする公共事業が自己目的化されていくことによって無駄な投資がなかったかと言えば、あったわけです。だから、無駄な公共投資を抑制し、県民ばかりでなく、全国的にダム問題を考えさせる機会をつくる効果はありました。

−トップダウン的な政治手法が県職員や県議、市町村長との溝を広げている。

知事が乗っているのはまだ支持者たちの車であって、本質的に県庁組織の構造自体が今までの車という中でやろうとするのは難しい。どうしても周囲に違和感や緊張感が生じてしまう悩ましさがある。内容が県民の意向に沿った正しいものである限り、トップダウンでやるのは仕方ない。それは小泉純一郎首相と同じ状況だといえます。ただ、職員や県議たちを“抵抗勢力”と決めつける必要はない。お互いに聞く耳を持たなければなりません。

−ブレーン不在との指摘もあるが。

詳しい事情は知らないが、実質的に相談している人はいるのでしょう。そういう人を表に出してやった方がやりやすいとは思います。

−朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)などに対する問題発言や派手なパフォーマンスが物議をかもしている。

問題発言によって信頼を失ってしまうと仕事がやりにくくなるので、慎重に願いたい。また、一定のパフォーマンスが必要な部分もあるが、これからはいちいちメディアで取り上げてもらえなくなるでしょう。都道府県知事には地道な仕事が多いのだから、具体的で明確な政策で地道な成果を上げるべきです。

−今後の田中県政に期待することは。

知事はずっと長野県知事になろうと思っていた人ではないので、1年間で判断するのは酷。財政再建▽情報公開の徹底▽公共事業の見直し−など、骨太の課題に早く本格的に取り組んでもらうことを、辛抱強く待っています。

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その5 「軸足「長野」で職務専念を」

知事選で支援依頼を断ったノンフィクション作家 小林照幸さん '01.10.14掲載

こばやし・てるゆき
長野市安茂里。33歳。
99年4月、「朱鷺の遺言」で大宅壮一ノンフィクション賞を最年少受賞。近著に元代議士の生活を赤裸々に綴った「政治家やめます」(毎日新聞社)がある。長野高校卒業後、東京都内を拠点に活動していたが、98年春に信州大経済学部に編入し10年ぶりに長野に戻る。テレビ番組のコメンテーターとして、田中県政の批評も行っている。

−県内の文化人がこぞって支援したが。

告示前に支持者から「名前を貸してくれ」と言われたが、面識もなく政策も分からないので断った。それに「東京ペログリ日記」などの田中さんの著作の中身から考えても、知事が務まるのかという疑問がありました。

−実際はどうか。

当選直後は県政が身近になり期待もした。しかし、27人が死傷した1月の大雪の時に、知事が千代田区長選の候補者の応援に出かけて行ったのを見て、「大丈夫か」と不安になった。そこには、県民が知事の行動を見ているという緊張感が感じられなかった。いまだに東京に軸足があり、評論家的に上から見ているのではないでしょうか。

−知事の手法についてはどうか。

「脱ダム」宣言など、議論を巻き起こす手法は見事だ。「今これを言えば受ける」というものを計算し、パフォーマンスもうまい。確かに220万県民よりも全国にPRしたほうが「知事はまじめに仕事している」と映るでしょう。でもそれは「県民益」ではなく「田中益」になっているだけ。「脱ダム」にしても代替案がなく言葉だけが一人歩きしている。
職員との関係についても、土木部長の解任や特別秘書の更迭にみられるように「しなやかなファシズム」になっている。「しなやかな長野県」というのは、反対派の意見も含めて話し合いをし、県政を形作っていくことのはずです。

−公共事業の削減を打ち出しているが。

東京に住んでいる時は公共事業の削減は立派なことだと思っていた。しかし、長野に戻ってみると「日本や世界がどうあるべきか」といった大局的なことよりも、足元の自分たちの生活をどうするかという問題を考えねばならないことに気付きました。基盤整備が整っている都会とは違うのです。知事はまだその温度差を把握していないのではないか。

