「オヤカタ… 強イッテ… ドンナ気分ナンデスカ…!」

いじめられ外人だったチャドは、弱い自分と決別するため、
そして「本当の強さ」を知る為、相撲部屋・・・東関部屋へ入門した。
曙太郎−−−日の出の勢いで強くなれ…との願いを込められた名前である−−−
と改名したチャドは、東関部屋の厳しい修行に耐え、また、持ち前のガッツと負けん気で
並み居るライバル力士をなぎ倒し、キング・オブ・スモウレスラー
『横綱』の地位まで登りつめた。

だが、長年にわたる激戦のダメージに、曙の身体はボロボロに蝕まれていた。

『…曙、まわしを壁にかけるか』
『オヤカタ… オ世話ニ…ナリマシタ…!』



それから3年後。
戦士としての戦いの日々を終え、家族との安らぎを選んだ曙太郎。
神経が擦り切れるような緊張感。
心臓が破裂するような高揚感。
そういったものとは、一切無縁の生活を。
だが、満足していた。
今の暮らしに、何の不満も無い。そう思っていた。

しかし、そんなある日。
彼の心を、息子コービー(3歳)の些細な一言が揺さぶった。

『ねえ、パパ。ヤオチョウ…って、何?
『お前…そんな言葉、どこで…!?』
『友達が言ってたんだ。スモウは八百長なんだって。
 パパは本当は、全然強くなんかないんだって』
『…!』
言葉を無くす曙。
そして、追い討ちをかけるコービー。
『ボクもそう思うよ。
 だって、パパなんてただのデブだよ。ただの激デブだよ!』

その時、曙は決意した。

戦う自分の姿を。
強い父の姿を…我が子に見せてやらねば…!
曙が、かねてより打診のあったK−1参戦のオファーを承諾したのは
その日の深夜だった。

『あなた…本当にやるの?
 また、戦い(バトルファイト)の…あの辛い日々に戻るの?』
曙は力士時代、何度も怪我に泣いた。
彼女は、そんな夫が苦しむ姿を、一番近くで見てきたのだ。
だから、なんとしても思い直して欲しいと願った。
しかし、曙の決意は固かった。
『クリスティーン…解ってくれ。男には戦わなければならない時がある…
 ---今がその時だ!


【決戦!野獣・ボブサップ!】

これがやりたかったんだろう? 今が、お前の時間だ
「オヤカタ…!ボク、行ッテクルヨ!」
「ああ!勝って来い、横綱!」

だが−−−!
試合開始のゴングが鳴ってから、たった2分。
状況は絶望的であった。

通じない。何もかも通用しない。
仮にも、相撲という格闘界で頂点を取った己の力、技。
そのすべてが、この相手には通用しない。
絶望感が曙を襲う。
オ、オヤカタ!
困惑の目をナカヤマトレーナーへ向ける曙。
だが、ナカヤマはすぐにその目をそらし、俯いてしまう。

試合1ヶ月前。

「ぬお〜〜〜〜っ!」
「どうした、カラコダ!」
「親方!ボク、ボク…」
騒然とするジム内。
困惑し、ただ立ち尽くす曙。
その足元には、ミットを手にはめたまま、
うずくまるトレーナー・カラコダ氏。
「どうした!大丈夫か」
「ヘヘ、やられましたよ…!
 曙のパンチは重過ぎる…!どうやら肩を…
 やられちまったみたいです…!
(い、行ける…!このパワーなら…!
 猛獣・ボブサップだってぶっ潰せるわい…!)
・・・
・・


(甘かった・・・!ワシの考えは大甘じゃった…!
 勝てない…!ケタ違いの怪物をバトル相手に選んでしまった!!



