ギャルゲークリエイター列伝

都内、某ゲームショップ。
「こないだのアレ、どうだった?」
「あー、もう最悪だったよ。絵もヘタレだし、声優もニ流だし。」
最近、ギャルゲーつまんないよねー
「ちかいね。」
客の青年の会話に耳をそばだてる男。
「・・・伝説ギャルゲー(レジェンドギャルゲー)、『ときめきメモリアル』が開拓したギャルゲー市場・・・
 だが、ユーザーの飽くなき欲求・・欲望は、メーカーから『体裁だけのニ流ギャルゲー』を続出させ、
 結果的に市場を食い潰した・・・しかし・・・・」
店を後にする男。
「ギャルゲーの底力はこんなもんじゃないはずだ・・・
 作ろう、俺の手で。まったく新しい・・・最高のギャルゲーを!

男の名は・・・『多部田俊雄』。
NECインターチャネルの敏腕プロデューサー。
彼こそが、後に『セガサターンの忘れ形見』とまで呼ばれたゲーム
『センチメンタル・グラフティー』の生みの親である。

この物語は、彼が・・・
いかにして「センチメンタルグラフティー」を生んでいったかの
ドキュメンタリーである。

センチメンタルグラフティーを創った男達』


1996年。
NECインターチャネルビル。
深夜−−−
真っ暗な部屋で、一人、机に向かう多部田。
「まず、なんとしても超えたいハードル・・・
 偉大なる先人・・『ときめきメモリアル』・・・!
 一見、完璧に見える『ときメモ』だが、俺に言わせれば、ダメな点はある・・。
 絵の下手さ・・それと、声の演技のマズさだ。
 俺のゲームは、そこを完全にクリアしてみせる・・・!
 そして、ゲームに込めるテーマは・・・
 今までのゲームに無い、新しい恋愛感…『せつなさ(センチメンタル)』・・・
 そう、俺のゲームは・・・『センチメンタル・グラフティー』だっ!」

机に向かい、原稿用紙の束・・・企画書の草稿を眺める開発部長。
期待半分、不安半分で、反応を待つ多部田。
(・・・・)
「ふう・・・」
「ど、どうですか、部長!?」
「なあ、正気かい、多部田君
 ヒロインキャラが全国各地に散らばってるギャルゲーだって?
 そんな設定、古今聞いた事が無いよ。」
「そ、そこが斬新なんですよ!
 今までの、閉鎖された区域・・・学校、広くても、せいぜい町内・・・
 が舞台のゲームに慣れたプレイヤーには、これはとても新鮮に感じられると思うんです。」
「うーん、斬新は良いけど、ユーザーが付いて来られなければ意味が無いんだよ。
 ここは1つ、設定を1から練りなおしてだなあ・・・」
「じ・・・自信がありますっ・・・!
 遠距離恋愛というのは『せつなさ』を表現する為には、切れない要素なんです・・・!
 それに、全国各地にヒロインが散っているのには、実は、もう1つ意味があるんです!」
「意味だって?」
ニヤリと笑う多部田。
「ええ、制服ですよ!各地に散らばっていると言う事は、即ち全員別の学校に通っているという事!
 これは、制服マニアにはたまりません!
 これこそ、未だかつて、例の無い設定では無いでしょうか!」
「よし、解った。キミがそこまで言うんなら、やってみろ。」
「はいっ!」

−−こうして、プロジェクト『センチメンタル・グラフティー』はスタートした!

「さて、ギャルゲーを作る上で、最重要要素の一つである絵だが、
 今回、甲斐智久氏を起用したいと思う。」
えっ・・・!
ざわめく開発室。
「だ、誰なんですか、それは?
「聞いたこと・・ないよな?」
「待ってください、そんな・・名前も聞いたことの無いような、
 新参イラストレーターの絵なんかに、僕らの『センチ』の運命を預けろっていいんですか!?」
「お、おい、どうしたんだよ、岩崎!」
「どうせ、どっかの同人誌上がりの馬の骨なんでしょうけど、
 そういうヤツって、結局プロ根性足り無いから、
 リテイクとか出したら、ケツ巻くって逃げ出すんじゃないんですか!?」
「絵も見ないで、それは言い過ぎなんじゃないか?」
多部田さんにあやまれ、岩崎!」
と・・とにかく、僕は認めませんからね!
そういって、開発室を飛び出す岩崎。