−評価する点は。

県政が分かりやすくなった。今まで県民は県議会がいつ開かれているか、知事室がどこにあるかすら知らなかったから。県政のことは専門家に任せておけばいいと思っていたが、それについては県民も反省しなければならない。田中さんが出てきてそれを考えるようになったことは進歩だと思います。

−知事に注文は。

1年くらい執筆やテレビ出演などもやめ、「県の広報マン」と言う前に知事職に専念してもらいたい。そのためにも軸足をしっかり長野に据えなければならない。外部にPRしたいのなら長野でしっかり仕事をしているところを見せればいいのだし、県内にはまだまだ回らなければならない所がたくさんある。東京や大阪で名詞を配る前にやるべきことがあるはずです。

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その6 「実務能力者をブレーンに」

全国の自治体の動きを追うジャーナリスト 樺嶋秀吉さん '01.10.18掲載

かばしま・ひでよし
ジャーナリスト。43歳。
毎日新聞記者として山形支局、政治部で活躍した後、出版社の編集を経てフリーに。全国の地方自治体をめぐる面白いニュースを集めたメールマガジン「チホウ政治じゃーなる」を発行しており、今夏には田中康夫知事ら改革派知事をリポートした「知事の仕事」を出版した。

−田中康夫知事の誕生をどうみたか。

政党や業界団体の支援がなく、フリーハンドで自分がやりたいことができる環境を得ていた。行政のプロではないので、無党派市民の意向をどう政策に実現していくか、「お手並み拝見」といったところでした。

−従来の知事像との違いは。

これまでの都道府県知事は地域の首長や自治体議員、業界団体とのパイプはいっぱいつないできたが、市民の生の声を直接吸い上げることはしなかった。車座集会の開催や電子メールの活用は、知事選の選挙スタイルをそのまま活用したもの。県民にとっては、県政に参加しているという手応えがあるのではないでしょうか。

−「脱ダム」宣言をはじめとして公共事業の見直しについては。

ダム建設を見直す動きがすでに全国で始まっていた中で、ようやく日本でも世界標準的な政策を打ち出し、理念を語れる政治家が出てきたなと思いました。地方分権の時代からすれば、素晴らしい宣言です。

−トップダウン的な政治手法に批判も上がっているが。

知事の場合は、いわゆる「トップダウン」とは違う。トップダウンとは、組織をきちんと掌握している人がやること。組織の中でのパイプがなく、意思決定を組織の下まで落としていくというシステムができていないところに、限界が現れていると思います。

−ブレーン不在との指摘は。

理念そのものは素晴らしいが、理念を政策にして現実化する手段に欠けている部分がある。特別顧問などは、予算までつける必要があるのか疑問です。本当に行政の知識と能力がある行政実務を知っている人をブレーンとして周りを固めるべきです。そうすれば、反発している職員もまた違った反応をするはずです。

−支持率についてはどうか。

知事にとって、支持率は一つの生命線。多くの県民から選ばれたことが力の源泉になっている。就任当初は高すぎた。よほど県民が歴代知事のような官僚出身知事ではなく、民間の市民的な知事を求めていたという“ご祝儀相場”が乗っかっていたと思います。高い支持率を維持できれば、来年ぐらいから本当にやりたいことが形になってできることでしょう。

−今後に期待することや課題はあるか。

知事の力がなぜ強いかといえば、予算提案権を持っているから。公共事業にカネをつぎ込んで経済指標を上げたり、予算で手なづけることがないような工夫と方法を考えてほしい。また、県民も知事を選んだことに対する自覚と責任を分担するぐらいのつもりでいないと、長野県を本当に変革できないはずです。