「オ、オヤカタゥァァァ〜〜〜ッ!
 なんで!なんで何も言ってくれないノ?」
「何をブツブツ…言っていやがる!!」
猛スピードで迫る野獣。
恐怖。
「コ、コナイデェ〜」
巨体とリーチの差を活かし、サップを押す曙。
「ぬおっ!」
『あ〜〜っと、曙、サップをコーナーへ追い詰めたァ〜〜〜』
『曙選手、ものすごい圧力ですね!』
「?」
押シ出シ!押シ出シ!
「残念だったな、曙さんよ!ここはKのリング…!
 土俵じゃあねえンだ!」
『あ〜〜〜っと!サップ、身体を入れ替えて曙選手にボディ連打だぁ〜〜〜!』
「曙さんよォ!郷に入っては郷に従え、だぜ!
 Kのリングでアンタの相撲がそのまま通用するなんて思ってたなら…
 それは大甘だったって事さ!」
「グヘェッ!」
「マズいぞ、太郎はあれほど腹を叩かれたことないからな…
「耐えろ!横綱!ボディで倒れれば、二度と立ち上がれんぞ!

苦し紛れに何度かパンチを出した。
その内何発かはヒットもした。
だが…

「オ、親方…!ボクノ攻撃、効カナイヨ…!ボブニ、チットモ効カナイヨ…」
「バカ野郎、横綱…!弱気になるんじゃあない!
 効かないハズがないだろうが…!横綱の拳が…!
 相当効いてるぞ、ありゃあ… プロが見れば解るわい…!
 だから、立て!もう一押しだ!押せば倒れる!」
「ワカッタヨ…!モウ、ワンプッシュ…!ボク、ファイトネ!」

しかし、その時。
曙が最後の勇気を奮い起こし、戦いを決意した、まさにその瞬間−−−
その不退転の決意、デターミネーションを、意識ごと刈り取る強烈な一撃が炸裂した。




『あ〜〜〜っと、ボブサップの攻撃が曙の顔面に突き刺さった〜〜〜っ!』

スローモーション。

意識が飛ぶ。

照明の光が、やけにギラギラと眩しく感じられた。

歓声が遠い。




「オ…オヤカタ… ボク… モウ戦エナイヨ…」
「よ、横綱!曙〜〜〜〜っ!」
「ダッテ、ボク、モウ…立テナイヨ…」

前のめりにマットへ倒れる曙。
巨人。
倒れてくる。
激震。

そして−−−



カンカンカンカン!
「ストレート入った!白いタオルが投げ込まれたァ!!
 横綱が突っ伏したァァ〜〜〜っ!
 第一ラウンド、ボブサップ、ノックアウト勝ちィ〜〜〜〜!!」 



あーっ、残念!
「曙、デビュー戦敗れました!」
試合終了を声高らかに告げる、嵐のようなゴング。
怒涛の如き歓声の渦。
消え行く意識…

こうして、曙のK−1デビュー戦は最悪の幕切れを迎えたのだった。






【第2部 再起編】


大晦日。悪夢の敗戦。
今でも夢に見る。
相撲の威信を背負って立ったリング。
猛獣・ボブサップの強さ。
はいつくばったマットの冷たさ。
数万人の観衆の落胆の声。
軽蔑の眼差し。
K-1のリングに立った、ほんの2分50秒間。
その3分弱で、曙は全てを失った。
Kのリングに立たなければ−−−
強い横綱のままでいられたのに。
後悔の念が曙の頭を一杯にする。
「あなた、そろそろお昼よ。起きたほうが」
「うるさい!放っておいてくれ!」
「あなた…」

そんな曙へ挑戦状が叩きつけられた。
相手は武蔵。
日本人K−1最強の男と呼ばれる武蔵選手からである。

K−1…怖い…!
挑戦状を受け取るやいなや、ガタガタと震え出す曙。
「ボク、もう戦わない…!
 K−1のKは喧嘩のK!喧嘩は良くなぁいよ!」
「曙関!相撲の威信はどうなるんですか!
 あなたは仮にも最強の相撲戦士…横綱だった男…!
 その横綱が…挑戦から尻尾を巻いて逃げるんですか!?」
煽るインタビュアーを制して、曙。
「ヤメテ!
 …臆病風に吹かれた僕は…もう戦えない…」
「横綱…」