NECインターチャネルビル・屋上。
「そう、岩崎さん、竹井正樹さんにキャラデザの打診して、試稿まで用意してたの・・・」

「うん・・・あの人なら、ウチも『卒業』からの付合いだし、気心も知れてるから、
 絶対やり易いと思うんだ。」
「たしかに、そうかもしれないわね。
 けど、甲斐さんって人の、絵だけでも見てみない?
 きっと、多部田さんは、既存の作家にない、新しい風に賭けてみたいんだと思うな?」
新しい・・・風・・・


再び、開発室。
岩崎を除くスタッフ一同が、多部田の持ち寄った、甲斐氏の原画・・ラフ案を見ている。
な、なんて繊細なタッチのイラストなんだ!
キてる、キてるよ、これは!」
「こ、このギャル達と恋愛ができるなんて・・・
 これなら、ときメモなんて、屁でも無いじゃないですか!」
(なんだ、なんだ、皆大騒ぎして・・・)
「お、おい岩崎、見てみろよ、この原画!」
・・・!
(たしかに・・・新しい・・・
 今まで見たどのギャルゲーの絵よりも魅力的だ・・・!)
よぉ、岩崎。
「あっ・・多部田さん」
「どうだ?甲斐氏の絵は。」
「すいません、僕・・・僕っ・・・」

こうして、原画家も無事決まり、さらに強い絆で結ばれるスタッフ達だった・・・

−−−そして、半年が過ぎた。

「多部田さん、いよいよ、開発も後半に差しかかりましたね。」
「ああ。けど、ここからが正念場だよ。気を抜かずに行こう!」
「けど、予想以上の反響じゃないですか!
 続編でも無いのに、発売前からこんな人気の出たゲームって、過去に類を見ないんじゃ無いですか?」
グッズもバカ売れだっていうし!」
「そうですよ!雑誌の期待の新作でも、常にトップ3入りで・・・
 オレ、メチャクチャ気合入ってますよ!」
「まあ、張切るのは構わんが、暴走するなよ?」
「えっ・・・は、はい!」
「ワハハハハ」

誰の目から見ても、プロジェクトは順風満帆・・・そう見えた。
だが・・・・
影に潜む・・・悪鬼あり・・・!

数週間後。

「さて、ギャルゲーといえば、重要な要素の1つに声がありますが、
 今回、我々スタッフが意見を出し合って、選んでみました。」
「自分らでも、なかなかキャラのイメージ通りにキマってると思います!」
「どれどれ、見せてくれ。」
企画書に目を通す多部田。

沢渡ほのか役 林腹めぐみ
森井かほ役  椎名へきる
山元るりか役 宮村優子
七瀬優役   三石琴乃
保坂美由紀役 久川綾
松岡千恵役  松本梨香




多部田の表情が、険しくなる。
「ど、どうですか!?多部田さん。」
・・・・ダメだ!

えっ!
「これじゃダメなんだ・・・!
 既存の作品のイメージがこびり付いた、手垢にまみれた声優じゃあ、
 おれたちの表現したい『せつなさ』は出せないんだ・・・!」
「そんな!僕達みんな、アニメビデオやCDを聞いて、徹夜で考えたんですよ!」
「そうですよ、これは譲れません!」
バカっ・・・!
多部田の一喝。
有名声優でゲームを売る時代は終ったんだ!それを理解(わか)れっ・・・!
 宮村優子だって・・?お前はるりかに『あぁんたバカァ?』とでも言わせたいのか!ええっ!?」
「うっ・・・」
「けど、そんな事言ったって・・・
 それじゃあ、まったく無名の声優を使う他無いじゃないですか!」
「・・・そうだよ、その通りだ・・・!
「えっ・・・」
「無名・・・、もしくはそれに近い声優を・・・
 我々自身の手によって発掘すれば良いんだよ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?

こうして、スタッフの血の滲むような努力により、
6名の新人声優が選ばれた。
だが・・・・

「ダメだ、7人目以降が・・・決まらないっ・・・!」
「ああ・・。まるでダメだ、どうしても、僕らのイメージに合う新人声優がいない・・!」
「くそう、スケジュール押してるのに・・・。」
「妥協するしかかないのか・・・」
「そ、そうですよ!妥協しましょう!全部妥協すれば良いんですよ!
 そこそこ良いセン行ってる声優はいるんだし・・・。
 ここでこのまま、完璧を求めて立ち止まってたら、ゲームは完成しません!」
その必要は無いぞ、皆!
「多部田さん!」
「これを見てくれ。」
一枚のプリントを差し出す多部田。
「こ・・これは!」
「今月のゲーム雑誌、およびアニメ雑誌に打った広告だ。」
「・・・センチメンタルグラフティー・・・声優オーディションだって!?

