1994年5月27日…。
PCエンジンという、当時でさえ廃れかけたハードで発売された『ときめきメモリアル』。
注目を集める事も無くひっそりと発売された『ときメモ』であったが…
次第にコアなゲーマーの注目を集め、その人気はジワジワと波及し・・・そして爆発。
後にプレイステーション、セガサターンへ移植され、述べ売り上げ総数100万本を超える、
メガヒット商品となった。
2000年某日−−−
「ときめきメモリアル3…か。」

企画書を読み終える社長。
息を飲み社長の次の言葉を待つ男。
「キミはときメモ2の失敗−−−興行的に見れば30万本という数は成功と見る見方もあるが…
それでも、ときメモ1の1/3…失敗という言葉も仕方が無いだろう−−−をどう思うかね?」
「お、お言葉ですが社長。あの頃とは時代が違います。
この時期のプレイステーションソフトとしては、30万は成功…
いや、大成功と言っても過言では無い、かと…」
「そうは言っても、FF・ドラクエは100万、200万と本数を伸ばしているだろう。
なぜウチのときメモは伸び悩むのかね?」
「………」
言葉を失う男。
「わが社のときメモが、ドラクエ、FFに並び得ぬ、決定的な違い…
それは、何だと思うかね?」
「待ってください。ジャンルが違います。
ドラクエもFFもRPG。老若男女問わず人気のある…言わば国民的ジャンルです。
それに対してわが社の「ときメモ」のターゲットは基本的に、10代以降の男性に限定されます。」
「…なるほど。そこまで解っているなら、話は早い。」
「えっ…?」
「良いかね、キミ…
このまま行けば「ときメモ」…いやさ、ギャルゲーの行く先は尻すぼみ…
ブームの終焉を向かえた、格闘ゲームと同じだ。
一部の熱心なファン以外、見向きもしなくなるだろう。
その証拠がときメモ2の30万という数だ。」
「…!」
「今必要なのは、新規ユーザーの開拓だ。
このままでは、タダでさえ数少ないユーザーからも飽きられ、見放され、ジリ貧…。
私はね、メタル君。
ときメモを、ドラクエ、FFのような誰にでも楽しめるタイトルにしたいんだ。」
(ときメモを、一部のファンという呪縛から解放し、誰からも愛されるゲームに…
それは、これまで、「ときメモファン」の為だけを思って作ってきたオレにとって、
目の覚めるような一言だった…)
「わ、わかりました!
一般層にも訴求力を持った、新たなる「ときめきメモリアル」…
本当の意味での、新ときめきメモリアルを作ります!」
「よし、やってみろ!」

