松山市子ども健全育成基本条例」市民検討案に関する意見書
(2003年9月1日)
出典:aml他
 私たちは、それぞれの場所で子どもに関心を寄せながら活動している個人や団体で構成する連絡会です。現在松山市が意見を募集している「子ども健全育成基本条例」案について、以下の理由により条例化の中止を求める意見書を提出します。

 1.子どもの人権を侵害します。
 この条例案では、随所に「健全育成」という言葉が記されていますが、そもそも健全育成とは、子どもを一定の枠におさめようというものです。「健全に育つ、育てる」という画一的な規範をうたうことは、逆に「健全ではないこと」への差別感を生むのではないかと大変危惧されます。心身・発達に障害を持つ子どもに対しての差別にもなりかねません。子どもはどんな状態にあっても、憲法13条に基づいて最大限に自由と幸福追求権が尊重されなければなりません。
 第3条1項(基本理念)では「松山という郷土を愛する心をもつ」として、何を愛するかを規定しています。個人の自由な思想の下に松山を愛する人もいると思います。けれども、行政がそれを指示すれば強制になります。外国人や他市町村他県からきた人に対しては差別にもなりかねません。これは憲法19条に保障される思想及び良心の自由の侵害だと考えます。
 第4条2号(保護者の責務)では「子どもに対して、基本的な生活習慣、日常の生活能力及び接遇を身につけさせるとともに、人権及び善悪の判断等の倫理、社会的なきまり等を厳格な態度をもって教えること」としています。もちろん社会的なマナーが重要であるという意見もあるでしょう。しかし、行き過ぎたしつけは虐待・体罰にもつながります。この条例がそのよりどころとなる可能性も危惧されます。子どもの虐待が大きな社会問題化し、速やかな対応が求められる今日、虐待の禁止をうたうことこそ、行政の役割です。
 また、第5条(市民の責務)2項「社会規範に反する言動をやめるよう声をかけ、熱意をもって補い、導く」、4項「子どもの保護を委ねられた者は、保護者の責務を担う」とありますが、学校及び施設の中でも指導という体罰も行われてきまし
た。子どもをこのような危険にさらしたままでは、権利が保障されているとは言えません。

 2.保護者など大人の人権を侵害します。
 第3条1項(基本理念)は、子どもの人権を侵害すると同時に、大人の思想及び良心の自由をも侵害します。また、外国人や他市町村他県出身者を差別しています。
 第4条では保護者の責務について縷々規定していますが、親の子に対する第一義的な養育権を保障していないのみならず、第4項においては、社会奉仕活動への参加を義務付けており、これは憲法18条(苦役からの自由)、21条(集会・結社・表現の自由)に反することになります。
 また、同条第5項においては、子どもの保護をゆだねる者に対する感謝の気持ちを義務付けておりますが、感謝や謝罪の気持ちを行政や司法が命令し、あるいは義務付けることは憲法19条の思想良心の自由を侵します。そもそも憲法25条で保障されている社会権の行使によって、私たちは保育などを行政にゆだねています。条例案では市の保育行政責任について何も規定しておらず、それにもかかわらず、保護者にのみ感謝の気持ちを要求しており、保護者の権利行使を阻害しています。
  
 3.女性差別を助長します。
 第3条1項(基本理念)では「豊かな自然や歴史、文化の薫る松山を愛し、誇りに思う」とあります。豊かな歴史や文化には固定的な男女の役割分業やそれに基づく慣習を根強く残してきた一面があり、女性の生き方を制約してきました。例えば、「子育ては母親の役割」という考え方によって多くの女性は就労を中断しています。その後再就職をしても、パートや非正規という不安定雇用を余儀なくされており、女性の経済的基盤は脆弱です。また、第3条2項では「子どもの育成は、一人一人がそれぞれの果たす役割と責任を自覚し、連携して行う」としていますが、性別役割の強化にもつながります。さらに、第4条(保護者の責務)、第11条(家庭の教育力の向上)では、子育ての家庭責任を重く位置づけています。子育ての多くを女性が担っている現段階で、このように家庭責任を重くうたうことは、性別役割を強化するのと同じです。ひいては、女性の自立や社会進出を後退させる原因となります。これらの条文は男女共同参画の理念に相反するもので、女性の人権を侵害します。
   
 4.教育・児童福祉機関の役割が明確ではなく、市の責務は皆無に等しいです。
 コミュニティーの薄れた社会の中で、子どもたちはいじめ、不登校、引きこもりなどさまざまな問題を抱えています。子どもの虐待も深刻な問題です。しかし、第8条(教育・児童福祉機関の責務)においては、そのために行われる施策に具体性がありません。
 また、第10条(市の責務)は、第4条保護者の責務にくらべれば、皆無に等しい程軽いといわざるをえません。例えば、子育て不安の声が高まる中、行政の力強い支援が求められているにもかかわらず、その解決を第11条2項(家庭の教育力の向上)のように保護者の努力に委ねて、市の責務は非常に軽いものになっています。最後に、行き過ぎたしつけや補導によって子どもが人権侵害を受けた場合に、救済を求めるオンブズパーソン制度のような方法がないところにも
この条例案の大きな欠陥があると考えます。

 5.作成過程に問題があり、行政としての市民に果たす役割が不充分です。
 この条例案は、市の委嘱によって行政主導で作られたものであるにもかかわらず、「市民検討案」として公表していま
す。その市民検討会議の提言書の中でも、市民の幅広い議論を求めていますが、行政は市民から充分な意見聴取を行っていません。
 条例案はHPで公表しているだけで、そのHPで条例案を見つけるのにも大変な困難をきたします。また、その方法も条例案に対する意見ではなく、一般的な子どもや大人に関する意見を求めているに過ぎません。さらに、条例案に対する意見を提出しても、行政からなんら対応はなく行政の説明責任の放棄といえます。

 松山市長 中村時広様
 
 2003年9月1日
 松山市子ども健全育成基本条例に疑問をもつ連絡会










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