−−こうして、スッタフ総出による、全国オーディションツアーが開催された!

そして・・・

ずらり並ぶ12人の女性。
「皆・・・よく・・集まってくれた・・・!」
「ついに、12人全員が・・・」
ここに揃ったんですね!

沢渡ほのか as 鈴木麻里子
森井かほ  as 満仲由紀子
保坂美由紀 as 牧島有希
永倉えみる as 前田愛
七瀬優   as 西口有香
綾崎若菜  as 小田美智子
星野明日香 as 岡本麻見
安達妙子  as 岡田純子
山本るりか as 今野宏美
松岡千恵  as 米本千珠
遠藤晶   as 鈴木麗子(うららこ)
杉原真奈美 as 豊島真千子

−−センチメンタルグラフティー声優陣12名・・・
        人は彼女達を・・・SGガールズと呼ぶ!−−

難題の1つであった声優問題が解決し、早速アフレコが開始された。
だが、納期が押している事に変わりは無く、
むしろ、オーディションで手間取った分、確実に状況は悪化していた。
そして、その空気は、あきらかに・・・彼らの職場を淀ませていた・・・

「ダメだ、このままじゃ納期までに完成なんて、とてもムリだっ・・・!」
「絵も、音も、プログラムも・・・なにもかも完成していないなんて。」
−−−−八方塞がり。
暗く沈むスタッフ。
そこへ・・・
「喜べ、皆!ついに原画があがったぞ!」
「本気(マジ)っすかぁ!」
「よし、これで画像周りに手をつけれるぞー」
行き詰まった状況に、風穴が開いたかに思われた。だが・・・
荷物を開封する多部田。
ガサガサ・・・
「・・・・・!」
「なにやってんですか、多部田さん!
 はやく俺のえみりゅんを撮り込みましょうよ!」
「おいおい、俺のほのかの方が先・・・」
絶句。
原画を見たスタッフ、皆一同絶句。
なんだ、この絵は・・・!
「原画の愛らしさとは・・・似ても似つかないじゃあないか!」
「多部田さんっ!」
「こんなのが、こんなのが、俺の若菜なワケあるかぁっ!」
激情にまかせ、原画を破り捨てようとする岩崎。
よせっ、バカっ・・・!
「け・・けど・・・多部田さんっ・・・!」
「・・・・・」
原画を見つめ、呆然とする多部田。
・・ムリだったんだ・・・
「えっ・・・?」
「今の原画マンの実力では・・・甲斐智久の繊細なタッチの再現は・・・
 ムリだったんだよっ・・・!」
「そ、そんなぁ!」
「かといって、ゲーム中の画をすべて甲斐智久氏に書かせる訳にもいかない・・・
 氏の仕事の遅さを考えれば、そんな事をしていたら、何年かかるか解らない・・
 ムリなものは仕方ない・・・仕方がないんだ!
 ここは・・・涙を飲んで・・・この絵で行こうっ・・・!」
「け、けど・・・!多部田さん!
 今まで散々、甲斐氏のイラストで宣伝してしまっているのに・・・
 実際のゲームの絵が別モノなんて・・・ユーザーを騙すような感じが・・・」
「・・・じゃあ、FFはどうなるっ!」
「えっ・・・」
「FFだよっ・・・!
 超大作RPG、ファイナルファンタジーのイラストレーターは天野義孝氏だが、
 実際のゲームの画には、まるで反映されて無いじゃないかっ・・・
 あれに比べれば、ウチはまだ、似せようと努力しただけ、良心的・・・」
「そ、そんなの、屁理屈・・・・・!」
多部田の目に涙。
そう、一番悔しいのは多部田なのだ。
だが・・・ここは受け入れるしか無い・・・過酷な・・現実を・・・!

「うっ・・・」
ボロ・・・ ボロ・・・
落涙。
繊細かつ美麗な画像という、当初の基本指針の柱の一本を・・・
ここにきて断念・・・
スタッフ一同、皆、涙。
だが・・

「皆!泣いてるヒマはないぞ!さっそく画像を撮りこむんだ!」
「はいっ!」
やってやる、やってやるぞ・・・!
「なんとしても・・・納期までにっ・・・!」

そして、スタッフ皆の鬼気迫る気迫は、作業のピッチを大幅に上げ・・・
マスターアップまで1ヶ月を残し・・・
ついに・・・

ウィーーン・・・
開発機材のパソコンのCD−Rドライブから排出される、一枚のディスク。
「で・・・できたぁーーーっ!」
「うおおおーーー」
この日・・ついにセンチメンタルグラフティー、マスターROMが完成・・・!

