26/Aug/02  Notting Hill Carnival

 

長かったLondon滞在もいよいよ本日でおしまい。明日の昼にはもう空の上。会社の机の上には1ヶ月分の仕事の山がたまっているかと思うとこのまま姿をくらますのも悪くないかもしれない、などどいう不吉な考えが頭をよぎる。1ヶ月のホリデーが常識のフランス人に以前、「Holidayの最後の23日ってのは恐ろしく憂鬱なんだ」という話を聞かされたことがあって、「何と贅沢な野郎だ」と腹を立てた記憶がある。今、その気持ちが痛いほど分かる。

 

まあそんな暗い気分を吹き飛ばしてくれるであろう、とびっきりのpartyが僕を迎えてくれることとなった。その名もNotting Hill Carnival。ヨーロッパ最大のStreet Party2年前は天候にも恵まれ、人出は何と200万人だったとのこと。なるほど規模ではLove Paradeを遥かに凌ぐ。LondonNitting Hillとは、僕の大嫌いなHugh GrantJulia Roberts主演のラブコメディー映画、「ノッティングヒルの恋人」の舞台となったLondonWest Endにあるわりとおしゃれな街であり、60年代にこの地域に住むカリビアンの人達が始めたPartyNotting Hill Carnivalなのだ。過去には、暴徒化した群集によってPartyが台無しにされ、partyの存続も危ぶまれた暗い時代もあったそうだが、近年はすっかりTrouble Freeの平和なpartyに戻ったとのこと。

 

Partyは例年8月最後のBank Holiday Weekendに行われる。ちなみにBank Holidayとは日本でいう「国民の祝日」のこと。イギリスでは8月のこの土日月の3連休を最後に、12月のクリスマスまでは一切Bank Holidayはない。このあたりが「欧州内で最も働き者」といわれる所以のひとつなのだろうか?

 

まあ話しを戻すと、この3連休のうち日、月の2日間がpartyの日で、初日は「子供の日」2日目が「大人の日」とのこと。何の違いがあるのかは分からないが、迷いなく大人の日を選んだ僕は、その日の昼過ぎには友人宅のあるPutneyから国鉄と地下鉄を乗り継いで一路Notting Hillへ。近づくにつれ、車両の中はホイッスルを持ったparty goerの割合が高くなってくる。外は英国名物の曇り空ながらも気温は長袖のシャツでちょうどいいほど。踊るにはちょうど良いかもしれない。
さてさて、1時過ぎにNotting Hillの中心地に位置するWestbourne Park駅のプラットフォームに到着する。車内は朝の埼京線状態。ところがドアがなかなか開かない。しばらくすると車内放送で「Carnivalにお越しの方にご連絡します。当列車はこの駅を通過致します。」とのアナウンスが流れる。この地域にはいくつか地下鉄の駅があり、当日は「この駅は何時まで降車のみ」とか「この駅は終日閉まります」などの様々な規制がしかれているのだが、Time OutLondonTokyo Walker)にはWestbourne Park駅は降車可能と書かれている。しかしこんなことで驚いていては英国では生きていけない。車内全員「またかよ」といった面持ちであるが、声を大にして文句を言うものは誰もいない。
と、その時、再びアナウンス。「というのは冗談です。ドアは間もなく開きますが、一つ皆さんにお願いがあります。TV局が当駅に取材に来ておりますので、電車を降りる際には全員ホイッスルを鳴らし、笑顔で両手を上げて踊りながらカメラに向かってアピールをして下さい。」とのこと。当然全員大爆笑。そのときプラットフォームを地下鉄の駅員が車内の人間に向かって「はい、みんな盛り上がって!」と叫び、両手を回しながら全力疾走をしていく。と同時にドアがオープン。一斉に吹かれるホイッスルとまだ続く大きな笑い声に溢れた人の波。最高の瞬間だ。見事な演出。いつも頼りにならない電車を逆手に取ったイギリスらしいユーモア。頭が下がる。

 

と、予想以上に早い段階で激上げさせられた僕は軽やかな足取りで地図を片手にNotting Hillの街中を闊歩する。既にあちらこちらから大音量でレゲエ、R&BHIPHOPなどBlackな音楽が聞こえてくる。実は当初Notting Hill Carnivalという名前を聞いた時に真っ先にイメージしたのは、浅草サンバカーニバルである。すなわち、派手なコスチュームをしたお姉さんたちがカーニバルをし、それを沿道で見ている人達が写真をぱしゃぱしゃと撮りまくる。踊る一部の人と大勢の見物人、という構図。しかしながらこのカーニバルは明らかに違う。確かに同じ衣装をきたひとたちが、スピーカーを満載した車の周りを踊りながら練り歩くという浅草ちっくな光景はあちらこちらにある。が、あくまで主役は(少なくとも僕にとっては)50以上あるSound System(いわゆるDJブース)とそこに群がり踊る一般の人々。そう、このカーニバルでは誰もが「踊る」ために来ているのである。
 
もともとこのお祭りのルーツがルーツだけに50あるSoundsysytem90%以上は上記のようなBlackな音楽である。しかし、TimeOutのガイドを見てみると、ちらほらとTechnoHouseの文字も見受けられる。そのなかで特に目を引いたのはDrum n' Bassのブース。早速群集をかき分け目的地に向かう。あったあった、かなーり大きなブースだ。スピーカーの大きさもハンパではない。日本で5000人規模の野外Raveで見るような大きさだ。大音量のドラムンと、早くも飛ばしまくる踊り子さん達。それにしてもここに住んでいる人はこれではたまらないだろう。住民のかなりの数の人達はうんざりしてこの週末は郊外へ逃げ出している、という記事を事前に新聞で読んだのだが、これではそれもうなずける。
 