数日後。
報道陣に囲まれる武蔵。
「武蔵選手、次の対戦相手の候補に、あの横綱、曙選手の名があがっていますが?」
「横綱ねぇ。相撲って、アレでしょ?」
そう言い、立ち上がると
はぁ〜ドスコイ、ドスコイッ!
おどけた表情で相撲の蹲踞(そんきょ)をしてみせる武蔵。
苦笑を浮かべる報道陣。
「ハハ、いや、さすがチャンピオン、
 横綱…いやさ、相撲恐るに足らず、って所ですか」

翌日。
「NO〜〜〜ッ!」
壁に突き刺さる拳。
先日の会見の様子をニュースで見て、怒り狂う曙。
「お、落ち着いて、アナタ!」
暴れる曙を抑える妻。
「ボクノ事ハ良イ…!」
肩を振るわせる曙。
「ダガ…相撲ヲ馬鹿ニスル事ハ許サナイ!
 武蔵、殺ス!
 クリスティーン、報道陣を集メテクレ!」
「じゃ、じゃあ…アナタ…!
 試合に…」
コクリ
無言で頷く曙。
そして---
「そういや…日本のコトワザに、こんなのがあったな」
「?」
「飛べないブタは… ただのブタさ−−−!」


試合2週間前。大森のゴールドジム。
曙が再起をかけて特訓を続けるジムである。
その日、スポーツ新聞の記者がインタビューに訪れていた。

餓狼伝説のライデンを思わせる青のボディスーツでインタビューに応じる曙。
そして、張り手のフォームを生かした必殺拳…名付けて、ハリケーンを披露する。
「なるほど、張り手と拳でハリケーン、か。
 これは武蔵選手も脅威でしょう」
(ハア…、パンチより張り手が強いって事はないでしょ…
 エドモンド本田か、お前は…)
「待って。それだけじゃ無いよ。
 もう一つ…」
「えっ?」
(今度はスーパー百貫落しとか言い出すんじゃねーだろーな…)
ウンザリしながら記者が先を促す
「そりゃまた、一体、どんな?」
「ハリケーンで敵をコーナーまで追い詰める…
 追い詰めて、そして、どうする?
 その、前回のサップ戦の反省…課題点」
(ほう、少しは考えてんのか)
「これは、ボクの欠点を補う為に編み出した必殺技。
 密着状態…ゼロ距離から爆発的なダメージを与える打撃ネ
「零距離から…?
 普通、パンチはスイングバックがあって初めて威力を発揮できるモノでしょ?」
豪快にテレホンパンチを振って見せる記者。
「密着状態から生きたパンチなんて…」
「論より証拠ヨ」

ジムの片隅に吊るされたシーツに向かい立つ曙。
拳をシーツにそっとあわせる。
深く息を吸う。
そして−−−
「ハッ!」
気合一閃。
吹き飛ぶシーツ。
「まだ未完成だけどね…試合までにはモノにするヨ」
「驚いた…これはまるで…虎砲…!
「コホウ?」
「漫画…いや、ジャパニーズコミックの話なんだが、修羅の門という漫画に出てきた
 主人公の必殺技、陸奥圓明流・虎砲にそっくりなんだ」
「コホウ…タイガーキャノンか。良いね、気に入った。
 書いてヨ!曙、虎砲で武蔵をKO宣言って!
 名前はコミックから頂いたケド、技の威力はノンフィクションね!
(ちがいねえ…マジで驚いたぜ…取材前は8:2で武蔵有利だと思っていたが…
 こいつは面白くなってきたぜ…!)


