●貧血(各種)
以下のような質問を頂きました。
貧血が伴う場合、何を食べるのがいいですか?腎臓に負担をかけずに貧血を改善させるようないい食事はありますか?
貧血は『一定の容積の血液の中のHb量がある程度以下に減少した状態』と定義されます。ひらたくいえば『ヘモグロビンが足りなぁい』という状況です。
具体的には
1.赤血球を作る量が少ない・作ることが出来ない(骨髄の障害)
2.赤血球の寿命が短くなる
3.赤血球の材料(鉄・アミノ酸)不足
4.核の成熟に必要な材料(ビタミンB6、B12、葉酸)の不足
によって貧血になります。また、その他出血が多いときにも当然貧血になります。
ちょっと難しいですが、これを図にすると以下のようになります。
| 骨髄中(赤芽球と呼ばれる時期) | 血中(赤血球と呼ばれる時期 | ||||||
| 血の作られる過程 | 核が作られる | → | 細胞分裂ながら成熟する | → | 細胞の原形質がHbに合成する | → | 寿命を迎える(120日) |
| 不良↓ | 材料不足↓ | 材料不足↓ | 短命・出血↓ | ||||
| 不良・材料不足によって起こる貧血 | 再生不良性貧血 | 悪性貧血 腎性貧血 |
鉄欠乏性貧血 | 溶血性貧血 出血性貧血 |
|||
ヘモグロビンはヘム色素(鉄を含む)とグロビンというたんぱく質が結合したものです。
一般的に『貧血=鉄不足』で片付けられがちですが、腎臓の患者さんにとってはご存知の通り『エリスロポエチン不足(腎臓の働き参照)』も貧血の大きい理由になるし、それ以外にも貧血になる理由はいろいろあります。
もちろん理由が違えば、対処法も異なります。
血液検査で貧血を指摘された人は、まず理由を調べてみてもらいましょう。その上で理由に合わせた対処法をとるのが良いのです。先の質問くださった方もまず、原因を調べてもらってください。その上で食事を含めた治療を考えなければなりません。
さて、上のように原因が様々ある貧血、医学的には次のように名前がつけられます。『貧血ですね』と診断されたら(もしくは血液検査でHbが低かったら)突っ込んで聞いてみましょう。大体以下のような病名を教えてもらえることと思います。
○腎性貧血
○鉄欠乏性貧血
○悪性貧血(巨赤芽球性貧血)
(○溶血性貧血)
(○再生不良性貧血)
この中で食事に関係してくるの『鉄欠乏性貧血』『悪性貧血』です。それ以外が原因の場合はとりあえず、薬など食事療法以外の治療となります。
『溶血性貧血』『再生不良性貧血』あたりは結構特殊なので、腎臓の患者さんの『貧血』という場合、理由は『腎性貧血』『鉄欠乏性貧血』『悪性貧血(巨赤芽球性貧血)』になると思います。これらはひとつが原因のこともあるし、複数が原因であることもあります。
原因が複数であるときは当然、複数の原因をなくさなければなりません。
栄養素の不足が原因とされる貧血の検査所見の違いを表にしておきましょう。ただし、これはあくまで目安です。素人判断はやめておいた方が良いと思います。自分がどの貧血か気になるのであれば、医師に詳しく尋ねてみましょう。
| 検査項目 | 鉄欠乏性貧血 | 悪性貧血 |
| 赤血球数(RBC) | ↓ | ↓ |
| ヘモグロビン(Hb) | ↓ | |
| ヘマトクリット(Ht) | ↓ | ↓ |
| 平均赤血球容積(MCV) | ↓ | ↑ |
| 平均赤血球色素量(MCH) | ↓ | ↑ |
| 平均赤血球色素濃度(MCHC) | ↓ | |
| 白血球数(WBC) | ↓ | |
| 血小板数 | ↓ | |
| アルブミン(Alb) | ↓ | ↓ |
| ビタミンB12(血清) | ↓ | |
| 葉酸(血清) | ↓ | |
| 鉄(Fe)(血清) | ↓ | ↑ |
| 総鉄結合能(TIBC)(血清) | ↑ | ↑ |
| フェリチン(血清) | ↓ | ↑ |
さて、病名別に解説します。
【腎性貧血】