その男の名はメタルユーキ。
ときめきメモリアル1のサウンドチーフとしてときメモに関わり、
同2ではチーフプロデューサーを努めた男である。
この物語は、『ときメモ』に全てを捧げた一人の男の半生を描いた、ヒューマンドキュメントである!
ギャルゲークリエイター列伝 第二弾 『ときめきメモリアル3を作った男達』
メタルユーキが、一般層にも抵抗無く受け入れられる新世代ギャルゲーの製作にとりかかり
3ヶ月が過ぎた。
「こんな不自然な髪型はダメ、か…
声も、アニメアニメした声優より、ナチュラルな方が良いだろう。
不幸を呼び寄せる性質…こんな現実離れしたトンデモ設定もダメだな。
待てよ…そもそも、伝説の鐘とか、告白の木という設定もアウト…?
ああ、もうっ!」
「…メタルユーキさん、どうしたんですかね?」
「ああ、あれらしいぜ。ときメモ3の件で、社長に無理難題を押しつけられて。」
「一般層にもウケるときメモ、ねえ…」
「おい、O沢!
ウダウダ、言って無いでさあ!
出来てるんだろうな、新ときメモのキャラデザイン案!」
「おお、こわ。
メタルユーキさん、これ。見てくださいよ
ちょっと地味かな、と思ったりもするんですけどね…」
O沢の差し出す、キャラクターデザインのラフ案に目を通すメタルユーキ。
「ふむ…いや、悪く無いんじゃないか?
普通っぽさ… これが新ときメモのキーワードになるかも…。
よし、これなら、社長を納得させられるかもしれない。」
資料をまとめ、開発室を飛び出すメタルユーキ。
社長室−−−
「ど、どうですかね…?」
表情を強張らせる社長。
「メタル君…
今時こんな紙っぺらに描かれた少女にときめき…
つまり恋愛感情を抱くのかね?若者はっ…
違うでしょっ…
もっとこう…
大衆が求めるのは…現実感っ…
リアリズムだよ!
解るかい、メタル君。
もう、オタク相手にだけ商売していれば良い次代は終わったんだよ!」
一蹴っ…
メタルユーキの3ヶ月の苦悩を…
社長、一蹴…!
「で、では社長…!
社長の仰るリアリズムとは一体!
絵柄の…絵柄の問題なのでしょうか…!
もっとこう、桂正和先生的な、リアル少女路線で攻めろと…!?」
「バカっ…!
違う違うっ…!
まったく…メタル君は何もわかってないっ…」
「えっ…」
「これだよ!
こいつをちょっと…回してみたまえよ。」
そう言って一枚のディスクを取り出す社長。
「これは…?こ、このムービーは!」
「驚いたかね…
こいつは私が、独自のルートから入手した、
ファイナルファンタジーXの開発中の映像だよ。」
「な、なんて美麗な画面なんだ…」
「驚くのはまだ早い。
こいつはムービーではないという。」
「な、なんですって!
リアルタイムポリゴンでこのクオリティー…
これがPS2の実力なのか…!」
「そしてこの、ヒロインとおぼしき少女の純情可憐な事と言ったら…
どうかね、メタル君…
胸がっ…
ときめかないかね…?」
「…!」
(た、たしかに…!
この止められぬ激情はどうだっ…!
したい!こんな少女と胸の焦がれるような恋愛がっ…!)
「良いかい、メタル君。
厳しい事を言うようだが、今、全国の若者どもを虜にするには、
このFFXの少女は、最低限超えなければ成らぬハードルっ…!」
「し、しかし、社長!これは僕らの目指す物とは、ベクトルが別と言うか…」
「考えてもみたまえ、キミ。
超えられるのかね?
一枚一枚紙に描いて、彩色して…
そんな途方も無い労力を注いで、それでやっと動く2Dアニメが、
この3Dの圧倒的な存在感をさ!」
「しかし!
2Dには2Dの良さがあります!」
「その結果がこれかね?」
そう言って、一枚のディスクを取り出す社長。
「そ、それは…
『ときめきメモリアル2対戦パズルだま』…!」
「なんだね、このゲームのショボい画は…!
ええっ…?
ええっ…!?
どこの外注か知らんが…
困るんだよっ…
ウチの看板キャラを使ったゲームが、
こんなショボショボな低質ゲームにされるのはさあ!」
ミシっ…
社長の手に力が震え、握り締められた『ぱずるだま』が悲鳴を上げる。
「うっ…」
言葉を失うメタルユーキ。
肝心のキャラクターの作画クオリティーの低さ…
たしかにそれは、各ゲーム雑誌のレビューでも叩かれた点であった。
「良いかい、メタル君…
時代は3Dだよ!
見ただろう?FFXの純情少女を!
例えばだよ?
渋谷の街を行く若者に、あのFF少女と、
キミの大好きなときメモ2のヒロインとを比べて選んでもらったとして、だ!
一体何人の若者がときメモ2の方を選ぶと思ってるのかね?」
「で、ですが、3Dポリゴン少女に嫌悪感を示す人間だって沢山居ます!」
「逆もまた然りだろう!
今はアニメ絵…2Dってだけで敬遠される、寒い時代なんだよ!
アキハバラではどうか知らんが…。
10人のオタクより100人の一般人…
ことわざにもあるだろう。
大の虫を活かすには小の虫を殺すんだ。」
「…!」

