私たちは、今国会に提案された「出入国管理、及び難民認定法」改定案に反対します。
私たちは難民や移住労働者を支援する全国の市民団体、弁護士、個人のネットワークです。私たちは日本における難民や移住労働者の人権状況を憂慮し、日本の外国人政策にたえず注目をしてきました。そして人権の尊重のために、法制度と政策の抜本的な改革を求めています。去る2003年3月4日、政府は、出入国管理及び難民認定法(以下、入管法とする)の改定案を閣議決定しました。
1997年以来、政府は規制と取り締まりの強化を目的とした法改定作業をおこなってきました。他方、入国管理局行政における人権侵害が国の内外から批判されているにもかかわらず、人権擁護の観点からはまったく改善が示されてきていません。規制強化の一方で、不透明な入管行政、在留資格制度、全件収容主義などから生じる人権侵害はいっこうに改善されていません。
改定案で新設される「在留資格取消し制度」は、これまで基本的には行われてこなかった在留期間中の資格取消しを実施する制度です。在留資格は、入国管理局が審査し判断し与えたものです。今回の法案では、それをいきなり取消し、過去にさかのぼって(認定した時点以降の在留も含んで)不法状態におとしめ、不法残留罪(3年以下懲役または30万円以下罰金)の対象にしようとするものです。「在留資格の取消し」がもたらす「不利益」は社会からの追放です。
また「在留資格の取消し」の直接の効果は、退去強制という国家権力の個人に対する行為です。したがって、一般の不利益処分の手続きを定めた行政手続法よりも厳しい手続き基準が求められるはずです。またその手続は、刑事手続に準じたものでなくてはならないはずです。しかしながら法案の示す取消し手続き規定は、きわめて抽象的で簡便であり、一般の不利益処分を対象とした行政手続法の規定よりもはるかに緩いものです。このため改定法案は、上陸・在留許可の意味を変え、在日外国人の法的地位を−したがって生活と労働を−これまで以上に不安定にし、さらには人権侵害のいっそうの頻発をもたらすおそれがあります。
現行の難民認定制度が国際基準を満たしておらず、その結果、多くの難民該当者が認定されていないことは、国内外から批判されてきているところです。今回の「見直し」はそうした批判に答えるものであるかのように報道されています。
しかし法案の内容をみると、上陸−申請−審査−認定という難民認定の基本的な手続きは、まったくと言っていいほど手がつけられていません。今回の改定点は、難民申請をした「在留資格非取得外国人」に対する退去強制手続についての法整備に集中しています。したがって、今回の改定は「難民制度の見直し」ではなく、「在留資格非取得外国人」に対する在留管理の整備強化です。もともと、外国人管理を主目的とした出入国管理制度と、迫害からの庇護を目的とした難民制度とは、根本的に異なった理念をもつものです。日本の難民受け入れ体制を考えるには、入国管理行政から難民手続きを切り離し、別の法体制、別の行政機関による受け入れ体制の構築が何よりも重要ですが、法案はそうした方向をもつものではありません。それどころか、法案は入国管理の枠内で行われている難民手続を追認するものになっており、難民認定手続中の「在留資格非取得外国人」に対する在留管理の整備強化をさらに進めるものとなっています。
また法案では「精神障害者等の外国人に係る上陸拒否の範囲の見直し」が提案されています。精神障害者に対する上陸拒否事由そのものが、精神障害者に対する差別と偏見に基づいています。したがって、精神障害者に対する上陸拒否は、上陸拒否事由から削除されるべきものであって、範囲の見直しでは対応できません。入管法の上陸拒否事由と退去強制事由には、その他にも買春や人身売買の被害者に対する国外追放など不当で差別的な条項があり、人権擁護の観点からその全面的な見直しがなされるべきです。
以下、法案の内容のうち「在留資格取消し制度の新設」「難民認定制度見直し」についてさらに詳しく論じます。
一.「在留資格の取消し制度」の新設の問題点
現行法でも「在留期間」が定められて再調査・審査できるシステムがある
「新設」の理由がわかりません。入国管理局当局は、在留資格を付与するにあたって、厳正な調査と、それに基づく審査を行っているはずです。本「取消し制度」はその調査・審査を否定するに等しいもので、自らの調査・審査能力のなさを認めるようなものです。そもそも現行では在留期間が決められ、随時継続して在留を認めるかどうか、在留資格の延長申請の時に審査する道が開かれています。それに加えて「取消し制度」をあらたに置く必要性はあるのでしょうか。
