(2002年12月18日) 出典:aml他 |
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| 横浜事件は、当時の代表的雑誌『改造』掲載の論文が共産主義の宣伝であり、当該論文執筆者の主催した出版記念旅行が共産党再建の謀議とされたことなどを契機に、雑誌編集者をはじめ60名以上が1942年から45年にかけて治安維持法違反容疑で検挙されると共に、当時の代表的出版社である改造社、中央公論社が強制的に閉鎖させられた事件である。現在、横浜事件は、1998年8月及び2002年3月に申し立てられた2つの再審請求が横浜地方裁判所に係属している。この再審請求に強い関心を持ち、その経緯に注目している私たち研究者は、横浜地方裁判所が速やかに再審開始決定を行うことを求めるものである。 1 第1に、共産主義運動という横浜事件の「犯罪事実」自体が、特高警察による創作であった。かかる運動が存在しなかったことは、現在ではほぼ一致して承認されている上、当時の特高警察部内でも、警視庁は事件の構図を疑問視していたといわれる。この点で、横浜事件は、帝国憲法の下でさえその正統性に強い批判のあった治安維持法に関係する事件の中でも、最悪の部類に属する「戦前の司法の諸悪を凝集した事件」なのである。 2 第2に、横浜事件の被検挙者は激しい拷問を受け、獄死者4名、釈放直後の死者2名という、他の治安維持法関係事件と比べてもきわめて悲惨な犠牲を出している。拷問の存在は、戦後、部分的には裁判所も認めるところとなり、特高警察官3名が有罪判決を受けた。 横浜事件で適用される旧刑事訴訟法485条7号には、職務犯罪の主体として「警察官」は含まれていない。だが、日本国憲法の下では、警察官による職務犯罪の存在をも再審理由とされた(刑事訴訟法435条7号)。旧刑事訴訟法も日本国憲法の趣旨に従って解釈すべき以上(日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律2 条)、警察官による職務犯罪の存在も、再審理由として扱われなければならない。加えて、横浜事件は被検挙者の供述に基づいて事件が拡大されたものであり、一部でも拷問による虚偽自白の存在が認められる以上、事件全体の構図が崩れることにもなるのである。 3 第3に、関係者に対する予審・公判は、戦時中とはいえきわめてずさんかつ拙速で、1945年8月15日の敗戦後もそれに基づく有罪判決が繰り返された。これは、戦後の課題である民主化・言論の自由をはじめとする人権尊重の理念と相容れるものではない。 そもそも、天皇制国家から民主主義国家への理念転換と民主化・言論の自由などの人権尊重を求めるポツダム宣言の受諾により、天皇制国家を維持するための最大の言論弾圧法規である治安維持法は当然に失効すべき運命にあっ た。また、言論の自由の保障が要求される以上、治安維持法違反とされる行為も、もはや違法ないし可罰性のある行為とは評価し得ない。それゆえ、訴訟自体を免訴で打ち切るか、無罪とされるべきであった。 さらに、ずさんな手続を裁判所が強行することは、近代的裁判である以上、到底許される事態ではない。実際、同時期の治安維持法事件でも、争う機会を得た結果、1945年10月15日の治安維持法廃止により免訴判決を受けた被告人もいる。拙速な訴訟運営の有無により判決結果が二分されることは、法令の効力如何にかかわらず、平等原則に反する差別的取扱いである。 治安維持法の適用に拘泥し、ずさんな審理・有罪判決をすることが許されないことはもちろん、そのような有罪判決を放置しておくこと自体も、「戦後」の課題である民主化・人権尊重の理念とそれを受けた日本国憲法の精神に反する。 4 第4に、治安維持法の廃止により、予審・公判中の関係者は免訴判決を受け、既に有罪判決を受けた関係者には後に大赦が行われた。しかし、大赦は刑の言い渡しの効力を将来に向かって失わせるもので(旧恩赦令3条)、有罪判決があった事実を完全に消滅させるものではない。関係者の完全な名誉回復のためには、有罪判決そのものを取り消さなければならない。 21世紀を迎え、「国民のための開かれた司法」の確立が急務であることは、衆目一致している。真に国民のための開かれた21世紀司法を目指すには、まず、20世紀の負の遺産を克服することから始められねばならない。横浜事件は、まさに戦前の天皇制司法による負の遺産の典型である。裁判所自らが戦後民主化の理念とその具体化である日本国憲法の理念に思いをいたし、過去の誤りを正し、それを克服することこそ、新世紀の裁判所に最もふさわしく、かつ最も強く求められていることなのである。 