チョコよりも甘いもの、何だ?

ホットチョコレート



今日は全校女子生徒が色めき立つ日――バレンタインデーだ。
色々な生徒が好きな相手に告白されたり、ひとつも貰えない口惜しさから悪態を吐くそんな日。



しかし、そんな日にも全く変わりもしない態度をとるのは生徒会副会長・
そして今日は月曜日。週に一度の定例会に日で、いつもと変わらずに仕事をしていた。




ガラッ、と音をたてて生徒会室の扉が開く。そして、不機嫌そうな表情をした会長――跡部景吾が入ってきた。




「あ、会長。お疲れ様です。」
「ああ。今日の仕事は?」
「新入生説明会への最終的な挨拶文。そして卒業式の分の挨拶も考えて下さい。」
「…面倒だな。」
「でしたら、私がどちらかを考えましょうか?」
「いや、大丈夫だ。」

そう言いながら溜息をつく跡部。そしてはフウッと息をついた。

「会長、今甘いモノを飲むのは平気ですか?」
「ああ?別に構わねーけど…」
「でしたら、今からちょっと作るのでじっとしていて下さい。」

そう言いながら、鞄の中から何かタッパのようなのものを取り出す。
そして、カップ二つに牛乳を注いで電子レンジで暖めはじめた。

「今日、朝から大変そうでしたね。」
「ああ…。女子っていうのはあんなに体力あるモンなんだな。」
「好きなものに傾ける情熱は凄いモノがありますよね。」

そう言い、苦笑を浮べる。この日に限っては『俺様』な跡部も形無しだ、と思ったのであろう。


普段の彼からは――おそらく、試合の後でも見せないくらいに疲れきった表情を浮べる跡部。
それほどまでに、今までの時間に来た女子との攻防は凄まじいモノがあったのであろう。





跡部は、テニス部の部長であり生徒会長であり学校一の有名人だ。




テニス部でなくても『氷帝コール』は有名であり、彼の存在は大学部にまで知れ渡っていた。






「…うわぁ…チョコから時計まで…色々ありますね。」
「欲しけりゃやるぜ。」
「いや、悪いからいいですって。」
「名前あるのはこっちで控えてあるから別に構わねーよ。」

そう言いながら、机に伏せる跡部。…よっぽど、女子との戦いで疲労困憊したのであろう。






「…モテるって、大変なんですね。」

そう言った瞬間、電子レンジからピーッ。という音がする。は慌ててそっちへと走った。
机にふせていて跡部には見えないが、カチャカチャと食器とスプーンがぶつかり合う音がする。
そして、再び足音が近づいて、跡部の側にマグカップを置いた。

そこでやっと顔を上げる。すると、湯気のたったマグカップとの笑顔があった。

「ホットチョコレートです。落ち着きますよ。」

そう言いながらは自分の分のホットチョコレートを飲み始める。そして跡部もそれを受け取った。

「…コレ…今作ったのか?」
「ハイ。チョコレートに含まれるエンドルフィンとカフェインで会長もお元気になるかと思いまして。」
「…なるほどな。」

それを飲むと、少し苦い――しかし、確かに甘いチョコレートの味が広がる。そして跡部は少し調子を取り戻して言った。

からは…ねぇのか?」
「お世話になっていますし、ある予定でしたけど…」
「けど?」
「その…作る過程で…失敗をしてしまいまして。」

そう言いながら、顔を赤くする。そして弁解をするように言った。

「会長が貰うのは大抵高級なのとか、凄く上手い手作りでしょうし…」
「俺はが作ったのも食ってみたかったけどな。」
「…コレでガマンして下さい。一応コレは失敗した元チョコなんです。」

そう聞き跡部の頭には、悪戦苦闘をしながらチョコを作っているの光景が浮かんでくる。





そんな光景が見れる距離に居ない自分に、ひどく口惜しさを覚えた。


一方で、ここまでして『チョコ』という形をとってもらえる自分の立場に、ひどく優越感を覚えた。






おそらく、彼女と近い距離に入れる数少ない男の中に自分は入っていられているのだろう。



この、少し苦くて甘いチョコレートを口の中で転がしながらそう思った。



「チョコ失敗しただと?…バーカ。」

低く喉を鳴らす跡部。そして、の瞳をじっとみて言った。





「チョコよりも、ずっと甘いモンがここにあるんだよ。」





『その、甘い視線で、甘い声を持ったお前が――がココに居る。』




そう心の中で付け加えながら。






「…隠し味に使ったウイスキーで…酔いました?」

のその言葉に、跡部は思わず転びそうになる。そして気をとりなおして言った。




「まあ良い。ちゃんとしたの返してやるから…覚悟しとけよな。」






そう言い笑った跡部の顔を見て、は言いかえした。


「持って帰るの大変なのはやめて下さいね。運ぶの私なんですからね。」

                                             *** FIN ***

<<アトガキ>>
諏訪●さんの声にヤられて突発的に書いてしまいました!『ホットチョコレート』は跡部たまでした。
因みにホットチョコの知識は、今読んでる『ストロベリーショートケーキは泣いている』という推理小説より頂きました。
こういう。甘い関係…良いなって。跡部たま素直じゃないの。…ん〜、萌え!!
例に漏れずにこれもきっとホワイトデー創作を書くんだろうなぁ…。跡部たまどんなものあげるんだろ?(聞くな)