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その7 「住民が考え決める余地を」

対話型の河川行政を提唱する土木工学者 大熊孝さん '01.10.19掲載

おおくま・たかし
新潟大工学部教授(河川工学、土木史)。59歳。
近世と近代の土木技術を組み合わせた持続的な河川技術を研究する。新潟市内で住民参加の川づくりを進める「通船川・栗ノ木川下流再生市民会議」会長。民主党の「緑のダム構想」策定にも加わり、今年6月からは「県治水・利水ダム等検討委員会」の委員を務める。

−田中康夫知事による「脱・ダム」宣言の意義は。

川は地球における水環境の重要な担い手だが、ダムは基本的に循環を遮断してしまう。いずれは積もった砂で利用できなくなってしまうので、本当は最後の最後に使うべき“劇薬”。「ダムができれば安心だ」という神話を考え直し、ダムが単純なものではないということが全国で理解されたのはよかったです。

−従来の治水・利水の公共事業とはどういうものだったのか。

昔は少ない投資でかなりの治水効果が上がっていたので、住民から見ても、土木技術者たちが計画を立てて進めていくことに文句を言うようなことはなかった。ダムを造る際には、県と市町村の立場からすると、国から補助金が出てほとんど自腹を切らずに済む構造になっています。

−どこに問題が出てきたのか。

治水安全度が一定の段階に達すると、さらに安全度を高めるためには膨大な費用がかかるし、環境面でのマイナス効果も大きい。他人のお金だと思ってむやみにどんどん造ったら、借金を抱えてしまった。よくよく考えてみたら国のお金だって自分たちのお金でしかない。公共事業をやるにしても、自分たちのお金だと思って必要性をもっと吟味すべきです。

−「県治水・利水ダム等検討委員会」については。

「脱・ダム」宣言はショック療法のようなもので、宣言がなければ、検討委員会もできなかったのではないか。公開の場で民主的に議論されていくことが一番大事。委員たちには、単純に知事の肩を持つ気はさらさらない。問題は問題として指摘し、徹底的に議論を尽くして県民に信頼してもらわなければならないと思っています。とにかく長野県にとっては初めてのケース。まずは浅川(長野市)と砥川(下諏訪町)を審議してみて、次はどう進めたらいいのかどうかを考えていけば、次第に慣れてきて審議も段々と短くなるでしょう。

−治水・利水の住民参加のあるべき姿は。

住民が自分の利害だけを表明しても、それに合わせようとするのは無理がある。住民自身が利害を脱して広い立場で物を考える段階に成長しない限り、本当の住民参加に到達することはできない。多数決の原理を補完する対話型の民主主義が必要なのです。

−知事に期待することは。

いろいろな現場にどんどん出掛けていって、賛成と反対があることをよく肌で感じて行動してきたのだと思います。今後も住民に物事を押しつけるのではなく、考える余地を与えたうえで住民に決めてもらうという方針を取っていってほしいですね。

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その8 「地元の専門家の話を聞いて」

公共事業評価監視委員会委員 吉田俊彌さん '01.10.20掲載

よしだ・しゅんや
長野市安茂里。78歳。
九州帝大工学部卒業後、51年から信州大工学部講師。61年教授、85年から87年までは同学部長。89年に退官して名誉教授に。専門は橋梁工学で本州四国連絡橋などの技術指導を行った。中部横断自動車道路環境アセスメント委員会委員長などを歴任し、現在は県公共事業評価監視委員会委員のほか、長野地方労働基準審議会長や県都市計画審議会委員などを務める。

−監視委で認めたダム建設が覆されたが。

諮問された全部のダムを現地調査し、何回も会議してさまざまな検討を加えてきた。活断層がある浅川ダムについても、「地すべり等技術検討委員会」で専門的な調査をし、「問題ない」という報告を受けたのでゴーサインを出した。それなのに知事はちょっと現地を見ただけで我々や県議会が承認したものを無視してストップした。一体我々がやってきたのは何だったのかと憤りを感じます。