「いいかね…。
とにかくこれは、社長命令だ、メタル君!
次のときメモはポリゴンだ。
新世紀ときめきメモリアルはポリゴンなんだっ!」

メチャクチャっ…
メチャクチャだっ…
だがっ…
社長の言う事には逆らえんっ…
開発するしかっ…
3Dでやるしかないんだっ…!
1ヶ月後−−−
(ポリゴンで開発を進める事が決まったは良いが…
やる事は山積み…
なんたって、12体分のポリゴン少女のデータを作らなきゃいけないんだからな…
ポリゴンなんて、前作のコマンド実行時に表示される、
SDキャラくらいしか作った事が無いしなあ、まいったぜ…
こんな事なら、ときメモ班でも3DCGを本格的に研究しておけばよかったな。
さらに俺は、平行して主題歌やBGMも作らなきゃならないし…)
抱えこんだ難題の数々に、頭を抱えるメタルユーキ。
そこへ…
「あ、あの…メタルユーキさん、俺…」
「ん?どうした?O沢」
O沢ひでお。
ときめきメモリアル2のキャラクターデザイナー…
言わば、陽ノ下光の生みの親である。
「その…」
「おっ、そうだ。キャラデザイン、進んでるのか?
頼むぜ?詩織、光をこえるキャラをさ!」
「あ…」
「一緒に、最高のときメモ、作ろうな!」
「は、はい…」
「本編の後は、ぱずるだまにサブストーリーに…
おっと、気が早かったな。あははは」
「………」
翌日−−
「オーッス、メタルユーキだ!
みんな、今日もがんばろうゼ!」
「あ…」
「ん?どうしたんだ?
皆、暗い顔して。」
「それが…」
スタッフの暗い視線が一点に集まる。
その先には…
「えっ…」
昨日まで、O沢が使っていたデスクがあった。
主を失った、寂しげなデスクが。
「ど、どういう事だ…?」
「………
辞めたんですよ…O沢さん…」
「……!」
「O沢さん、ずいぶん前から悩んでたみたいで…
…ポリゴン化が、どうしても納得いかないって…」
「…知らなかったの…オレだけか…?」
肩をふるわせるメタルユーキ。
「知らなかったの、オレだけかよ!?
どうして言わなかったんだ!?」
「言わなかったんじゃない…言えなかったんですよ…」
「うわぁっ!」
「チームの事、家族みたいに思ってたんじゃ無かったのかよ!
みんなもそうだよな!?
…なんで止めなかったんだ!?」
「止めなかったと思うんですか!?
…O沢さんが…決めたことなんです…」
泣きながら駆け出すメタルユーキ。
「うわぁっ!」
O沢の机を殴打する。
なんども、なんども。
「オレ、言っちゃったぞ!
アイツに…早くゲーム作ろうって…!
一緒に最高のときメモ作ろうって!
完成した後の事も…いっぱい!いっぱい!
アイツの気持ちも知らないでさあ!」
力無く床に崩れるメタルユーキ。
「なのに…O沢…
アイツ…笑ってた…!」
盟友・O沢との別れをのりこえ、
ときメモ3完成への決意を固めるメタルユーキだった。
だが、そんな彼を、更なるトラブルが襲う…!
深夜の開発室−−−
「だめだ…
なんど計算してみても、予算枠内での開発はムリっ…
今更、1からポリゴン技術の研究をしているのが効いたっ…
進捗は一向に進まんし…一体どうすれば…!」
「残業かね、メタル君。」
「社長。」
「実は…予算が…」
「ああ。
その事なら心配ご無用…!」

「…えっ?」
「これを見たまえ。」
そう言って社長が取り出したチラシには…
『ときめきメモリアルファンド』
「ファンド…!」
「つまり、一般投資者から金を集めて、売上からバックする…
ウチのブランドイメージがあったからこそ実現できた…
画期的企画だよ…!
さあ、キミは金のことなぞ気にせず、作りたまえ…!
思い通りのときメモを!」
「は、はい!ありがとうございますっ…!社長っ…!」
−−−突破口−−−
社長命令ならば仕方が無いっ…
3D化でもなんでもやってやるさ…!
だが、俺は捨てんっ…
皆の愛してくれたときメモらしさをっ…!
O沢が築いてくれた、ときメモキャラを!
3D化こそすれど、従来のドラゴンクエストらしさを失う事の無かったドラクエ7にならい…
俺達が目指すのは、ときめきメモリアルマインドリアリズムだっ…!
「とりあえず、できましたけど…」
「ん、ああ。
よし、見せてくれ。新生ときメモキャラクターを。」