まず腎臓で貧血といったらこれが思い浮かべられるんじゃないかな?と思います。血を作るために必要なホルモン、エリスロポエチンの不足によって起こる貧血ですね(腎臓の働き参照)。BUNが50mg/dl程度以上からあらわれると言われています(もちろん、個人差があります)この貧血はホルモンの不足なので残念ながら、食事では解決できません。エリスロポエチンの注射によって治療します。
・治療:エリスロポエチン注射
【鉄欠乏性貧血】
貧血の中で最も多いもので、健康な人の場合、貧血といったらこれをさすことがほとんどのようです。食事との関連が一番強いのがこの貧血ではないかと思います。
鉄は前述のようにヘモグロビンの材料で、胃酸やビタミンCにより吸収が促進されます。体の中の鉄は殆どが再利用される他、体は余裕がある分を貯蔵する機能を持ち合わせているので、鉄が少し不足したからといってすぐに貧血になるわけではありません。
しかし、鉄がずっと不足した状態でいると、貯蔵鉄がすっかりなくなってしまい、貧血になってしまいます。
生理の出血のため、体の中の鉄が失われやすい女性は特にこの貧血に注意が必要です。成人女性の半分は貧血には至らなくも、鉄欠乏状態にあると言われているくらい、貧血は身近な問題になっています。
鉄は国民栄養調査においてもカルシウムと並び、不足傾向が指摘される栄養素であり、また、後述のようにたんぱく質が多いものにたくさん含まれる傾向があるので、たんぱく制限を行っている腎臓病患者さんは特に意識的に鉄不足に注意しないと簡単にこの貧血になってしまいます。腎性貧血でもあり、この貧血でもある人、結構多いんではないでしょうか?
貧血になってしまった場合の治療としては、とりあえず、鉄剤の処方を受けるのが良いようです。(鉄剤についてはこちらに情報があります。)
鉄剤を飲めば、鉄欠乏性貧血はとりあえず治ります。しかし、この貧血を予防する観点から、また、再発を防ぐ観点から、貧血の人も、貧血ではない人も、腎臓病の人も、そうでない人も、鉄を意識的に継続して摂ったほうが良いと思います。
治療:鉄剤→鉄剤の情報
予防:鉄の摂取
<食事>
鉄欠乏性貧血では『鉄』以外ににも『ビタミンC』『良性たんぱく質』などを豊富にとることが必要と言われています。本来は鉄だけではなく、良性たんぱく質、ビタミンCなどについても一緒に考えるべきなのだろうと思います。
しかし『腎臓病で食事療法がある』という前提の元、あまりいろいろなことを書きすぎると、混乱するような気もしますし、国民栄養調査結果を見ても他の栄養素と比べ『鉄』は欠乏しているのがみてとれるので、今回は『鉄』に焦点を絞って書きたいと思
います。
鉄の多い食品を挙げますと
【肉類】
レバー、ヒレ肉(牛・豚・鶏に限らず)
【魚介類】
わかさぎ、いわし、あおやぎ、かき、あさり、かつお、煮干し、まぐろ赤身、はまぐり、さんま
【大豆製品】
高野豆腐、木綿豆腐、油揚げ、納豆、生揚げ
【野菜・きのこ・藻類】
ひじき、ほうれんそう、きくらげ、小松菜、菜の花、切干し大根
などです。残念ながら鉄は摂ったもの全部が吸収されるわけじゃなくて、結構吸収率は低いものです。
主に動物性食品に含まれる『ヘム鉄』と植物性食品に含まれる『非ヘム鉄』の2種類があり、『ヘム鉄』の方が吸収率が高い(個体差や状況の差があるからか、本によって全然違うのですが大体『非ヘム鉄』2〜5%、『ヘム鉄』は15〜35%くらい)ので、なるべくなら動物性から摂った方がいいようです。
また、摂る時、ビタミンCやたんぱく質(特に良性)と一緒に摂ると吸収率はアップするので出来るだけ一緒に摂りたいものです。
と、一般的な『鉄欠乏性貧血』の話をしましたが、腎臓ので食事療法をやってる患者さんの場合、そう簡単にはいかない事情もありますよね。
そう、『たんぱく質』と『カリウム』の問題です。
動物性食品・大豆製品にはたんぱく質が当然多いし、野菜類はカリウムが気になる…。中々難しいものです。
でも、食品を選択するときに上のようなものを取り入れようと意識するだけでだいぶん変わってくると思いますので試してみて下さいね。