そして、運命の試合当日。

−−−曙選手・控え室。
「…タトゥー?刺青ですか」
「ウン。僕ノ闘志ノ現レネ。
 ハワイノ有名ナ彫物師ニイレテモラッタヨ」
そういってトレーニングウェアを脱ぎ捨てる曙。
「見テ!」
ポーズを決めるその両腕には 立派なタトゥーが刻まれていた
「おお〜」
「なかなか格好良いじゃないですか!」
「ボクモ、オ気ニ入リヨ!」
好評に気を良くする曙。
だが…
「あ、あれ?曙関、これスペルが違うよ
「エッ…?」
「横綱だったらYOKODUNAだよ、YOKOZUNAじゃ「よこずな」になっちゃうよ!」
「ア〜〜〜ッ」
爆笑につつまれる控え室。
「まったく、ハワイの彫り師もやってくれるぜ」
「…」

以下、曙回想
「先生、横綱ッテローマ字デ入レテヨ!」
うーん、先生、ローマ字は解らないよ
「コウ書クンダヨ!」

「先生、ゴメンナサイ…」
声にならぬ声で彫り師に詫びる曙。
そして−−−

曙選手!そろそろスタンバイを
「!!」

スタッフに緊張が走る。
「オヤカタ…!」
(うむ)
無言で頷くナカヤマコーチ。
「ボク…行ッテクルヨ!」

親方…ナカヤマトレーナーと共にエントランスロードを歩く曙。
一歩一歩を踏みしめるように。
舞い上がり、ワケも解らぬままマットに沈んだ、あの日とは違う。
自信…いや、確信。
曙には、勝利の確信があった。
3年間のブランクを埋めるだけの特訓を積んだ。
サップ戦で露呈した弱点を克服した。
必殺技も会得した。
血のにじむような努力を、代価として支払って。
人間、歯を食いしばって頑張れば、不可能は無い
後に曙自身が語った言葉である。

今、失った横綱の誇りを取り戻すため、曙は再び、K−1のリングに立つ!


カァン!
試合開始のゴングと同時に、曙。
出し惜しみはしない!最初から全開で飛ばすヨ!)
『あ〜〜〜っと、曙選手、張り手の連打だぁ〜〜〜〜〜!』
「で、出た!ハリケーン!」
プレス席。
おもわず取材に当たった記者が声を漏らす。
「な、なんて重いパンチなんだ…!
 シャレにならんぜ…!」
「武蔵選手、押されてますよ!」
解説席の関根勉氏。
曙のハリケーンに押され、コーナーに追い詰められる武蔵。
巨体によるプレッシャーをかけられ、身動きが取れない。
「武蔵に逃げ場なし、だ。
 ここまでは横綱のシナリオ通り…!
 ここであの虎砲が出れば…!
 こりゃあ、ひょっとするとひょっとするぜ!」
「武蔵!覚悟ネ〜〜〜!」
「ひぃっ!」
今まさに、曙の必殺技が炸裂しようという、その瞬間。

ロープ・ブレイク!離れてっ!

審判、角田信朗氏が曙に掴みかかる。
「えっ…!?
 い、今のでロープブレイクって…」
ファイッ!
予想外の厳しいロープブレイクをとられ、呆然とする曙めがけ
武蔵の連打が炸裂する。
「オラオラ〜〜!試合の最中によそ見とは…
 K−1を舐めるんじゃぁないぜ!」
「NO!」
オラーーップ!
不意打ちに体勢を崩した曙の顔面に、武蔵の肘が突き刺さる。
「肘打ち!レフェリー!反則だ!」
たまらずナカヤマトレーナーが声を荒げる。
「武蔵!」
角田レフェリーが武蔵と何か話し、
「曙選手、立って!」

そして、観客に向き直り、マイクをとる。
『えー、ただいま、曙選手による悪質なシミュレーション行為がありました。
 よって曙、減点!』



ざわめく会場
「そ、そんなバカな!」
「オ、オヤカタ…?どうして?」
愕然とする曙サイド。
「…ホームタウン・デシジョンだ!
つぶやくナカヤマトレーナー。
「横綱、どうやら、お前さんが勝つには、武蔵一人を倒すだけじゃダメなようだ」
「ど、どういう事!?」
「ホームタウンデシジョン…早い話が地元びいきじゃ。
 よくある話ではあるが…ここまで露骨にとはな。
 いいか、曙。この試合、今後反則と受け取られかねない行為は一切控えるんだ。
 一応、特別ルールという事で黙認されているが、オープンフィンガーによる打撃…
 つまり、ハリケーンも封印せざるをえん…」
「そ、ソンナ!」
ファイッ!
唐突に試合の再開を告げる角田。
「うおおおおっ」
曙の後頭部めがけ浴びせ蹴りを放つ武蔵。