取消しの要件が広範かつ不適当である
たとえば法案に示された取消し要件の中に「資格に相当する活動を3ヶ月以上行っていない場合」があげられていま
す。雇用企業の倒産や解雇、退学・除籍処分など、当該外国人の活動の基になる契約関係になんらかのトラブルがあった場合が相当します。このとき、当該外国人には責任がなく、さらには契約関係の解消をめぐって法的な争いが発生している場合もあります。また契約関係のトラブル以外にも、病気や環境への不適応などやむを得ない活動の休止もあります。したがって、在留期間中に資格を取消すことは適当ではありません。また、「永住者」など定住・永住を前提とした別表第二の資格については、取消を必要とし、かつそれを許容するような事情はかなり限られたものであると考えられま
す。ところが、改定法案が定める要件は、これに該当する場合、一律に資格を取消すことができるとしており、適切ではありません。
適正手続が保証されていません
法案に示された「取消し規定」は、行政手続法(入管手続は適用除外となっている)よりも抽象的かつ簡便です。たとえば、行政手続法は、処分庁が事前に「聴聞」を実施し、そこで不利益処分の内容、根拠法令とともに不利益処分の原因となる事実を明示し、この事実を証する資料の閲覧を当事者に許すこと、また当事者の代理人の参加を許すことを定めています。これに対して、入管法改定法案は、「意見の聴取」を定めているものの、資料の閲覧にも、代理人の参加にも言及していません。これまでの入管行政の実務からみると、法務省が職権で資料の閲覧を許すとは考えられません。したがって、今回の法案は、不利益処分にあたっての適正手続を保障していないと言えます。行政側からの取消ではありませんが、婚姻の取消しは裁判所に請求することになっています。それに比べて在留資格という身分の安定にかかわる判断なのに法案の「取消し規定」は一行政機関の判断だけにゆだねる制度になっています。「取消し」の持つ効果の重大性から見て、適正手続を確保するために、司法など第三者の関与も含めた手続が検討されてしかるべきです。
目的と手段のバランスを欠いている
在留資格を取消され、本邦から退去強制されるということは、その人間の社会的存在そのものの否定であり、それまでの本邦での生活そのものの破壊を意味します。慣れ親しんだ地域社会や、家族と引き裂かれたり、子どもであれば教育を受ける権利が侵害されるなど、重大な人権上の問題を引き起こしかねない行政行為です。入国の経緯が仮に不正な手段によるものだったとしても、「嘘を付いた」ことの罰が、違法性についてなんの責任のない子どもや家族まで含めた
「退去強制」であるというのは、余りにもバランスを欠いています。したがって在留資格の取消しを定める法の規定は、一般の許可の取消し処分以上に、対象者の権利が尊重されるように十分に配慮されていなくてはなりません。配慮されるべき権利の法的基礎には、憲法や労働基準法などの国内法と国際人権規約など批准・加入し国内法となった国際人権条約や子どもの権利条約などがあります。これらの法や国際人権基準に反する「取消し〜退去強制」は行ってはならないことを法文上明確にし、同時に「取消し」後の救済システムを作る必要があります。
権利主張をしたければ無期限・長期の収容を覚悟しなければなりません
現在でも明文規定はないものの、在留期間中の在留資格の取消しは行われていますし、在留の延長が認められない場合もあります。取消し〜退去強制の決定に異議がある場合は、司法に取消訴訟を行うこともできますが、裁判が継続される間、入国管理局の収容施設に身体拘束された状態でせねばならず、権利主張をする権利を、事実上奪われています。このように事後手続きにおける権益保障の現状の問題点になんら解決が示されていません。
二.難民認定制度の改定の問題点
「仮滞在制度」は難民条約の精神に反する
難民は迫害を受けた国から庇護を求めて逃れた時点で難民となり、それを認定するのが、難民条約にもとづく各国の認定制度です。したがって、各国は難民申請の時点から認定後の生活保障まで、一貫した庇護を保障する責務があります。こうした観点からは、難民申請者に対する退去強制手続は、原則的に行うべきではありません。今回の改定案は、難民申請をした「在留資格非取得外国人」(以下、たんに「在留資格非取得外国人」という)を対象とした仮滞在制度を新設しています。しかしこれは、在留資格非取得外国人の法的地位を保障するものではありません。
入国後6ヶ月以内に申請しなければ、身体拘束される