以上の理由から、私たち研究者は、横浜事件各再審請求に対する速やかな再審開始 決定を求めるものである。 横浜地方裁判所刑事第二部 御中 <発起人・賛同人> 荻野富士夫(発起人・小樽商科大学教授)、奥平康弘(発起人・憲法研究者)、小田中聰樹(発起人・専修大学教授) 村井敏邦(発起人・龍谷大学教授)、渡辺治(発起人・一橋大学教授)、愛敬浩二(信州大学・憲法) 赤池一将(高岡法科大学・刑事政策)、安孫子麟(元東北大学・日本経済史)、生田勝義(立命館大学・刑法) 石井浩三(龍谷大学・法哲学)、石田徹(龍谷大学・政治学)、石塚伸一(龍谷大学・刑事政策) 伊藤博義(東北文化学園大学・労働法)、井戸田侃(大阪国際大学・刑事法)、指宿信(立命館大学・刑事訴訟法) 上田勝美(龍谷大学・憲法)、上田寛(立命館大学・刑法)、上田信太郎(香川大学・刑事訴訟法) 上野達彦(三重大学・刑法)、植村勝慶(国学院大学・憲法)、上脇博之(北九州市立大学・憲法) 牛尾洋也(龍谷大学・民法)、浦田賢治(早稲田大学・憲法)、大田直史(京都府立大学・行政法) 大出良知(九州大学・刑事訴訟法)、岡田行雄(聖カタリナ女子大学・刑法)、岡本篤尚(広島大学・憲法) 小倉利丸(富山大学・経済学)、小栗実(鹿児島大学・憲法)、小沢隆一(静岡大学・憲法) 落合雄彦(龍谷大学・国際関係)、片桐善衛(大阪経済法科大学・民法)、金沢真理(山形大学・刑法) 金子眞也(龍谷大学・中国文学)、金子勝(立正大学・憲法)、河相一成(東北大学名誉教授・農業経済学) 川崎英明(関西学院大学・刑事訴訟法)、川角由和(龍谷大学・民法)、北川善英(横浜国立大学・憲法) 北野弘久(日本大学名誉教授・憲法・税財政法)、吉川経夫(法政大学名誉教授・刑事法) 葛野尋之(立命館大学・刑事法)、久保田譲(東京農工大学・憲法)、木幡文徳(専修大学・民法) 小林武(南山大学・憲法)、小松浩(三重短期大学・憲法)、小森田秋夫(東京大学・比較法) 近藤充代(日本福祉大学・経済法)、斉藤豊治(東北大学・刑事法)、佐々木光明(三重短期大学・刑事法) 笹倉秀夫(早稲田大学・法哲学)、清水誠(神奈川大学・民法)、白取祐司(北海道大学・刑事訴訟法) 白藤博行(専修大学・行政法)、新屋達之(立正大学・刑事訴訟法)、杉原泰雄(憲法研究者・憲法) 鈴木龍也(龍谷大学・民法)、鈴木法日児(宮城教育大学・憲法)、隅野隆徳(専修大学・憲法) 高村ゆかり(静岡大学・国際法)、武久征治(龍谷大学・商法)、竹森正孝(岐阜大学・憲法) 田中則夫(龍谷大学・国際法)、辻田烝治(龍谷大学・天体物理学)、恒川隆生(静岡大学・行政法) 恒光徹(岡山大学・刑事政策)、等々力賢治(龍谷大学・スポーツ学)、渡名喜庸安(愛知学泉大学・行政法) 豊崎七絵(龍谷大学・刑事訴訟法)、中田邦博(龍谷大学・民法)、中山研一(京都大学名誉教授・刑法) 永良系二(龍谷大学・行政法)、名津井吉裕(龍谷大学・民事訴訟法)、鍋島直樹(龍谷大学・仏教思想) 名和鉄郎(静岡大学・刑法)、新倉修(青山学院大学・刑事法)、丹羽徹(大阪経済法科大学・憲法) 庭山英雄(専修大学名誉教授・刑事訴訟法)、萩屋昌志(龍谷大学・民事訴訟法)、橋口豊(龍谷大学・国際関係) 服部文男(東北大学名誉教授・経済思想史)、比嘉康光(立正大学・刑法)、平田元(三重大学・刑事訴訟法) 平野孝(龍谷大学・日本政治史)、平野哲郎(龍谷大学・民事訴訟法)、広渡清吾(東京大学・基礎法学) 福井厚(法政大学・刑事訴訟法)、福島至(龍谷大学・刑事訴訟法)、渕野貴生(静岡大学・刑事訴訟法) 古川純(専修大学・憲法)、本多滝夫(龍谷大学・行政法)、本田稔(大阪経済法科大学・刑法) 前田朗(東京造形大学・刑事法)、前野育三(関西学院大学・刑事法)、松宮孝明(立命館大学・刑法) 真鍋毅(佐賀大学名誉教授・刑法)、三島聡(大阪市立大学・刑事法)、水谷規男(愛知学院大学・刑事訴訟法) 光藤景皎(大阪市立大学名誉教授・刑事訴訟法)、三橋良士明(静岡大学・行政法)、三輪隆(埼玉大学・憲法) 村田輝夫(弘前大学・民法)、村田尚紀(関西大学・憲法)、本秀紀(名古屋大学・憲法)、元山健(東邦大学・憲法) 森英樹(名古屋大学・憲法)、森山浩江(龍谷大学・民法)、山上博信(愛知学泉大学・刑事訴訟法) 山口和秀(岡山大学・憲法)、山下龍一(北海道大学・行政法)、渡辺洋(神戸学院大学・憲法) <発起人・賛同人111名> TOP APPEAL-TOP RAPPEAL-TOP |
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