武蔵と角田。
水魚の交わり。
まさに水を得た魚がごとく、いきいきとその格闘センスを発揮させる武蔵。

武蔵圧倒的有利のまま、次々とラウンドは過ぎていく。
(武蔵サイドは反則使い放題…
 こちらは反則を取られるのが怖くてロクに攻撃もだせん…
 ジリ貧だ…!
 このままでは、判定負けにさせられちまう…!)
焦るナカヤマトレーナー。
その時。
『あ〜〜〜〜っと、武蔵選手、回し蹴りを外した!
 これは曙、またとない大チャァ〜〜〜〜ンス!』
「しまった!調子にのって大技を…」
大きく体勢を崩す武蔵。
「千載一遇の好機!横綱、今だ!」
「モラッタぁぁぁ!」
渾身の力で殴りかかる曙。
「ウオオオオオォォォ〜〜〜〜ッ!」
だが!
物言い!
そう叫びながら、曙を突き飛ばす角田。
「な、ナンデ?」
「クソ!なんだってんだ!」
会場からも、どよめきが漏れる。
マイクを握り、角田。
『えー、ご静粛に…!
 えーただいま、曙選手が武蔵選手の攻撃をずっとガードを固めつづけ、
 相手のスキを待つ、待ちプレイ…いわゆるチキン行為です!
 K−1の精神に乗っ取らない、消極的姿勢を示しました為!』
ざわ…
ざわ…



曙選手、無気力相撲で減点!
あ〜〜〜〜っと、この終盤に来て、ふたたび曙選手に減点だぁ〜〜〜〜!』
「これは大きいですね。残り1R、挽回は難しいでしょう」

試合再開。
(審判が相手とグルだなんて…ヤッテランナイヨ…)
角田審判のあまりの片手落ち裁きぶりに、完全に戦意を喪失する曙。
ラッシュ
そんな曙をあざ笑うかのような、武蔵選手の猛攻。
「モウ…どうでも良いや…何やってもダメ…
 こんなクソゲー、どうなっても良いヨ…」
座り込むようにリングに倒れる曙。
「ダウーーーーン!ニュートラルコーナーへ!」
『あ〜〜〜〜〜〜〜っと、ここで曙選手、ついにダウンだぁ〜〜〜〜〜〜!』
「うーん、これはもう立てないでしょう」
「ワーーン!!」
『ワーーン』
「ツーーー!!」
『ツーーー』
会場を煽りつつカウントを進める角田。
武蔵選手も、自分の勝利を確信し、ガッツポーズ。
(〜〜〜〜〜〜〜っ…!
 スマン、曙よ…!ワシのミスじゃ…!
 こんなルール無用の残虐ファイトの場に、お前を立たせてしまった…)
誰もが。
ナカヤマトレーナーを始め、曙サイド全員が。
そして、曙自身が、勝負を諦めていた。
だが、その時。

アケボノォァァァァ〜〜〜ッ!
ダン!ダンッ!
「ダ、誰?」
「曙ーーっ!立てーーーっ!
 お前はオレのライバルだ!
 俺以外のヤツに負ける事は、絶対に許さんぞー!」
マットを叩く男、それは、曙の宿敵・ボブサップであった。
「サ、サップサン…!」
「アナタ…!勝ッテ!」
「パパァ!!」
そして、観客席に妻と息子の姿を見つけた、その時。