「やはり…ダメだ…!
いくら社長がああいおうと…
この3D少女にときめくことは不可能っ…
これじゃただのマネキン人形っ…
良く出来た等身大フィギュアっ…!
いっそのこと、リアル路線に転向してしまえばそれなりに見れる物も作れるが…
それではときメモでは無くなってしまう…
どうすれば…どうすれば良いんだ…!」
ときメモファンの望むときメモらしさと
社長命令である3Dポリゴン…
この、相容れぬ2要素に板ばさみになるメタルユーキ。
「どうすればいいのだっ…!
この2大要素は、言わば二律背反(アンビバレンツ)っ…!
完全に行き詰まったっ…!
GAME・OVERだっ…」
気分転換にコーヒーでも、と席を立つメタルユーキ。
「…お、皆も休憩中か。」
「ええ。メタルユーキさんもどうですか?」
「…アニメか。最近のアニメはどうもな…」
「まあ、そう言わずに、見てくださいよ。
このメカ生体達の滑らかな動きを!」
「………!
す、すごいじゃないか…!
だが、これだけの滑らかさを出すには、一体秒間何枚のセル画を…
しかも、この作画クオリティーの高さはどうだっ…!」
「違います、これはセル画じゃないですよ。」
「なんだって!?」
「セルシェーディング…
3Dポリゴンで生成したモデルを、特殊な画像処理をすることにより、
擬似的に、セル画調の画面に変換しているんです。」
「そうか、それでこんなにも滑らかな動きを表現できたのか…!」
「しかもこれなら、ZOIDSのような線の多いメカでも、
描き手を選ばず、ハイクオリティーを維持できますからね。」
「…!」
「どうかしたんですか、メタルユーキさん?」
(待てよ… ポリゴンをセル画調に表示する技術…
これを…この最新技術をゲームに転用すれば…)
「…これだ!」
「えっ…?」
「どうかしたんですか、メタルユーキさん」
(出たっ…
一打逆転のホームランがっ…!
行けるっ…!これならっ…!)
そして1ヶ月後。
会議室−−−
「では、ご覧ください!」
プロジェクターに写し出される一人の少女…。
そして、会議参加者達のざわめき…!
「…どうですか!
3Dポリゴンのみが持ち得る表現力!
そして、未だ根強い人気を持つアニメ絵…セル画の親しみやすさ!
その、一見、相反する二つの要素のフューザー戦士…
それが『ときめきメモリアル3』の辿り着いた回答です!」

モニター上を華麗に舞う、トゥーンレンダリングされたヒロイン…牧原優紀子。
「お、おおーーっ!」
「よくやったな、メタル君。
私はこれを待っていたんだ。」
「社長!」
「よし、作ってみろ、メタルくん!
究極にして普遍の、新世紀ときめきメモリアルを!」