−「脱ダム」宣言についてどう思うか。

ダムに反対する人はマイナス面ばかり強調するが、それはダムが人目につかない山奥に造られ、その効果がちゃんと理解されていないからだ。例えば、日本の川は急流河川で一気に流れるから、増水期と渇水期との落差が大きい。ダムで水をためて安定供給しているからこそ、少々の渇水でも生活用水に困ることがないのです。
発電にしても、日本では火力と原子力、水力の三本柱だが、火力は化石燃料を使い地球温暖化の原因になるし、ほぼ全量を輸入しているため、国際情勢次第で供給がストップする可能性がある。原子力には放射網漏れの不安があります。知事はじめ反対派の人たちは、ダムのおかげで豊かな生活を享受していながら、それに目を向けていないのではないか。

−ダムに代わる治水が検討されているが。

下諏訪ダム建設予定地の砥川の場合、河川の拡幅には大規模な立ち退きが必要になるし、遊水池を造るための広大な土地もない。現在のように河川の周辺に住宅が密集している時代には非現実的な案です。堤防を高くするにしても橋梁を全部上げなければならず困難だ。また、「緑のダム」と言うが、森林は必要以上のものは表面から流してしまい保水力に限界がある。知事や取り巻きの学者はロマンチックなことばかり言っているが、それに伴う諸問題を分かってないのではないでしょうか。

−知事の政治手法をどう思うか。

1年間ただストップするだけで何も仕事をしてこなかった。県民の声を聞くと言うが、車座集会にしても、自らを礼賛するファンを集めただけの座談会にすぎない。土木部長や特別秘書を辞めさせたように、自分に気に入らない者を排除してきた。つまり、「権威」もないのに、「権力」を振りかざしているだけなのです。

−知事に注文は。

女性と海外旅行に行ったり、週末ごとに東京に出かけたりするのではなく、県民の代表としてしっかりと長野に腰を落ち着けてほしい。そして、外部の人ではなく県内に熟知した地元の専門家の話を聞き、じっくりと時間をかけて判断するようにしてもらいたい。

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その9 「県内から輝いた人材を」

廃棄物問題を中心に住民運動を支えてきた 関口鉄夫さん '01.10.21掲載

せきぐち・てつお
豊田村。51歳。
信州大教育学部講師(環境科学)。「県廃棄物問題研究会」の調査・研究委員長を務めながら、埼玉県所沢市など全国各地の住民運動を支援。豊科町の廃棄物処理施設計画の見直しに伴い、今年5月に設置された「中信地区・廃棄物処理施設検討委員会」の委員となる。

−従来の県政にはどんな問題があったか。

露骨な官僚主義と利権主義が目立っていた。県民の話や苦情を聞いてやるという姿勢。廃棄物行政について言えば、業者と県の主張は全く一致していて、両者の癒着が表に見えてしまっていたし、職員も活発に動いていなかった。住民が抱える問題はほとんど住民運動家訴訟に頼らざるを得ませんでした。

−知事の当選時に期待はあったか。

福祉や医療をはじめ県民に閉そく感があったので、知事の当選はそれらに対する“ノー”だったと思います。県の制度を現実に合わせるために、どこかにくさびを打ち込まなければならなかった。だが、一気に改革が進んで県政がよくなるという幻想までは持っていませんでした。

−就任後の県政をどうみているか。

何でも自分で処理しようとして、自分の構想で動こうとしている。また、“有名人症候群”が一番良くない。ブレーンを外から連れてくるのではなく、窮地に陥ったときに救ってくれるような輝いた人材を県内で探すべきです。長野県の実情を知らない人に「輪切りの民主主義」を求めてはいけない。部品だけを取り替えても駄目なのです。

−「中信地区・廃棄物処理施設検討委員会」については。

これまでの県の委員会などは、県が作成したデータの目的や評価を考えずに丸のみするようなものだった。有識者らの委員たちが県民の目にさらされ、県のデータのいかがわしさに気付いてきたという点では前進していると思います。