覚醒。
「か…帰ってきた−−−横綱が−−−!」
「アリガトウ…!おかげで目が醒めたよ」
『あーーーっと、絶体絶命かと思われた曙、立ち上がったァ〜〜〜〜〜〜!』

のそっ……
のそっ……
両手で顔面のガードを固めつつ、鋭い目で睨みつけ、相手をすくみあがらせる。
そして重厚なステップで相手を追い詰める、曙独特の歩法。
彼の巨体も相まって、さながら重戦車を思わせるその姿を、
人は「ヘビータンクムーブ」と呼ぶ。

なんだ、なんだその目はよォーーー!」
「ウワァァァァァァッ!!」

曙、ここまで封印してきた決戦兵器、ハリケーンを連打で繰り出す。
反則というカードをチラつかせ、ハリケーンを封印させていた武蔵は
不意をつかれた形となり、ハリケーン連打の直撃を受ける。

「あーーっと、曙選手、この終盤で、まるで生き返ったような猛攻です!」
プッシュ!プッシュ!
「くっ…この野郎、急に元気になりやが…ウェア!」
プッシュ!プッシュ!
(角田さん!なぜ見てるんです!アンタとオレは!)
アイコンタクトで角田に訴えかける武蔵。
(待て!ここは耐えろ…!耐えてくれ、武蔵!
 今日の試合、さすがにワシもやりすぎた!
 観客も怪しみだしておる…!
 もう残り時間もわずか…止めるまでも無い)
「勝手な事言ってくれるぜ…じゃあアンタがこの猛プッシュを耐えてみろってんだ…!」
『曙のラッシュが続いております!』
「サップの”激”で生き返りましたね、曙は!
「…やべぇ、目が眩んで来やがった…
 なんたる重爆撃…!リメンバーパールハーバーってやつかよ…!」
「シャラーーーップ!」
ハリケーンの連打でロープに吹っ飛ばされる武蔵。
「ぐへっ」
開いた距離をスモウステップで一気に詰める曙。
「デヤぁぁぁぁぁぁ!」
「な、舐めるな!オレだってK−1戦士日本代表と言われた男!
 判定勝ちの鬼の汚名は…今日ここで返上させてもらう!」
武蔵、渾身のカウンター。
だが!




『あーーっと、武蔵選手、カウンター失敗!
 曙のハリケーンをモロに被弾したぁ〜〜〜〜っ!』
「身体がずれましたよ!とんでもないパワーですね、曙は!」

「野郎、なんて破壊力だ…!
 つくづく恐ろしいヤツだぜ…!」
拳を握り締めるサップ。
ハリケーンの直撃を浴び、血ダルマの武蔵。
(行ける!武蔵は明らかに弱ってる!今なら!
 今、虎砲を叩き込めば!)
「ウオオオオオオォォォーーーーーッ」
だが、その動きを角田は見逃さなかった。
(いかん!貴様ごとき外様に、K−1の至宝…!
 我が最愛の武蔵をやらせはせん、やらせはせんぞォーーー!)
「まてーい、曙ォォ!水入りじゃーーーーーーッ!
この試合何度目だろうか。
角田が武蔵と曙の間に割り込む。
「躊躇うな曙!K−1に水入りなんてルールはねえ!
「OK!サップ!」
「な、なにぃ!!」

「これ以上、誰かに惨めな姿は見せたくない!
 だから…!見ててください!
 ボクの!−−−−」







静寂。
マットに大の字を描く武蔵、角田。
呆然と立ち尽くす曙。
ざわめく場内。
「ど、どうなったんだ…?」
K−1スタッフがリングに駆けこむ。
そして。

審判暴行罪で…!
 負けっ!曙の負け〜〜〜〜〜〜っ!」
意識を取り戻した角田が、顔を真っ赤にして声高らかに宣言する。
「ソ、ソンナ…」
「勝者!」
バッ!バッ!
「ムサ〜〜〜〜〜〜シィ〜〜〜〜〜〜〜」
激しいアクションを交えつつ、
高々と武蔵選手の右腕を掲げる角田。
「勝ち…?オ、オレの…」
状況を飲み込めず、ただ半笑いを浮かべる武蔵
「審判!何処を見てたんだ!明らかに曙の勝ちじゃないか!」
予想外のジャッジメントに曙のトレーナー、ナカヤマ氏がくってかかる
だが、角田レフェリーは間髪入れず
「ナカヤマトレーナー!レッドカード!退場ッ!」