「はいっ!」
新技術…トゥーンレンダリングの開いた突破口により、
開発は一気に進むと思われた。
だが、完璧な技術と思われたトゥーンレンダリングにも、欠点があった。
「メタルユーキさん…
大変ですっ…!」
「ど、どうしたんだ!?」
「実は…」
そう、3Dの画像を2Dアニメ絵風画像へ変換する夢の新技術、
トゥーンレンダリングにはマシンパワーの占有と、容量の消費という、
重大な欠点があったのだ。
「僕、考えたんですけど、容量の方はディスクを分ける事でなんとかなるとして…」
「いや…ダメだ…
ダメなんだ…!」
「えっ…」
「忘れたか?
ときメモ2の批判の中でも特に数が多かった…
Disc交換だよ!」
「!!」
「せっかくゲームへ没入していたのに、Discの交換という作業で現実に引き戻され…
醒めてしまう…!我々も懸念していた事だが…
だから、3は絶対にDiscは1枚に抑えなければならないんだ!」
「で、ですが、一体どうすれば…」
「…今の仕様で、キャラは何人入るんだ?」
「現状では、10体…
いや、サブキャラクターにも割り当てなきゃいけないんだから…
ヒロインのデータは、6体が限界…!」
「6っ…!」
(ときメモ1の12+1人、2の12+2人を大幅に下回る…6っ…!
半分以下っ…!)
「メタルユーキさん!」
「俺達、一体どうすれば…!?
やはり、トゥーンレンダリングでギャルゲーを作るには、PS2は力不足って事でしょうかっ…!」
しばしの沈黙。
そして…
「減らそうっ…!
キャラを予定の12人から…
半分の6人へっ…!」
「えっ…?」
驚愕するスタッフ。
「…多ければ良いってモンじゃない!
要は質っ…!
KEYのAIRだって、前作kanonの5人から、3人へ…
ヒロインを減らしたじゃないかっ…!
それで何か問題が起きたか?
否っ!
本格八極拳漫画『拳児』でも語られているだろうっ…!
千の技より絶対なる一っ…!
時代は人員削減(リストラ)の方向っ…!」
「しかし、もう作ってしまったキャラ設定は…」
「それについては、もう考えてある。
例えばこうだ。
”メカ大好きの発明少女(メガネッ娘)”…
こいつと…そうだな。
”無邪気な甘え上手(ピンク髪ロリ系)”
この2体を合体させるんだ。それで万事解決…!」
「け、けど、大ブレイクしたシスタープリンセスを見てください!
あの作品は、12人の個性的な妹を設定することによって、
さまざまな嗜好を満たした好例って言うか…」
「バカっ…!
俺は見たぞっ…!秋葉原のK−BOOKSでっ…!
『白雪』のぬいぐるみだけが山の様に売れ残っていたのをっ…!」
「…!」
「つまりアレだっ…!
12人もいるのは薄めた結果に過ぎないっ…!
その結果、残りカスを割り当てられたキャラはあのザマっ…!
違うかっ!」
「でも、でも、今時、たった6人ぽっちじゃ…!」
涙ぐむスタッフ。
「倍だっ…!
確かに、我々のときメモ3のヒロインは6人しかいないかもしれんが…
その分、中身のギッシリ詰まった…倍のボリュームで勝負だっ…!」
メタルユーキの目にも涙。
口ではこう言っているが…
当然…彼も悔しいのだっ…
言わば…己を騙す為の詭弁…
解っている…
それでも…
それでもやらなければならないっ…
進まなければ行けないっ…
−−−前へっ…!
大幅なキャラ削減のケガの巧妙で、開発は一気に進んだ。
そして3ヶ月後−−−
「よし、だいぶ形になった…。
あとは声…声優だな。」
「1の(金月)真美さん、2のノダジュンさんはベストマッチでしたからね。
あれを超える声優をチョイスしないと。」
「こいつは難しいぜ!
なんたって、演技が上手いのはモチロン、主題歌も歌って、
なおかつイベントでトークもできて、だもんな。」
「今度はどんな声優を発掘するんですか、メタルユーキさん。」
「…それなんだが、オレは今回、堀江由衣で行きたいと思っている!」

「な、なんですって!?」
「当代きっての人気声優、堀江由衣なら、誰からの文句も出まい。
残る他の5キャラも、人気声優で固めるつもりだ。」
「で、ですが、ときメモ声優は無名、ないし無名に近い、マイナー声優にお願いする、
というのが、今までの慣例ではっ…!」
「そうですよ!」
「………」
「メタルユーキさん!」
「…許されんのだっ…!
ときメモ3にっ…!万に一つの失敗もっ…!
こうなったら、声優人気に頼る事も仕方が無いっ…!
堀江由衣ならばっ…『主演・堀江』という…ただそれだけで…
無条件に10万本は硬いと言われているっ…!
仕方が無い事なのだっ…!理解(わか)ってくれっ…!」
涙。
メタルユーキの目に大粒の涙。
「メタルユーキさん…」
「わかりましたっ…!
行きましょう、堀江由衣で!」
「よーし、こうなったらキャラ設定のやりなおしだ!」
「僕も、用意してみせますよ、感動的なシナリオを!」
「ありがとうっ…!ありがとうっ…!お前達っ…」
翌日−−!
「社長。と言う訳で、主演声優陣は、
この面子で行きたいと思います!」
「んん…?
ああ、声優ね。」
書類にちらりと一瞥くれて、視線を窓の外へ向ける社長。
「…?」
「主演声優はアレだ…
国府田マリ子君にしたまえ。」

「!?」
「青二さんには既に連絡しておいたから…
他のキャラはその…
適当に決めてくれて…構わんよ」
「………!」
社長の気まぐれっ…
まさに鶴の一声でっ…
主演声優…
国府田マリ子に決定っ…!
深夜の開発室−−−
決まってしまったモノは仕方が無いっ…!
こうなったらっ…
作ってみせるっ…!
マリ姉の甘ったるい歌声を最大限に活かした…
新世代ときメモソングをっ…!
そして、一週間後−−−
♪いつか見た笑顔 忘れられなくて
しまってた想い うち明けたくて
いつもの坂道 早足で歩いたら
大好きなあの背中 少し見えてきた
今すぐ追いかけよう
少しだけ恐いけど
けして逃げたりしない
(Message for you)ときめく胸の鼓動
(Darling hold me)まっすぐに伝えたら
(Paradise is here)始まるよ、2人の物語
社長室に響き渡るメタルユーキの歌声。
「どうですか、社長…!
新ときめきメモリアル主題歌、『Message for
you 〜この想いを詩にのせて〜』!
自分の…メタルユーキの全てを叩きこんだ、自信作ですっ…!」
「メタル君…
その…主題歌の件なんだがね…」
「………?」
「主題歌のアーティストには、ZARDくんを起用したまえ…!」

