世界覇権国アメリカの衰退が始まる
 
 副島隆彦著
 講談社 刊
 
 はじめに 帝国は内部から崩壊する

 第1章 日本人が知るべき世界基準の知識と思想
  1.アジアと欧米を結ぶレイシオ思想
  2.有事法制とシビリアン・コントロール
  3.ビヘイリアリズムvsネイティビズム
  4.狂牛病、口蹄疫、京都議定書破棄について
 
 第2章 日本経済はアメリカを潰せるか
  5.世界は金融経済から実物経済へ
  6.日本経済はアメリカの景気を崩せるか
  7.投票率を上げるために有権者に義務を課すべきか

 第3章 ブッシュ政治の内実
  8.原潜衝突事故とアメリカ新政権の性格
  9.アメリカ新政権内の動きと三大派閥
 10.アメリカ政治の構造

 第4章 アメリカ帝国崩壊の兆し
 11.アメリカよ、驕るなかれ
 12.アメリカの「軍」と「政」の関係
 13.アフガン戦争と沖縄の海兵隊
 14.アフガン戦争後のアメリカの行方
 
 第5章 アジアを怖れるアメリカ
 15.アメリカの対日・東アジア管理戦略
 16.北朝鮮がアメリカの目標となるだろう
 17.北朝鮮とイスラエルを結ぶ線
  
 2002年7月5日 初版発行(2002年7月23日 第二版発行)
 255p 1,600円(税抜き)

 私が学生時代、「ユダヤ本」がブームになっていた。ちょうど前の年(’85年)にプラザ合意があり、その直後に日本が円高不況に襲われたことから、これは何らかの陰謀ではないかという声が国内には渦巻いていた。「国際問題評論家」を名乗る宇野勝美が書いた「ユダヤがわかると世界が見えてくる」という本が出版されたのは、ちょうどそんな時期である。この本はたちまちベストセラーになったが、私もユダヤ民族自体に興味を持っていた頃だったので、早速買い求めて読んでみた。書いてあることはそれなりに筋が通っていたため、日本を襲ったこの不況は本当に「ユダヤの陰謀」だと信じる者も多かったのではないか。だがメッキが剥がれるのも早く、これに反論する形で「ユダヤにこだわると、世界が見えなくなる」という本が出版されると、これらの本はあっという間に支持を失った。宇野はその後も何冊か「ユダヤ本」シリーズを出しているが、まったくといっていいほど話題にならなかった。今では「トンでも本」扱いされているに違いない。
 この本を書店で見てパラパラめくると、第1章−2で有事法制反対を叫んでいるので、まともな人間の書いた本だろうと思って購入したが、はっきりいってこれほど期待外れだった本も珍しい。最後まで我慢して読んだが、この本は前記宇野某の著作のレベルと似たようなものに思えるからだ。
 著者のプロフィールに触れると、副島は’53年生まれ、早稲田大学を卒業後、銀行員、予備校講師を経て現在は常葉学園大学助教授。アメリカ政治思想及び社会時事評論の分野において、活発な言論活動を展開。これまでの著書多数。自ら副島国家戦略研究所を主宰し、日本は欧米諸国並みの国家戦略を持つべきだと、ことあるごとに提唱している。独自の情報網を持っているらしく、この本にも盛んに「私は独自の情報網を持っている」と書いている。だがこの「独自の情報網」というのがくせ者で、情報源の秘匿はジャーナリストにとっては「イロハのイ」とはいえ、どこかうさんくささがつきまとう。国際政治の世界では陰謀がが渦巻いているのは当たり前」という意見がまかり通り、私自身も否定しないが、それはしっかりした裏付けがあってこそ。だが筆者は「独自の情報網」というばかりで何ら説得力のあるニュースソースを明示していないため、信憑性という点では「?」がつく。陰謀説を信じるか否かはは読者の勝手だが、こんな調子では「陰謀否定論者」を説得することは到底できないだろう。
 この本では、明確に日本政府が推進している「有事法制」に反対している。「有事法制が制定されたら、やがては徴兵制まで一瀉千里」で、こういう法律ができたら国家総動員態勢が進む、有事法制ができたら全て国民は戒厳令下におかれ、既存の法令はすべて停止になる」というのがその理由だ。だが筆者は、別の章で明確に「軍は不況時の失業対策に役立っている、日本の自衛隊は25万人いるから、不景気の今こそ定員を倍にした方がいいのではないか」と平然と書いている。何でこんな矛盾したことを書いているのだろうと思って出典をのぞいてみて「ははぁ、なるほど……」と思った。元ネタがタカ派雑誌で名を売っている「正論」(産経新聞社)の連載だったからだ。やたらと国家戦略の重要性を説いているが、私には陰謀説を盛んに振りまいているようにしか見えない。
 前半部分ではシビリアン・コントロールの語源についてやたら詳しく述べられている。この本によれば、シビリアン・コントロールとは一般には文官が兵士をコントロールするという意味である。だがこのシビリアンという言葉は「シチズン」という言葉から来ている。「シチズン」は市民という意味だが、似たような言葉に「ピープル」という言葉がある。ピープルは最近のコギャルの間では「一般ピープル」という言葉をアレンジして「パンピー」といっているが、これはコギャルのほうが正しいという。市民は市民でも「ピープル」は一般庶民のことを指し、「シチズン」は高級市民、言い換えればインテリ層や金持ちブルジョワ階級の市民のことを指すそうだ。昔の軍隊は、金持ちの市民が兵隊を雇っていたので「シビリアン・コントロール」なる言葉が生まれたそうである。
 だが残念ながら、この本が役に立てると思われるのは多くない。大部分をブッシュ政権などの動きや各国の裏の動きを
「かような陰謀がある」ということしか書いていない、といってもいいかもしれない。アメリカのここ最近の対日政策は日本の経済をつぶすためであるというあたり、「これは本当かいな」と思うこともしばしばだ。
 ゴシップ的なものとして読む分には、この本は面白いだろう。だがこの不景気の中、こういう本にわざわざ1,600円の価値があるかどうかは疑問だ。著者はこの夏にも立て続けに著書を2冊出版したが、彼の本を読むカネとヒマがあるのだったら、これ以上に有益な本がゴロゴロしている。少なくても、私は彼の本を読むことは二度とないだろう。








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