あ〜〜〜〜っと、ここで曙選手のセコンドに退場命令だァ〜〜〜〜〜!』
「オ、オヤカタ…!」
「くっ…バカげてる…!
 こんなリング…言われなくても下りてやるわい!
 行くぞ、横綱!」
「ウ、ウン…」
トボトボと、寂しそうにリングから去ろうとする曙。
だが−−−

その必要はないぞ、アケボノ!
ロープを飛び越え、颯爽とリングに舞い上がる陰。
「サ、サップサン!」
あ〜〜〜〜〜っと、ここで曙選手の宿敵にして盟友、ボブサップ選手が乱入か〜〜〜〜ッ!?』
「角田さんよぉ…今のは戴けねえ…!まったくもって公平性に欠けるジャッジ…!
 あれは通らない… 通らないぜ…!
 どっちが勝者か…それはここにいる誰の目にも明らかってモンだ!」
「なにぃ…」
ボブサップを睨みつける角田。
一歩も退くことなく、睨み返すサップ。
「む〜〜〜…むむむ…
「角田ァ!」
そして。
バッ!
「ボブ・サップ選手にレッドカード!退場ッ!」



あ〜〜〜〜っと、ここでボブサップに退場命令が下されたァ〜〜〜〜ッ!』
「シット!この野郎ォ、もう許せねえ」
「待ちな!」
『あ、あ〜〜〜〜〜っと!ここで再び選手の乱入です!
 い、いやこれは…なんと、K−1ファイターが次々とリングに上がるゥ〜〜!』
「き、貴様ら…!」
「角田!これ以上の好き勝手は、この俺たちが許さないぞ!」
突然の展開についていけず、うろたえる曙。
「ミ、皆ノ衆!」
「曙、見せてもらったよ。君のファイトを」
「センパイ!」
数十人の大男に囲まれ、つい今しがたまで好き勝手絶頂の限りだった角田も、
流石に勢いを失う。
「武蔵!マットに這いつくばったお前とそこに立っている曙…
 どちらが勝者か…!おまえ自身解かってるはずだ!」
いきなり批判の矢面に立たされ、狼狽する武蔵。
(…か、角田さん、マズイっすよ…!)
「むむむ…」
『…けぼの!あっけぼの!』
「ん?」
『アッケボノ!アッケボノ!』
あ〜〜〜っと、ここで場内から曙コールだぁ〜〜〜〜〜ッ!』
『アッケボノ!アッケボノ!アッケボノ!アッケボノ!』
『…勝者…』
『えっ…?』
突然のマイク越しの発言に放送席の注目が集まる。
マイクを片手に立ち上がったのは、解説の長島一茂氏であった。
−−−勝者、曙選手っ!
あ〜〜〜〜っと、ここで長島一茂氏から、勝者、曙のコールだぁ〜〜〜〜っ!』
「あけぼのォ〜〜〜〜〜〜!」
感極まり、裏返った奇声で曙の名を叫ぶ、ゲストコメンテーターの藤原紀香。
『アッケボノ!アッケボノ!』
『お聞きください!
 場内、割れんばかりのアケボノコールです!』
「…コ、コレハ」
一人、状況を把握できぬままでいる曙に、サップ選手が駆け寄る。
「ホラ、ウィナーが何ボンヤリしてんだよ!
 観客に応えてやんな!」
「ウィナー…!ボクが…!」
「ああ!」
『アッケボノ!アッケボノ!』
〜〜〜〜〜〜ッ…!


や…ヤッタァ〜〜〜〜〜〜!







■おわり■



※この作品は事実をもとにしたフィクションです。




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