政府・与党は本年3月7日の閣議で、昨年の臨時国会で廃案となった個人情報保護法案を修正した新たな法案を決定し、8月25日の住民基本台帳ネットワークシステムの本格稼働を前に、今国会での成立を目指そうとしている。しかし、この法案は多くの批判を浴びて廃案になった旧法案と基本的には何ら変わっておらず、出版労連はこの修正案の廃案を求めるものである。
出版労連は、この法案がマスメディアを規制するだけでなく、市民の情報発信までのすべての表現に網をかける危険な法案であることを批判し、そして、膨大な個人情報を保有している行政機関に対しより厳しい規制内容の法案とするよう、廃案・抜本的見直しを求める運動を行ってきた。各界からの反対運動があって、昨年12月に同法は廃案になったのである。
それから3カ月も経たずに決定されたこの修正案は、旧法案と比べて、
1)個人情報取得・取扱についての5項目の「基本原則」を削除して1項目の「基本理念」としたこと、
2)個人情報取扱業者の「適用除外」に「報道を業として行う個人」を加えつつ、報道の定義を行ったこと、
の2点が大きな違いである。旧法案の「基本原則」は表現・報道の自由を侵害する危険性を批判されたが、「修正案」はさらに曖昧な「基本理念」とされており、かえって主務大臣の恣意的な解釈を広げてしまう結果となっている。また、「適用除外」に報道目的の個人の著述業者を加えたことは、メディア規制という批判をかわそうとする姑息な手段である。そもそ
も、「報道」を法律で定義したのはこれが初めてのことだが、主務大臣が報道と判断したものについてのみであり、主務大臣は表現の種類を認定するというきわめて大きな権限を持っている。たとえば雑誌の記事について、どこまでが報道
で、どこまでが娯楽と線を引くことが可能なのだろうか? まさにこれは、表現の自由への侵害に他ならない。
さらに、この修正案においても、営利企業から労働組合、市民団体、NGO、個人まで、多くの数(5000件ともいわれ
る)の検索可能な名簿などの個人情報を持つものを「個人情報取扱事業者」として規制対象とする内容は変わっていな
い。個人情報取扱業者は主務大臣の監督を受け、それに従わなかった場合は罰則が課せられることが定められてい
る。これが労働運動、市民運動、さらにネットを利用した個人の表現活動等を規制する面を持っていることは明らかであり、表現・集会・結社の自由を大きく制限した戦前の治安維持法の再来となる可能性も指摘されている。
表現・メディア規制と主務大臣の権限の大きさという同法案の問題点は、この法案がすべてを取り締まりの対象とする「包括法」の体裁をとっていることから発している。したがって、政府は大きく転換して、「個別法」でこの法案を作り直すべきである。
一方、「行政機関に対する個人情報保護法案」は、職員の個人的な動機による情報漏洩について罰則規定が加わったとはいえ、昨年発覚した防衛庁の情報公開請求者リスト問題など、官庁ぐるみで行われた不正行為にはまったく対処できない。膨大な個人情報を網羅し利用している行政機関に対してこそ、公正な取扱をチェックする第三者機関の設置は不可欠である。さらに、個人の自己情報開示権、目的外利用についての制限権などの自己情報コントロール権が明記されなければならない。
もともと個人情報保護法案は、情報技術社会の到来と、他国にも個人情報保護の制度整備を求めた95年のEU(欧州連合)指令に対応するためであった。政府が98年にまとめた「基本方針」は、法規制の必要な分野として電気通信、医
療、金融信用情報を例示し、実情に応じた分野ごとの「個別法」によって保護を図る方針を立てていた。包括法と違い、個別法なら表現・報道の自由を制約しないからである。
ところが、住民基本台帳ネットワークシステムの導入を決めた改正住民基本台帳法がこの方針を転換させ、このような問題を引き起こしている。
出版労連は、個人情報保護法修正案の廃案と、抜本的な見直しを求める。さらに、国民から多くの反対の声が上がっている住民基本台帳ネットワークシステムの8月本稼働に反対する。そして、この法案の廃案を求めて、いっそう闘いを強化することを表明するものである。
2003年3月17日
日本出版労働組合連合会中央執行委員会
TOP APPEAL-TOP RAPPEAL-TOP