現行の法では、難民申請は入国後60日以内にしなければなりませんが、本改定案ではその申請期限が撤廃されています。しかし入国後6ヶ月以内に申請しないと「仮滞在の許可」が受けられない改定案になっています。そのためこの期間を過ぎて申請した場合は、入国管理局施設に収容され、身体拘束されることになります。これでは、「申請期間が6ヶ月に延長されたことと、事実上変わらない」という印象を禁じ得ません。仮滞在許可を受けられなかった多くの在留資格非取
得外国人と仮滞在を取消された在留資格非取得外国人には、収容をふくむ退去強制手続きを直ちに開始し、送還は停止されているものの手続の最終段階である退去強制令書の発付までを実行することが可能になっています。仮滞在制度は、申請者の生活保護という難民庇護の要請とはまったく異なり、在留資格非取得外国人を管理し、その大部分の収容・国外追放を容認する制度だと言えます。
仮滞在許可の条件が厳格で、現状に合致していない
仮滞在の許可要件が厳しく、現実に該当する在留資格非取得外国人の数はたいへん少ないものと思われます。6つの要件のなかには、「上陸から6ヶ月以内に申請したこと」「迫害を受けた領域から第三国を経由せずに直接に来日したこと」が挙げられており、これらは難民にとってはたいへん難しい条件です。また「逃亡するおそれがあると疑うに足りる相当の理由があるとき」という、法務省入管局の恣意的な判断を許す条件もつけられています。また、仮滞在が許可されるまでの間に在留資格非取得外国人に退去強制手続きを着手することは妨げられていません。仮滞在を許可された後も、行動範囲や活動が制限され、また指紋押捺の義務も課せられます。これらの許可要件などに違反した場合には、仮滞在が取消されます。
難民として認定されても在留資格が付与されない可能性も
改定法案によれば、在留資格非取得外国人は難民が認定されても直ちに在留資格があたえられず、在留資格の審査を受けなければなりません。そこでは、まず「上陸から6ヶ月以内の申請」「第三国を経ない直接の来日」など4つの要件が審査され、それを満たした少数の者だけに「定住者」資格があたえられます。これでは難民と認定されたにもかかわらず在留資格を得ることができず退去強制させられてしまうおそれがあります。ここでも難民の庇護よりも在留管理を優先する考え方が示されています。難民として認定した者に退去強制処分を課すことは難民条約33条に定められている送還禁止(ノン・ルフールマン)原則に抵触するおそれがあります。難民認定者に関しては、認定と同時に在留資格を認め一律に安定した法的地位をあたえるようにするべきです。
難民認定に必要な「事実の調査」の責任をなおざりにした改定案
また現行法では六一条の2の3において「提出された資料のみでは適正な難民認定ができないおそれがある場合その他難民認定又はその取消しに関する処分を行うために必要がある場合には、難民調査官に調査をさせることができ
る。」としていますが、改定案では上記の項全文削除の上、第六一条の2の13で、難民の認定、難民認定の取消し、在留資格の取消しに関して「必要がある場合には、難民調査官に事実の調査をさせることができる。」ときわめて簡潔に記載され、「提出された資料のみでは適正な難民認定が出来ないおそれがある場合」という文言が削除されています。このことは「事実調査」の責任を日本政府自ら、ないがしろにしているとしかいいようがありません。
難民認定制度と在留管理との関係
以上のように、改定案は、在留資格非取得外国人に対しては基本的に退去強制手続きを行うものとし、退去強制手続きを停止する、あるいは在留資格を付与するわずかな例外を定めているにすぎません。ここでは、明らかに在留資格非取得外国人の管理と国外追放が優先されており、難民庇護の観点が後景に退いています。
人権に配慮した検討がなされていない
今般の改定において、触れられていない事項として、
1.難民認定にかかる権限ある第三者機関の設置
2.難民申請者および難民認定者の生活支援、
3.難民認定法の入管法からの分離、
4.上陸時点での支援や庇護
などがあげられます。これら難民申請者や難民認定を受けた者の福祉や人権にかかわる事項について、何ら検討が加えられておらず、改善が示されていません
以上
移住労働者と連帯する全国ネットワーク
共同代表 岩本光弘 大津恵子 丹羽雅雄 村山 敏 由井 滋 渡辺英俊
〒112-0002文京区小石川2−17-41 富坂キリスト教センター2号館 203号
電話03-5802-6033 FAX 03-5802-6034
難民受入れのあり方を考えるネットワーク
代表 大貫憲介
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