ただ、食事でどうしても摂ろうとこだわる必要は無いとも思います。足りない場合は鉄剤や鉄のサプリメントを利用するのも方法だと思います。
【悪性貧血(巨赤芽球性貧血)】
名前はぶっそうですが、癌などとは異なり、治療・食事療法によって治る貧血です。診断された人安心してくださいね(^-^)。
この貧血の原因は
*ビタミンB12・葉酸の欠乏
*胃の切除や萎縮性胃炎など
ビタミンB12・葉酸の欠乏はともかくとして、胃の病気で?と思われるかもしれませんね。
なぜ胃かというと、ビタミンB12は胃粘膜から分泌される『内因子』という糖たんぱく(糖とたんぱく質が結合したもの)と結合しないと吸収されないからです。そのため、ビタミンB12や葉酸をたっぷり摂っていたとしても、内因子がなければこの貧血になってしまいます。内因子不足の場合はビタミンB12、葉酸の摂取では改善されないので、まず胃の方を治療することが必要です。
また、この貧血は鉄欠乏性貧血に比べるとその頻度はぐっと落ちるものです。腎臓病だからこの貧血という場合は少ないかもしれません。そのその点を頭において読んでくださいね。
ビタミンB12や葉酸が不足すると、赤血球の中の核酸の合成がうまくいかず、核がうまく成熟しません。そのため出来損ないの赤血球になってしまい、貧血になります。この出来損ないの赤血球は中にたくさんヘモグロビンを含み巨大であるため、この貧血は『巨赤芽球性貧血』ともいうのです。
この貧血をなくそうと思えば、原因をなくせばいいんです。つまり、内因子が原因の人は胃を治せば良いし、ビタミンB12・葉酸が欠乏しているならそれをとればいいんです。ビタミンB12・葉酸を含む食事については鉄と同じくこの項の最後に書くとします。
余談ですが、『悪性貧血』という名前の由来は内因子の欠乏である場合、ビタミンB12を摂るだけでは吸収されないため、治らないことからであるそうです。
治療:胃の病気が原因の時はそれを治す
ビタミンB12・葉酸を摂る
<食事>
ビタミンB12は余程の偏食がある場合や、菜食主義者の場合を除いて起こらないと言われています。なので、余程厳しいたんぱく制限をしていない限り、欠乏することは珍しいと思います。葉酸欠乏はカリウム制限の厳しい人工透析患者におきることがあると言われています。これは葉酸が調理の過熱によって破壊されやすいからです。つまり、カリウムを減らしたら葉酸も減ってしまう状態になるわけです。
また、葉酸は光にも弱いので、保存するときは日光を避けたほうがよいそうです。
これもカリウムなどの制限との兼ね合いでしょうね。鉄欠乏性の場合と同じことが言えると思います。
下にビタミンB12、葉酸の多い食品を挙げておきますので、この貧血の方は食品選択の際に参考にして下さい。
<ビタミンB12の多い食品>
【かなり多いもの】
あさり、かき、レバー(牛・豚・鶏)、しじみ、にしん、すじこ、さんま、いわし、さば、たらこ
【多いもの】
さけ、牛肉ロース、たら、まぐろ赤身、帆立貝、ひらめ、のり、卵、牛乳
<葉酸の多い食品>
【かなり多いもの】
レバー(牛・豚)、牛肉、ほうれん草、豚肉、じゃがいも、大豆
【多いもの】
アスパラガス、インゲン豆、さつまいも、ブロッコリー、メロン、とうもろこし、キャベツ、芽キャベツ、オレンジ、まぐろ、バナナ、アボカド、卵
これ以後は、腎臓とは関係ない原因で起こる貧血であり、かつ、めずらしいものです。というわけで殆ど気にする必要はないと思いますが、一応、書いておきます。
【溶血性貧血】
赤血球の寿命が短くなって起こる貧血で、原因は様々です。生まれもったものである場合もあるし、後に起こってくることもあります。腎臓病とは関係ないし、食事との関連は少ない貧血です。
【再生不良性貧血】
ある種の薬物、放射能によって骨髄の血を作る細胞(造血細胞)が傷害されて、作られる赤血球や白血球、血小板の量が減ってしまったり、全く作られなくなってしまったりする貧血です。この貧血も腎臓病とは関係ないし、食事との関連は少ない貧血です。
(2001/11/9)