「とりあえず、完成したが・・・」
「ええ、これからが大変ですね。」
「だが、ゴールは見えた!皆、もう一息、頑張ろう!」
「おおーーっ」

−−デバッグ作業。
プログラムや仕様の誤りをチェックして、ゲームからバグと呼ばれる不良を取り除く作業。
ゲーム製作では、これが厄介なのだ。
同じシーンを、さまざまなパターンを想定してプレイ・・・
それこそ、プレイヤーの取れる、ありとあらゆる選択を、すべて、しらみ潰しに行ってみて、
誤動作が無いかのチェック。
単純作業だけに・・・疲労困憊した身体には・・・ひときわ堪える・・・。

そして、デバッグに平行して、テストプレイが行われる。
社内の人間に、完成したゲームをプレイしてもらって、評判を聞き、
改善・改良点を洗い出す作業である。

どうだ、評判は?
「ええ、悪く無いですよ!」
アンケートに目を通す多部田。
「ふんふん、なるほど・・・キャラが立っている、声が良い、か。
 好感触だな。」
「あの絵柄も、やはり最初は違和感があるようですが、慣れれば結構イケてるって、皆言ってます。」
「シナリオ周りも好評だな。泣けた、萌えた、か。フフ・・」

だが、一週間後・・・

「どうだ、評判は。」
テストプレイのアンケート集計に顔を出す多部田。
「多部田さん、そ・・・・それが・・・・」
「・・・?」
集計結果に目を通す多部田。
ど、どういうことだ、これは・・・!
 『最初の一人二人は良いが、それ以降は飽きてしまう』・・・・
 『どのキャラも、結局やる事は一緒で単調』・・・
 『スリルが無い』・・・
 『やっぱりときメモの方が楽しい
 ・・・だって!?そんなバカな・・・!」

テストプレイルームに駆け込む多部田。
こ、これは・・・!
モニターの前には、誰も座っていない。
無人のテストプレイルームで、呆然とする多部田。
そこに、他のスタッフも駆け寄る。
「多部田さんっ!」
「欠点・・・ここに来て、とんでも無い欠点が露呈した・・・!
「!?」
「・・・・・・・。」
顔面蒼白の多部田。
「ダメだ・・・!
 この欠点は・・・致命的・・・
「なんなんですか、その欠点とは!」
「・・・俺達のセンチには・・・ゲーム性が欠如しているんだよ!
!?
「どういう事ですか、多部田さん!」
「今のままだって、十分、ゲーム要素・・・アドベンチャーゲーム要素はあるじゃないですか!」
「ダメなんだよ・・・!
 今の「センチ」は、ただ遠くに住んでいる女の娘に会いに行って、デートして・・・
 それだけ・・・
 ゲーム性といえば、選択肢を選ぶくらい・・・。
 今の「センチ」には、他のキャラとの絡み・・対人関係のバランスを取ると言う、
 『ときメモ』を始めとするモテモテゲームにおいて、最も重大な要素が、
 スッポリ欠落してしまっているんだよ・・。
 ここに来て・・・ここに来て、ヒロインが12都市に点在してるのが仇となった・・・!
「そんな・・・!」
「・・・・・。」
項垂れる多部田。
「多部田さん!」
・・・ダメだ、作りなおしだっ・・・!
!?
「ムチャですよ、そんな!」
「開発期限だって、もうすぐそこだし・・・」
「ここで発売・・・開発を延期したら、どれだけの人に迷惑がかかるか・・・」
「俺は・・・作り手のエゴで、作品を楽しみにしてくれている人達を裏切りたくないっ・・・!」
「・・・・・」
「け、けど、作りなおすとしても、どうするって言うんですか?
 ヒロインが12都市に点在しているというのは、センチの要・・・
 今更、そこから作り直す訳にはいかないでしょう!」
そうですよ!そんな事を言うなら、具体案・・・代替案を・・・!
「すまない・・・今はまだ・・・何も思い付かない・・・
「そんな!」
「勝手過ぎますよ!」
「だが、必ず・・・必ず、何か・・考え出して見せる!
 だから、今は・・・俺を信じてくれっ・・・皆!