「………ええっ!?」
「いや、金の心配ならいらん。
ギャランティーの問題はすでに解決っ…クリア済みっ…!」
「い、いえ、そんな事では無くっ…!」
「…いいかね、メタル君。
今の若者はアレだろ…?
アニメ声の声優の歌より…
やっぱり、ZARDとかWANDSとか…
そういう流行り系が良いんじゃないの…?」
「そ、そんなっ…
ときメモの主題歌は主演声優が歌うと言うのが決まりっ…しきたりです!
いかに社長命令と言えども、こればかりは譲れませんっ…!
しかも今時ZARDって…!」
「いいかね、キミ。
そのしきたりとやらの結果がときメモ2の惨敗なんだよ!
…考えてもみたまえ。
あのメガヒットRPG、ファイナルファンタジー8のEDを、
どこかの馬の骨声優が歌ったかね?」
「うっ…」
「さあ、言ってみたまえ、あの名曲、アイズ・オンミーを、誰が歌ったかを!」
「…フェイ・ウォンです」
「よく聞こえんが。」
「世界的有名アーティストの、フェイウォン嬢ですッ!」
「そして、我が社のときメモ2と、そのFF8、どっちが売れたか、
…今更問うまでもないね?」
「くっ…!」
「何がフェイウォンだっ!何がトワ・エ・モアだっ!
上の人間に一体何がわかるってんだっ!」
社長室を飛び出し、廊下をでたらめに爆走するメタルユーキ。
「はあ、はあ…」
「だが…
ときメモをより広く一般に浸透させるには
オレの曲は恥ずかし過ぎるのもまたっ…事実っ…!」
メタルユーキ、主題歌作曲を断念っ…!
断腸の思いでっ…!断念っ…!!
「………
お前、なんなんだよーーーッ!」
その日の夜。
「届きましたよ、メタルユーキさん!」
「来たか、ファミ通のときメモ3紹介記事、第一報のゲラっ…!」
………
……
…