−県政への住民参加はどうあるべきか。

廃棄物やダムの問題の現場では、住民が頼るものがない中で運動を展開するという意識が薄くなってきた。最も活発化が求められているのはダムについての運動。知事の近くで、審議会の近くで発言しようとするような姿勢が目立ってきました。“敵”がはっきりしないので、運動が停滞する傾向にある。知事も批判の対象にし、自分たちで民主主義をつくり上げることが大事です。

−知事に注文することは。

県議会は劇場のようで面白くなったが、県民が劇場に上がっていない。どうしたら県民の中に入れるのかをよく考え、県民と行政、議会との間に入って相互の対立を演出し審判するような立場になってほしい。大型公共事業については、第三者による検証機関が必要です。廃棄物やダムの問題などを実際に検証することを通じて、長野五輪帳簿消却問題のデタラメも出てくるはず。知事が暴露するのではなく、職員に過去を振り返らせる。従来の事業の検証が将来の事業の参考になり、民主主義の安全装置にもなるのです。

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その10 「工業へのビジョン持って」

下諏訪ダムからの利水を計画していた岡谷市長 林新一郎さん '01.10.24掲載

はやし・しんいちろう
53歳。東京農大を卒業し、岡谷市に江戸時代から続く家業の造り酒屋を継ぐ。95年9月の市長選で現職を破り初当選。現在2期目。同市は下諏訪ダムからの利水参加を計画していたにもかかわらず、田中知事は「脱・ダム」宣言に伴い同ダム計画の中止を発表した2月20日の当日まで、市長に一切の連絡をしていなかった。

−県と市町村の関係は変わったか。

吉村午良知事の時は下から積み上げて知事が最終的に判断するオーソドックスな手法だったが、田中康夫知事はトップダウン手法を取り入れました。政策秘書室が中心になって知事の意向を反映させる方式です。従って知事に会わないことには話が進まないのですが、会えるのは15分程度でじっくりと意見交換できません。知事が以前よりも遠くなった気がします。そもそも220万県民の意見を知事が一人で引き受けて反映させるということに物理的な限界があるのではないでしょうか。

−下諏訪ダムの必要性は。

岡谷市の水は8割方地下水に頼っているが、20本の井戸のうち5本が汚染されており、1本800万円をかけて高度のろ過処理を行っています。安心して飲める東俣川の水を市民に供給したいと思って市もダム事業に協力してきました。

−「脱・ダム」宣言で中止になったが。

狭い国土に1億2000万人が住んでおり、ある程度コンクリートのダムも造らねばならない。すべてが悪いわけではないのです。下諏訪ダムについてもじっくりと検討して、地元の理解を深めてから判断してほしかった。「県治水・利水ダム等検討委員会」の人選も最初から「脱ダムありき」の偏った人選でした。

−そうした一方的な手法をどう思うか。

知事は特別養護老人ホームを批判したことがあるが、我々は県の計画に基づいて事業展開をしており非常に困惑した。「乳幼児医療費の窓口無料化」のように、120市町村の強力が必要な事業についても、我々に相談せずに思いつきで言ったりしたが、それにより大きな影響が出ています。どうか慎重な発言をしてほしい。また、公共事業の見直しにしても、闇雲にカットして後で慌てて予算付けをする無計画さも見受けられる。もっときめ細かくチェックして、それから考えてもらわねばならない。

−市町村との正常な関係を取り戻すには。

長野県は120の市町村から成り立っているのだから、その理事者と積極的に会い、意見を吸い上げてほしい。最近は知事も胸襟を開く姿勢になってきており、その点は歓迎しています。

−政策に注文は。

知事は農業や観光などについては積極的に発言しているが、工業に関する理解が乏しい。長野県の工業出荷額は内陸県の中ではずば抜けており、工業振興は県の経済政策の根幹部分です。国際競争力が厳しくなる中、産学一体となった研究・開発と人材育成が絶対必要だ。そのためには工業系の大学がぜひ必要です。しかし、「県政改革ビジョン」を見ても県内工業へのビジョンがなく残念です。


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