開発室。
「・・・何考えてんだ、多部田さんは!」
「信じてくれって言ったって、どうするんだよ!」
「・・・・」
「当の本人はとっとと帰っちまったし・・・どうなってんだ!」

秋葉原。
一人、街を歩く多部田。
「・・・ここに来て、大幅なシステム見直し・・・
 皆が怒るのも仕方ないな・・・・」
ゲームショップ。
センチメンタルグラフティーのポスターが張られている。
見上げる多部田。
「現行のバージョンのままで行けば、発売日は守れる・・・
 スタッフの皆にも負担はかからない・・・
 ここで俺が”我”を通して開発を延ばせば、スタッフだけじゃない
 ・・・流通や・・小売店や・・・
 いろんな人に迷惑がかかるんだ・・・」
(『妥協するのも大人の選択』・・・か・・そうかもしれないな・・・)
「ねえ、ケンジ。センチのファーストウインドウ、どうだった?」
(・・・!?)
「サイコーだったよ!徹夜して並んで買った甲斐があったよ!
 きっと、ゲーム本編も最高のギャルゲーになるに違いないよ!
 過去のすべてのギャルゲーは『センチ』の前にひざまずくのさ!」
そうだねー、たのしみだねー
楽しそうに話しながら、秋葉原の電気街に消えて行く少年達。
「・・・・・・・!」

(・・・・そうだ・・・オレ、どうかしてたぞっ・・・!
 誰の為でも無い・・・ユーザーの為の『センチ』なんだっ・・・
 履き違えるなっ・・・本末転倒するなっ・・・ここは退いちゃあ・・・
 妥協しちゃいけない所じゃないかっ!)

NECインターチャネル本社に戻る多部田。
「なにか・・あるはずだ・・・一打逆転の、ナイスアイディアが・・・!
人気の無い廊下を、開発室へ向かいながら考える・・・ひたすらに・・・。
「・・・問題はゲーム性の低さ・・・理由は、障害の少なさ・・・
 狙いのヒロインを攻略しつつも、他のヒロインの機嫌を取るという、
 『ときメモ的手法』が封印されているのがネック・・・
 ・・・ここまでは間違い無いだろう。
 しかし、12都市を舞台にするという、センチの性質上、ヒロイン同志をからませるのは非常に難しい・・・
 クラスメートどころか、顔すら知らない者同志で、どう接点を持たせれば良いって言うんだ・・・」
多部田の歩みが止る。
・・・まてよ・・・そうか・・・
 だったら、始めから同時攻略を押し付ければ良いんじゃないか・・・?
 同時攻略無しではクリア不能なシステム・・・強制12股・・・!
 これだ・・・これなら・・・!」
開発室へ駆け出す多部田。

翌朝・・・
「みんな、これをプレイして見てくれ。」
「ど、どうしたんですか、いきなり。多部田さん。」
「まあ、四の五の言わずにやってみてくれよ。」
「そりゃ、まあ、やりますけど・・・」
30分後−−
す、すごい!ちょっとした改良で、まるで違うゲームみたいだ!
「これなら、一度のプレイで、他のキャラの顔見せが果たせるので、
 次回以降のプレイの、攻略意欲向上へと繋がりますね!」
「しかも、最終的に他の女の娘を捨てる後ろめたさ・・・
 まさに、これこそが『切なさ炸裂』ですよ!
「イケる、これならイケますよ!」
「よし、この強制12股を核に、再調整開始だ!
「はいっ!」

−−こうして・・・
何度目かの発売延期を経て、ついに・・・
『センチメンタルグラフティー』は発売の時を迎えた・・・


「いよいよ・・・泣いても笑っても・・・」
「ああ・・・ついに、この日が来たな」
「売れますよねっ?きっと・・・僕達のセンチ・・・」
「・・・ああ。」
(今は・・・信じるしか無い・・・
 俺達がやってきた・・・この数年間を・・・!)

現在1月22日・・PM10:00。
落ち付かない様子で開発室をうろつくスタッフ達。
その時。
静寂を破り、けたたましく電話が鳴り響く。
大変です、多部田さん!
「ど、どうした!?」
『ええ、実は・・・』
電話のやり取りを、固唾を飲んで見守るスタッフ。
「そうですか・・はい、はい。それじゃあ・・・」
電話を置く多部田。
「ど、どうかしたんですか!?」
「まさか・・・ここに来てバグが!?
顔を上げる多部田。
心配入らないぞ、みんな。
 実は、秋葉原のゲーム店にお願いして、状況を知らせてもらったんだが」
「えっ・・・!」
現時刻・・・発売日前夜・・秋葉原では、センチを求めるユーザーが
 既に長蛇の列をつくっているらしいぞ!

