戦後日本の教育の基本的在り方を宣言している教育基本法について、中央教育審議会(以下、中教審という。)は本
日、政府に対し、はじめて「改正」を求める答申を提出しました。
私たちは、長年、教育基本法の精神を貴重なものとし、日本の教育の在り方について考え、積極的に発言してきまし
た。ことに昨年3月、「21世紀に教育基本法を生かす会」を創設し、教育基本法についての研究会やシンポジウムを開催し、21世紀に教育基本法を生かすことの重要性を訴えてきました。
本日の中教審答申は、21世紀の日本の教育を大きく歪め、将来に禍根を残すものになるのではと憂慮し、ここに、この答申に対する声明を発表する次第です。
1 私たちは、教育基本法を絶対のものであると考えるものではありません。しかし、今回の教育基本法の「改正」論議は、首相の私的諮問機関として設置された教育改革国民会議の提言を実現するために議論を行ったものであり、しか
も、その論議の期間はわずか1年にも満たないものです。このような経過を経て提出された答申は、その内容について論ずる以前に手続的に大きな問題をもつものであることを、まず指摘しなければなりません。
2 答申は、教育基本法改正の必要性を「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成を目指す観点」から「教育の理念や原則」(「信頼される学校教育の確立」など7点)を明確にするため、と主張していますが、この中には、「教育振興基本計画の策定」など、およそ「理念や原則」からは程遠く、具体的な教育内容に介入するものも含まれています。
3 答申は、国際化をうたいながら、国内のマイノリティーである外国人の子ども、さらに国際社会で公認された子どもの権利条約への言及がないばかりか、最高裁判所大法廷学力テスト判決が容認した「子どもの学習する権利」にも触れられていません。
4 教育基本法は、教育をめぐる理念や価値の問題については、元来、禁欲的に定められています。ところが、今回の答申は「新たに規定する理念」として「『公共』の精神」「道徳心」「国を愛する心」などをとりあげ、教育基本法に持ち込むことを主張しています。こうしたことにより国際的経済競争に勝つエリート育成などをうたえば、子どもたちを不幸にする歴史の逆戻りをもたらし、教育基本法は実質的に戦前日本の教育理念である「教育勅語」の変形になりかねません。
5 教育基本法10条は、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきもの」で「教育行政は、この自覚のもとに、…必要な諸条件の整備確立を目標」とすべきだと規定しています。私たちは、この10条の精神を真に具現することを通して教育に自由を、子どもに自由を取り戻すことこそが必要だと考えます。
6 私たちは、今回のような性急な教育基本法の「改正」は、21世紀の日本の教育に深刻な事態を招来させないかと憂慮しています。当面は、21世紀に教育基本法を生かすことが大切だと考え、引き続きそのための努力を積み重ねていくものです。
2003年3月20日
21世紀に教育基本法を生かす会(50音順)
代表 大田 堯(東京大学名誉教授)
暉峻 淑子(埼玉大学名誉教授)
永井 憲一(法政大学名誉教授)
槙枝 元文(元日本教職員組合委員長)
幹事 館 博通(元日本高等学校教職員組合委員長)
中小路 清雄 (元日本教職員組合書記長)
浪本 勝年(立正大学教授)
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