このブースにはDrum n' Bassということもあり、白人の占める割合がかなり高い。イギリスの労働者階級の若者の定番である、ジャージのズボンにパーカーと帽子という格好の若造達がこれまた英国特有の「仲間同士で輪になって両手を大袈裟に振りまくるドラムン踊り」でフルスロットルである。

 

そしてあたり一面に広がる葉っぱの匂い。ここ英国ではマリファナの規制緩和が着実に広がっており、あちらこちらにたっているお巡りさんなどまったくお構いなしでみんなどうどうとプカプカしているのだ。公園で巡回しているお巡りさんがプカプカ中の若者を見つけても「こらこら、消しなさい」と話し掛けるだけ。取り上げようともしないのだ。
やがてはドラムンのブース前で大きな箱におおっぴらにのせられた小分けの葉っぱを売りつけ始めるドレッドヘアのおじいさんまで現れる。そしてあたかも露店でチョコバナナを買うかのような感覚でそれを買っていく子供たち..。法治国家日本からきた僕は開いた口がふさがらない。いつか日本でも浅草で若者達がジョイントをふかしながら踊る日がやってくるのか?とてもとても考えられない..。「英国のカルチャーを知り尽くした男」と言われた僕が受けた大きなカルチャーショック。まだまだ奥は深いのだ。

 

夕方に向けて、せっかくだからとあちらこちらのブースを覗き、Hip HopやらGarageなど普段接することのない音楽に合わせてゆらゆらとする。途中激し目のHip HopSound Sysytemの前でモッシュの輪に巻き込まれて死にそうになる、というハプニングに出会ってみる。とりあえずその強烈さは日本のそれをはるかに凌ぎ、ロックフェスなどはこうやって死者が出るのだなあ、などと妙に納得。

 

それにしても凄い人出だ。後日の新聞報道ではこの日の人出は100万人とのこと。しかし一体誰が算出したのだろうか?しかしながら夜が近づくにつれ、盛り上がってくるのかと思いき や、7時を過ぎるとみんなぞろぞろと帰り始めてしまう。 かなりのSound Sysytemも既に音を止めて片付けに入っている。みんなの頭の中にはすでに明日の仕事とこれから来る長ーい冬のことがちらついているようにも感じ取れた。日も僕が到着した8月の頭と比べると随分と短くなっている。風は既に秋のものである。
 
仕方なく僕もとぼとぼと運河沿いの小道を伝って歩き始める。途中ですっかり出来上がってしまっている白人2人組にフレンドリーにからまれてみる。歩きながらめまぐるしかった1ヶ月のLondon生活を思い返し始める。色々新たな発見もあった。例えば、

 

・郊外に行くととたんに人はフレンドリーになる
女性には優しい英国人だが、肌の色が白くない男に対しては世智辛いのがあたりまえと思っていたのだが、SurreyLondonの南の郊外)で過ごした3日間ではPubやらでフレンドリーな方々に随分とあった。

 

・公園ライフの充実度
晴れた日には日光浴をしながら、読書やら昼寝をしている人で公園は一杯。実際にやってみると、これほど気分の安らぐこともそう他にはあるまい、というくらいはまってしまった。

 

・ビールに対する思い入れの強さ
何故か長い間知り合いの中年イギリス人2人組に何度も連れて行ってもらったビールフェスティバルで実感。横浜アリーナクラスの会場で行われたGreat British Beer Festivalでは会場の外は平日の昼間から長蛇の列。会場内ではがらがらの女子トイレと長蛇の列の男子トイレという世にも奇妙な光景が繰り広げられていた。
 
・物価の高さ
例えばスーパーでサンドイッチとジュースを買ったとしたらそれだけでもう750円はかかってしまう。外食など最低でも1500円は覚悟する必要はあり。日本の牛丼一杯280円がいかに凄いことかを実感する。

 

・新聞が安い
しかしながらこいつとビールだけは日本よりも安い。極めつけは日本でもおなじみ大衆紙The Sun10p(約19円)。Timeなどの高級紙でも40p(約75円)ほど。

 

・ドラムン人気高し
若者の運転する車でかかっている音楽の人気No1が間違いなくドラムン。ドコドコいいながら軽快にすっ飛ばす車を何百台みたことか..。

 

といったところか..。

 

いずれにせよ、実は今回が初の夏のヨーロッパであったのだが、日が長いというのはきわめて嬉しいことである。なんせ夜の9時でもまだ外は明るいのだ。さらに最後にこういったヨーロッパ的なStreet Partyを体験できたのも貴重な体験。Holidayの終わりの嫌な気分を吹き飛ばす、とまではいかなかったものの、十分に楽しむことは出来た。郊外のPubの庭でのbeer festival、公園での昼寝など、冬の欧州では決して出来ないものである。

 

やはりLondonはなんだかんだいって僕にとっては東京に次いでエキサイティングかつ落ち着ける場所であるとの結論に至らざるを得ない。いったいここに住めるのはいつになることやら。



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