「本当ですかっ!」
「やったーーーっ!」
「フフ、これで少しは、安心して眠れそうだな。」

翌日。

「・・・もう、朝か・・・・」
「いつのまにか、眠ってしまっていたみたいですね。」
「あれ・・?多部田さんは・・?」
その時。
おう、お前ら、こんなところにいたのか!
「あ、部長!」
「ちょっとこっちに来いっ!早く!」
「えっ・・・」
開発スタッフを引き連れて、商品サービスセンターに入る。
そこは・・・

「な、なんか忙がしそうですね。」
「電話が鳴りっぱなしだ・・・」
「ま、まさか・・・
 まさか、苦情の電話がひっきりなしに・・・!
「ええ〜〜っ!」
「オイオイ、なにいってんだ、チミ達!
 その逆・・・!
「えっ?」
すごい人気だよ!!
 この電話は全部、センチの追加発注の問い合わせなんだよ!!」
「やった・・・!やったんだっ!」
「俺達の数年間・・間違いじゃ無かったんだっ!」
涙ながらに肩を抱きあい、喜びを分かち合うセンチスタッフ。
「良くやった!パート2もぜひ頼むよ!」
やった〜〜〜〜ッ!
だが、そこには、肝心の男の姿がなかった。
「・・そ、そうだ、多部田さんは・・
「僕たちをここまで引っ張ってくれた、多部田さんがいない・・・」
「そうそう、そうなんだよ。
 彼、朝早く、やはり気になるからって、秋葉原に様子を見に行って来る、
 と出かけて行ったきり、帰って来ないんだ。」
「えっ・・・?」

その頃−−−

JR秋葉原駅・・電気街口前。
たくさんの人が集まっている。
「やあねえ、事故よ・・・」
「朝っぱらから・・・」
「何でも、車が信号無視して、歩行者をはねたんだって・・・」
その人ゴミの中心では、救急車が、けたたましくサイレンを鳴り響かせながら、停止している。
「キミ、なんで、信号を無視したんだね!」
警官から尋問を受ける運転手。
「あ、あのっ・・・僕っ・・・今日発売のセンチメンタルグラフティーを徹夜で並んで・・・やっと買って・・
 一刻も早くプレイしたくて・・・それでっ・・・それでっ・・・」
「ゲーム・・・たかがゲームのために、キミは人を跳ねてしまったのか!」
「ごめんなさいっ・・!ごめんなさいっ・・・!」
「ボス、被害者(ガイシャ)の身元がわかりました!
 NECインターチャネルに勤務する、多部田という人物です・・・

なんたる運命の悪戯・・・皮肉・・・!
この日、熱心なセンチファンの運転する車の暴走事故によって、
多部田は帰らぬ人となった−−−。


・・・一年後。

「なあ、聞いたか?続編が出るんだって!
「ああ、センチだろ!オマエ、知ってるか?
 前作の主人公は、なんと、いきなり交通事故死してしまうらしいぜ!
「知ってる知ってる!ビックリだよねー」

セガサターンのギャルゲーとしては記録的数字である、30万本を売り切ったセンチメンタルグラフティー。
だが、スタッフの飽くなき挑戦精神は、留まる事を知らなかった。

「多部田さんの理想を、俺達の手で実現するんだ!」
「前作の主人公・・僕らを引っ張ってくれた多部田さんはもういない・・」
「けど、俺達の心の中に、多部田さんの理想は息づいてるんだ!
 俺達は、多部田さん(=前作の主人公)の死を乗り越えて、進まなきゃいけないんだ!」
「そうだ!天国の多部田さんを唸らせるような、凄いギャルゲーを作ろう!
 残された僕達の手で!」
「それが僕達に出来る、多部田さんへの唯一の恩返しだ!
「よし、やろうぜ・・・!」
この、センチメンタルグラフティー2で!

そして、来る2000年7月。
残されたスタッフの情熱の結晶・・・
センチメンタルグラフティー2、発売・・・!

切なさぁ・・・
さくれーーつ
イェーイ・・
 イェイ
  がんばりましょー・・・

■おわり■



※この物語は憶測とデタラメに基づいたフィクションです。
 実際の人物、団体名等は一切関係ありません。
 なお、筆者はセンチメンタルグラフティーをプレイした事が無い為、
 本編中のゲーム内容の記述に誤りがある可能性がありますが、ご了承下さい。