なんだこりゃ…!
『良い意味でときめき1に似てるなーって感じた』…?
なんだ、この日和った記事は…
もっと褒めてくれなきゃ…
あるだろう!言いようがっ…
滑らかな動きに感動、とか!
PS2だからこそできたこのリアリティーとか!
褒めて、褒めて、褒めちぎって!
読者を盛り上げるのがときメモ記者の努めじゃないのかよ!
今までだって、ファミ通紙面において、一種浮いた感すらある、うわっついた紹介文で
”ときメモ”を盛り上げてきてくれてたお前が…
ここに来て、ここに来て…!
「MIDIっ!これはどういう事だぁーっ!」
「………
……
…
ムリっすよ、メタルユーキさん…
読者に…
俺の記事を純粋に信じて読んでくれる読者達に…
嘘はつけません…!」
「…!」
「俺、萌えられませんから…」
そう言って、受話器を置くMIDIはらふじ。
新宿歌舞伎町−−
「ムチャクチャだ…!
何もかも…!何から何までっ…!
俺は…もう降りるっ…!
そうさ、勝手に作るが良い…!
社長の思い通りのときメモをっ…!
俺は…俺はもう、どうなろうと知らんっ…!
そして、好き勝手な事を書けば良いっ…!
俺の苦労も知らぬくせにっ…!」
酔い潰れ、若者で溢れかえる街を、フラフラと歩くメタルユーキ。
「まあ…」
「酔っ払いよ…」
「いやあねえ…」
「フフ…仕事が上手く行かないからって部下に当り散らして…
仕事放り出して酒飲んで…
俺、もうダメだ…」
自嘲的な笑いを浮かべるメタルユーキ。
その時…!
「えっ…
なんで…こんな所に光の等身大フィギアが…
これ、幻覚って言うのかな…?
いや、違う…
幻覚は…もっとこう、バァーって感じだもんな…」
酔い潰れ、消え行く意識の中、吸い寄せられる様にその建物…
ゲームセンター『チルコポルト』へ入って行くメタルユーキ。
「暑っ苦しいなあ、ここ…
おーい、出してくださいよー」
階段を上りきり、そこでメタルユーキが見た物は…
「………!!」
「これは…ときメモ…
右も左もときメモ一色…!
ここは、一体…!」
正気を取り戻すメタルユーキ。
「ああーっ」
「えっ…?」
突然の声に驚き、ふりかえるメタルユーキ。
「また負けたぁ!」
「よしっ…!よしっ…!」
ビデオゲームに熱中する青年達。
「き、君たち、何のゲームをしているんだい?」
「なんだよ、見ればわかるだろ?
ときめきメモリアル対戦ぱずる玉さ!」
「そんな…!
あんな古い…5年以上も前のゲームを…!
でも一体何故…!」
「なぜも何も、ファンとして当然の義務だよ、なあ」
「ああ。俺達、一日に一回ここへ来ないと、落ち付かないんだ!」
「やっぱり、ときメモは最高さ!俺、トレカ買って来る」
「………!
忘れていた…!
そうだ…愛されているのだ!
光も…詩織も…!
ときめきメモリアルは、今も愛されている!
今まで俺達のやってきた事は、間違いじゃ無かったんだ…!
俺…!俺…!」
その時。
「メタルユーキさん!」
「…!?
お、お前達!何故こんなところへ!?」
「…探しましたよ。」
「しかし、まさか、こなみるくでファンの動向を探っていたなんて。」
「どうしてオレ達を誘ってくれなかったんですか?
水臭いじゃないですか」
「へへへ。」
(…忘れていた。
オレには今まで一緒に頑張って来た仲間がいる…。
そして、ときメモ3を心待ちにしてくれる、大勢のファンがいる事を…!)
深夜のコナミビル−−
開発室にあかりが灯る。
「あの…さあ」
「ん?」
「自分で言うのもなんなんだけど…
ときメモ開発チームっていうのは、ギャルゲー界の希望の光り…なんだよね?」
「うん。」
「だから、落ち込んでるところとか…見せたく無いな。」
「うん。解る…気がする。」
「はい、じゃあ笑顔の練習!」
(笑って開発、したいな…。)
そして…
様々な紆余曲折を経て…
平成13年12月20日…
ついに…
ときめきメモリアル3、発売−−!
エピローグ
12月末日。
社長室−−−
「ああ。来たね、メタルくん…」
「はい。」
「解っているとは思うが…
今回の失敗…
いや、失敗と言い切るには、やや時期尚早かもしれンが…」
「………」
「私は構わンのよ、私はね…
商売というものに絶対は無い…」
「…………」
大当たりする事もあれば、ハズレる事もあるだろう。
いや、あって当然…だがね…」
「……解ってんのかよ!
全部アンタのせいなんだ!」
「ヒロインがブサイクなのも!
キャラが6人しかいないのも!
主題歌がZARDなのも!
全部! すべて! みんな!
…なにもかもアンタのせいだっ!」
「フフフ… ハァーッハッハッハ…」
「だがね…
ただ失敗しました、では…
ファンドに投資した投資家達に、面目が立つまい…?
暴動が起きかねンよ…」
「…!」
責任をとって退社するか…それとも損失を補填するか。
…選ぶのはお前だ。好きにしろ。」

「ああッ!ああっ!!」
怒りを全身で表すメタル。
「バカにしやがって!
好きにしろとか言ってさぁ!
選ぶのはオレだとか言ってさぁ!
オレはアンタに言われた通りにやるしかなかったんだっ!」
「不満…だろうな。
それとも不安か?」
しばしの沈黙…
そして…
「…め〜くあさ〜ひ…」
「ん?何か?」
「…どべ〜のラジ〜オ…」
「おい、キミっ…
メタルくんっ…!?」
(そうか、そうだったんだ。
答えはずっとここにあったんだ。
オレは、オレの想ったときメモを作れば良かったんだ。
自分をモット信じて…!)
(迷わず追いかけて 笑えるその日まで
前に踏み出そう 勇気かざして GO ALONG!)

■おわり■
この物語は2001年10/9現在、雑誌等で公開されている情報を元に、
憶測と捏造を交えて描かれたフィクションです。
一部、事実と異なる点がありますがご了承下さい。